第三十六話 狭間
リィデがおかしくなったと妹である私でも気づいたのは、あの人が亡くなったあとだった。あの人の娘に固執する──。おかしな話だった。昔のリィデならそんなことはしないはず。いや、娘を放置している時点でおかしい。あの人が亡くなって傷心のリィデに娘の元へ帰るよう説得するのにも苦労した。
そして今、私は大きな鳥かごの中にいる。おかしな話だが、敵とお茶をしているのだ。まあ、私はリィデと違って中立だけど。
「それで、何の用だ」
「リィデの最近の様子のことで」
「妹にも会わないのか? 」
「それどころか、パトスと共に行方をくらましたのです」
「あいつなら、人を殺し始めた。何だ、お前はまさか人間たちに危害を加えるわけがないと高をくくっていたのか? 」
「……人間を、殺したのですね」
「ハナやリイサほどではないものの、サナセイガスや水酸化ナトリウムを使って4人殺している」
「早く止めないと……」
青ざめた私にクッキーを差し出すソフィア。髪をばっさり切っており、すっかり本物の騎士だ。
彼女と会話だなんて恐れ多いのだが、前長の元側近の妹という立場から会ってくれた。それと、私が勢力図にも存在しないから。
「まあ、落ち着きたまえ。今お前が行けばシルディにさらなる混乱しか生まない。もう気づいているがゆえに更なる肯定の存在がいらないのだ」
「それでも私はシルディに会いたい」
「シルディは孤独と言えない状況にある。だから大丈夫」
ソフィアは落ち着いていた。彼女も勢力図から抜ける覚悟をしたようだ。
「善良軍団は一体何が目的なのだろうか」
「……姉は、いつも寂しそうでした。当たり前を受け入れられない──そんな感じで」
「ほう」
「悪魔をやめたのもその流れからだと思います。でも、どうして隠蔽する必要があるんでしょうか」
「……彼女と少し話したことがあるが、狂人だなあれは。妹にも目を向けない理由はまあ、あれだ」
「っ! 」
姉は狭間にいる私を善良軍団にも入れようとしなかった。それは、私に目が向いていなかったからなの?
「さあ、もう帰るべきだ。長居をすれば香りがついてしまうからな」
「はい、ありがとうございました」
リィデを止めるべき──改めて強く思った。




