第三十二話 生徒会長の涙
『3年生 西尾孝 野球部部長
吉岡拓三 野球部副部長
2年生 寺岡恭吾 6番
新居島賢斗 9番
以上の者を1週間の謹慎処分に処す。』
西尾さんは私が余程怖かったのか、全てを白状した。そこから西尾さん含む四人の謹慎処分が決定した。
私は書類を入力し終わり、伸びをする。もうかなり遅い時間だ。
サナセイガスの臭いが野球部の部室に充満していると分かったのも、当時15歳で体験したという化学の池上恭子先生のおかげ。彼女は警察に伝えようにも、どうすればよいか分からなくなっていた。だから私が伝えた。
池上先生は通学途中、バスのハイジャックに巻き込まれた。その時、薄められたサナセイガスの臭いをかいだらしい。ハイジャック犯は真似をしただけだった。だから池上先生は死なずに教師をしている。
「失礼しまーす」
「ん、まだ残っていたんですか? 」
「はい。少しでもお役に立ちたくて」
「それじゃあ、現場を観察しに行きましょうか。ついでに防犯カメラも直さないと怒られます。あ、4人の謹慎処分の紙も校長に出さないと行けませんね」
「は~い。犯人が男女2人ってことは、夫婦か恋人同士ですかねぇ? 」
「その辺は分かりません。兄と妹、もしくは姉と弟という可能性もあります。はたまた親戚や友人など。あなたはすぐにそう決めつけますよね」
「うぅ、悪い癖って分かってますけど~」
「早く行きましょう」
野球部の部室の防犯カメラは見事に入れ替えられていた。さすが西尾さん。(将来の夢:すごい機械を作る人)
「よし、これでいいはずです。再発をしないよう気をつけましょう」
「他の部室はどうします? 」
「多いからいっそのこと部活をやめてほしいと思っています。しかし、あの部活は……」
もう午後7時過ぎだというのに、テニス部は頑張っていた。他の部活がいないというのに。
「顧問は確か、大石先生ですよね」
「はい」
「あとで叱っておきます」
「ゆうちゃん、また泣いちゃいますよ? 」
「新米教師ですから仕方ありません」
大石先生は新米教師。前、少しもめ事になり口論に至ったが彼女はかなり弱かった。散々泣いた。バカだと思った。
校長室に入る。校長はハッと目を覚ました。
「校長先生、暇ならこの書類に目をとおしてください」
「──事件に関係するのか」
「はい。彼らはゲーム大会を部室でしよう、と主だって企画した者です。昨日のあの時、3年生は買い出しに行っており、部室を3人に任せきりにしていたそうです」
「うむ、なるほど。吉田の容態はどうかね」
「後遺症が残るため、例え警察病院を退院しても他の一般病院に移る可能性が高いです。ご両親には復学が難しいと説明をするべきだと考えています」
「サナセイガスは恐ろしいものだな……」
「この事件は外に公表しますか? 」
「外でサナセイガス関連の事件が起きた場合は公表する。桜高校に関連する人が被害者で公表した場合、公表すればどうなるか分からん」
「そうですね。それでは、失礼しました」
サナセイガスが起こす悲劇──これ以上は、起きないで。
────
5月9日。学校の一週間の終わりなのに、気分は沈んでいる。昨日かなり遅くに帰宅したせいもあるが、クラスメートが4人も亡くなったことも原因だ。
「今このクラス何人いるの? 」
「出席してる男子7人、女子10人」
「こんなにいないと寂しいね」
「本当本当」
華と悠花の会話が聞こえた。この二人は気に入った高校と家が遠くに見つかれば一緒に引っ越すらしい。
この高校に残っている人は大概そんな感じだった。親戚が遠くにいない、高校が見つからない──。私は未だに両親や姉からの心配の声が届いていない。帆乃水たちはそんな私が心配だからここに残りたいらしい。
「なあなあ、凛子。今日も吉田のところに行かへん? 」
「どうして? 」
「そりゃあ、幼なじみが支えんとなあ。おばさんから連絡あったで」
「うん、まあそうだね」
ほの曰く吉田は現在、おばさん(吉田のお母さん)にも心を閉ざしているらしい。紙に邪魔、と乱雑な字で書いておばさんにその紙を投げつけるらしい。
普段ならしないこと。幼なじみなら大丈夫だろう、とおばさんが思ってくれたみたいだった。
授業は淡々と進む。シルディはすやすやと寝ていた。先生たちはそんなシルディを困った顔で見ていたが、起こしたりはしなかった。
放課後。矢川市の病院に移ったと聞いたので行くと、生徒会長がとある病室の前にいた。
鏡越しにしか面会ができない病室。通り道にあるとはびっくりした。
「先輩、私はどうしたらいいのでしょうか。また、あんなことになってしまうのでしょうか。怖いです。やっぱり私は臆病なんです、生徒会長には相応しくなんて……」
生徒会長が泣いている。私達は顔を見合わせ、見なかったことにしようと決めた。
吉田は無言で何かを描いていた。私達はそっと近づく。
あらかじめ用意していたと言わんばかりの紙が突き付けられた。
『 何だよ』
「そういや吉田は──たぁくんは、絵、好きなんよなあ? 」
『……気味悪い、ほのちゃん』
「んと、どういうこと? 」
たぁくん──そう呼んでいたのは幼い頃だけだ。吉田の父親は弱々しい吉田を強くするため、少年野球のチームに入れてしまった。のめり込んでいくと吉田は私達にイラストを見せなくなった。離れていった。
『……みっちゃんにりんちゃん、ありがとう。お母さんに退学を伝えるよ』
「やっぱり昨日の言葉が」
『自分でも、きついのは分かる。だから仕方ない』
「イラスト、再開したんやなあ。まあ、これしか生きがいはないやろけど」
『……まあね。ほのちゃん、ごめんね。助けられなくて。好きだったのは分かっていたんだから』
「えっ、そ、あ、えっ」
後ろからクスクス笑い声が聞こえた。制服のリボンからして1年生の子だ。
「野球部マネージャーの秋でぇす! 代表してお見舞いに来ましたぁ」
『ありがとう』
「先輩、大丈夫ですかぁ? 声帯をとるって聞きましたけどぉ、つらかったらいつでも電話してくださいね」
『うん』
その子は花瓶に花を飾ると、そそくさと出て行った。ぶりっこのような言葉遣いだけど、案外いい子なのかも。
「たぁくん、声帯とるの~? 」
「まあ、せやろな。喋りたくても喋れへんならとったほうがええもんな」
「うん、そうだよね」
面会時間の都合上から帰っていると、生徒会長に出くわした。ほのもみっちゃんも気まずそう。
「こんにちは。いえ、こんばんは、ですかね? ふふ、幼なじみは中々大変のようですね、帆乃水さん、みちるさん、凛子さん」
「生徒会長さん、な、なぜうちらの名前を」
「生徒会長ですから当然のことです」
「それで、どうしてここに~? 」
「──あなたがたは知らなくてよいことです。それではまたいつかお会いしましょう」
にこりとも微笑まず、さっさと帰る生徒会長。私達はそれを呆然としながら見送ることしか出来なかった。
ほのはにやりと笑い、恐ろしいことを言った。
「生徒会メンバー、推測してみらん? 」




