「ペンダントと夫婦」2
「ペンダントと夫婦」2
ガタロとホミが、口喧嘩を起こしてから翌日。
ガタロはいつものように朝早くから、病院内で清掃カートを押しては、清掃担当のブロックである入院室廊下を掃除機であっという間にゴミや塵埃などのゴミを吸い取り終えると、右端から各大部屋、個人の入院室を掃除機、ほうき、雑巾、ハンディモップ等で綺麗にして行き、ものの数時間でほぼすべての入院室を清掃し終えると残るは左端、例のホミさんが入院する部屋だけどなりました。
そしてガタロは清掃カートを押しながら、
「おはようございます」
昨日の件がありながらも平静を装うかのように、いつもと同じ挨拶をしながらホミさんの入院室へ入ると、
「今日こそは必ず見つけ出してください、私の大事な、大事な、大事~~~なペンダント」
ガタロが来るのを今か今かとベッドの上から上半身を出しては、まじまじと見つめるホミさんの姿がそこにはありました。
ですがその視線に対しても、昨日の件があってなのでしょう。ガタロはホミさんの言葉に何の反応もすることなく、無言で他の入院室同様、部屋に入るとすぐさま掃除機を取り出して床掃除を始めると、あっという間に床のごみはすべて取り除かれ、次いでハンディモップを手に取り棚の上なども綺麗にして行きます。
「ペンダント、ペンダントは落ちていないか。私のペンダントを返してちょうだい、今すぐ。今すぐにっ」
清掃するガタロに向かって、執拗にペンダントを返せと叫ぶホミさん。それでもガタロはホミさんに耳を貸すどころか、言葉や視線の一つも返すことなく淡々と清掃し続けます。
そして数分後。
「これでこの部屋の清掃は終わりです。失礼しました」
一礼して入院室のドアを開けて出ようとするガタロの背中には、ホミさんのガタロに対する暴言だけが飛び交っていたのでした。
その翌日、さらには翌々日も、ガタロは朝早くから入院室前の廊下、及び各入院室を掃除してから最後、ホミさんの入院室に入っては清掃を始める度に、
「いい加減にペンダントを返してください」
「ペンダントの居場所が分からないなら、今すぐ見つけ出しなさい」
「この役立たず」
彼女の口からはこれでもかと吐き出される、辛辣な被害妄想者の如し苦言の数々。
それでもガタロは、ホミさんに対して入室する際の、
「おはようございます」
部屋から出る際の、
「清掃終わりました」
以外の言葉は全く口には出さず、淡々と掃除をしては後を去って行くのでした。
それからさらに、一か月が経過した頃。
この日の天気は、ガタロがホミさんにペンダントを探してほしいと初めて頼まれた時と同様、白く厚い雲が病院と街の上を覆い尽くし、空からは微かに粉雪が舞い散る、寒さが厳しい朝。
いつもの髪型と服装で、いつものように病院の廊下を清掃し、いつものように病院の入院室掃除を終えて、そしていつものようにホミさんのいる入院室へ入ると、この日もガタロの耳に飛び込んできたのは彼女の、
「ペンダント」
それに続く、ガタロに対する罵声の数々でした。
陰惨な状況下であるにも関わらず、ガタロにとってホミさんはすでに赤の他人状態なのでしょう。罵声がいくら聞こえようとも反応はなく、ただ目の前のゴミや汚れを取ることに集中しております。
そしていつものように、十分とかからずに清掃を終えたガタロは一礼と、
「清掃終わりました」
いつもの言葉を口にしようとした、その時でした。
ガタロの背後から子供がぐずるかのような声が聞こえ、その声に反応して背後へ振り向くと、目に飛び込んできたのは——、
「なんでなのっ。なんでよっ。なんでペンダントは私の元へ帰ってこないの。なんで、なんでっ。私は何か悪いことでもしたの? 私は何も、何もしていないはずなのに、なんで……」
顔を両手で覆い、指の隙間からは涙は零れ落ちる、号泣するホミさんの姿でした。
そして彼女の手から零れ落ちてくるのは、涙だけでなく、
「あなた……あなた…………」
「あなた」、という、誰か人の名前も一緒に。
だがガタロは泣き崩れた彼女に対して無表情のまま、何も声をかけることなく彼女に背を向けて入院室を後にしたのでした。
ホミさんがガタロの目の前で泣き崩れた翌日。
もはや毎日の日課となっていた、入院室前廊下と左端以外すべての入院室を掃除したガタロは、ホミさんのいる入院室へ朝の挨拶と共に入ると、この日はガタロの耳にいつもは聞こえてくるはずのガタロに対するホミさんの声は一切聞こえてこず、部屋の中は静寂に包まれていました。
入院室の中には、清掃カートから掃除機を取りだして清掃を始めるガタロ。そしてベッドのシーツを体にかぶせた状態で丸くなっているホミさん。
ガタロも、シーツにくるまり寝た状態のホミさんも無言のためか、入院室の中には掃除機のごみを吸い取る音と、棚をハンディモップや雑巾で拭く音しか聞こえてきません。
そして数分後、部屋の中に響き渡ったのはガタロが部屋を出る際にする挨拶のみでした。
それからというもの。
ガタロが左端の入院室に入るたび目につくのは、無言でベッドのシーツに包まり続け声を発するどころか体を少しも動かさないホミさんの姿。
その横で何も言わずに、黙々と清掃をこなすガタロ。
二人の間にはなんと言い難い微妙な空気と、それに侵された寂しそうな世界だけが流れてゆきますが、入院室の窓から見える世界はホミさんとガタロの間に流れる世界とは全く違い、外の世界では、いつの間にか季節が冬から春へと移り変わっておりました。
膝丈ほどまで積もっていた病院前の雪の下からは、ふきのとうが芽生え始めると、それまで毎日のように覆われていた厚い雲はどこへやら。
日中は連日のように、太陽の光が病院内を差し込むようになっておりました。
そして季節は完全に移り変わった。病院前の雪はすべて消えると病院前の道路からは、辺り一面がふきのとうの花に包まれた春の朝。
入院室前の廊下、および左端の部屋を残しすべての入院室の清掃を終えたガタロは、ホミさんの入院室へ「およはようございます」、の挨拶で入って行くと、
なんということでしょう。
「おはようございます、ガタロさん」
自身が座る、ベッドの横にある窓から差し込む光に照らされ、その陽ざしと同じくらい温かい笑みと眼差しであいさつを返す、ホミさんの姿がそこにはありました。
そんな彼女の初めて見るかもしれぬ笑みに、ガタロは少し驚いたのでしょう。
一瞬清掃カートを押す手が止まると、
「今までガタロさんには辛辣な言葉ばかりかけてしまい、申し訳ございませんでした」
なんとホミさんは、上半身だけベッドから出した状態でガタロに対して頭を下げると、今までのガタロに対して暴言を吐いたことに対して謝罪の言葉を述べたのでした。
人が代わったかのようホミさんの態度を前にしても、ガタロは驚くどころか何も表情を変えることなく清掃を始めると、もはや慣れた手つきでほんの数分とかからずに清掃を終わらせ、清掃のために使用したすべての道具をカートにしまい込み、部屋を後にしようとしますが、
「ガタロさん、ちょっと待ってください。貴方に最後、一つだけ話したいことがあります」
ホミさんに対して背を向くガタロはドアを半分ほど開けた状態で足を止めると、ガタロの耳に聞こえてきたのは——、
「私は昨日、夢を見ました。とても懐かしい夢でした。そして私は夢の中で今は亡き、私の夫にあったのです」
ホミさんが見た夢の話。そしてホミさんはその夢の内容をガタロに聞かれたわけでもなく、一人話し始めます。
「私がこの病院に入院する何年も昔に亡くなった私の夫は、夢の中で私にこう告げました。
もうこの世には存在しない私に対して、ホミ、お前はこれ以上振り回されえなくてもいい。自分の思うがままに生き、それを全うすればいい——と」
立ち止まり背を向けたままのガタロに、ホミさんは話を続けます。
「そして私は彼が言ったその言葉でやっと決意することができました。ペンダントの中にいる、私にとって、この世で唯一の家族であった夫の分まで長生きするのはやめよう——と。それでね、ガタロさん」
話の最中、自分の名を呼んだホミさんにガタロは、
「……はい」
とだけ返事を返すと、
「それでね、私は思ったの。もうペンダントあってもなくても自分にとってこの先何も変わることはないと。昨日までの私は形見として肌身離さず持っていた、ペンダントの中に写る夫だけが私の唯一の生きがいであった。それは、ペンダントがないことでは夫の分まで生きられない。いいえ、生きる意味すらない。そう信じて今日まで生きてきましたが、それは大きな間違いであったのです。死んだ人にどんなに思いめぐらせようとも、帰ってはこない。だからもうペンダントはあろうがなかろうが関係ないのです。例え見つかったとしても、見つからなくても私はそれによって自分が幸せになることも不幸になることもないのですから」
ガタロはホミさんがペンダントを見つけることに、あれほどまで執着していたこと。そしてその執着を自ら手放したことを聞くと、「そうですか」、と一言。
「だから、嫌な思いをさせてしまって本当にごめんなさい」
もう一度ベッドの上から頭を下げて謝罪するホミさん。
そして——、
「だから貴方も、誰かのためでなく、貴方自身のためにこれから先の人生を生きてください」
その言葉を聞いたガタロは何も言わず、彼女の前から清掃道具の入ったカートを押して入院室を後にすると、
それからわずか数日後。ホミさんは安らかに天国へと旅立っていったのでした。
ホミさんが亡くなってから三日後。
つぼみの桜並木は温かい春の日差しに光輝くと、今まさにその花を開化させようとする春の季節。とある病院の入院室前廊下にて。
五十メートル以上はありましょうか、入院室が並ぶ長廊下を、白く長い髪の毛をポニーテールのように後頭部へと束ねる、全身黒ずくめの清掃服を着た男が、掃除機を巧みに操りながら廊下の端から端までを清掃して行きます。
そしてわずか二、三十分ほどで廊下に落ちるすべてのゴミを吸い終えると、今度は廊下の右端にある入院室から順に、
「おはようございます。今からここの入院室清掃を開始しますので、ご協力お願いします」
そう言い、掃除機やほうきにちりとり雑巾などが入った清掃道具入れのカートを押して入りますと、男はまたも、
「おはようございます」
入院する患者たちに声をかけながら、彼らの足元を器用にかわして行き、清掃機の電源をコンセントにつなぎ掃除機をかけていきます。
手早く掃除機で、入院室の床に散らばる大小様々なゴミを吸い終えると今度は、ベッドの奥など掃除機が入りきらない所は細長いほうきやちりとりで掃き取り、テレビや窓際などの汚れはハンディモップや綺麗な雑巾などで軽く拭きり、一部屋をものの数分足らずで次々と清掃していきました。
そして男は、今いる入院室の清掃を終えると、
「迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。只今清掃終わりました」
そう言いながら一礼。清掃道具の入ったカートを押してすぐさま部屋を出ては、清掃を終えた入院室から右隣の入院室へと順に清掃して行くのでした。
そんなこんなで男は、順に各入院室を右から一つずつ掃除して行き、廊下に並ぶ入院室の右半分を終えると、今度は左半分の入院室掃除へと移ります。
先ほどの右半分までは大人数が収容できる入院室で、左半分からは個人の入院室が男を待っており、そこでも男は大部屋の入院室と同様に、
「おはようございます」
大きな声で患者たちにあいさつしながら入室しますと、すぐさま清掃を開始したのでした。
清掃の仕方も大部屋と同じく、カートに入った各種掃除道具を駆使しては、部屋の隅から隅まで、素早く丁寧に埃や垢を取り除き、わずか数分足らずで一部屋の清掃を終えて行きます。
一部屋終えたら一礼。それから隣の部屋、とやはり大部屋の時と同じよう順に清掃して行くとついに、廊下に並ぶ入院室で一番左端にある最後の部屋までたどり着いたのでした。
男は何も言わず、扉を開けて中へと入って行くと、目に映ったのは——、
入院患者のいない、空の病室でした。
男は誰もいない病室を前に、他の病室とは違い何もあいさつすることなくカートから清掃道具を取り出すと、床は掃除機とほうきで、棚やテレビなどはハンディモップと雑巾で綺麗に清掃し、それらを終えるとすべての清掃道具をカートの中にしまい入れます。
それからベッドの前に向かい、自らが着ている黒い清掃服の胸ポケットから青いペンダントを取りだすと、それをベッドの上に乗せて、
「これでいいのか、オハシのじいさん——、じゃあないな。今はペンダントだな」
ペンダントに向かい、男は心の中からそう呼びかけると、
「迷惑な願いを押し付けてしまって申し訳なかった、ガタロ」
ペンダントからは「ガタロ」と呼んだ男の心の中へ、少しやつれたかのような声でそう返事したのでした。
「「嘘をつくのはあまり好きでなかったし、色々といちゃもん付けられるのはかなり嫌だったが。アンタがまだ生前の頃、俺は大きな借りを作っていたわけだし。偶然の偶然とはいえ、何がなんでも借りは返したかったからな」
「別にあの時の私はお前さんに借りを作ったつもりはなかったが。むしろ出まかせの嘘をつかせてホミに文句まで言われたのにも関わらず、私のわがままを聞き入れてくれて。むしろ返された借りの方が大きすぎるほどだ。ほんと、申し訳ない」
「いやいや、それはこっちのセリフだよ。借りを返すにはまだ不十分なくらいだ」
ガタロとペンダントは過去にどこかで出会っていたのでしょうか。まるで職場の上司と後輩のような口調で共に話をしていると、
「それよか、なんで俺がアンタをベッド下から拾い上げた時、アンタの嫁の前から姿を隠せと言ったんだ?」
心の中からペンダントに向かって質問すると、ペンダントはゆっくりと落ち着いた声で、それでいてどこか悲しげな声で、ガタロの心の中へと話し始めたのです。
「私の妻、ホミはだな。今から十年以上前に私が事故で亡くなった時、私の魂が宿った形見のペンダントをいつも肌身離さず持っていては、短命で死んでしまった私の分も生きると誓ったのだよ。それからは私が生前の時以上に働き、時に時間を見つけては、私が好きだった旅行。いろんな地域や国へ出向いては、そこで生前と変わらぬ思いを共にしたのだよ。まぁ、ホミはお前さんと違って物の声なんぞ聞こえんから、言葉をかわすことこそできなかったが。それでもいつもホミは私と共にあった」
「それで、その後どうなったんだ?」
「今からちょうど一年半前か。ホミもよる年には勝てなかったのか、ある重い病気にかかってしまってな。余命半年と宣告されたのだよ」
「それでこの病院に入院していたわけか」
「そういうことだな。だがホミは、そんな重病にかかってもなお生きようとした。余命半年なのに、それからさらに一年とつい最近まで生きることができたのだが、ガタロよ。それは何でだと思う」
ペンダントはガタロに問いかけると、
「それは、ペンダントに映るアンタの分まで生きたい。もっと長生きしてアンタにいろんな景色を見させてやりたい、たったそれだけの理由だろう」
「ああその通りだ。ホミは私が事故にさえ合わなければ生きられたであろう分まで生きようとした。そんな強い意思で、病気と闘ったのだが……」
苦しそうな声で言葉を詰まらせてしまうペンダントに、
「それならなぜ、病床から動けないほどの病気にかかっていたアンタの妻が困るようなことを。俺が嘘をついてペンダントを隠したままの時、アンタの妻はすごく混乱していたじゃないか。あの時、素直にペンダントを渡していればもっと長生きできたんじゃねえのか。アンタの分も」
ガタロはなぜそのようなお願いしたのかを聞くと、ペンダントはゆったりとした口調で語るのは、
「私はだな。ホミに最後の最後だけは、自分のために生きてほしかった。今は亡き私のためではない。今を生きる自分のために人生の最期を全うし、そして死んで欲しかった。それこそが、私がホミにしてあげられる最後の役目だったのだよ。私が死んでからは、どんなに不幸な境遇に会おうとも、それによってどんな苦しい思いをしてでも私のためだけに生きてきたのなら、最後の最後くらい私のことを嫌って最後の時を迎えてほしかった。それこそが、自分という身でこの世に生まれそして自分として死ぬ。自分自身にとって、一番悔いのない最後だからだ」
ペンダントの思いに、
「アンタらしい、実際に死んだからこそ言えるセリフだな」
ガタロは冗談交じりに鼻で笑いながら言うと、
「はははっ、まさしくその通り。死ぬ時は人間、たった一人だ」
ペンダントも、ガタロの心の中に対して思わず笑い声をあげてしまいました。
ですが、その笑い声もすぐに消えて、
「だがこれで私の、この世での役目は終わりだ。もうこの世に残ってまで、私がすべきことはなくなった。だから、お主がいつも掃除で扱うゴミと同じように——」
ペンダントは、ガタロに「私を処分してほしい」そう告げようとするも、
ガタロはその言葉を聞く前に、ベッドの上に置かれたペンダントを拾い握りしめると、
「まだだ。まだアンタには最後の大仕事が残っているぜ」
清掃道具の入ったカートを入院室に置いきっぱなしにして、ペンダントをその手に握りしめたまま急いで入院室を後にすると、急ぎ足で病院内を駆け巡りならが「ある場所」、を目指します。
すると、「ある場所」を目指す途中でした。
「すいません、そこの看護師さん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」
尋ねた相手の看護師はなんと、
「あら、貴方はこの前の。清掃員さん」
ホミさんがペンダントを失くし騒いでいた時に出会った、看護師なのでした。
その看護師に対して、ガタロは手のひらに握っていたペンダントを見せて、
「実は例のホミさんが亡くなった後に、このペンダントを病室で見つけたのですが。それである場所へ行きたいのですが、大丈夫でしょうか」
頭を下げてお願いすると、看護師は一瞬戸惑う顔をこそ見せたものの、
「分かりました。ではこれから鍵をとってからそこへ行きますので、先に行って待っていてもらえるでしょうか。場所は分かりますよね」
「ありがとう。先に行って待っています」
看護師にお礼を言うとガタロはまた早足となり、病院を駆け回ります。
そしてたどり着いた先は、病院と外の入り口の合間にある重々しい鉄の扉が待ち構えた、死んだ人間を一時的に預かる場所、
「霊安室」でした。
看護師が来る前にたどり着いたガタロは手のひらを広げて、ペンダントを見つめると、
「ついたぜペンダント。もう死んでしまったとはいえ、お前にとっても人生で一番大事な妻が側にいなけりゃ、おちおち天国へだっていけないだろう」
「ガタロ、お主というやつは——」
こうしてガタロとペンダントは最後の最後、数言ほど心の中で会話した後、霊安室の扉の鍵を持った看護師が現れると、ガタロはその看護師にペンダントを渡して、
「ここから先は私が一人で持っていきますので、ガタロさんはそこで待機していてください」
看護師は一人、霊安室の扉を開け入って行くと、彼女の後ろ姿を見つめながら一言。
「あばよ、ペンダント。天国へ行ったらもう二度と、愛する人からはぐれるなよ」
「ペンダントと夫婦」 終