第五十五話 シーナ・ユーリティー
『イリスへ
きっと今ごろ、イリスは変な責任を感じてるのかな。もし、そうだとしたらやめてよね。私の分までしっかりと生きてほしいの。長の妻として、胸をはって。私がもし、もしだけど、動けたら、自由に走り回れたらイリスに会いに行くね。その時におめでとう、って言うから。待っててね。子供も見れたらいいなあ。』
「──彼女はこれを書いている最中に発作を起こしたのかしら、どう見ても書きかけね」
「字も歪だし……そういえばイリスへのプレゼントは? 」
「毎年、届いていたわね。綺麗なお花が」
「悪魔にとっては誕生日なんてどうでもいいのに……」
ハナはイリスの側ですやすやと寝ていた。最近は寝ることが多いらしい。
「私もここでのんびりとしようかしら。シーナの分、ね」
「ハナが喜ぶわね」
私と一緒に紅茶を作ったりクッキーを作っていた頃はまだシーナは元気だった。でも、ある日突然だった。戦いの最中、倒れたのだ。私はもちろん、リサテアさえ駆けつけることはできなかった。
だからシーナの誕生日、娘たちの誕生日、私の誕生日、リサテアの誕生日には必ずのようにパーティーを開いた。私は毎回参加したが、リサテアが参加できないままシーナが息をひきとった。
「それじゃあ、ユーリたちは戻りなさい。生徒会長が学校をこれ以上休んだらダメでしょ」
「うん」
────
翌朝。私はユーリ、もとい友那を迎えに行った。彼女は隠していたが、キツそうだったため起きれるのか不安すぎる。
「友那先輩、朝ですよ」
何度もドアの前で言うが、全く物音がしない。これは完璧に眠り込んでいる。
寝室に行く前に少しこの家を探ることにした。沢田家とは何者なのか、そのヒントを少しでも掴みとりたい。
「ん~、と」
あちこちを探し回るものの、家具がない。テレビはあるが、棚がない。料理をした形跡はあるにはあるが、甘い香りしかしない。(最近はお菓子作り以外で使っていない? )
すっきりとし過ぎている。収納棚というのは本当にどこへ……。
「驚いた? リサテア」
「あっ、ユーリ、ご、ごめん、おはよう」
「ふわあ……、おはよう。この家はイリスが昔用意してくれたの。最低限の物以外は痕跡を残すなってね」
「どうして痕跡を消すことにこだわるの? どうせ記憶なんて消えるじゃないの」
「……私が特別、だから」
「特別? 」
イライラしだした私にペンダントを差し出す。綺麗な翡翠色のペンダントだ。見たことがない。
「眠り姫の伝説は知ってる? 」
「──200年眠り続けた悪魔の貴族の娘のこと? あれが何? 子供のお話じゃない」
「私が、その眠り姫だったらどうする? 」
「……え」
ユーリはペンダントを握りしめ、小さく何かを呟いた。すると、美しい金髪が。まるで悪魔の貴族の娘のように、上品な。
「イリスははっきりと私に眠り姫だと告げた。それならば痕跡は残してはいけないと悲しい決まりを告げたわけ」
「っ……」
──眠り姫と親しくなる悪魔は次々と深い眠りに落ちていきました。
文章の一つを思い出す。まさか、それで……。
「シーナ・ユーリティーを飲んでれば大丈夫だから」
「そう、なの」
深いことは放課後にしよう。そろそろ行かないと遅刻する。
「早く行こう」
「そうね。今もとに戻るから」
私は登校中ももやもやとしていた。生徒会長とさっさと別れ、朱美と合流してからも変わらなかった。
「早く行こうよ」
「うん……」
眠り姫、そんなのが実在するはずなんてないよ……。




