第二話『異世界に召喚されて、まずするべき事って何ですか?』
人には苦手な食べ物の一つや二つあると思う。
あって当然だ。実際に俺もアスパラガスがものすごい勢いで嫌いだ。
もう、ね?あの食感がどうしてもイヤなんです。あと味。
死ね「アスパラガス」。
朽ちろ「アスパラガス」。
滅べ「アスパラガス」。
てなもんだ。
アスパラガスに殺意を抱くレベルで嫌いなのだ。
そして今、そのアスパラガスに負けずとも劣らない奴が出現したのだ。
「んん~、素晴らしい、エクセレント、グッド、かなりいいわ~」
この男マーバリオン・ヒルデだ。
ん?誰だソイツは?だって?今から話すからちょっとそこに座って肘を顎につける努力でもしながら待ってなさい。
そう、コイツとの出会いは、俺が異世界に飛ばされた日にさかのぼる。
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目が覚めると俺は木でできた椅子に座り、これもまた木でできた小ぶりのテーブルに突っ伏していた。上体をおこし、まわりを見回すとそこには武器や防具を身につけた、いかにも冒険者的な男達が十数人いた。彼達は至るところで同じようなテーブルに座り、酒を酌み交わしていた。
「ほほう、目覚めの場所は酒場・・・か。情報収集にはもってこいだな」
俺はすわっていた席をたち、カウンターの方に行った。
さぁて、ここは俺の情報収集能力を見せる時!
俺はライムグリーンの髪のポニーテールがよく似合う可愛らしいウエイトレスに話しかける事にした。てか、すげえ髪の色だな。
さすが異世界ファンタジー。こっから俺の冒険が始まるんだな!!
「あの、すいませ・・・」
「*********?」
・・・ファ?
「え、あの?」
「******?*****」
これは・・・まさか・・・嘘でしょ?
「言葉が通じないの?」
まさかの俺の冒険、終了のお知らせ。
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「ふざけんじゃねぇ、何で?なんで言葉通じないの?なんなの?バカなの?死ぬの?」
俺は額を酒場の隅っこのテーブルにガンガンと打ち付けていた。
ああ、このまま打ち続けて死のうかな?死んだらもう一回くらい転生させてもらえるんじゃないかな?
そんな現実逃避じみた考えを、言葉としては出さず、延々と脳内リピートしていた。
「んなもん、無理に決まってるよな・・・抽選って言ってたし・・・」
あー、どうしよう。まじで、どうしよう。普通こういう異世界ファンタジーって何故か言葉は通じるとかそういうもんだろ。当然文字も読めねーし・・・。開始1分で詰みとか笑えねえ。
そのまま数十分か過ぎたところで、突然先ほどのカウンターのウエイトレスさんが俺の方までやってきた。
「****」
微笑みながら何かを言ってきた。全然わけわかんないけど。
すると、スッと何かを手渡してきた。
「・・・・石?」
手渡されたのは、中心が薄ぼんやりと輝いた半透明の石だった。
「はい。正確にはトクサポナ鉱石です。特別にさしあげます。」
あ、それはどうも。綺麗な石デスネーってちょっと待てい!!
「あんた喋れたのか!?」
「私はさっきも普通に喋っていましたよ?」
どゆこと・・・?
「その石・・・トクサポナ鉱石は魔法の力で作られた人工の鉱石なんです。持っているだけでたとえ言語が一致していなくとも、近くの人が発した言葉はしっかり翻訳され脳に伝わってくるという優れものなんです。まあ文字まではどうにもならないんですけどね」
「ああ、ほんやくこん○ゃくと同じか」
「そのほ○やくこんにゃくというのが何かは分かりませんが。それさえ持っていれば普通に会話が出来る筈ですよ?」
ああ、女神だ・・・イヤ、あのロリの事じゃなくて。ここにはホントの意味で救いの女神が現れたんだ。
感謝のあまりに泣きそうだ。割とマジで。だってこのアイテム無かったら俺本当の意味で詰みだったからね?
にしても、なる。話によるとこの世界は魔法も魔法アイテムもアリアリって感じなのか。
「それで、私に何の用でしょう?」
「ああ、そうだった。あのだね・・・」
「お断りします。」
は?唐突のお断り宣言にさすがにたじろく俺。
「いや、あの・・・」
「私に求婚するつもりでしょう?お断りします。」
「何言って・・・」
「私可愛いから、初対面の男性にもよく求婚されるんです。私が可愛いのは分かりますが、残念ながらお断りさせていただきます。私が可愛いから仕方が無いとは思いますが・・・さすがに突然はイヤですね。あ、でもお客様のような引き締まった体には少々艶めかしさを感じますよ。でもお互い名前も知らないのに・・・そんな」
「イヤイヤイヤイヤ!!!ちょっと待ってホントに待って!求婚!?しないから!なに言ってんのあんた!?」
マジでここで止めないと永遠と聞くに恥ずかしい内容を聞かせられるような気がした。
ライムグリーン髪の少女はキョトンとした顔で俺の目をまじまじと見つめてきた。
「ち、違うんですか?まるで女神でも見るような目で私の事を見ていたくせに?」
「違うわ!」
若干合ってるけど。っていうか女神を見るような目ってどんな目だよ?そんな目してたの俺?ヤダちょっと恥ずかしい。
俺はため息を一つ吐いて、言葉を続けた。
「ちょい聞きたいことがあるんだよ。」
「ああ、なるほど。聞きたいことですか。」
なんだ、そっちですか。とウエイトレスさんはつぶやいた。そっち以外にねーよ。
「で、聞きたいことですね。そうですね、私の好みの男性のタイプは優しくて、力強くて財力のあるかたです。以上でいいですか?」
全くもっていらない情報だけ教えてそそくさと仕事に戻ろうとするウエイトレスさん。うーむ、なる。このあり得ないカラーの髪の女性は人の話を聞かない属性なんだなぁ。男性のタイプに関しては、地味に欲深いな。
「話は終わってないって。なに戻ろうとしてんの?泣くよ?いいの?大の大人のガチ泣きここで見せつけるよ?」
「はて?まだ何か聞きたいことでも?」
本気で不思議そうな顔をするウエイトレスさん。もう、呆れることしかできねえよ。とっつぁん。
「俺ってば今完全に一文無しなんだよ。なんかいい金稼ぎできる場所はないかね?」
異世界に来たらまずやらねばならぬ事・・・それは、ある程度の金を手に入れること。
ーーまぁ、金も無けりゃ装備も宿も食料も何も揃えられないしな。
「まぁ大変。でもそれなら、うってつけの仕事がありますよ!」
ま、マジでか!この人ホントすげえな。ありがたいわ。いや、ホントに。
「その目は、さては可愛い私に求婚しようとしていますね!?残念ながらお断りさせていただきます」
「だから、ちげえっての!なんでアンタは感謝の眼差しを向けられると求婚されてると勘違いすんだよ!?ことあるごとに告白もしていないのにフラれる俺の気持ちにもなれ!」
「ま、また私の勘違いですか?これはこれは、大変ご迷惑おかけしました。」
まあ、でも。と俺はつぶやき。
「マジで助かる。見ず知らずの俺にここまで良くしてもらって。」
ウエイトレスはクスリと笑い、「良いんですよ。」と言ってくれた。しかもなんと場所まで案内してくれるらしい。
ああ、この世界の人はなんて優しいんだ。俺は感動した。
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感動はしたものの、思ってたのと随分違った。
「さあ、今日から一緒に頑張って働きましょー!」
そう言ってライムグリーンの髪の少女はグレーのウエイトレス姿で俺に活を入れた。
先ほど、つれてってやると言われ素直について行ったら、なんと厨房の隅っこの方に連れてかれたのだった。
「ん?どうしたんですか?なにか言いたげな顔ですけど」
「いや、まぁ、確かに仕事とは言ったけど・・・その、仕事内容がウエイターとは思わなくって。」
すると少女は、それなら大丈夫ですよ!と自信満々に言ってきた。
「仕事内容はウエイターではなく雑用ですから」
そんなフルフェイススマイルで言われても・・・でも仕事には変わりないか。もう、いいやこれで。
「あ、そうでした。私ったら自己紹介もまだでした。私、ミークと申します。これからよろしくお願いします」
「俺の名前はセガワ・ダイキ。こちらこそよろしく頼みますぜ先輩」
その後、俺はミークに出された指示通りに働いた。
厨房の掃除、皿洗い、ゴミ出し、etc・・・。
ミークがぱぱっと店長に説明しただけで仕事に加われたのは些かおかしくもおもえたが、多分人手が足りないのだろう。そう、勝手に納得しておくことにした。
店長はリザードマンのグライシスさん。従業員は、ミークと店長と俺をあわせると6人だった。
料理は店長とオレンジ髪のひょろ長い中年のビンハムさん(がっつり側頭部から羊の角みたいなものが生えています)。
雑用は俺一人で、
ウエイトレスがミークと赤髪ショートヘアの犬耳娘のアロッタ身長は150㎝後半くらい。そしてアロッタの双子の妹のカロッタ。
見た目はほとんどアロッタと変わんないが何が違うかと言ったら、
アロッタがつり目でカロッタが垂れ目って部分だろうか。
それ以外はもう本当に見分けがつかないレベルでそっくり。
雑用なんてのは昔散々やってきたから、どれも完璧にこなしてみせた。
まぁ、かつて俺がいたイギリス軍の秘密特殊部隊なんかにくらべちゃったらどんな仕事も楽に見えてしまうがな。
そんななかだった。
俺が異世界に飛ばされ、光のスピードで就職し、軍資金という名のガチョウをぶくぶく太らせている真っ最中に、奴は現れた。
「んんー、相変わらずここは庶民臭くて吐き気を催すわね~」
何故俺は異世界にまで来て、面倒ごとに巻き込まれるのでしょうか?