第四話『真紅の鬼?』
アロッタとカロッタと俺でなんとか倉庫から鍵を手に入れた直後、またも奴は現れた。
「少しあなたにお話があるわ。ご同行お願いします♡」
アロッタがこちらを困惑の目で見てくるのがわかる。
どうやら安心して喜んでいたが、そいつは俺のぬか喜びだったらしいーーー
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店を出て、入り口から少し離れた場所。あたりはすでに暗く静まりかえっていた。
夜だ。
「さて、ん~んはあ。あなたが、どこの誰かは知らないけれど、少しボディチェックをさせてもらうわ」
俺の前を歩いていたマーバリオンはのびをして、こちらを振り返った。
マーバリオンが合図をすると、俺の後ろを歩いていた騎士6人が俺を取り囲んだ。
どうでもいいけど、こいつら騎士とかって言ってたけどあんまりカッコは騎士らしくないなぁ・・・。
俺のイメージでは、鎧とか兜とかでガッチャガッチャしている感じなんだけど・・・、なんかそれぞれ剣を持っているところ以外は若干修道士っぽくも見えなくもないな。
っと、そんなことは置いといて、この場をなんとかしないとなあ。
「ボディチェックって・・・俺ガチで何も持ってないぜ。あ、ミークからもらったトクサポナ鉱石なら持ってるけど」
「トクサポナ鉱石?ケキャキャ。あなた~、異国人かしら~?通りでおかしな髪の色をしていると思ったわ」
おかしな髪の色?俺は普通に黒髪に短髪だけど・・・この国では珍しいのかな?
「ケキャキャキャキャ。あなた、本当に何者か・・・調べる必要があるそうね。ケキャ♡これは一度本部へ連れ帰る他ないわねん♡」
これは、どうするべきか・・・。おとなしくコイツらに捕まって何されるかわかんない所に放り込まれるか、今からコイツらを軽くぶっ倒して、こっから逃げるか、あるいは・・・、さて、どうしよう?
前者は、ナンセンスだ。
言うのは二回目だが、捕まって身動き取れなくなるのは1番あってはならない。
後者も微妙だ。
コイツらとコイツらの組織の力量が分からない時点でかなり、危ない橋を渡ることになる。
というか、指名手配なんてされたら、それこそこの世界で動きづらくなる。
なら、取る手は一つ。
交渉だ!
「あのぅ、すいません」
「何かしら?」
「俺、ちょっち今身動き取れなくなるのは困るんですよね・・・。それでなんですけど」
「ケキャ♡交渉するつもり?ケキャキャキャキャ!いいわ言ってご覧なさい?」
ほう、聞く耳ありですか!それは、ありがたい。お前に選択権は無いとか言われるかもとか思ったが、以外と融通きくもんなんだな。初対面の時より若干好印象だよ。
「昼間言ってたアレイスとやらを捕まえるのに、全力で協力するんで。俺を捕まえたりして詳しく調べる~とかいうのは勘弁してください」
・・・・・沈黙がやべえ。
確かに普通に聞いたらアホな交渉だが、俺はまぁ、多分結構な戦力になるとおもう。
自分で言うのもアレだけど。
「あなたをウチの捜索チームに加えるメリットは?」
珍しく真面目な顔でこちらを見てくるが、化粧のせいで、真剣さが半分以上伝わってこない。
ま、そうくるのが普通ですよね。結局この手を使うハメになるのか・・・
「そうだね〜。ま、見てくださいな」
そう言い終わると同時に、俺は取り囲んでいた騎士のうちの一人を殴り飛ばした。
意表を突かれた最初の犠牲者は頭から地面落下し、意識を手放した。
残るは5人。
すかさず剣を構える騎士達。だが、それより速く動き出していた俺に、騎士の2人は頭を掴まれ、地面にめり込む勢いで顔面を叩きつけられた。
それぞれ「あバッ⁉︎」とか「ぐがッ⁉︎」などの短い断末魔をあげ白目をむく。
残り3人。
騎士の1人が剣を俺に向かって横に振ったが、それをしゃがんでかわし、顎に強烈な蹴りをかます。騎士の顎から、鳴ってはいけないような音がした。
残り2人。
普通ここまでやったら逃げ出すんだけどな。その2人は俺に向かってきた。
エラい!褒めたげよう!
1人が俺に向かって剣で突きを仕掛けてくる。
俺は足下に転がっていた、誰かが落とした剣を足で器用に拾い上げ、そいつを盾にするかのようにして突きを防いだ。
一瞬バランスが崩れ、後方によろける騎士。その隙に俺は後ろから切り掛かってくる別の騎士の攻撃をかわし、剣の鞘を相手の側頭部めがけてフルスイングした。
モロに喰らった騎士は横っ跳びするように倒れた。
ここまで僅か2秒。
その2秒の間にもう1人の騎士は体制をたて直したようだ。
再び俺に向かってふり下ろされる剣。俺は騎士の手首を掴み、相手の攻撃を中断させ、そのままヘッドロック。
最後の騎士も他の騎士同様、泡を吹いて倒れた。残り0人。ミッションコンプリート。
「以上でーす」
「ええ、異常ね。明日からのお手伝い期待しているわよ」
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マーバリオンは意識を取り戻した部下達を連れて、明日の集合場所と時刻だけ言って帰って行った。
俺も 店の方に戻った。
そこにいたのは、リザードマン店長のグライシスさん一人だった。
「思ったよりずいぶん早かったな。俺様はてっきり、もう会えなくなると踏んでたんだが・・・」
グライシスさんは口端を吊り上げた。
「そいつは期待に応えられなくてスンマセンね。他のみんなは?」
「皆、寮の方に行った。ここの店の従業員は、全員寮住まいでな」
そりゃすごい。
「その、ちょいと相談があるんですが・・・」
「そうか」
そう一言言うと、椅子に座っていたグライシスさんは立ち上がり、厨房の方に向かっていった。
そしてワイン(?)ボトルと二人分のグラスを持って戻ってきた。
「まあ、座れよ。俺様もオメエとは話したいことがあったんだ」
普段は客用に使っている椅子にどっかりと座って、俺に向かいの席に座るように示した。
俺は素直に従い、グライシスさんの前に座った。
鱗、紅くて綺麗だなぁ。
「よく、あのオカマ野郎から逃れられたな。どんな手を使ったんだ?」
心底不思議そうな顔をして聞いてくる。
「逃れられたっていうのは、少し語弊がありますね。実際、明日から奴らの手伝いをやらされることになっちゃって」
「ああん?あいつらの手伝い?あのヤローどういう風の吹き回しだ?っつかテメエ、明日の仕事はどうするつもりだ?」
グライシスさんの顔がいかにも威嚇していますっていう風になった。
あ、牙って金色なんだ。綺麗だなぁ。
「そのことについてなんですが・・・。俺ってばガチで今文無しで、状況的にはかなりエグい状態なんですわ。図々しいのは百も承知なんですが、アレイス退治の間、あんまり仕事出来ないと思うんです。ですが、出来る事はしっかりやるんで、ここに置いといては貰えないでしょうか?」
フン。と、一つため息を吐くグライシスさん。むき出しにしていた牙をしまい、腕組みをしながらこちらに言ってきた。
「手伝いっつうのは、アレイス退治のことだったのか。」
そう言うと、大きすぎるトカゲのような風貌の店長はボトルの栓を抜いた。
「お前がここに残っていいかは、俺様と飲んでくれたら決めてやろう。ま、雑用係なんざ、いなくても今まで通りミークにでもやらせるさ」
「アイツ、ウエイトレスじゃなかったんすか?」
俺はグライシスさんにグラスを差し出し、半分笑いながら聞いた。
「ミークはサボリ魔だからな。罰当番の貯金がタップリ溜まってんだ」
グライシスさんも、今度は威嚇の意味ではなく、愉快気にその金色の牙を光らせた。
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リザードマン店長が経営する酒場「眠れる雛亭」
そこからひたすらまっすぐ進み、怪しい占い師の店のところを右に曲がり、三番目の路地裏で、新たな死肉が誕生していた。
狭い路地裏の壁一面には、生暖かい血液で染めあげられており、中心には四肢を切り離された男の骸が無造作に転がっている。
自分のものではない真紅の血を全身に付着させ、禍々しいククリを弄び、狂ったように高笑いする影が一つ。
その姿は、まさしく鬼。
真紅の鬼は、両手を夜空に掲げて、高らかに、楽しそうに言った。
次は誰を切り刻もうかな?