第七十五話 楽園の秘密
「師匠様、大丈夫ですか? 」
「ん……ええ、まあ」
「全く、しっかりしてくださいね」
ルッチェはいつの間にか来ていた。そして、鍵を差し出した。
「そっとイリスの姉は返しておきました。鍵を返します」
「ご苦労様。さて、次はどうしようかしら」
楽園の奥底には狂人とかつて呼ばれ、騒がせた悪魔の魂がある。そこに入るには特殊な鍵が必要なのだがそれぐらい簡単なことだった。手始めにルッチェにアルキドゥの魂など盗ませた。バレなかった。ソフィアも案外バカなものだ。
「あの楽園を乗っ取るのはどうですか? 未だにイリスはchainについて黙ってますし」
「そうね。お姉様のそこだけは許せない。勝手に戦地を楽園にしてしまって全てをなかったことにしたのだから」
楽園とは戦争の末期、ほとんどの悪魔が死に絶えたときに私の避難地としてお姉様が作ってくれた場所。悲惨なことになっていた貴族の屋敷あたりを綺麗にしてしまったのだ。私としては思いでを消されたのにも等しい。悪魔の中に貴族という階級が消えたのもこれが原因だ。
ルッチェも私の暗殺仲間の悪魔の魂を入れたただの道具。ただ、元の体がかなりの善人でマッドサエンティストにはもう見えない。
「師匠様、桜高校辺りはしばらく封鎖とのことです。イリスに色々尋ねに行きませんか? 」
「それもいいかもしれないわねえ、フフッ」
「はい、行きましょう」
お姉様は特別に記憶を保持している。私との再会を果たすためにわざわざ残してくれたのだ。ありがたい。
お姉様は桜高校の近くに住んでいた。黒髪の美人。車いすを利用しており、まだ全快ではないらしい。
「あら……来たのね、ええと亜希子」
「その名前はやめましたよ、お姉様」
「そう……なら、なあに? 」
「お姉様は何でしたっけ」
「沢田梨香」
「それじゃあ、美香」
「いい名前ね。さ、あがって。まだ物は揃ってないけれどその内揃うから」
魔術を使っていた悪魔。だからこそお姉様は後遺症として倦怠感が残っている。もしユーリが本当に人間になるのなら無力すぎて悲しくなるだろう。
お姉様はゆっくりと紅茶をはこんできた。そしてにっこりと笑って私とルッチェにくれた。
「それで、なあに? 」
「お姉様は何が目的なの、私になら簡単に作れる鍵でふさいで……まるで楽園に来なさいって招かれてるみたいじゃない」
「……そう、鍵も作れたのね」
お姉様は分かっている、分かっているのにわざとしている。本当に行動がよく分からない。
「じゃあ、あなたは貴族が善なる悪魔の集団だと思うの? 」
「……え? 」
「私もそう。貴族は所詮、悪なのよ。あなただってそうでしょう」
「……それじゃあ、何? 貴族の住んでいた場所を滅して、後世に悪影響及ばないようにとか考えていたわけ? そんなの──」
「無駄だった、──そう言いたいのでしょう」
私は勢いよく立ち上がる。もう我慢できない。
「はっきり言ってよ、お姉様! 」
「師匠様、落ち着いて……」
「これだけ言えるわね、パトスもリィデも悪ではない。後悔したときにはもう遅い──」
「……」
私は座り、お姉様の言ったことを噛みしめる。私が利用したことを、怒ってるの?
「まあいいわ。今日はどうするの? 」
「ついでだから泊まらせてもらうわ。少し頭冷やしたいし」
お姉様はにこりと微笑んだ。歓迎してくれているのかな。




