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二人の戦い

「ああ、フィラ。起きてきてのか」

「・・・治った。で、その人は誰。何でこんな夜にエルの部屋に?」

「紹介する。この人はハルカゼさん。この家にホームステイすることになったんだ」

「ハルカゼ=ヤクモです。よろしくお願いしますね」

「・・・ホームステイ?聞いてない」

「まあ、今日母さんが決めたからな」

「・・・突然すぎる」

 フィラが頭を抱えた。

「・・・いきなり家に知らない人がいたらびっくりするよ」

「まあフィラ魔力切れで寝てたしな」

「・・・そうだけども」

「ちなみに、このハルカゼさんはジャ=パンの人なんだぜ」

「・・・マジですか」

「それがマジなんだぜ」

 フィラがハルカゼを見つめる。

「・・・フィラ=アイゼン。よろしく」

「え、あ、はい。よろしくおねがいします」

 突然の自己紹介に驚くハルカゼ。

「・・・なぜうちに?」

「この国を旅している途中に倒れてしまいまして。助けてくださったのがエルさんなんです。そしたら、野宿は危ないから旅の間うちに泊まっていけとセレナさんが・・・」

「・・・旅してるのに泊まるの?」

「この国の魔法を見たりするのが目的なんだってさ」

「・・・へえ」

 なんだか気のない返事をするフィラ。

 どうしたのだろうか。

「・・・魔法が見たいのなら、明日練習場に行けばいい。私と戦おう」

「えっ!?」

 驚くハルカゼ。

 魔法を見せると言われて、いきなり戦いを挑まれたらそりゃあ誰だって驚くだろう。

「・・・エルは一人じゃ戦えない。だから、私とあなた、1対1で」

「私の魔法で、フィラさんと戦うということですよね?」

「・・・そう」

 どんどん話が進む。

 そしてフィラの目はやる気満々だ。

「えーっと・・・、いいのか?ハルカゼ」

「ええ、実際に見せていただけるのなら・・・。私の力、エルさんにお見せしますね!」

「・・・ちっ」

 エルには、フィラが舌打ちしたように見えた。


 Side フィラ

 なんだあの人は。

 知らないうちにやってきてエルと仲よさげにして。

 しかも夜中にエルの部屋で二人でだ。

 私もよくやるけど、それはずっと一緒にいたから。

 なのにあの人はいきなりエルの部屋に踏み込んだ。

 明日、あの人と戦って、エルにちゃんと私の強さを見せてあげないと。

「・・・エル」

 願わくば、私のそばから、エルがいなくなりませんように。


「ここで戦うんですね!フィラさん、負けませんよ!」

「・・・負けない」

 ハルカゼが私を見据える。

 なんというか、この子楽しんでるのかな。

 私は本気で行くけども。

 ・・・さすがに星撃(スタアメイカー)は使わないようにしよう。

 この魔法を知らないハルカゼは対処のしようがない。

 まあつまり、それで決着をつけても楽しくない。

『魔法換装体、オン』

 自分の身体が換装体に切り替わる。

「え、なんですかこれ」

 ハルカゼは何が起こったのかわからないらしい。

「・・・換装体。これを破壊すれば、勝ち」

「傷つかずに済むということですか・・・いい技術ですね」

『仮想戦闘、開始』

 まずは小手調べ。

 魔法を使って、相手がどういう反応をするか見よう。

「・・・火球(フィガ)

 ハルカゼめがけて、炎の玉が飛んでいく。

 ハルカゼは避けることもせず、火球は直撃した。

「ほうほう、当たるとこうなるのですね」

 ハルカゼの左腕が、フィラの火球によって破壊された。

「右手だけというのは面倒ですが・・・、いきますよ!」

 そういうと、ハルカゼの周りに、よく分からない紙が現れた。

八咫烏(やたがらす)!」

 ハルカゼがそう叫ぶと、紙は分裂し、黒い刃になって、襲いかかってきた。

「・・・数が多い・・・!」

 紙を何枚消費したのかはわからないが、すさまじい量の刃が飛んでくる。

 その刃は、私の全身を切り裂いた。

「・・・くっ」

 換装体には切り傷が多数でき、服も破けている。

 ただ、まだどこも破壊されてはいなかった。

 威力自体は高くないようだ。

「・・・負けない」

竹神(たけがみ)!」

 そうハルカゼが叫ぶ。

 どんな魔法なんだろう。

 何も飛んでこない。

「・・・っ!」

 下を見ると、何か鋭いものが見えている。

 その鋭いものは、一気に成長し―――フィラの身体を、貫いた。

「・・・植物?」

 急に生えてきたその鋭いものは、どうやら植物のようだ。

 しかし見たことのない植物だ。

「・・・まずい」

 破壊はされていないが、いたるところに穴が開いている。

 このまま魔力がもれてしまえば、換装体が保てなくなって、負ける。

 でも負けたくない。

 エルにいいとこ見せたいから。

「・・・三重(トリ)×四重(テトラ)(タワー)!」

 何本もの火柱が立ち上る。

 下から吹き上げる炎を、するするとハルカゼがかわしていく。

 ハルカゼが避けようとして、後ろにジャンプをした。

「・・・それを待ってた。(トラップ)

 ハルカゼの着地点に仕掛けた罠。

 ハルカゼがそれを踏むと同時に、爆発を起こした。

 爆炎がハルカゼを包み、フィラは勝利を確信する。

 しかし。

八咫烏(やたがらす)!」

「・・・っ!?」

 突然飛んできた黒い刃が、油断していたフィラに襲い掛かった。

 飛んできたのは、上から。

「・・・上に跳んだのか。すごい」

「まだまだいきますよ!火炎車(かえんぐるま)!」

 リング状の炎が飛んでくる。

 円の軌道を描いて飛ぶ炎は、避けてもまた戻ってきた。

「・・・六重(ヘキサ)火球(フィガ)

 6つの火球を操り、時間差でハルカゼめがけて飛ばす。

 横から来る火炎車に警戒しながら。

「おっとあぶない」

 すべてをよけきって安心するハルカゼ。

 フィラはその瞬間を見逃さなかった。

「・・・残念。熱線(バースト)

 フィラが発したレーザー。

 その光は―――一直線に、ハルカゼの頭を貫いた。


 Side エル

「・・・熱線(バースト)

 フィラの発した熱線が、ハルカゼに直撃。

 ハルカゼの換装体は破壊されて、試合終了となった。

 しかし、ニホンで戦ってきただけあって、ハルカゼの強さはなかなかだった。

「俺の魔法とは相性悪いな・・・」

 ワープが使えるのはさっきハルカゼが使ったヤタガラスという魔法くらいだろうか。

 カエングルマは独特の軌道を持っているため、ワープで飛ばした後に暴走されても面倒そうだ。

「・・・ありがとう」

「はい・・・手合せ、ありがとうございました」

 若干ハルカゼが疲れた様子でこっちに来た。

「負けちゃいました・・・私もまだまだですね・・・」

「いやいや、フィラ相手にしてあそこまでやったならすごいと思うよ。フィラ、結構強いんだぜ?」

「はい、とっても強かったです・・・」

「・・・あの、木を生やす魔法、危険」

「えっと・・・、竹神(たけがみ)ですか?」

「・・・そう。初見での回避は難しい」

「私の中で結構強い魔法だと思っています!ふふん」

 ハルカゼが胸を張った。

「・・・エル、私勝った」

 フィラが笑って、エルにアピールをする。

「ああ、そうだな。やっぱりフィラ強いな!あと、星撃(スタアメイカー)を使わなかったのも個人的に好感が持てる」

「・・・あれは、フェアじゃない」

「ははっ、そうだよな」

「えっと、その、すたあめいかーってなんですか?」

「・・・私の、最強の魔法」

 フィラも負けじと胸を張った。

 ・・・両者の間には格差社会が広がっていたが。

「えーっ!じゃあ、私は手加減を・・・?」

「・・・そうじゃない。あれは、フェアじゃない」

「そうなんですか・・・?」

「まあ、次の魔決闘で見せるよ」

「はい!楽しみにしておきます!」


「さあ、じゃあハルカゼには俺たちがやってる仕事の手伝いをしてもらおう」

「仕事・・・ですか?」

「・・・そう」

 ハルカゼに仕事用の作業着を渡し、着替えてから採掘場へ行く。

 初めて見る採掘場にハルカゼがきょろきょろしている。

「ここが俺たちの仕事場だ。ここで、魔鉱を採ってもらう」

「魔鉱!私知ってます!それを加工して魔法の使えるチップにするんですよね!」

「ああそうだ。ここで魔鉱を採って、開発局でチップに加工して、うちの店でチップを売るのが俺たちの仕事なんだ」

「・・・全然採れない日もあるけどね」

 フィラがボソッと余計なことを言った。

 まあ確かに全然採れない日はあるが。

「どうやって採掘するんですか?」

「このハンマーとピッケルだ」

「ずいぶん原始的なんですね・・・」

「・・・こうするしか、ない」

 フィラはすでに採掘を始めていた。

「まあこれからハルカゼがホームステイしてる間はこれを手伝ってもらうから、今日覚えてくれ」

「わかりました」

「とりあえずフィラと一緒に適当に掘ってくれ」

「はい!」

 ハルカゼがフィラの方へ向かう。

 フィラが掘り方を教え始めた。

「さってと・・・、俺もやりますかね」

 まだ見ぬ鉱脈を目指し、エルも掘り始めた。


「えいやっ!」

 ハルカゼがピッケルを振り下ろすと、キンッといった音が鳴った。

 その音にフィラが反応した。

「・・・あとは、慎重に取り出して」

「はい、ええと、どうすればいいですか?」

「・・・このスコップを使って」

 ざくざく、とフィラが周りを大まかに崩していく。

 すると、魔鉱らしきものが見えてきた。

「・・・こんな風にやる。覚えた?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「・・・慎重にやらないと魔鉱が割れてチップにできなかったり、魔石の場合は売り物にならなくてお客さんに嫌な顔をされた挙句傷ついた魔石を誰にも引き取ってもらえずに倉庫に置きっぱなしになることもあるから気を付けて」

 魔石の説明だけやたら具体的だったことには突っ込まず、フィラの言われたとおりに作業をする。

「これが魔鉱なんですね・・・!」

「・・・そう。それで私たちは商売をする」

 ハルカゼが取り出したのは、黒い魔鉱。

 黒い色は大体補助魔法か、闇属性の魔法だったりする。

 補助ならエルに使えるかもしれない。

「エルさーん!魔鉱、採れましたよー!」

 ハルカゼが嬉しそうにエルの方へ走っていく。

 それを見ていたフィラは、大きなため息をついた。

 実際は、フィラだって甘えられるものなら甘えたい。

 しかしフィラは思う。

「・・・そんなの、自分のキャラじゃない」

 静かにしているのがフィラだ。

 両手を振り上げて嬉しそうに「エルー!」なんていうことは今までなかった。

「・・・少し、羨ましい」


「エルさーん!」

 ハルカゼがエルの方へ走ってきた。

 右手には、魔鉱が握られている。

 いかにも「ほめて!!」と言ってるようなオーラが伝わってくる。

 おそらく犬なら尻尾がパタパタと動いているはずだ。

「見てください!魔鉱採れましたよ!」

 そういってハルカゼが差しだしたのは、黒い魔鉱。

 エルからすれば、自分に適性のある魔法が出るかもしれないもの。

 エルが思わず、ハルカゼの頭をなでた。

「おめでとう!その調子で頑張ってくれ!」

「ぴゃっ!?え、あの・・・はい。がんばります!」

 ハルカゼが走ってフィラの方へ戻っていく。

 エルは自分の右手を見て、もしかして今とても恥ずかしいことをしたんじゃないかと辺りを見回した。

 採掘場にはエルたち以外にもたくさんの人がいる。

 衆人環境の中女の子の頭をなでるというのは・・・前の非公式魔決闘でフィラを抱きしめたのと同じくらい恥ずかしいことかもしれない。

「・・・何してんだ、俺」

 頭を左右にぶんぶんと振って、採掘を再開した。

 今日はなかなか魔鉱が出てこない。

 別に1か月ほど仕事をしなくても家計に全く問題ないほどお金のあるエルの家だが、エルとフィラからすると、どうも1日の収入がないと落ち着かない。

 金への欲望は深かった。

「んまあ最悪、ハルカゼの採った1個は確定してるからなあ。売れるかどうかは別として」

 魔鉱が取れても、まったく売れない日もある。

 それが、この商売の辛いところだった。

 まったく魔鉱や魔石が出ないとき、もしくは出ても売れないときの収入はない。

「んま、しばらくは大丈夫だけどな・・・あーやっぱ金っていいな。ほんと国王にもっと高く売ればよかった」

 ピッケルを振り下ろすと、硬質な音が響いた。

 慎重に取り出してみると、それは魔鉱ではなく、ただの鉄鉱石だった。

 一応集めておいて損はないが、魔鉱と比べると価値が違いすぎる。

 この国の資源は魔鉱である。

 鉄鉱石なんて、どこでも採れるはずだ。

「・・・場所変えようかな」

 今日のエルの引き運はよくないらしく、残念ながら魔鉱が出てくることはなかった。


「よし、じゃあ採れた魔鉱をチップにするために開発局へ行こう」

「・・・エル、魔鉱採れた?」

「いえまったく」

「だ、大丈夫ですよ!今日は運が悪かっただけですよね?」

 ハルカゼがすかさずフォローを入れる。

 しかし、ハルカゼが魔鉱を持っているとそのフォローは無意味となる。

 フィラが右手に持っているのも魔鉱だった。

「・・・なっさけねー」

「・・・大丈夫、ポンポン出るほうがまれ」

「いやそうだけどよ」

 いつもより多い、三人で話しながら開発局へ向かう。

「ああそういえば、ハルカゼはこっちの魔法は使ったりしないのか?」

「ええ、できれば使いたいですけど・・・。ニホンとは全然違うようですし・・・」

「ああそれなら大丈夫。接続器(コネクタ)をつくれば使えるようになるから」

「そうなんですか!?」

 途端、ハルカゼの目がキラキラと輝きだした。

 結構こちらの魔法に興味があったらしい。

「・・・作れば自動で体に適用化される。問題は、自分に合うチップが見つかるかどうか」

「そうなんですか・・・。私、こっちの魔法も使ってみたいです!」

「んじゃあ作りに行くか」

「ちなみにお金はどれくらいかかるんですか?」

「金貨1枚」

「リーズナブルですね・・・!」

 この国の人間ならほぼ全員が持っているため接続器は非常に安い。

 接続器を作ってから、自分に合う魔法が4つ見つかるまでが大変だ。

 実際、エルはまだ適性のある魔法が3つしかない。

 フィラはたくさんの魔法に適性があるが、これはこれで珍しい方だった。

「私はどんな魔法に適性があるんでしょう・・・?」

 適性があるかどうかは確かめないと分からないが、フィラのように、火属性の魔法は大体扱えるなど、適性のある属性があったりする。

「ニホンの魔法は適正とかはないのか?」

「はい・・・」

 となると最初の一つを見つけるのが難しいかもしれない。

 一つの属性さえわかればだいたいその属性であてはまったりするのだが。

「んま、やってみないと分からないからな。とりあえずハルカゼがニホンに帰る前までに見つかるといいな」

「はい!」

「・・・探してみようか」

 こっちの魔法が使えるかもしれないと聞いて、ハルカゼのテンションはかなり上がっていた。


「魔導開発局です。ご用は・・・おや?」

 看守がいつもと違った反応をした。

 いつもと違う人がいるのだから無理もないだろう。

「えーと、ご用はなんですか?」

「開発に来ました」

「お名前を」

「エル=シュヴィ」

「フィラ=アイゼン」

「あ、えっと・・・ハルカゼ=ヤクモ」

「エル=シュヴィ、フィラ=アイゼン、ハルカゼ=ヤクモ三名、入場を許可します」

「ハルカゼは今うちにホームステイしているのでしばらく一緒に来ます」

「あ、そうなんですね。ハルカゼさん、よろしくお願いします」

 看守がやさしく笑った。

「よ、よろしくおねがいします・・・」

 ハルカゼがおずおずと返した。


「わー!開発局ってこんな感じなんですね!すごい!」

 ハルカゼがきょろきょろしている。

 エルガンデの中でもとくに発達した雰囲気を持つ開発局。

 ガラス張りの部屋の中では、研究者たちがチップの研究をしている。

「開発室はすぐそこだ。担当さんにも挨拶してな」

「はい!」

 開発室に入ると、エルにとってはもう見慣れた、少し顔の怖い担当がいた。

「よう兄ちゃん嬢ちゃん」

「・・・(びく)」

 フィラが一瞬固まる。

「ハッハッハ、まだ嫌われてんなー。そっちのねえちゃんはどうしたんだ?」

「この子は今うちにホームステイしてるんで、しばらくこいつも一緒に来ます」

「は、ハルカゼ=ヤクモです!よろしくお願いします!」

 ハルカゼが勢いよく頭を下げた。

「ほー、俺は名前は覚えない主義でよ。そっちのオレンジを嬢ちゃんと呼んでるから、あんたはねえちゃんと呼ばせてもらうぜ」

「あ、はい・・・」

「・・・オレンジ」

 フィラが自分の髪をいじる。

 オレンジのショートヘア。

 体を覆うローブを羽織っているので微妙に体つきが分かりづらく、男と言われれば信じてしまえそうな感じである。

「んで、今日はいくつだ兄ちゃん」

「2個です・・・」

「んまあ全然採れないこともあるんだし気にすんなよ。あんたらが7個持ってきたときは驚いたしな」

 魔鉱を魔水の中にセットし、圧力をかける。

 徐々に魔鉱が光り始めた。

「おおー!こうしてチップができるんですね!」

 ハルカゼがはしゃぐ。

 興味津々といった感じではあるが、ハルカゼが帰るころには見飽きているだろう。

 魔鉱の発光がおさまり、2つのチップができた。

「・・・確認」

「えーとこの黒いチップは・・・ああダメだ。俺の適性じゃない」

「・・・残念」

「兄ちゃん、補助魔法者(サポーター)だし仕方ねえよなあ」

 次に、白いチップ。

「フィラ、どうだ?」

「・・・使えない」

「まあ、こんなこともあるっつーもんだ。明日も来るのかい?」

「ええ、魔鉱が採れたら」

「んじゃ、明日は使えるものが出てくるといいな」

「明日に期待します」

「と言っても、俺がここに来てから兄ちゃんに適性のある魔法は見たことねーな。ハッハッハ!」

「言わないでください・・・」

 微妙にへこむエルだった。


「んじゃあハルカゼの接続器(コネクタ)を作りに行くか」

「嬉しいです!」

 三人で、エルガンデのはずれにある小さな工房へ向かう。

「作るのって時間かかったりするんですか?」

「いや?10分くらいでできるぞ?」

「・・・早いよ」

「そうなんですか!魔法を使うための必需品なのに簡単にできるんですね!」

「んまあ作りに行くって言ったって俺たちが作るわけじゃないんだけどな」

 10分も歩くと、工房が見えてきた。

「並んでるわけでもないし、待ちもなさそうだな」

 工房の中に入ると、けっこう暑かった。

 工房にある溶鉱炉のせいだろう。

「すんませーん。今やってます?」

「あいよー、どしたんだい」

 中年でひげ面の、いかにも職人ですと言わんばかりのおじさんがエルに反応した。

「この子に接続器(コネクタ)を作ってほしいんだ」

「おう、分かったぜ。先払いな」

「はい、金貨1枚」

「毎度あり」

 おじさんが仕事にかかる。

 接続器はあっという間に完成した。

 ハルカゼの腕に装着し、適用されるのを待つ。

「待ってる間、お前さんたちのもメンテナンスしてやろうか?もちろん金はいただくけどな」

「えーそこはサービスとかしてくれないんですかねえ」

「バッカヤロー、サービスで商売ができるかってんだ。お前さんだって分かってるだろうによ」

「まあそうっすね。んじゃあ金貨2枚」

「へいたしかに」

 エルとフィラの接続器を開けて、内部の確認をする。

「ん、特に問題はなさそうだな。とりあえず油差しとくぜ」

「なーんだ大丈夫じゃないですかー金貨2枚も払っちゃいましたよ?」

「・・・ぼった?」

「うっせ先払いだって言ってんだろうが」

 先に金を渡してしまったのは仕方ないのでそれ以上は言わない。

 しかしなんだか先日の皇帝のことを思い出す。

 実際ムーンベリルの価値はあれでよかったのだろうか。

 スターベリルなど遠く及ばない価値にしろ、金貨3000枚、それが正しい価値だったんだろうか。

 前例のない魔石ならもっと高くしてもよかったのではないか。

 エルの頭はムーンベリルのことでいっぱいだった。

「・・・エル」

 目の前で破裂音が鳴った。

「うぉうわっ!?えっ!?何!?」

 フィラがエルの前で手を合わせている。

 どうやら猫騙しをされたようだ。

「・・・メンテナンスも、ハルカゼの適用も終わった」

「あ、ああ。すまん」

「・・・どうしたの」

「いや、なんでも」

「・・・むー」

 フィラがじろり、とエルの目を覗き込んだ。

「・・・なんでもないなら、いいけど」


「んじゃあとりあえず、さっきできたチップをセットして、使えるかどうか確認してみてくれ」

「はい!どうセットするんですか?」

「えーとこの接続器(コネクタ)を開けて、ここのくぼみに」

「分かりました!」

 新しいおもちゃを手に入れた子供のようにハルカゼの目が輝いている。

 今日手に入れた、白いチップと黒いチップ。

「使えるかなー使えるといいなー」

 とは言ったものの、2つともチップが光ることはなく、ハルカゼに適性がないことが分かった。

「・・・そうですよねえ、そんな簡単に見つかりませんよねえ・・・」

 ハルカゼがあからさまにしょんぼりした。

 さっきの目の輝きはどこへやら、完全に光を失っている。

「え、えっと、最初なんてそんなもんだよ。俺だってなかなか見つからなかったし」

「・・・エルは、(ゲート)が見つかるまで3か月はかかった」

「そうなんだよなあ・・・」

 適性がない限り、魔法は使えない。

 魔法がなければ、魔決闘にも出られない。

 魔法を使いたいのなら、買うか、自分で取るしかない。

「まあ、一応家に売れてないチップのストックもあるし、いったん帰るか」

「・・・うん。今日のやつも、売れるかも」

「ああ・・・、早く魔法が使いたいです・・・!」

「いやニホンにも魔法めいたものはあるだろ」

「こっちの魔法ですよー」

「・・・多分、見つからない」

「フィラさんひどっ!?」


「ストック引っ張り出してくる前に、今日出たチップの照合でもするか」

「・・・そうだね」

「あの、照合ってなんですか?」

「普通チップは適正がないとどんな魔法か確認できないんだけど、開発局のアーカイブから照合ができるんだよ。いつもは開発局でやるんだけど、やり忘れた」

 エルがてへ、と舌を出した。

「・・・エル、気持ち悪い」

「エルさん、それはないです」

「冷静だなお前ら」

 エルが仏頂面になった。

 ターミナルと呼ばれる機会から開発局にアクセスする。

「やっぱりここらへんだと回線が発達してないから遅いなあ・・・。多分エルグランディアの方が発達してるから接続も早いんだろうなあ・・・」

「・・・この辺だとターミナルは結構発達してるものだと思うんだけどね」

 正直な話、エルガンデはまだ発達してるとは言い難い。

 移動手段はほとんどが徒歩だ。

 町を全体的にみると、家も道も整備はされてはいるが、移動手段が全然発達していない。

 たまにバスが来るくらいだ。

 非常に高額だが。

 そんな中ターミナルにアクセスできる機械は、かなり発達していると言える。

「やっと繋がった。やっぱ1分もかかるのは長いよなあ・・・」

「・・・ちゃんと開発局で照合しようね」

「そうだな・・・」

 ターミナルに白いチップをセットし、照合結果を待つ。

「あー長い。俺が皇帝になったら絶対こういうの先に発達させるわ」

「・・・そうだね」

 照合結果が届いた。

光雨(レイン)?」

 光雨(レイン):対象の上から光属性の光線を撃ち降ろす。高密度で狭範囲、低密度で広範囲など、撃ち分けが可能。

「使いやすいタイプか」

「・・・これ、中級魔法みたい」

「強いんですか?」

「んー、決め手には欠けるけど、削りにはかなり使えるかな?」

 魔法換装体の破壊には、大きく分けて2つのパターンがある。

 1つは、頭部や胸部など、重要部位の破壊。

 もう1つは、換装体を削り、魔力を漏出させて換装体を保てなくすることによる破壊。

「・・・あ」

「どうした?何かあったか?」

「・・・光なら、リアンが使える」

「じゃあ売るか」

 エルの魔法を使い、リアンを呼び出す。

「・・・リアン、光属性の魔法、売る」

「なんで片言なの」

「来て」

「まあ分かったよ。1時間待って」

「分かった」

 リアンが来るのを待っている間、もう一つのチップも確認することにした。

 白いチップを取り外し、黒いチップをターミナルにセットする。

 画面には解析中という文字が出てきている。

「ニホンにはこういった技術はないので、こういうのはすごいと思います」

「あ、そうなんだ。勝手にすげー発達してるもんだと思ってた」

「ニホンで発達してるのは交通技術ですよー」

 画面はまだ解析中のまま止まっている。

「ニホンはどの家にも車というものがあります」

「クルマ?」

 聞いたことのない言葉だ。

 何をするものなんだろう。

「こちらでいう、バスを小型化したものです。4人乗りくらいの」

「えっ!?どの家にもバス!?」

「・・・!?」

 2人は驚きのあまりのけぞった。

 この国でバスに乗ろうとすると、初乗り金貨10枚、出発から一時間ごとに金貨が10枚上乗せされる。

 たとえば、エルガンデからエルグランディアまで6時間、つまり金貨が60枚飛ぶ。

 6時間の移動で1週間飲み食いできるほどの金が消えることになる。

 まだこの国ではバスがそれほどの高等技術だった。

「どの家にもあるってことは個人所有だよな・・・。ってことは安いのか・・・?」

「・・・どちらにしても、この国なんて足元にも及ばない」

「だよな・・・」

 ハルカゼがどんなすごいところから来たかわかった瞬間であった。

「あ、解析終わった」

「・・・どれどれ」

 識別名、石槍

 石槍(ランス):弾が当たった相手を5秒間石化

「ご・・・5秒」

「・・・びみょー」

 実際戦闘中の5秒は非常に大事だが、まず弾が当たらないと発動しない。

 完全に下位魔法だった。

「おーい、フィラ、来たよー」

 エルとフィラががっくりしている中、リアンがやってきた。

「んで、どんなやつよ?」

「・・・これ」

「ん、どれどれ・・・、へー、光雨(レイン)ね」

「・・・どう?」

「ふんふん、いいかもねこれ。私の閃光(レイザー)と違って、細い光線を撃つのね」

 リアンが好意的な反応を示す。

「エルさん、あの人は?」

「ああ、リアンっていって、フィラの友達だ」

「フィラさんのご友人でしたか」

 ハルカゼがフィラを見つめる。

「よっし、これは買いね!いくら?」

「・・・んー、エル」

「あーはいはい。そうだなー、中位魔法ってところだから、金貨30枚・・・、いや、特別に金貨25枚にしてやるよ」

「おおう、今日はエルがやさしい?じゃあこれ、25枚」

「毎度あり」

「なかなか使いやすそうな魔法だし、金貨25枚で買えたからラッキーだなー。・・・あれ?誰!?」

 リアンがエルの隣にいるハルカゼに今頃気づいた。

 いきなり大声を出されてハルカゼもかなり驚いている。

「こいつはハルカゼっていって、今俺たちの家でホームステイしてるんだ」

「は、ハルカゼ=ヤクモです。よろしくお願いします・・・」

「・・・何とハルカゼ、ジャ=パンの人」

「へージャ=パンの人なんだー!私はリアン=ナクス。よろしくね!」

「は、はい」

「あ、ちなみに1か月で帰るらしいからもう会うこともないかもな」

「学校に来ればいいんじゃないの?」

 リアンがそんな提案をした。

「・・・?」

 学校に、と言われてフィラが頭をひねった。

「1か月だけこっちの勉強をさせるのか?」

 何言ってんの、と言わんばかりにあきれた表情になるリアン。

「いやいや、どっちかと組ませて、非公式の魔決闘に出場させてあげれば?」

「ん、あー。そうだなー、確かにこっちの魔法が見たいとも言ってたし・・・ハルカゼ、どうする?」

「私、魔決闘に出られるんですか!?」

「い、いや、非公式な?」

「構いませんよ!私、この前フィラさんと戦いましたけど、もうちょっとこの国の魔法を見たいと思っていたんです!連れて行ってくれるんですか!?」

 ハルカゼのテンションが急に上がった。

 フィラと戦うときもハルカゼのテンションは上がっていた。

 もしかしたら、けっこう戦闘が好きなのかもしれない。

「・・・ハルカゼ、どっちと組むの?」

「うーん、そうですねえ・・・。この前フィラさんと戦ったので、次はエルさんと組んでエルさんの魔法が見てみたいです!」

「・・・あー」

「は、ハルカゼさん・・・?エルと組むのは・・・」

 エルと組む、とハルカゼが言った瞬間に、フィラとリアンが微妙な顔をした。

「え?どうしたんですか?」

「・・・エルの魔法は、かなり、チームワークが大事」

「そうなんですか?」

「まあ、そういうことなんだよね。エルの魔法って、けっこう特殊なやつだから」

「特殊・・・燃えてきました!エルさん、一緒にがんばりましょうね!」

「うえっ!?」

 目をキラキラさせて燃え上がるハルカゼ。

 やっぱり戦闘が好きなのかもしれない。

 そして逆境とかで燃えるタイプかもしれない。

 もしかしたらマゾかもしれない。

 瞬時に3つほど考えたエルだった。

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