第四十三話 道具として
ハイデベア家では、道具として全員が一生を終える。結婚できるのは跡取りのみ。しかも、相手はどこかにいる初代当主が造り出すホムンクルス。そして、子供が立派に道具として成長すれば親であるホムンクルスと跡取りはその子供の手により殺される。
──こんなの、絶対におかしいよ。
姉たちに何度も訴えた。あの人の葬式前に訴えたらシェントお姉さまは「そうよね。でも、それが運命なのよ。逆らえないの」と泣きながら私を抱きしめてくれた。
なのに、あの人の葬式後に訴えたら「当たり前のことに何を言っているの」と人が変わったかのように言われた。悲しくて部屋で泣いてしまった。
「ソリアお姉さまは、おかしいと思わないの? 」
「ユン、いつまで言ってるの。それが私達三姉妹でしょ」
「……」
「初代当主に叱られるわよ。さ、お食事にしましょう」
お食事も、シェントお姉さまはきっちりとまるで機械のように食べる。ソリアお姉さまもそれに近い。私は、まだ全然だ。
お屋敷でのお食事なんて久しぶりだった。イリス様により、シェントお姉さまが連れ戻されたのだ。二人の妹なんて省みずに、道具としてあちこちを回っていたのだ。
「ユン、ちゃんと食べなさい」
「はい」
シェントお姉さまは無言で立ち上がり、空になったお皿を運ぶ。すごいスピードだ。
私も食べ終わり、運ぶ。シェントお姉さまがお皿を洗っていた。
「あ、いつもありがとう、シェントお姉さま」
「当たり前のことしてるだけ」
「……あはは、そう、だね」
シェントお姉さまは私がお礼を言っても、理解をしていない。いつも冷たくて虚ろな目をしている。笑うことも泣くことも怒ることもない。
道具になれば、大切な感情を失う。それだけは嫌だ。せっかく、生まれてきたのだから。
食事の間に戻ろうとすると、ソリアお姉さまが何かをしていた。
「ユンはどうしましょうか。え、放置? ──そうですね。末ですし、訓練しても無駄ですものね。分かりました」
私のことで、目上の人に相談していた。まさか……初代当主って本当にいるのかしら?
シェントお姉さまが私の横を無理矢理通った。怒りもしない。悲しい。
「シェントお姉さま、ユンはいないものとしてもう喋らないでください」
「分かった」
お姉さまたちから無視される、それは生き地獄だ。どうしよう。
部屋に急いで戻り、私はお母様の写真を眺める。お母様は90年前にお父様と共に、シェントお姉さまに殺された。ホムンクルスなのに感情が豊かで私は大好きだった。色んなことをして、色んな料理を作って……。思い出すだけで、涙がとまらない。
「うう、これからどうしよう」
私は、やることもないので屋敷から出て少し気晴らしをすることにした。勘当扱いに相応しい私はその内追い出されるかも。
「どうしたの、そんなところで」
「イリス、様? 」
「姉たちと違って、本当に瑞々しい乙女ね。ナトリから聞いたわ。あなたは相応しくない、と」
「……分かってます」
「ならばあなたは下に行きなさい」
「え、なぜ」
「リサテア1人だけでは心許ないことが判明したの。チャームを使って人間の男を仲間にしているんだから、教員も含めてかなりの人数が敵になるわ」
「リィデは確かに強敵ですね。でも、人を殺せない私なんか」
「あなたは偵察よ。怪しい人を見つけたらリサテアこと理彩に報告するのよ。リィデの犯行を扶助した教員が辞めたからあなたが代理で入りなさい」
突然与えられた使命に従うしかなかった。




