第五話『闇夜にナくのは狼だけとでも思った?』
202号室は、無事今日から俺の部屋となった。
あの店長、酒強いのかと思いきや一瞬で潰れやがった。三杯もいかなかったんだけど。そんなに強い酒じゃないと思うんだけどな。
酒場の店長よ、それでいいのかと小一時間くらい問い詰めたい気分だ。
まぁ、今はこっそり俺らのことを見ていたビンハムさんに担がれて自室で熟睡中なわけだから、それ出来ないけどね。
ちなみに残った酒は俺が頂いた。ビンハムさんが持ってけって言ってくれたのだ。
ビンハムさんは店長がああなるって分かって見ていたのかな?
この際、どうでもいいけど。
・・・静かだな。
どれ、寝るにはまだ若干早いし、部屋の中でも探索するか!
寮は個室だ。当然のことながら豪華って造りじゃない。ベットがあり、机と椅子があり、多分冷蔵庫の代わりなのであろう、冷気を放っている石を入れた樽がある。
照明っぽいのもある。やっぱりガラスの中で石が光ってる。
「なんというか、本当に石っていうか、魔鉱石ばっかりなんだなぁ。この異世界は・・・」
ポケットからミークに貰ったトクサポナ鉱石を取り出して眺めた。
中心が薄ぼんやりと光っている綺麗な石を眺ながら今日あった出来事を思い返す。
「みんな、親切だよな。」
思わずそんな言葉が口からこぼれていた。
ふと、もといた世界のことを思い出した。
俺にとって、もといた世界は疑念の塊だった。どんなに辛い訓練や鍛練をしても、結局いい思いをするのは上の人間だけで、世の為、世の為と戦えど、醜い争いはなくならなかった。
こんなことをしていてなんになるのか?
騙され、裏切られ、殺されかけ、騙し、裏切り、殺す。そんなことを繰り返すうち、なにを信じればいいのか分からなくなっていた。
「人を冷たく感じることしか出来なくなった俺は、結局逃げ出したんだよなぁ〜」
ボフッとベットの上に寝転がる。そのままいつもの癖でポケットからスマホを取り出し、メールの確認をする。
ああ、弟のマサヒコからメール届いてるや・・・・ーーー?
「ってあれええええええええええ!?!?」
ス、スススススマホ!?なんで持ってるんだ俺!?っていうかこのメール・・・
今さっき届いた事になってるーーー!
「スマホの充電も満タン。ネットにも繋がってる・・・」
嘘だろ?ここ異世界だぞ?なんでネット繋げるんだよ?アホなの?夢なの?死ぬの?
「って、そんなことより、メールメール!」
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件名:何やってんだ?
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送信者:Masahiko Segawa
何やってんだ兄貴?こっち向かってるんだろ?今どこにいるんだよ?
まだ空港でグダグダやってんのか(゜д゜♯)
とにかく全く連絡ないと俺だって心配・・・はしてねえけど、迷惑だからとっとと連絡くれよ。
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「してないんかい。というかマジか。もしかして、メール送り返せんのか?」
俺は早速、返信画面に切り替えた。
「ちょっとそっちには帰れなくなった。突然ですまない・・・と。これでいけるか?」
送信を試みる。
・・・無理か。送信出来ませんときたか。
ぬう、受信は出来るが送信は出来ず・・・か。LIMEやSuitterも、見ることは出来るが、こちらからは何も出来ない。
いいねもおせないや。
「随分変わったものを持ってる・・・。何鉱石・・・?」
「うぎょえおおお!!??」
予期せぬ方向からの声に、今まで出したことのないような悲鳴が出た。
俺の背後にスマホを覗きこむようなかたちで背伸びをする、犬耳の赤髪娘がそこにいた。
「いつの間にここにいた!?アロッタ!!」
「違う・・・カロッタ・・・」
あ、コレは失礼。
「いつからここに?カロッタちゃん?」
「あ・・・カロッタで・・・いい・・・」
「カロッタ。いつからここにいた?」
「ぁぅッ・・・・」
アウッ?
カロッタの髪の色なみにカロッタの頬が紅くなった。
「も、・・・も一回・・・」
「?。カロッタ、いつからここにいたんだ?」
「も・・・もっと・・・」
「カロッタは、いつからここにいたんだ?」
「もうちょっと・・・やさしく・・・」
「終わんねーわ!いつからここに・・・ってああ、涙蓄えながら上目遣いすんな!!もう一回くらい言ってあげてもいいかなって思っちゃうだろうが!!」
可愛い顔してんなちきしょう。
「カロの・・・部屋・・・隣・・・。さっき・・・凛々しい叫び声・・・聞こえたから・・・」
「ああ、うるさかったか?ごめんな」
カロッタはふるふると頭を横に振った。
「迷惑じゃ・・・ない・・・。ただ・・・心配に・・・なったから・・・」
「そっか。ごめんごめん。ちょっと驚いちゃっただけだから。」
でも。と付け加え。
「ノックくらいしろよ。俺のプライバシーが悲鳴あげちまうぞ?」
「ごめん・・・なさい・・・。でも・・・ノック・・・した・・・。名前も・・・呼んだ・・・」
「え、全然聞こえてなかった」
したの?何も聞こえなかったよ?
「カロは・・・影・・・薄いから・・・」
「いやいや、ノックの音すら聞こえないとか影薄いってレベルじゃねーぞ」
「・・・ぅぅ・・・」
どんどんしょんぼりしていくカロッタ。そんな姿を見せられると、さすがの俺もいたたまれない気持ちになってしまう。
「ま、まあ、まあまあ、俺のこと心配して来てくれたわけだしな。ありがとなカロッタ」
「・・・ぁぅ・・・」
またカロッタは顔を真っ赤にして、俯いてしまった。頭から蒸気が出てきそうなレベルで顔が紅い。てか出てない?
しばらく話しをして、といってもカロッタは小声であうとかううとかしか言わなかったが、彼女が自分の部屋に戻った頃には、東京の時間でいう夜の12:30くらいになっていた。(スマホで確認した結果)
「マサヒコにはちょっと悪いことしちゃったなぁ。帰る帰るとか言ってて結局神隠し状態だもんな、俺」
もう一度ベッドに体を委ねると、心地の良い睡魔が俺の瞼を閉じさせた。
明日は朝に酒場の雑務。昼頃から騎士の助っ人。
イカれた殺人鬼・・・どこの世界でも人を殺す人間がいるのか・・・。
皮肉なもんだな。
薄れていく意識の中、俺はそんなことを考えていた。
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「マーバリオン。何を見ているんだい?」
漆黒のコートを身にまとい、獅子の彫刻が施された剣を腰にぶら下げている男は、同じ格好をしていても、まるで似つかない男女に声をかけた。
「あんたのその作り笑いで凝り固められた面みると吐き気を催すのよ。とっとと回れ右してハウスしてくれないかしら。」
爽やかに笑う金髪の騎士はマーバリオンの悪態にも動じず、質問の続きをした。
「それはコピナ鉱石かな?そういえば昼間熱心にキュクモ鉱石とにらめっこしていたみたいだけど。もしかして、その映像コピナ鉱石に保存してあるの?」
「ふん、明日の私達の助っ人がうつってるのよ。みるかしら?」
するとそのオカッパ騎士はコピナ鉱石と呼ばれた桃色の魔鉱石を男に手渡した。
「どれどれ。噂の助っ人君のどんな映像がうつってるのかな?」
男は魔鉱石を額に当て、脳内で魔鉱石の中に保存されている映像を再生した。
しばらくの沈黙の後、ふくくと男が笑い出した。
「彼、尋常じゃなく怪しいね。ふくくく。一体どんな魔法で突然現れたのか実に興味深いよ」
男は愉快愉快とばかりに笑った。
「色々聞きたいことはあるけれど。君はどうせ肝心な所は話してくれないんでしょう?」
「ええ、そうね。見終わったんならとっとと出て行って貰えると、私の精神衛生面上物凄くたすかるのだけれども♡」
その男はコピナ鉱石をマーバリオンに返し、部屋の出口に向かった。
「彼とは、いい友達になれるかもしれないね。ふくく。」
金髪の男は、はじめ見せていた爽やかな笑みとは真逆と言ってもいいほどの不敵な笑みでそう言った。