第五十二話 打ち明けられる真実
「シルディならリサテアが助けに行ったから安心しなさい」
「え、だ、誰? 」
「その声はイリス……! 」
「リィデから出ていきなさい! ラミアス! 」
「イリス、何で姉のことを呼び捨てにするの? 嫌いになったの? 」
「昔から大嫌いよ! 」
わけわからなかった。イリスさんって何者? そしてラミアスって誰?
帆乃は呆然と立ちつくしている。目の前で繰り広げられている姉妹喧嘩(? )に私達は退散するしかなかった。
矢川市で営業しているカフェを見つけ、そこに入る。もうすぐ13時になろうとしていたので丁度よかった。もう歩くのは嫌だ……。
「ほんまにわけわからんなあ」
「私もだよ」
「シルディをリサテアが助けに行った、つまりリサテアは人外やな」
「あら、帆乃水さんに凛子さん」
「理彩さん、ど、どうして」
「今帰り道なんですよ。人とここで会う約束もありますし」
すると黒髪の美人が現れた。彼女と待ち合わせかな。
「あ、梨香さん。こんにちは」
「理彩、随分と早いのね」
「まあ、早退したから」
「へえ、そう」
「ほら、早く」
遠くの席に行ってしまった。一体なんなのだろう……。
「うちらはどうするん? 」
「そうだねえ」
暇になってしまった。久しぶりにみっちゃんたちと集まるのも悪くない。
────
私は梨香ことイリスの発言に目を丸くするしかなかった。カフェながらも、お客は私たち以外見当たらない。凛子さんは遊びに行くのか、どこかに行ってしまった。
「人間になる? 何で今さら……」
「私なりに考えたの。あ、ユーリなら眠らせたわ。寝る前にコーヒー飲むこと知っていたからその中にね」
「……ハナだって立派になってないのよ。人間になればハナのことも全て忘れてしまう。そんなの悲しいと思わないの? 」
「いいえ。もう、私は役目なんてない。あなたがハナを見守ってちょうだい。私はこの世界で幸せになるわ」
「イリス……。今の事件が終わったらハナに会ってちょうだい。私はハナではないから分からない。もう引き留めないから」
すると、イリスは腕をめくって私に見せてきた。──ひどいあざがある。
「待てないわ。私には協力なんてそうできない。あと少ししたら完璧に人間になるわ。ユーリに色々話して、人間に事情話してそしてハナに会いに行くわ」
「……どういう方法なのよ、そんなあざつくってさ」
「教えな~い。まあ、とりあえずシルディのところに行ってね。早退してるとは思わないから少し遅れてから行きなさい」
イリスは名刺を残して去った。──沢田梨香。ユーリと同じ名字だ。沢田家ってなんなのだろうか。謎だ、謎が多すぎる。
────
夕方。帆乃の家に戻ると誰かがいた。──カフェで見かけた梨香という女性だ。何のようだろうか。
「あ、やっと戻ってきたのね。少しお話があるの」
「ん? 」
「私は沢田梨香。──イリスという名の悪魔でもあったし、魔女でもあった。シルディについて話してあげる」
「魔女~? 」
「悪魔ってなんや、ほんまにおるん? 」
「シルディの知り合いなんですか? 」
「まあそこに座ったら? 」
紅茶が用意されていた。すごく癒される香りだ。私達は落ち着くために一口、口にする。──甘くて、美味しい。
「シルディは本来なら悪魔の中でも極悪とされるパトスに育てられ、立派な極悪悪魔になるはずだった。でも母親であるリィデはそれを許さなかった、なぜだか分かるかしら」
「リィデって人すっごく優しいんでしょ~? 」
「悪魔やったんやなあ」
「それじゃあ、育児放棄は……」
「自分もパトスに近い悪魔だからと悟ったのよ。シルディは勘違いしてるけど、ちやほやされたからって嬉しくもなかったの」
「でも、育児放棄とかひどいですね~」
「ほんまやな」
「妹には迷惑をかけたくない。パトスが引き取らないためには私がパトスとずっと行動するしかない──そんなことを考えたとか」
つまりリィデさんは孤独だった。好きだった人は極悪で娘にまでその血をひかせようとしている。すごく、辛かったんだろう。
「あの本は? 」
「──書いた男の妻として言わせてもらうけど、まああれをシルディに渡したのはシルディを引き離したかったからじゃないの? 」
「え、あの本を書いた人の、奥さん!? 」
「んなあほな! 」
「私はかなり長い時を生きてるのよ。まあ、200年ぐらいかしら」
「……なるほど。それで、シルディは」
「救えるかは分からないわ。時間がきっとかかる。私はその間に人間となる。だから──」
誰かが現れた。美しい碧色の髪に茶色の瞳。この人も悪魔?
「ディ・ペクトリスと申します。あなたがたのお手伝いをさせていただきます」
「男……? 」
「ええ、髪が長いのは種族の風習ゆえにです。シルディさんの救出を頑張りましょう」
「シルディが戻ってきたらこの手紙と本を渡してくれるかしら? シルディの知らない昔の出来事の記録だから」
お邪魔したわね、と梨香さんは去った。残ったディさんはまだ跪いている。とても丁寧な人だ。
「おかんとおとんはもうすぐ帰ってくるで」
「そうそう。だからディさんは顔をあげてよ~」
「はっ、かしこまりました」
私は梨香さんのもうひとつのプレゼントである紙袋を見る。シーナ・ユーリティー。──どうやら紅茶の茶葉らしい。
「あ、まだ茶葉あるんだ」
「みたいやね」
「ただいま~」
帰ってきた帆乃の両親に説明するのにかなり時間を使った。




