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魔鉱皇国エルフィディス

どうも、長野原春です!2作目、思い切って書きました!読んでいただければ幸いです!宜しければ評価なども・・・。

「・・・はい、終了」 

 試合終了のゴングが響いた。

 それと同時に、大歓声が巻き起こる。

『試合終了ッ!2-0!優勝は・・・チームデュランダルッ!!』

 そして司会の大きな声も響く。

 決闘場に張られていた結界は消え、こちら側からも観客が見える。

 みんな一様に盛り上がっていた。

「さあ、賞金はいくらかな」

「・・・楽しみ」

 デュランダルと呼ばれた二人組は、金のことしか考えていなかった。




 惑星エアルス、その中でも最も広い陸地面積を誇る国、エルフィディス皇国。

 魔鉱と呼ばれる魔力を持った石により栄えた国である。

 そろそろ皇帝の世代交代がささやかれる中、現皇帝、エルフィンⅣ世はこう切り出した。

『一年後、このエルフィディス皇国全土の強者を集めた大魔法決闘で次期皇帝を決める』と。

 そして、優勝者にはそれ相応の賞金、地位、名誉が与えられると。

 今や国全体が一年後の大魔法決闘に向け盛り上がっている中、みなと同じように皇帝の座を狙う、二人の少年少女がいた。

「いやー、今日の相手も難しくなかったなー、おかげでしばらくは安泰だな。なぁ?フィラ」

 フィラと呼ばれた少女は安泰といった少年の方を向くと、ため息をついた。

「・・・そういってエルは仕事をおろそかにする。お金は使えばすぐなくなる」

「わ、分かってるって。ちゃんと仕事の方もやりますよ」

 エルと呼ばれた少年はフィラににらまれ、少しうろたえた。

「にしても、魔決闘のシステムって、ほんとに俺たち向きだよなー」

「・・・おかげであまり負けない」

「そのおかげで今日も金がたっぷりだぜ」

「・・・まだまだ。皇帝になって、お金を使いまくる。私たちの夢」

「もちろんだぜ、フィラ」

 なんとも最低な二人だった。


「ただいまー」

「お帰りなさい、エル!フィラちゃん!」

「おかえり。いやあすごいな!二人とも優勝か!」

「いやなに、いつものことだって」

 二人が家に帰ると、両親が笑顔で迎えた。

 ここはエル、エル=シュヴィの家である。

「フィラちゃんも、本当によく頑張ったわ」

「・・・私の魔法、強いから」

 エルの母の高いテンションにも淡々と返す、それがフィラだった。

「ああそうそう、エル、フィラちゃん。今日はたくさん魔鉱が取れたんだ。あとで開発局に行ってきてくれるかな?」

「ああ、分かった」

「・・・了解」

 この国には資源として魔鉱と呼ばれるものがある。

 文字通り魔力を宿した鉱石であり、開発をすることで魔法が扱えるチップとなる。

 そのチップを開発するのが、国にいくつか存在する魔導開発局。

 シュヴィ家は、そのチップを売ることで生計を立てていた。

「まあ、チップが強ければそれを使ってライバルが増えるんだけどな・・・」

「・・・大丈夫、私たちは強いから」

「だな」

 この世界の人々にはそれぞれ魔法適性があり、自分に合った魔法が生まれつき設定されている。

 一人一人がどんな魔法でも使えるというわけでなく、それぞれにこんな魔法が使えると決まっているのだ。

「俺たちには既に使えるチップがそろってるしな」

「・・・この仕事の特権」

「俺らに適性のある魔法で強いのがあったらいただくしな」

「・・・職権乱用?」

「ちゃうわ」

 高火力の魔法、汎用性の高い魔法、使用魔力の低い魔法は売れる。

 逆に、魔力適性のハードルが高いものなどはあまり売れない。

 取れる鉱石によって収入が大きく変わるのがこの仕事の難点だった。

「そういえば、エルは魔法チップ、四つ揃ったの?」

 エルの母親―――セレナが訊く。

「うーん、実はまだ二つでな・・・、いいのが見つかるといいんだけど・・・」

 エルフィディスでは月に一度魔決闘と呼ばれるイベントがあり、二人一組で参加し、勝負をする。

 使えるチップは最大四つ。

 それを駆使して闘うのだが、エルの魔法は少し特殊なものであり、チップがなかなかそろわないのが現状だった。

 魔法適性の型は二つ。一つは攻撃魔法者(アタッカー)。魔法者の四分の三はこの型である。

 その名の通り、攻撃魔法を操る。

 魔法適性のハードルは比較的低く、多彩な攻撃魔法を使える。

 そしてもう一つ、補助魔法者(サポーター)である。

 攻撃魔法は一切使えず、代わりに味方や敵に様々な魔法をかける者たちである。

 エルは補助魔法者であるが、どうも魔法適性のハードルが高く、使える魔法が限られていた。

「今日取れた魔鉱の中に、エルに合うものがあればいいじゃないか」

 エルの父親―――ゼルが笑った。

「そうだね。じゃあ行ってこようかな」

「・・・今日の賞金、置いていくね」

「ああ、行ってらっしゃい」

「気を付けていくのよ」

 エルとフィラは、仕事のために魔導開発局へ向かった。


「こちらは魔導開発局です。何か用がおありで?」

 看守が訊いてくる。

 仕事のために何度も出入りしているのでこの看守とも何度も顔を合わせてはいるが、一応の確認は毎回される。

「開発に来ました」

「お名前を」

「エル=シュヴィ」

「フィラ=アイゼン」

「エル=シュヴィ、フィラ=アイゼン両名、入場を許可します」

「ありがとう」

「いい魔法が開発できるといいですね」

 看守が笑顔で見送ってくれる。

「看守さんも買う?」

「私に合うものがあれば。あとで紹介してくださいね」

「・・・(ぐっ)」

 フィラが右手の親指を立てた。


「いやあようこそエルくんフィラさん。今日も開発かい?」

「ええそうです。今日もよろしくお願いします」

「・・・お願いします」

「ああやるとも。いいものができるといいね」

 開発室の担当さんが笑う。

「今日の魔鉱は七個か。結構多いね」

「ええ、父親が今日は大量だったと」

「珍しい魔鉱もあるね。白いものか。あ、赤いものもあるね」

 魔鉱の色によって魔法の属性が変わる。

 赤色はおそらく火。

 火の魔法に適性が高いフィラに使えるかもしれない。

「白って珍しいんですか?」

「ああ珍しいさ。こりゃ、期待できるかもね」

 別に、量が多いからいいものができるとは限らない。

 全部はずれの時もあるし、逆に一つしか取れなくてもいいものが出たりするときもある。

「さあ、やりますよ」

 魔鉱を魔水に入れ、圧力をかける。

 すると、魔鉱が光りだした。

 ここからさらに圧力をかけ、小さいチップにしていく。

 発光がおさまると、チップが七つできた。

「じゃあ、一つ一つ確認していきますか」

「お願いします」

 緑色のチップは三つ。

 これはエルにもフィラにも適正はないようだ。

 回復魔法、植物を育てる魔法二つ。

 貴重な回復魔法だが、補助魔法者のエルにも使えないらしい。

「でも、回復魔法は売れそうだな」

「・・・いいね」

「ああ、それなら明日マーケットがあるよね。売ったり、交換するのがいいかもね」

「え、明日マーケットがあるんですか」

 マーケット、三か月に一度皇帝の城がある町、エルグランディアで行われるイベントだ。

 チップの販売はもちろん、生活品や特産品も販売される。

 同意があれば交換もできる。

 いいものが手に入るチャンスのイベントである。

「んじゃあ、明日エルグランディアに行くか」

「・・・遠いから、今日の夜出発しないと」

「その必要はないぞ。俺の魔法を忘れたか?」

「・・・そうだった」

 エルの魔法は、ワープ。

 ゲートを開き、指定した場所に移動できたり、させたりする魔法。

 大きなゲートは人が移動させる。

 小さなホールは物や、魔法などを移動させることができる。

「次は赤いチップだね」

「・・・あ、適正」

 適正チップは、装備すると光る。

 火の魔法を得意とするフィラに適性があるから、火の魔法なんだろう。

「どんなもの?」

「・・・(トラップ)?」

 (トラップ):設置魔法。相手が踏む、通るなどした時に大爆発を起こす。

「使えそう?」

「・・・かもしれない」

「じゃあとっておくか」

「・・・そうする」

 適性の魔法が手に入り、フィラが満足げだ。

「この黒いチップは?」

「・・・ああ、これ、俺適性だわ」

「・・・やった」

「えーと内容は・・・、結界(エリア)?」

 結界(エリア):指定範囲内に結界を張り、敵の動きを止める。

「使えるんじゃねこれ」

「・・・増えたね。組み合わせも考えられる」

 魔法の種類が一つ増えるだけで、攻撃の組み合わせは格段に増える。

 それに、この結界(エリア)は、魔決闘のシステム上、非常に有効なものである。

「・・・おおお!!」

 担当さんがいきなり大きな声を出した。

「どうしたんですか」

「やったね君たち!いいものが見つかったじゃないか?」

 何やら担当は興奮しているようだ。

「・・・何ができたの」

「大魔法だよ!」

 大魔法。

 それは必殺技ともいうべき、破壊の一撃。

 発動まで時間がかかるものや、消費魔力が高いものなどがあるが、それに代えてもお釣りがくるほどのものである。

「・・・売れる」

「いやまず使えるかどうか確認しなさいよ」

 フィラが装備すると、チップが白く輝いた。

「・・・まじですか」

 フィラが軽く驚く。

 大魔法は見つかりづらいものであり、売るとなると非常に高価なものである。

 それくらいの価値があるものなのである。

 どうやらフィラにはその大魔法の適性があるらしい。

「ど、どんな魔法なんだ?」

「・・・星撃(スタアメイカー)

 星撃(スタアメイカー):上空へ光を打ち出し、大火力の一撃を放つ光属性の大魔法。派生可能。

 派生とは、チップ同士を合成して新たなチップを作り出すことだ。

 属性を変更することもできるし、単純に威力を高めることもできる。

「・・・必要チップ、劫火(ブラスト)。派生先、煉撃(マグナメイカー)

「火属性の大魔法・・・!」

 基本的に、適性に合う属性の方が威力が上がる。

 そして、適性に合う属性の方が消費魔力も減る。

 光属性の星撃も相当な威力だが、火属性の煉撃にすることができれば、火力はぐんと上がる。

「・・・これ、使う」

「たのしくなりそうだな」

「・・・うん」

「とりあえず、余ったチップは明日のマーケットに売りに行くか」

「・・・行こう、エルグランディアに」

「よかったね、エルくん、フィラさん」

 担当の人がにっこり笑う。

 大幅な戦力アップができた。

 これでもっと勝ちやすくなる。

 ということは、もっとお金が稼ぎやすくなるということだ。

 しかしまずは、勝つことよりも売ることが優先だ。

 帰ってから準備をしよう。

「・・・看守さんに合う魔法、なかった」


「へえ、大魔法が使えるようになったのか!」

「おめでとう、フィラちゃん!」

「・・・どうも」

 家に帰ると、夕飯ができていた。

 そして、今日の戦果の話題で持ちきりだった。

「いやあ、俺もセレナと組んでた時は、大魔法を求めてよく掘ってたんだがなあ。結局俺に合うものは見つからなかったんだよなあ」

「私が大魔法を持っていたものね」

「そうなんだよ!それが羨ましくてさあ・・・」

 ゼルとセレナが昔の話をし始めた。

「私たち、魔決闘では何度か優勝してるのよ」

「ああそうだ。2人とも攻撃魔法者だが、連携がすごかったんだよなあ」

 ゼルが自分たちをほめ始めた。

「昔使ってたチップはもう売っちまったが・・・、結構強かったんだぞー?」

 よくよく見てみれば、ゼルが飲んでいるのはお酒だった。

「あらあら、大魔法のチップだけは残ってるわよ?」

「なにぃ!?」

「どうも売る気になれなくてねー。しまってあるのよ」

「ちょ、ちょっと出して来い!もしかしたら使えるかもしれないんだぞ!」

 ゼルが途端に興奮し始めた。

 大魔法というものは、こんなにも高ぶらせるものらしい。

「これなんだけど・・・、フィラちゃん、使える?」

「・・・貸して」

 接続器(コネクタ)にチップをセットすると―――光らなかった。

「・・・使えない」

 フィラが少し肩を落とした。

 どうやらセレナの大魔法はフィラに適性はないらしい。

「どんな魔法なの?」

「んー、そうだ、今から練習場に行ってみよう。あなたたちに見せてあげるわ」

 そういって、セレナが笑った。

 ・・・いつもの柔らかな笑顔とは違う、凶暴な笑みだった。


「夜でも練習場は結構人がいるなあ」

「・・・みんな自分たちの戦いを研究してる」

 エルたちの住む町―――エルガンデには、大きな練習場がある。

 それぞれ部屋が独立しており、結界を張ることで自分たちの仮想練習場が作れる。

「じゃあ、あなたたちに大魔法を撃つから、戦闘体に切り替えてね」

「了解」

「・・・了解」

『魔法換装体、オン』

 体が作り変えられ、戦闘体に切り替わった。

 魔決闘など、戦うときにはこの換装体で戦う。

 勝負のルールは簡単、魔法換装体を壊せば勝ちである。

「じゃあ、やるわね」

 そういって、セレナは膝をつき、祈り始めた。

 10秒ほど祈ると、セレナは小さくつぶやく。

「・・・虐殺の刺(カルネイジソーン)

 瞬間、エルたちの周り広範囲に結界が発生し、

 ―――二人の体を、下から無数の闇の槍が貫いた。


「どう?強いでしょ?」

「大魔法ってこんなに威力あるのかよ・・・」

「・・・魔法の名前怖い」

「ふふーん。でもデメリットもあるのよ?」

「デメリット?威力高いし、割とすぐ使えるから強くていいやつなんじゃないの?」

「一発しか撃てないわ」

 つまり、それだけ消費魔力が大きいということだ。

 ほかの魔法も考えながら使わなくてはならない。

 たしかに、デメリットだった。

「せっかく練習場にいるんだし、フィラちゃん、試し撃ちしてみたら?」

「・・・やってみたい」

 フィラの希望で、星撃の試し撃ちをすることになった。

 魔法換装体のダミー相手に大魔法。

 少々魔力はもったいないが、二人には今好奇心しかなかった。

『仮想練習開始』

 好奇心で目がキラキラしている二人は、もう星撃のことしか頭になかった。

「・・・星撃(スタアメイカー)

 フィラがそういうと、一条の光が空へ飛んで行った。

「・・・」

「・・・」

 黙っていても何も起こらない。

(こ、これはなんだ・・・。なんなんだ・・・。何も起こらないぞ・・・。)

(・・・発動に時間がかかるのかな。)

 早く星撃が見たい二人はうずうずしていた。

 すると。

「なんだあれ」

「・・・?」

 空から一筋の光が落ちてくる。

 その光はこちらにだんだん近づいてきた。

 そして、徐々に速度を増し―――

 ダミーめがけて、落ちてきた。

「・・・おおう」

 びっくりしたフィラが変な声を出した。

「こ、これは・・・」

 ダミーは完全に壊れ、ダミーを形成していた魔力が離散していく。

「・・・星」

 ダミーめがけて落ちてきたのは、まごう事なき、星。

 絵本とかおとぎ話とかに出てくるような、キレイな星の形をしていた。

「あらあら、ものすごい威力ねえ」

 セレナが乾いた笑みを浮かべた。

 どうやらとんでもない魔法が発掘されてしまったらしい。

「しかし、発動に結構時間がかかるなー」

「・・・撃ってからの立ち回りが大事」

 実際、ものすごい速さで落ちてくるのでおそらく避けられるということはないが、撃ってからやられないようにすることが大切だった。

 魔決闘では、魔法換装体が破壊されてしまうと使っていた魔法も消滅する。

 つまり、自信を犠牲にした”置き土産”はできないのであった。

「というか、この威力なら煉撃(マグナメイカー)はどうなるんだ」

「・・・やばい」

 フィラの目はいつもと違いキラキラと輝いていた。

 返事は淡々としているが、なかなか好奇心旺盛なフィラだった。

「・・・早く、劫火(ブラスト)を」

「いや、そんな簡単に見つかるもんでもないって」

「・・・早く。このままだと消費魔力が少し大きい」

 星撃は威力が大きいが、発動時間が長いため、消費魔力はあまり大きくない。

 フィラは魔法適性が高く、自身の魔力も割と高いため、その気になれば星撃を乱発することも可能だろう。

 ・・・つまりは、より威力の強化された煉撃が使いたいだけである。

「親父たちに賭けるか、明日のマーケットで持ってる人が交換してくれるかだな」

 ちなみに、劫火自体火属性の上位魔法であり、単体でも十分に使える。

「明日、チップを買えるかもしれないし、金も持っていくか」

「・・・賞金」

「そんなに使わねーよ」

 自分のために優勝賞金を全部つぎ込む勢いのフィラだった。


「・・・エル。マーケット。起きて」

「何でこんな早く・・・」

「・・・場所取り、大事」

「何で片言なんですかねえ」

「・・・私も、眠い」

 エルが起こされたのは朝の四時。

 起きるにはまだ早い時間だった。

「・・・まだ売れてない貯めてあるチップもある。売りたいし交換したい」

「できれば、魔石も売っておきたいな」

「・・・うん」

 魔石、とは魔力を宿した宝石である。

 チップにして魔法を使うことはできないが、有している魔力により、対応した色に輝く。

 芸術品としての価値は高い。

 さらに、加工して装飾品にすることもできる。

 加工職人も買いに来るものだった。

「じゃあ、行くか」

「・・・よろしく」

 コネクタを起動させ、エルが一言。

(ゲート)!」

 瞬間、人間大の大きさの穴が空間に開いた。

「・・・時間、かかる?」

「んー、エルグランディアまでは結構遠いからなー。ちょっと時間かかるかも」

「・・・ワープ空間の中、変な感じ」

「文句言うな」

 空間に開いた穴。

 その内部は赤い空間だった。

 少し先に光が見え、そこが出口だと分かる。

「・・・っ」

 フィラが少し顔をゆがめた。

「大丈夫か?」

「・・・少し耳、痛い」

 無理やり空間内を移動しているため、長時間の移動は少し体に負担がかかる。

 エルはこれを繰り返しているが為に慣れてはいるのだが。

「そろそろ出るぞ」

「・・・うん」

 ワープを出た先には、城下町の景色が広がっていた。

 エルガンデよりも発達した町。

 右を見ると、辺りを水で囲まれたとても大きな宮殿、エルフィンド城があった。

 城を囲む水は魔水であり、様々なものに使われる。

 城は、その魔水が湧き出る湖の中に建っていた。

「・・・あれが、一年後に私たちがいる場所」

「ああそうだな。あそこに行くには大魔法決闘で優勝しなきゃな」

「・・・もちろん。私たちは最強」

「そうだよな。俺たちが皇帝になって、そんで・・・」

「「金に囲まれた生活をする」」

 見事に頭が金で支配された二人だった。


 マーケットはエルフィディス皇国全土から商人などが来るため、非常に賑わっていた。

「どうぞー!ただいまチップ、魔石を販売中です!ご希望の方は、交換もどうぞ!」

「・・・どうぞー」

 フィラがエルに続き、客を呼ぶ。

 ・・・しかし、あまり声も大きくないし、小柄なうえにローブを着込んだフィラは、売り子として役に立ってはいないようだった。

「失礼、チップを見せていただけませんかな?」

 なんだか、かっちりした男性が話しかけてきた。

「適性のあるチップはございますか?」

「一度、装備させてもらえないかな」

「分かりました。では、預け金を」

「・・・フム」

 まず預け金を受け取ってから、チップを貸す。

 無料でチップを装備すると、盗まれる可能性があるからだ。

 エルなら(ゲート)を使って追いかけたり連れ戻したりもできるが・・・、それだけのために魔力を使うことは、できれば避けたいことだった。

「・・・残念ながら、適性はないようだ。しかし、私の連れには回復魔法の適性がある。それがほしいのだが、いくらかな」

「そうですねー。あ、交換とかはできますか?」

「フム、交換・・・、私が持っているのは、このチップしかないが・・・、このチップはできれば渡したくないのでね」

 男性が見せたチップは、赤いチップ。

「もしこれを売るとすれば・・・、金貨200枚か、白金貨50枚、といったところかな」

 赤いチップはフィラに適性がある。

 装備してみると、チップは光り出した。

 そして、出てきた魔法名は・・・。

「・・・劫火(ブラスト)

「えっ!」

 まごう事なき、劫火だった。

「か、金は・・・」

 少し使うと言ってエルたち持ってきておいた金。

 ・・・金貨100枚、白金貨10枚。

 男性の条件には適わなかった。

「・・・フム、劫火がほしいのですかな?」

「・・・派生に、必要」

「そうですか。しかし、この値段以外で渡すつもりはないのでね」

「・・・そう」

 フィラがしょんぼりした。

「回復の魔法は、金貨50枚でどうです?」

「・・・フム、それなら買いだ。もらっていくね」

「毎度あり」

 金貨50枚、これなら1週間は余裕だ。

 実際にはエルの家はなかなかの金持ちではあるが・・・金への欲望が尽きないのが、この二人だった。

「・・・売ってくれてもよかったのに、あのおじさんケチ」

「仕方ないだろ?劫火って結構上位魔法なんだから」

「・・・こうなったら私が身売りしてでも」

「何言ってやがる」

「・・・冗談」

 さすがに、フィラもそこまでして手に入れようとは思っていないようだった。


「どうぞー!魔石もありますよー!交換希望の方は言って下さーい!」

「・・・どうぞー」

 やはりフィラは売り子としては役に立っていなかった。

「・・・私がもっとないすばでぃーなら人寄ってきたかも?」

 年齢より幼い見た目のフィラには悩みどころであった。

「まあ、大丈夫だよ、来る人は来るから」

「・・・ん」

 エルがそういった通り、一人の女性が近づいてきた。

 ・・・かなり高貴な身なりの女性である。

「魔石、売っているんでしょう?少し見せてくださいな」

「どうぞ」

 持ってきた魔石を見せると、女性の目が輝いた。

「まあ!見事な赤い魔石ですこと!・・・あら、この黒い魔石はなんですの?」

「・・・お目が高い」

 女性が手に取った黒い魔石。

 エルたちが持ってきた中で、最も高価なものである。

「おほほ、これでも私、魔石を見る目には長けておりましてよ?」

「その魔石はスターベリル。光りにかざしてみてください」

「こうかしら・・・すごいわ!透き通った黒の中に青い光が!」

「角度を変えてみてください」

「角度・・・?今度は赤い光に!」

 スターベリルは、光の強さや角度、見る方向によって、さまざまな輝きを放つ魔石。

 数ある魔石の中でも、特に高価なものである。

 エルが持ってきたものはこぶし大の塊であるが、ゼルが発掘し、家に置いてあるものは頭大の大きさになる。

 非常に貴重な塊である。

「すごい!これは買いだわ!」

「そうですか。お代は・・・」

「これ!持って行って!感謝するわね!」

 女性は金貨500枚、白金貨30枚、ついでに銀貨100枚を置いて行った。

「・・・どうしようかフィラ。あの大きさでも、金貨450枚くらいなんだけど。」

「・・・ついでにいろいろ置いてってくれた。これはごちそうさま」

「・・・それでいいのか」

「・・・大丈夫」

 金に目はないが、定価以上の金を置かれるとうろたえる、小心者のエルだった。


 結局エルたちが持ってきたチップと魔石はほとんど売れ、それなりの額になった。

 ・・・収入の三分の一はスターベリルによるものだったが。

「まさか大魔法をほしがる人がいるとはなあ」

「・・・星撃は渡さない」

 商談の途中、男がいきなりフィラの持っている星撃と交換してほしいと言い出した。

 もちろんフィラは丁重にお断りしたが、男の諦めが悪かった。

 結局は強硬手段に出てしまったが。

「・・・エルの魔法、日常でも便利」

「ワープで男をどっかに飛ばしただけだけどな」

「・・・便利」

 フィラは人見知りをするタイプなので、グイグイ来る人は好きじゃない。

 何度か近寄ってきた男に怯えエルの後ろに隠れたりもした。

 まあ実際、商談中はフィラはほとんどしゃべらなかったし、なんか言ったとしても一言だけだったのだが。

「・・・エル、頼りにしてる」

「商談とちょっとした強硬手段しかできねーよ」

「・・・魔決闘でも」

「それは二人一組だからな。それに、俺は補助魔法者だからフィラがいないと戦えないし」

「・・・今度私わざと負けてみる?」

「今戦えないと言いましたよね」

 微妙に悪い笑顔を浮かべたフィラだった。

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