第四十五話 過去の抗争
「ポルトさんが周りから婚約を断られていたというのは嘘よ」
「あれは確かにありえない話です」
「箱娘にしかつけない可愛らしい嘘、かしら」
「よく分からないことを言わないで、ソフィア」
「ナトリ様には分からないのですか」
ソフィアは紙を取り出した。ポルトさんの肖像画だわ。いつの間に。
「このとおり、容姿が素晴らしく女なら断らないであろうのに箱娘である初代当主は理解をしなかったのです。意味が分からないからとりあえずの嘘をつきました。しかし、それが墓穴を掘ることになります」
「へえ、なるほどねえ。当時初代当主にも言えないことが起きちゃって……」
「それでは大図書館にて調べますか? 」
「あ、ティクシャアーノって裏切り者のくせに大図書館の管理人してるんだっけ? 」
「ナトリ! 」
「イリス様、早く行きましょ」
大図書館とは元々ティクシャアーノの一族が管理していたが、リィデが権利を放棄したためにティクシャアーノは苦労をした。管理人に戻ったのもつい最近だとか。
「ポルト=ハイデベア。最初の婚約者・シェリーと共に犯罪を繰り返していた。しかし、それを初代当主には言えず別れた。その後も女性に近付こうとするものの上手くいかなかった。──つまり、初代当主は彼のことをちっとも理解していなかったわけね」
「マザコンなのも作り話だ。いくら暗殺に長けていても母親は殺したくなかったとこの手記にはある」
「なるほどね」
それでは彼女はどうなのだろうか。両親を躊躇いもなく殺したのだろうか。私はすごく気になり、管理に戻りたいと言うソフィア以外で行くことにした。
ハイデベア家の屋敷の扉をノックすると、血まみれのシェントが現れた。当人だ。
「どうぞ」
「あの、何していたの? 」
「ナトリ様には分かりませんか。ニワトリをさばくことなど当たり前なのに」
「ひっ」
──忘れていた。ハイデベア家の者は料理する際、牛などを一からさばくんだった。新鮮が一番だと全ての物がとりたて……。
「ソリアがもうすぐ来ますから」
「はい」
お辞儀もしない。シェントはもう機械から戻れないのかしら。
「あり得ないわ。スフィアは優しくおもてなししてくれたわ」
「シェントは殺戮機械として生きているから仕方ないの、ナトリ」
「私を見て裏切り者だとかわめかないからおかしいと思いましたけど」
「どうされましたか、皆様」
紅茶を持って現れたのはソリア。まだこちらの方が接しやすい。
「シェントお姉さまに文句は言わないでください。この家のしきたりのせいですから」
「しきたり? ナトリはよく破っていたわよね」
「イリス様、昔のことですから黙ってくださいませんか」
「そんなことよりも、聞きたいことがイリス様にはあるんですよね」
「──シェントは両親を殺すときに泣いていたの? 」
私が望む答えは得られるのか。得られなかったら──。
「いえ」
「えっ」
「シェントお姉さまはあの時既に今のような機械でした。ユンはショックのあまり寝込みました」
「彼女、もうあのまま? 」
「ハイデベア家ですからね。私もいつかああなるんですよ」
自虐的に告げながらもどこか寂しそうだった。しかし、これ以上関与すれば怒られてしまう。
私達は屋敷をあとにした。




