魔決闘本番
「ありがとなフィラ、おかげで回復したぜ」
「・・・3日もかかったね」
「ああまさか長引くとは思わなかった」
薬が効いていたと思っていたが、次の日熱がぶり返した。
飲みたくないと思っていたのにカッコントウを飲む羽目にもなった。
「あれのおかげでもう風邪引きたくないと思ったわ」
「・・・そんなにまずいの?」
「やばい」
「あれ、まずいですよね・・・でも、エルさんが治ってよかったです!」
「あ、ああ。ハルカゼも薬ありがとう・・・」
「ちなみに、ニホンにはこんな言葉がありますよ」
「ん?」
「良薬口に苦し、です!」
よく効く薬はまずいというのがニホンの認識らしい。
確かに効いたが・・・。
「ニホンにはいろいろなカンポウヤクがありますよ・・・」
「い、いらない」
カンポウヤクと聞くと飲んだモノの味を思い出して気持ち悪くなる。
エルには衝撃が大きすぎたようだ。
「・・・エル、明日は魔決闘。大丈夫?」
「あっ、そうだった!体調の方は大丈夫だぞ」
「・・・じゃあ今から練習場に行こう。連携の確認」
「おう、分かった。ハルカゼも来るか?」
「あ、行きます!行きたいです!」
狙うは魔決闘の優勝賞金。
大魔法決闘のことを考えて、魔決闘くらいは優勝しないと話にならない。
「優勝してお金をごっそりもらおうかね」
「・・・優勝するのは、私たち」
「すごく気が早いですね・・・!」
ほかの人から見れば確かに気の早い自信家と思われるかもしれない。
しかしこの二人の頭の中ではもうすでに優勝している自分たちの姿が思い浮かんでいる。
「今まで何回優勝したよ?」
「・・・分からない」
「だよな、俺たちが組めば最強だもんな!」
「・・・そう、さいきょー」
「わー、すごい」
微妙にハルカゼがあきれているような気がする。
しかし、ハルカゼにはまだ見せていないフィラの大魔法がある。
魔決闘に使うのは初めてだが、きっと心強いものになってくれるだろう。
「んじゃ練習場へゴー!」
「・・・ごー」
「ご、ごー!」
3人は家を出て、練習場へ向かった。
「ここにきたのは2度目ですね」
「・・・そういえば、ハルカゼと闘った」
「よーし、じゃあ結界を張るぞ」
結界作動装置を調整して、ちょうどいい大きさの部屋を作る。
結界内は、ほかの人間や魔法の干渉を受けることはない。
「じゃあ、フィラの魔法に合わせて俺が穴を出すから、フィラは適当に魔法を撃ってくれ」
「・・・分かった」
「ハルカゼ、的になってみる?」
「私がですか!?」
驚いているようだが、ハルカゼは自分から換装体に切り替えた。
どうやら的を引き受けてくれるようだ。
「んじゃあハルカゼの後ろとか横とかに魔法を飛ばすから適当に避けてくれ」
「わかりました!」
ちょっと距離を開け、準備をする。
「フィラ、持ってる魔法は?」
「火球、熱線、毒炎、星撃」
「よしわかった。ハルカゼ!適当に攻撃もしてくれな!」
「は、はい!」
『仮想戦闘、開始』
はじめは、相手の出を待つ。
ハルカゼはどんな攻撃をしてくるだろうか。
「八咫烏!」
紙から黒い刃が形成され、飛んでくる。
相手にすると、けっこう弾速が早いことに気付く。
しかし、当たらないことには無意味だ。
「穴!」
エルに向けて一点集中で飛んできた八咫烏が、穴に吸い込まれていく。
「ハルカゼ!上だ!」
「はい!」
そういわれて、ハルカゼがその場から飛び退く。
直後、ハルカゼのいたところに、八咫烏の雨が降りそそいだ。
「・・・星撃」
フィラのいるところから、光が上に向かって一直線に飛んで行った。
「なんですか今のー!」
光に気付いたハルカゼが大声で聞いてきた。
「タイムリミットはあと3分くらい!」
「えええぇっ!?」
「まだまだいくぞ!穴!」
「・・・熱線」
「ハルカゼ今度は横!」
「はーいっ!」
今度はハルカゼが後ろに避けた。
そして、ハルカゼの目の前を極太のレーザーが通り抜ける。
前にフィラとハルカゼが闘った時に、ハルカゼを葬り去った一撃。
「確かにこれは当たったら危ないですね・・・」
ハルカゼが冷や汗をたらす。
「じゃあこちらも・・・竹神!」
「おっとまずい!避けろフィラ!」
「・・・うん」
二人して後ろに飛び退く。
しかし、微妙に避けられず、竹がエルの左腕を貫いた。
「おっとやられた」
「・・・こういうのやられないように注意しないと」
「よーし、じゃあ次は新しい魔法だな。穴!」
「・・・毒炎」
ハルカゼの後ろから、黄色っぽいオレンジのガスが広がる。
炎がハルカゼの身体を焦がす。
「お、くっ・・・!」
ハルカゼが自分の体を抱きかかえたまま、動かなくなった。
「・・・これが、マヒ」
フィラが感心したようにつぶやく。
そして、後で空が光った。
振り向くと、星がこちらに飛来してきている。
「・・・あ」
ハルカゼが目を見開いた。
そして、星が、ハルカゼを破壊した。
「前にフィラさんが言ってた最強の魔法ってあれだったんですね」
「・・・そう」
「あれ、身体が動いていたとしてもよけれませんね」
「・・・感想が聞きたい、やられてみてどう?」
「絶望感はんぱないです」
「・・・そう」
実際のところエルはやられる側の気持ちはわからない。
ちょっと気になったが、やっぱりやられたくないと思ったエルだった。
「あ、そういえばあれも試してみるか」
「あれ?」
「うん。ここじゃ魔法換装体は何度でも使えるからちょっともう一回いいか?」
「あ、分かりました」
「んじゃ離れて避けるように適当に動いててくれ」
「分かりました!」
もう一度定位置に付き、準備をする。
「よし、じゃあフィラ、次はハルカゼに向けて普通に魔法を撃ってくれ」
「・・・分かった。三重×五重火球」
フィラが魔法を唱え、計15もの火球が出現した。
「・・・いけ」
火球が一斉に飛んでいく。
それをハルカゼは軽い身のこなしで避けていく。
「・・・ハルカゼってNINJAなのかな?」
「そういえばニホンにはそういうのがいるらしいな。ハルカゼならあり得る」
あのジャンプしてから空中で前進する動きはどうしているんだろうか。
どうやって動いているんだ。
「そういえば今まで気にしてなかったけどあれ本当にどうやって動いてんだ?」
「・・・空中を蹴ってる・・・?」
「やっぱりハルカゼはNINJAなんだな」
しかしそこまで滞空時間は長くないのか、一度の前進でハルカゼが着地する。
そしてその着地地点に、
「門!」
人間大の大きな穴が開いた。
「きゃっ!?」
そのまま、ハルカゼはその穴に吸い込まれた。
見上げると、ものすごく高いところからハルカゼが落下してきている。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「・・・いやだからあそこまで高くする必要は」
「すまん、いつもの癖で。でも、ハルカゼなら空中で立て直せるかもよ?」
「・・・あり得る」
エルとフィラはハルカゼを見守ることにした。
しかし、ハルカゼは空中を蹴ることも、体勢を立て直すこともなく、地面に激突した。
『換装体、破壊』
「・・・ダメだった」
「ダメだったな」
「めちゃくちゃ怖いんですけどあれ!!!気失うかと思いましたよ!!」
ハルカゼが走って近寄ってきた。
「ああ、すまんすまん」
「換装体だってこと忘れて本気で死ぬかと思ったじゃないですか!!」
「・・・そんなに怖かった?」
「ホントに怖いですから!フィラさんもやられてみればいいんですよ!!」
「・・・やだ」
精神的なダメージも絶大なようだ。
「あと、さっきやってた空中で移動するのってどうやってやってんだ?」
ちょっと気になっていたことを聞く。
何か魔法でも使っているんだろうか。
「え?空気を蹴るんですよ?」
ケロッとした顔で言うハルカゼ。
対してエルとフィラは信じられないといった顔をしている。
「ちょっと待ってどういうこと」
「え・・・?こう・・・」
ハルカゼがジャンプして空中でもう一度ジャンプした。
その超常的な現象に口が開く。
「とりあえずハルカゼがNINJAだということが分かった」
「・・・NINJAは実在した」
「え・・・?忍者・・・?」
ハルカゼが戸惑う。
「ニホンにはいるんだよね?」
「・・・私は忍者では・・・ないですよ?」
さらに衝撃を受ける二人。
どうやらニホン人には特殊能力があるようだ。
「・・・やばい、ニホン人」
平然としているハルカゼと、唖然とするエルとフィラ。
魔法がなくても魔法のようなものを使っている。
「こりゃますますニホンに興味が・・・!」
「・・・出てきたね」
「・・・あれっ?私だけ・・・?」
「うん、ハルカゼだけだね」
今までみんなにあるものだと思っていたもので、ものすごく戸惑うハルカゼ。
「ニホン人は全員何かしらあるのでこっちの人も何かあるのかと・・・」
「うーんそれはないね。てかニホン人すごすぎね」
ニホンにも独自の魔法があり、こちらの魔法も使えて、その上何かしらの特殊能力持ち。
進んでいるのは技術面だけではないようだ。
「さ、とりあえず連携確認も終わったし、帰るか」
「・・・そうだね」
「なんか私がいじめられただけな気がしますが、気のせいですかね?」
「気のせいだな」
「・・・気のせい」
「それならいいんですが」
そもそも的になることを自ら選んだのはハルカゼだ。
「最近星撃を見なかったけど、やっぱりすげえ威力だな」
「・・・早く劫火」
「だからそんな簡単に見つかるもんじゃないんだって」
ここのところ仕事で何度も掘っているが、劫火だけは一向に出てこない。
「やっぱりスターベリルが売れた後あのおっさんを追っかけるべきだったなー」
「・・・ほんと」
「あの・・・何の話ですか?」
「んー、まあ、フィラの魔法の話」
「んんっ??」
劫火を手に入れるのは、しばらく先かもしれない。
『さあやってまいりました!1ヶ月に1度の祭典!魔決闘!さあて今回はどのチームが優勝するのか!!』
学校よりもさらにうるさいアナウンスが響く。
まあ非公式とは規模がまるで違うから仕方ないことではあるが。
『参加者は600名!計300のチームが闘います!はたして優勝はどのチームなのか!!なお、参加者が非常に多いため、50チームごとにAからFブロックに分けて闘います!』
エルたちのチームは番号132、Cブロックだ。
学校とは違い、参加者の年齢は様々だ。
エルたちのような若い人から、高齢な人まで。
中には子供もいる。
「もし子供と当たったら一瞬で終わらせてあげようか」
「・・・また性格悪い?」
「いやそうじゃなくて、あんまり痛めつけるのもかわいそうだし、あとは厳しさというものも教える目的でね?」
「・・・ふーん」
フィラがジト目になる。
たまにめちゃくちゃ強い子供もいるのでできれば当たりたくないものだが。
「俺らは何戦目だ?」
「・・・えーと、7戦目。始まるのは1時間後」
「8時からかー。あ、最初の方は星撃は使わなくていいぞ」
「・・・わかった」
「んじゃ、連携を大事にな」
「・・・うん、私たちは、二人いてこそ」
「ああ、そうだ」
大きなイベントの幕開けだ。
「エルさんフィラさん頑張ってくださいね!」
「・・・言われなくても」
「大丈夫、俺らはほぼ勝つぜ」
「そうなんですね!」
この魔決闘のシステムなら、エルたちはほぼ負けなしだ。
相手も同じような魔法じゃない限り、おそらく大丈夫だろう。
「相手に認識させずに殺る。これが魔決闘での俺たちのやり方だ」
「・・・ヒドゥンアタック」
「んー隠れるのとは違うな?」
「でもかっこいいですね!」
「まじ?嬉しい」
「・・・ちょーし、乗ってる?」
「いやいやいや」
ジトッと、フィラがエルを見つめる。
「いや、誰でもかっこいいって言われたら嬉しいじゃん?」
「・・・鼻の下を伸ばすのと関係ある?」
「別に俺は伸ばしてなんか」
「・・・エルは、無自覚」
フィラがぷいっとそっぽを向いた。
「フィラさん?」
「・・・知らなーい」
「連携取れなくなって賞金もらえなくなっても困るだろ?」
「・・・それは、とっても困る」
フィラがエルの方に向き直った。
「・・・ちゃんと勝つからね」
「あったりまえだぜ」
「・・・うん」
「フィラ、頼りにしてるからな」
「・・・いつも通り?」
「そうだな、いつも通り、勝つぞ」
「・・・うん」
『Cブロックトーナメント、第7回戦が始まります。出場者は闘技場まで来てください!』
「よし、行くぞ」
「・・・いきましょう」
「私、観客席から見てますね」
『記憶処理を開始します』
闘技場へとつながる道にはゲートがあり、そこを通ると相手の魔法に関する記憶がすべて消去される。
つまり、相手の使う魔法を全く知らない状態で試合がスタートする。
例えばエネルたちと当たった場合でも、エルたちはエネルとリアンの魔法を知らない状態からスタートする。
そして、その記憶処理は観客にも適用される。
もし今までに何度見た試合だろうが何度見た倒し方だろうが、試合が始まれば観客は初めて見る試合なのである。
これが魔決闘のシステム、そして、エルたちがほぼ負けなしの理由だった。
「さー、相手はどんな魔法使いだろうな?」
「・・・どんな魔法使いでも、先に倒しちゃえばいい」
「そうだな!」
闘技場へ出ると、学校の闘技場とは全く違う景色が広がっていた。
「やっぱ広いなー」
「・・・大丈夫、魔法は届く」
『それではこれより第7回戦、デュランダル対シグムントの試合を開始します。定位置についてください。』
相手は大柄の男と、腰のまがったおじいさん。
「どっちから狙おうか」
「・・・なんか、おじいちゃんとか危険そう」
「たしかに」
「・・・あのおっきい人を倒してからおじいちゃんを慎重に倒そう」
「あ、先にデカブツを狙うのね」
「・・・そう」
「よし、やるか」
「・・・うん」
『それでは・・・はじめ!』
試合開始のゴングが鳴った。
「獣・狼!」
試合開始と同時に、大柄の男が狼に変身した。
どうやら変身魔法を使うようだ。
「狼」
おじいさんがそういうと、狼の群れが現れた。
何匹もの狼がエルたちをにらむ。
「変身魔法と召喚魔法か」
「・・・どれが本物」
「こりゃわからん」
狼たちはみんな同じ見た目をしている。
「狼は15匹か」
「・・・ええいめんどくさい。エル」
「おう。穴!」
「・・・毒炎」
毒を持った炎が穴に吸い込まれていく。
狙いは、狼たちの上。
「ガアアァァァァァァァッ!?」
狼たちは動きが止まったまま燃え上がった。
「・・・やるのう」
おじいさんはそのまま何もしてこない。
一度に呼べる動物は1種類だけみたいだ。
「・・・火球」
火の玉がおじいさんめがけて飛んでいく。
「ワシじゃあ力不足かのう・・・」
火の玉はおじいさんに直撃、爆発した。
『魔法換装体、破壊!』
すると、動きが止まっていた狼たちが跡形もなく消えた。
術者の破壊によって、魔法も消えたのだ。
「・・・あれが本物」
1匹だけ、まだ残っている狼がいた。
こちらは変身魔法を使った男だ。
「麻痺の効果時間けっこう長いな」
「・・・いいねこれ」
「じゃあ倒しちゃって」
「・・・おっけー」
そういって、フィラは狼に近づいて行った。
至近距離でとどめを刺すつもりだろうか。
「やっぱりフィラもなかなかひどいんじゃ・・・」
「・・・何言ってるの」
フィラが振り返り、エルにジトッとした目を向ける。
その瞬間、
「ガアアァッ!!」
「・・・っ!?」
狼の麻痺が解け、フィラに襲い掛かった。
逃げようとするフィラだが、近づきすぎていたため、避けられなかった。
「ウガァァァアッ!」
「・・・っ!」
フィラの右腕が喰いちぎられた。
「・・・塔!」
「ギャンッ!?」
狼は下から吹き上げる炎に耐え切れず、そのまま燃え尽きた。
『魔法換装体、破壊!勝者、デュランダル!』
初戦は勝ち。
しかしフィラが一撃もらってしまった。
「・・・油断した」
「慢心はよくないからな!ちゃんとやれよ!」
「・・・ごめん」
「いや謝ることじゃないよ。このまま勝つぞ。換装体自体は次の試合までには元通りだし」
「・・・うん、勝つ」
今まで魔決闘でほぼ負けなしだったため、油断するのも仕方ないこととはいえる。
ただ、少し心配なエルだった。
「・・・なんか巡り合わせが悪いな」
「・・・私たちなら大丈夫」
その後も順調に勝ち続けたエルたちだが、マッチングする相手が微妙に強かった。
初見殺しを使って殺す前に攻撃されることが多かった。
破壊はなかったものの、なんだかちょっと気になったエル。
「・・・みんな本気ってこと?」
「まあそれもあるだろうけど・・・、今までは最初様子見とかが多かったんだけど、今回はいきなり攻撃してくる感じ?」
「・・・なら私たちも最初から仕掛ければいい」
「それでいいかね?」
「・・・むしろ、そっちの方が早く終わるかも?」
「そうだな」
門を開くのはエルの魔力上回数に限りがある。
穴は特に問題はないのだが。
「そういえばあんまり使ってないけど俺には結界があるからな」
「・・・そういえば」
普段の戦闘スタイルに慣れすぎていて、新しい魔法をあまり使えていないエルだが、すべて勝つためには新しい連携も考える必要がある。
「ちょっと新しい戦い方を考えるか・・・」
「・・・次で試してみればいい」
「ああ、そうだな」
魔決闘という状況でも試すということをやめない頭のおかしい二人だった。
『記憶処理を開始します』
処理を掛けられ、相手に関する記憶がなくなる。
たしか、以前闘ったことがあるような気もする相手だが、まったく思い出せない。
「・・・エル、まだ私は星撃は使わないよ」
「まあ連戦だからな。魔力的には大丈夫なんだよな?」
「・・・うん、節約中。エルは?」
「俺もまだまだ大丈夫だ」
「・・・よかった」
闘技場に出ると、相手はすでにいた。
『それではCブロック決勝、デュランダル対コールブランドの試合を開始します。定位置についてください』
相手は両方同じ見た目をしている。
双子だ。
「やべえこれ両方一気に倒してえ」
「・・・分かる」
『それでは・・・はじめ!』
攻撃が来ると思い、身構えるエルたち。
「電撃波!」
案の定、相手が仕掛けてきた。
電撃が地を這って襲いくる。
これでは転送できない。
「・・・じゃーんぷ」
フィラは電撃をジャンプして避けた。
あっけにとられるエル。
相手の魔法を転送することしか考えていなかったエルはジャンプという考えに至らず、電撃を脚に食らった。
「うおおお、しびれる」
「・・・威力は?」
「あんまし」
「海嘯」
相手が魔法を唱えると、地面から水が噴き出した。
闘技場の地面がみるみる水で見えなくなっていく。
「充電」
電気を操る方が、手の上で電気を貯め始めた。
「まずい!この状態で電撃を使われたら!」
「・・・!」
「フィラ!仕掛けるぞ!電撃の方を足止め!」
「・・・うん!」
どうする、どうする。
この場でたとえば片方を上に飛ばしたとして、倒せるだろうか。
水かさはどんどん上がっていき、膝くらいまで来た。
・・・そういえば、今相手が電気を貯めているが、このまま放つと相手も被害を受ける。
一応、ルール的には相打ちになった場合、審査員の判定で決まるが、相手の魔法だけで相打ちになれば、判定勝ちはできない。
「っ!そうだ!結界!」
「おっ!?」
電気を貯めている男が結界に閉じ込められた。
結界の内側には水が溜まっていかない。
結界がバリアになっているのだ。
「・・・どうするの」
「大丈夫、俺があっちをやるから、フィラは水野郎を相手してくれ」
「・・・分かった、信じるよ。熱線」
フィラの魔法は水を操っている男の腕を貫いた。
しかし、致命傷には至っていないようだ。
「鉄砲水」
砲弾のような水が何発も飛んでくる。
相手が水を使う以上、フィラの魔法では相殺できない。
不利な相手だ。
「よし、終わりだ電撃野郎!穴!」
闘技場の地面に穴が開いた。
ぽっかりと空いた穴に、溜まっていた水が流れていく。
穴の出口は、結界の中。
結界が、まるで水槽のように水で満たされた。
水の中で、男がもがいている。
魔法換装体の性質上、攻撃以外にも人が死ぬようなことをすれば破壊できる。
上空から落として地面に激突しても換装体が壊れる理由がそれだ。
もがいていた男の動きが止まる。
次の瞬間、換装体が破壊された。
『魔法換装体、窒息により破壊!』
「よっし!」
「・・・ないす」
「くそっ!五重鉄砲水!」
相手が焦って魔法を乱発する。
しかし、それは背中がガラ空きであることの証拠だ。
「穴」
空間に開いた穴に、水の弾丸が吸い込まれる。
そしてその弾丸は、相手の背中に風穴を開けた。
『魔法換装体、破壊!勝者、デュランダル!!』
ワーッと、大きな歓声が響く。
「よ、よかったぁ・・・」
「・・・ふー」
久しぶりに、冷や汗をたらしたエルたちだった。
「あ、危なかったな・・・」
「・・・不利」
「というかさ、あの海嘯って魔法、多分上位魔法だよな」
「・・・おそらく」
きっと、まだ見ぬ上位魔法や大魔法もあるだろう。
・・・覚えていないだけで、何度も戦ったことのある相手かもしれないが。
「さすがに水相手だとフィラはきついよな」
「・・・きついね」
魔法にも属性の優劣があったりする。
例えば、火は水に弱く、水は氷に弱く、氷は火に弱い。
属性なんていくらでもあるようなものなので優劣がはっきりつく属性は少ないのだが。
「・・・決勝で星撃を使いたいから、準々決勝は瞬殺で終わらせたい」
「ほう。どうやって?」
「・・・いつも通りの」
「よしオッケイ。新しいの試すとか言っておきながらすぐいつもの戦闘スタイルに戻るというね」
「・・・仕方ない。勝つため」
「そうだな」
勝てなければ意味がない。
金が入らなければ意味がない。
「・・・金貨300枚くらいは私たちのものだから」
「そらお前、当たり前よ」
「・・・そうだね、頑張ろうか」
「って言ってもまだほかのブロックの戦いが終わってないから時間はかなりあるんだけどな」
「・・・Cブロック、終わるの早いね」
巡り合わせによっては早く終わるブロックと遅く終わるブロックがあったりする。
Cブロックはエルたちお得意の瞬殺などがあったことにより、早く終わった。
となりのDブロックはまだ準決勝すら終わっていない。
まだまだかかりそうだ。
「・・・Aブロックの試合が長引いたため、準々決勝以降を夜の部とする、だって」
「マジかよ何やってんだよAブロック」
お互いのチームの力が対等だったり、待ち戦法を多用するチームがあったりすると、試合は長引く。
それに加え、大魔法決闘が発令されて以降、魔決闘への参加者は爆発的に増えた。
これからは、魔決闘に夜の部があることが当たり前になっていくかもしれない。
「んーてことはまだ準々決勝まで2時間近くあるってことか」
「・・・そうだね」
「暇だなー。どうしようか」
「・・・んー」
暇な時に何かしようかと考えると存外浮かばない。
何かするか考えるということ自体がめんどくさくなってきてしまったエルたち。
「よし、外の屋台でも見て回るか」
「・・・お腹すいた」
魔決闘の日はすごい数の人が集まるので、会場周辺には屋台が多数出ている。
人が多い分、食べ物なども売れる。
魔決闘というイベントはお祭りのようなものなのだ。
「いろいろ屋台があるなあ」
「・・・肉」
「野菜も食え」
「・・・じゃあ、あれ」
あれ、と言ってフィラが指差したのは、ケバブという外国の食べ物。
パンに肉と野菜が挟まっている。
回転する大きな肉から削り取って売っているようだ。
「何あれ美味しそう」
「・・・買っちゃう?」
「買っちゃう」
屋台に近づくと、いい匂いがする。
「おっちゃん、ケバブ2つで」
「あいよ。ソースの辛さはどうする?」
「ソース?」
肉にかけるソースが決まっているらしい。
辛さは3段階。
「・・・あんまり辛くないやつで」
「じゃあ、俺は中辛で」
「あいよ、ちょっと待ってな」
ナイフで肉を削り、パンの間に野菜と一緒に入れる。
ソースをかけて完成。
「ほいおまちど」
「ありがとう」
「・・・ありがとう」
屋台から少し離れて、食べてみる。
肉のうまみと、野菜のシャキシャキと、ピリッとしたソースの味が口の中に広がる。
なかなかにうまい。
「・・・あむあむ」
フィラが結構な勢いでかぶりついている。
「お、フィラはこういうの好きか」
「・・・うん」
フィラはぺろりとケバブを平らげた。
「・・・あっちにニホンの食べ物が」
そういって、フィラがそっちに向かっていく。
「あ、ちょっと待てって」
残っていたケバブを一気に食べて、フィラを追いかける。
「一人で行くなって」
「・・・ごめん。・・・あ」
フィラがこっちに向き直り、素直に頭を下げる。
そして、何かに気付いたようで、顔を近づけてきた。
ものすごく近い、抱き合っているのとほぼ変わらない近さだ。
「お、おい何を」
そう言いかけた瞬間、フィラがエルの口の横辺りをぺろっと舐めた。
「いぃっ・・・!?」
変な声が漏れるエル。
「・・・ソース、ついてた」
「あ、ありがとう。ってかわざわざ舐めなくても・・・」
「・・・手、汚したくない」
突然のことにドギマギするエル。
「・・・ほらあっち」
フィラがエルの手を引いて屋台まで連れて行く。
看板にはTakoyakiと書いてある。
こっちも、ソースの匂いが漂っている。
ケバブのソースの匂いとはだいぶ違うが。
「おう、兄ちゃんたち、買って行くか?」
「あ、じゃあ2つで」
「あいよ」
屋台のおっちゃんがくるくると焼いているものがTakoyakiだろう。
なんか手慣れててかっこいい。
「ニホンの食べ物の作り方、覚えたんですか?」
「いんや、俺が作れるのはこれだけだ。これが一度食べたら忘れられねえんだよなあ。だから自分で作れるようになっちまったってワケよ」
「へえ」
「ほいよ、できたぜ。あっついから気をつけろよ」
「ありがとうございます」
「・・・このひらひらしたやつは?」
Takoyakiの上には、茶色いものがひらひらしている。
まるで踊っているようだ。
「そいつぁカツオブシっていう魚だ」
「魚ぁ!?」
「・・・えっ」
このひらひらしたものが魚だとおっちゃんは言う。
いくら包丁でもこんなに薄くさばけるはずがない。
ならば、そのカツオブシという魚は体がこの薄さだというのだろうか。
「あっこれだけでもおいしい」
なんだろう、この素朴な感じの味は。
「いや一緒に食えよ兄ちゃん」
「・・・あ、あつっ」
「気をつけろって言ったろ?坊ちゃん」
「・・・は、はふー。・・・私、女です」
「あ、マジか。それはすまねえことしたな嬢ちゃん」
「・・・よくまちがえられる」
屋台から離れてTakoyakiを食べる。
外はカリッとしているが、中はとろとろしている。
ソースの味も相まっておいしい。
中にはコリコリしたものが入っている。
「・・・これなんだろう」
「よく分からないけど、いい食感だな」
「・・・Takoyaki、気にいった」
「ハルカゼなら作り方わかるかもな」
「・・・作ってもらおう」
「それもいいな」
食べ歩きを続けていたら、時間はあっという間に過ぎていった。
もうすぐ魔決闘・夜の部だ。
『これより、魔決闘夜の部を開始します!各ブロック決勝まで勝ち残った6チーム!紹介いたしましょう!Aブロック代表、キネシス!Bブロック代表、ノルトン!Cブロック代表、デュランダル!Dブロック代表、エクス!Eブロック代表、ガスティア!Fブロック代表、ガリバー!この6チームが闘います!』
「えちょっと待って」
「・・・えっ」
思いもしなかった二人がいた。
非公式の魔決闘では何度か闘った。
確かに実力は十分ある。
しかし今日の魔決闘に参加しているとは思っていなかった。
「よおエル!来たぜ俺たち!」
「負けないよー?」
エネルとリアンがエルたちを見据える。
「お前らまじか」
「ああそうだ!俺たちはここまで勝ち上がってきたんだぜ!お前らにも負けないからな!」
「・・・ぶっつぶす」
「だから怖いよフィラ!?」
『試合はA対B、C対D、E対Fで闘います!時間はまだまだありますので、一試合ごとに、この闘技場すべてを使用します!戦い方は何でもアリ!頑張ってください!』
エネルの魔法は今ならわかる。
ただ、試合前に記憶処理を掛けられてしまうので、相手の使う魔法が分からなくなる。
それは相手にも同じことが言えるのだが。
「・・・エネルの魔法も、リアンの魔法も出が早い。危険だよね」
「覚えていない状態で俺たちがどれだけ対応できるかだな」
それに、エネルもリアンも、最近手に入れた新しい魔法を持ってきている可能性が高い。
「大丈夫かなー」
「・・・大丈夫だよ。私たちなら」
「あれだな、エネルの雷界はマジで気を付けないとだと思う」
「・・・ああ確かに」
しかし、もう対策しても遅い。
『記憶処理を開始します』
これをされたら最後、魔決闘が終わるまではエネルたちの魔法に関する記憶が消える。
第1試合はキネシスが勝った。
観戦していたはずだが、もう忘れてしまった。
相手が使う魔法も、覚えていない。
『さあ夜の部第2試合!デュランダル対エクス!さあどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!それでは定位置についてください!』
エネルたちと対峙する。
「あいつらはどんな魔法を使うんだろうな」
「・・・大丈夫、私たちは勝てる」
『それでは・・・はじめ!』
試合開始のゴングが鳴った。
と同時に、エネルたちはエルたちと距離を取った。
「・・・エル、ワープは届く範囲?」
「これならまだ大丈夫だ。もしかして、あいつらも遠距離から届く魔法を使うのか?」
「・・・この距離じゃ、火球は届かない」
「なら俺の魔法で届かせるまでだな!穴!」
エルたちの前の空間に穴が開く。
「・・・毒炎」
黄色い炎が、穴に吸い込まれていく。
そして、100mほど先、エネルたちの足元から黄色い炎が噴き出した。
「うおっ!?」
エネルの動きが止まった。
対して、リアンは平気そうにしていた。
「閃光!」
炎を破り、光がフィラの腹部を貫いた。
「・・・なんで」
フィラが驚いている。
右腹部には穴が開いていたが、破壊には至っていないようだ。
「あいつ、口塞いでるな」
「・・・吸うと麻痺が発生するのね」
つまり、炎を吸い込まなければ麻痺はしない。
とっさのリアンの機転が利いたようだ。
「・・・このままだとまずい」
フィラに開いた穴からは、魔力が漏出している。
このまま時間が経てば、魔力漏出過多となって破壊判定をくらうだろう。
「仕方ない、あいつらとの闘いを楽しみたいけど、ここは早々にご退場願おうか」
「・・・わかった」
「ただあれな、カッコよく決まれば決勝のシードもらえるかもしれないから頼むぜ」
「・・・おっけー」
「というわけで・・・門!」
まだ麻痺で体の痺れが取れないエネルめがけ、門を開いた。
そして、地面に開いた門は、エネルを空へと連れ去った。
「相当高く下からエネルが落ちてくるまでまだ時間がある。先にリアンを片付けよう」
「・・・うん」
「穴」
聞こえないように、こっそりと穴を出現させる。
ワープ先は、リアンの上。
リアンはエルたちが何をしてくるか警戒している。
ただ、上への注意がおろそかだ。
「・・・かかった!輝核!」
リアンに穴の場所を悟られてしまった。
エルの目の前の穴から、目が開けていられないほどにまぶしい球体が飛び出してくる。
「くっ・・・!マジかリアン!」
「・・・リアンは、頭がいい・・・!」
次に何をしてくるかわからないため、その場を飛び退くエルたち。
しかしリアンはそれを見越していたかのように攻撃してきた。
「光雨!」
エルたちの周り、広い範囲にレーザーが降りそそぐ。
「うおっ!?」
エルの脚と右腕にレーザーがヒットした。
被弾した個所には穴が開いている。
「これ、頭じゃなくてよかった・・・」
「・・・リアンを落とすべきだった」
「たしかにな・・・」
リアンは一人でも十分に戦えるほど強かった。
まあその気になればフィラも一人で戦えるが。
「閃光!」
なおもリアンは攻撃を続ける。
エルたちは逃げ回るしかなかった。
次にまた光雨を使われたりするとまずい。
と、その時。
「・・・ええいめんどくさい、城」
「え、ちょ」
フィラがその魔法を唱えた瞬間、すさまじい炎がリアンを包み込んだ。
炎はどんどん広がり、轟轟と立ち上る炎はまるで城だ。
消費魔力がなかなか高いのであんまり使いたがらないが、強力な魔法だ。
「城を持ってきてたのか」
「・・・まあ、魔力は温存してあったし」
火は消え、焼跡には何も残っていなかった。
『魔法換装体、破壊!』
さあ残るは落下してきているエネルだ。
「このままほっといてもいいんだけど、観客も楽しませてあげないとだしなあ」
「・・・今魔力を温存して準決勝闘わないか、カッコよく決めてシード狙うか」
ちょっとした賭けである。
カッコよく決めたからといってシードはもらえないかもしれない。
準決勝、決勝を闘える分の魔力は残っているが、できれば決勝は楽に勝ちたい。
それならシードを狙うべきか。
「んじゃあフィラさんお願いします」
「・・・エル、門を」
「え?俺も?えー、門」
エネルが落ちてくるであろうところに門が開く。
「・・・罠」
その門に、フィラは罠を仕掛けた。
そして、エネルは何もできず、門に飲み込まれた。
その瞬間、会場を揺るがすほどの爆発が起きた。
その爆炎は、まるで花火のよう。
夜の闘技場にはまぶしかった。
そしてワープ先、闘技場の地面には、破壊された換装体が転がっていた。
『魔法換装体、破壊!勝者、デュランダル!』
また、会場が歓声で沸いた。
この景色も、初めて見るような気もするが、実際は何度も見ている、はず。
記憶処理というのはなかなかむず痒いものだ。
「控室に戻ろうか」
「・・・うん」
連戦で微妙に疲れているエルたちは、勝ったのもそこそこに闘技場を出た。
「3回戦、どっちが勝つかね」
「・・・どっちが勝っても、私たちには関係ない」
「そうだよな。俺らだったら勝てるもんな」
「・・・それもそうだけど、どっちが勝ったって、対策のしようがないよ」
「・・・まあ、それもそうだよな」
初見殺しは楽だ。
対策もされずに相手が驚きながら倒されていくのは楽でいい。
でもたまーに、なんだか疲れてしまう。
同じことをしていれば勝ててしまうから。
それでお金が大量に入るのだから贅沢は言ってられないのだが。
「闘うの自体、俺らは結構好きだもんな」
「・・・仕事のストレス解消とかね」
「え、なんか仕事に不満が?」
「・・・嘘」
フィラが微笑んだ。
「・・・少し、寝たい」
「んー、まあ、次の試合が始まる前に起きればいいか」
「・・・うん」
そのままフィラはこてん、とエルの肩に頭を預けて寝た。
「なんだか寝顔を見てるとこっちまで眠くなってくるな」
眠気にエルも耐え切れず、眠ってしまった。
『さあ第3回戦が終了しました!評議の結果、夜空に見事特大の花火を打ち上げた、チームデュランダルがシード権を獲得です!』
そんなアナウンスも、寝ている二人には届かなかった。
『さあ!魔決闘夜の部、決勝戦が始まります!出場チームデュランダル、ガスティアは闘技場へ!』
「・・・はっ、エル起きて」
「・・・おおう?」
「・・・決勝、だって」
「ん・・・ああ、俺ら結局シード権取れたのか」
「・・・結構寝ちゃった」
「んまあ大丈夫だろ。勝ちに行こうぜ」
「・・・もちろん」
控室を出て、闘技場に通ずる道を通る。
『記憶処理を開始します』
これで今日最後の記憶処理だ。
もう気分の悪い思いをしなくて済む。
「ガスティアって言ってたな、まっ俺らなら大丈夫だろ」
「・・・そら、当たり前よ」
闘技場へ出る。
反対から出てきたのは、チームガスティア。
大人二人。
よくは聞こえないが「大人の厳しさを~」的なことを言っている。
「ガキ舐めると怖いってところ教えてやろうぜ」
「・・・成人してるけどね」
「いいんだよ気にすんな」
『それでは魔決闘決勝戦、デュランダル対ガスティアの試合を開始します。定位置に・・・ってもうついてますね。それでは・・・はじめ!』
「・・・星撃」
最初にフィラが星撃を放った。
魔決闘で星撃を使うのは、これが初めてだ。
観客はおそらく、初めて見る大魔法に沸くことだろう。
エルたちもエルたちで、さっさと終わらせたいという気持ちも割とあった。
しかし、この戦いは見世物でもある。
終わらせるなら、カッコよくだ。
「・・・星撃」
「えっフィラ」
なんとフィラが二発目の星撃を放った。
「・・・超火力の魔法が相手をあっという間に倒せば、観客も驚いてくれる」
「たしかに」
何が起きたかわからない可能性もあるが。
「さーこっから全力で逃げるぞ。厳しさとか言ってたから割と強い可能性がある」
「・・・逃げ回るなら、エルの得意分野」
「あったりまえだぜ。門!」
地面に門が開く。
二人は躊躇せずに飛び込んだ。
移動先は、相手の後ろ。
「なっ!?」
「どこだ!?」
相手はエルたちを探してきょろきょろしている。
「後ろがガラ空きだぜ!?」
「・・・熱風」
熱風が相手の背中を焼く。
「くそっ!降刃!」
「門!」
エルたちはまた門に飛び込む。
直後、エルたちのいた場所に鋭い剣が刺さった。
その剣が1つ、門に入っていった。
「ぐあっ!?」
そしてその剣は、空間を移動中のエルの背中に突き刺さった。
「・・・大丈夫?」
「あ、ああ、まあなんとか。びっくりしたわ」
フィラが剣を引き抜く。
換装体とはいえ、痛覚はあるので痛いものは痛い。
「くっそ油断した」
エルたちが元いた場所に戻ってきた。
星はまだ見えない。
「しかたない、試合終了まで大人しくしてもらおうか」
「・・・そうね」
「結界!」
発生した結界は、相手の大人二人を閉じ込めた。
「な、なんだこれは!?」
「おいおいあいつら何もしてこねえぞ・・・舐めてやがるのか?」
「なあフィラ」
「・・・どうしたの?」
「火の海に星が落ちてきたらどうなるだろうな?」
フィラが考えるような仕草をする。
「・・・やってみたい、かも」
「魔力は?」
「・・・まだ大丈夫」
「よし、ゴー」
「・・・城」
結界の周りを、燃え盛る炎が包み込んだ。
しかし相手の破壊判定は出ていない。
まだ結界を解いていないからだ。
結界を解くまであと少し。
さあ、落ちてこい。
「・・・きた」
「よし、解除!」
炎で視認はできないが、おそらく結界が解けた。
このまま時間が経てば、破壊判定が出るだろう。
でもそんなの待っていられない。
空に光が見えた。
光はこちらへと進んでくる。
「今回も勝ちだな」
「・・・うん」
落ちてきた二つの光は、炎の城を吹き飛ばし、相手を砕いた。
残ったのは、童話に出てくるような、キレイな二つの星だった。
『ガスティア両者、魔法換装体破壊!優勝、チームデュランダルッ!』
さっきまでとは比べ物にならない歓声。
観客が立ち上がって拍手をしている。
見事なスタンディングオベーションだった。
その次の日、新聞を飾ったのは決勝戦の写真。
炎の城に、星が飛び込んでいく写真だった。