第九十二話 違和感
「ユーリは記憶喪失みたいで……」
「重い代償だな」
私ははぐれたユーリと再会したが、彼女は記憶喪失だった。時の管理者による代償なのだろうけど、それはつらい。
楽園のソフィアに聞くと、時の管理者が握っているから取り戻すのは難しいという。
「結局のところ、何がしたかったのかしら」
「ユーリから記憶を抜き取りたかったのだろうな。戦争の時の記憶が染みついているユーリの記憶を」
「──そう。それならなぜ私は無事なわけ」
「見てきたものが違うからだろう。彼女には必要のないものばかり見てきたから」
「……」
私はため息をつく。とりあえず寝かしておいたユーリを見ると、寝顔はいつもより安らかだった。
「桜高校からは退学したことになっているから探りにくい。しかし、透明になれば大丈夫だろう」
「まあ、そうね。あ、そういえば宮島家は? 」
「消えている。完璧に抹消されている」
「分かったわ。しばらく、ユーリを預かっておいてくれる? 状況を確認し終えたら引き取るから」
「ああ」
桜高校に降り立ち、私は違和感を感じた。──防犯カメラがない。どういうこと?
私は久しぶりに糸使いの力を発揮し、校内に侵入した。重たい空気など微塵も感じない、普通の高校になっていた。
「生徒会室……誰もいない!? 」
今は授業中だ。誰かいたら普通はおかしいが、この高校は違う。なのに、誰もいない。
「生徒会の役職がきちんとしてる……ん、瑞穂? 」
机の上にあった紙。生徒会メンバー表と書かれた紙には生徒会長・沙織、副会長・瑞穂、書記・カンナ、秋と殴り書きされていた。
秋以外は知らない人だ。こんなに変わったなんて……。
「あれ、これは」
「私じゃない、私は知らない、私じゃない、私は知らない、私じゃない……」
「……? 」
生徒会室の隅で怯えていたのは時の管理者だった。この状況は彼女が作り出したはずなのに。
「あの、この状況はあなたが」
「……! ──違うわ。私、ユーリの記憶抜いてただの女子高生にしただけよ。こんな世界作っていないわ」
「え……」
「恐らく、楽園の管理者が私が駒を弄っている途中に遊びだしたんだわ。あの人ならしかねない。ああ、どうすれば」
そう言いながら消えた。──楽園の管理者。彼女が、滅茶苦茶に?
そういえばと思い、私は真田凛子を捜すことにした。ここは誰が主体なのだろうか。
「美術室のあれは……」
近づいてみると、間違いなく真田凛子。しかし──あの明るさがない。しかも、車いすを使用している。
大分弄られている。この違和感に立ち向かえってわけ?




