同性間における婚姻制度
歴史が始まって以来、
連中とは、
女が所属する民族は戦い続けてきた。
それゆえに、相手のことはかなりのところ知っているつもりだった。
だが、同性間における婚姻制度があるとはついぞ知らなかった。
隣り合って生きてきた民族同士でありながら、彼我では文化系統があまりにも違い過ぎる。そうであっても、彼らが祝福していること、婚姻のための儀式に相当の費用をかけていることはすぐにわかった。
それは驚くべきことだったが、
儀式が終わり近くになってそれよりも、
もっと危惧というか、疑問に思うべきことがあると気付いた。
夫になるべき異人種の王族は、
女が新しく魂を迎え入れる身体を用意していることを知っていた。
魂はまだ天にあるために瘴気を発していない。
ならば、
どういうわけで、異人種の王族はそれを察知したのだろう。
自分の頭一つ以上、
背丈が高いために、
彼女の表情を確かめるためには、
頸椎にかかる圧力を覚悟せねばならない。
それを乗り越えて、
彼女の顔を視ると、
想像のうえでは不敵な笑いをいつものように浮かべていると思いきや、
豊穣の女神のような優しげな表情を浮かべていた。
おもわず視線を反らして、
この儀式について思考を巡らすことにした。
腹が立つことに、
異民族について気に入ることもある。
それは連中が自尊心が高いことだ。
そういう精神の上下とはしょせん比較の問題である。
女が所属していた民族よりも量に置いて凌駕していたという意味だ。
それは共通の宗主国の態度に暗示される。
婚姻の儀礼に、
宗主国の使者の姿をみることはなかった。
もしも、故国であるならばこちらから請願して、
それなりの地位にある使者が来てくれるように計ってもらうのだ。
その情けない態度は、
甚く(いたく)女の自尊心を傷つけたものだ。
それとなく、そのことを尋ねると、
夫となる人物は、
今度はいやとなるほど、甚だしく不敵な笑いを浮かべながら言った。
「私の妻となるお人は、故郷におけるそういう習慣を嫌っているはずと聴いたが?」
図星をつかれた女は、しどろもどろになって反論するしかなかった。
どうしてそんなことをご存じなのか?ということだ。
「こ、こんなときに魔法をお使いになることはないではありませんか?」
本当に自分の表情というものを自在に制御する、じつに器用な人物だった。
今度は女神の笑顔を浮かべた。
「私は、竜騎士であって、そなたのように魔法の使い手ではない。ひたすら剣によって生きるもの」
「その剣によって生きるものがどうして、私を一刀のもとに斬り伏せなかったのかしら?」
異民族に特有な、床まで届く長い金髪を揺らして言ったものだ。
「あなたに殺意を感じなかったからだ。あなたはまだ見ぬ我が子を庇っていた。その姿に感動させられた」
その姿は終生、女の脳裏から消え去ることはなかった。