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第三話『アレイスとは誰ですか?』

そこに現れたのは、オネエ口調の金髪オカッパ野郎と、それに付き従うような青い制服姿の男達だった。

腰には蜘蛛の彫刻の剣。奇抜な化粧や言葉とは全く合わない、黒く優美な制服。


さっきまでバカ騒ぎしていた冒険者達は、その男を見た瞬間、嘘のように静かになった。

「黒騎士 マーバリオン・ヒルデか」

リザードマン店長のグライシスさんが呟いた。ナチュラル解説あざっす。


「この酒場にアレイスという者がいると聞いた。もしこの場にいるのであれば、即刻出頭する事を命ずる」


マーバリオンの後ろに控えていた男の一人が、店の隅々まで聞こえるような張りのある声で言った。


「アレイス?誰?」


俺は近くに居たアロッタに他人には聞こえない程度の声で聞いた。


「恐ろしい殺人鬼。既に殺した人数は30をこえるというイカれた奴よ。結構前から指名手配されてるわ」


ふぅん・・・。物騒だねぇ。


「って、ちょっと待て。この店にいるのか!?冗談じゃないぞ」


「いるわけないでしょ!全く誰がそんなデマを流したのやら・・・どのみち迷惑な話ね」


なぁんだ。良かった。ふいー。


「んん〜、ま。まぁまぁまぁまぁ。アレイスちゃんがさっさと出て来てくれないと〜ぅ。あーたしとてもイライラしちゃうわ〜。イライラしすぎてこの小汚い店、吹き飛ばしちゃうかも♡」


マーバリオンがねちっこい声で、舞台俳優のような大げさな身振りで叫んだ。

俺は直感で察した。ああ、こいつ苦手だ・・・と。


その時だった。

リザードマン店長のグライシスさんがマーバリオンの前に音も無く立ちはだかったのだ。

周りの冒険者達は一瞬何が起きたのかわからず困惑の声をあげていた。


「別にあんたを呼んだ覚えはないわよ〜ん。目障りだからとっとと下がりなさいトカゲちゃん♡」


マーバリオンの殺気が強まり、背後にどす黒いオーラが見えた気がした。

だがグライシスさんはその溢れんばかりの殺気に微動だにせず、目の前のオネエ騎士に何かを渡していた。


「今日、俺様が見た限り怪しい奴は一人として来てねえ。ただあんたらの事だから、そんなんじゃ納得いかないんだろう?だからそいつを貸す。高いんだから、失くすんじゃねえぞ」


オネエ騎士は手の中を見つめ、不敵に笑うと


「この記録が今日の物であると証明できるものは?」


マーバリオンの質問に対し、ケッと悪態をつくグライシスさん。


「あんたらなら簡単に調べられることだろう?」


その返答に何がそれほどまでに面白かったのか、ケキャキャキャと嗤うマーバリオン。

盛大に気持ちの悪い笑みをグライシスさんに向けて、


「いいわ。一先ず我々は撤収することにしましょう。迷惑かけたわねん♡」


そう言うと、気味の悪い騎士達は店からでていった。


「アロッタさん?でいいのかな?」


俺は騎士達が去ったあと、アロッタにもう一度話しかけた。


「アロッタでいいわよ。何かしら?ダイキ」


「さっきグライシスさんが渡していた物って何なの?」


「私も角度的にあんましよく見えなかったけど・・・状況的に考えて多分、キュクモ鉱石だと思うわ」


また、石ですか。石ばっかだなこの世界。だが、重要なのはそこではない。


「その鉱石って、まさか情報を映像化して記録する魔法石みたいな物?」


「その通りだけど?ってどうしたの?そんな世界の終わりみたいな顔して?」


そんなロックバンドみたいな顔していたか?俺・・・。と、ふざけてる場合じゃなくて。

これはマズイことになった。非常にマズイ。


グライシスさんが渡していた物が防犯カメラの様な物だとしたら、俺はとても困るのだ。

なぜならーーー


俺がこの世界に召喚された瞬間が、その石に記録されている可能性が高い。

いなかった筈の男が突然出現しているのだ。しかも俺はその後、諸事情で額とテーブルを何度もキスさせてた訳だし・・・


ーーーつまり俺、とんでもなく怪しい人間だと疑われる!!


異世界に飛ばされて一番駄目なパターンは、警察組織などに捕まり、身動きとれなくなるパターンだ。

俺の場合だと、尋問からの拘束までならされる可能性は十二分にある。


スタートダッシュが肝心だっつーのに・・・なんでこう面倒ごとに巻き込まれるかな。



「おぅし、お前ら持ち場にもどれ。ほらほらお客共もバカ騒ぎを続けてくれ。まだ閉店時間にはお天道様が上にありすぎるぜ!」


グライシスさんが両手をひろげ、店にいる人々全員に演説するかの用に振る舞った。

店にはさっきの騒動がまるで無かった事のように、活気が戻った。


ただ一人、モップを持った筋肉質野郎を除いて。



:::::::::::::::::::::::::::::::::::::



マーバリオン一行が再び酒場に現れたのは、閉店してから20分ほどたってからだった。


「再び失礼するわね。トカゲちゃん♡」


「ああ、その悪趣味なツラ拝むのも今日が最後であってほしいぜ」


またもマーバリオンの特徴的な嗤いが店の中をこだました。

俺、ホントに苦手だわ・・・あの人。


「私もこんな反吐がでそうな豚小屋、とっととおいとましたいところだわ。だから、簡潔にすますわ」


俺は今、高速で運動している心臓を落ち着かせることだけを考えていた。


「アレイスとおぼしき者はいなかった。全く、誰がこんなデマを流したのやら・・・迷惑な話だわ」


それはこっちの台詞だ。とアロッタが小声でつぶやいた。


「ほら、これは返すわ。邪魔したわね」


全くよ。とアロッタ。

俺もアロッタと完全に同意見。


ガチャリと店の扉を閉め、マーバリオン一行は俺達の前から姿を消した。

と、同時に


「ぶはああああああああ!!」


と俺は膝から崩れ落ちた。


「ど、どうした?雑用?」


グライシスさんが俺に驚きの表情を向けて聞いてきた。

みんなも同じような表情でこちらを見てきた。


「いや、色々心臓に悪かったっていうか・・・何というか。一安心といいますか」


ああ、とビンハムさんが納得したように


「マーバリオンさんとグライシスさんとのやりとりにちょっとびびっちゃったのかな?まあ、あんだけ殺気ぶつけられて動じないグライシスさんはすごいけど。冷や冷やするのは当然だわな~」


実はそれに対してはそんなにアレなのだが。

まあ、ここはビンハムさんの話に合わせておこうかな。


「ところで、どうでしたか?仕事の方は」


ミークが何故か上機嫌に俺に話しかけてきた。


「うん。わりと面白いよ。少し昔を思い出せたしね。」


「そうですか。それは良かったですね」


まあ、まだ俺の仕事(雑用)は終わってないんだけど・・・


「それより、ダイキ君。不躾ながら今日、寝るところはあるのかい?」


ビンハムさんが割と重要な事を俺にきいてきた。

やっべ!完全に忘れていた。


「もしアテがないんだったら、従業員用の寮を使えばいいよ」


なあ店長。とビンハムさんがグライシスさんに同意を求めた。


「好きにしろ」


「なんか・・・すげえ男らしいな・・・グライシスさん。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますわ。」


「空き部屋は一つあるはずだから、そこに寝泊まりするといいよ。」


ビンハムさんは多分結構な世話焼き属性なんだな。ふむふむ


「空いてる部屋っていったら、202号室だよな。チッ、鍵どこやったかなぁ・・・」


「倉庫じゃなかったかしら。ちょっと探してくるわ。行くわよダイキ」


アロッタがグライシスさんに返答した。アロッタも相当気の強いタイプなんだろうなぁと、みんなの大体の性格は理解出来てきたな・・・ってあれ?だれか忘れているような?


「カロも・・・一緒に行きます・・・」


「ぬおおおおう!?」


突然の背後からの声に、驚きのあまり素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった。

そうだカロッタだ。忘れていると思ってたのはカロッタのことだったのか。この子完全にインビジブルってたな。むう、カロッタは空気属性か・・・。


「よし、じゃあ3人で探しといてくれ。後片付けは俺様達でやっとくから」


「え、それなら私も探してきますよ?後片付けなんてめんどくさ・・・じゃなくて、面倒くさいから、鍵探し手伝ってきますね。」


「うん、一つも隠せてないね。丁度3人ずつで分かれてるんだから。ミーク君もあからさまにサボろうとしないの」


ええええええ、横暴だああああ

仕事しろよミーク。ミークの不満の声をよそに、俺は犬耳双子と倉庫に向かった。


倉庫に向かう途中、二人に気づかれないように溜息一つ。

自分で選んだこととはいえ、少しなんとも言いがたい感情に俺は襲われていた。



異世界に来たはずなのに、なんで普通に俺は働いているんでしょうか?

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