第三十話 第三の殺人
体育館の教官室で柚月先生はこのゴールデンウイークに起こったことを話してくれた。コーヒーを出してくれた。美味しいし、心が温まる。
「ゴールデンウイークに学校の先生は校長以外は当番制で来ることになっていたの。そしたら学校を転校するという主旨の電話が凄かったわけ。ほとんどが2年生で──帆乃水たちの学年よ。だから主要戦力がいなくなっちゃって。負けるようになったら、周りから何と言われるか分かる?凛子ちゃん」
「──あの高校はおかしい」
「そう。笑われてしまう可能性があるのよ。私なら名が通ってるから戦略と思われるだろうけど、ハンドボール部とかは何でそんなに弱い奴を選ぶんだって言われてしまう。テニス部は耐える気満々みたいだけど」
うふふ、と笑う柚月先生。バレー部はなぜ、帆乃水がいるのに休部に……。
「ちなみにここは自主的に退部する子だらけで人数不足」
「そうそう。うちは何人も止めたで。でも、やっぱり怖いんやろな」
「失礼します」
みっちゃんがやってきた。雨に濡れていた。
「あ、二人とも。捜したんだよ。早く帰らないと怒られちゃう」
「私が責任をとるから、さっさと帰りなさい。明日からはきちんとすぐに帰ること」
「はい」
教官室から出ると、悲鳴が聞こえた。敷地が広い桜高校。どこからなのか分からない。
「不吉だね、早く帰らないと……」
「ほんまやな」
大雨なので傘を借りることにした。これは大変だ。
ざあざあ、ぺたぺた。
ざあざあ、ぺたぺた。
ざあざあ、ぺたぺた。
何か変な音が聞こえた。振り返ると──吉田が血まみれで歩いていた。
「よ、吉田? 」
「──」
「とりあえず職員室、いや保健室に……」
吉田を保健室に送り、私達は大急ぎで帰宅した。──悲惨な事実から、目を背けるように。
帆乃水の家に戻るとリィデさんはいなくなっていた。恐らく、ここがとてつもなく不便だと感じたのだろう。
「あ、シルディ……」
「お父さんとお母さんが信じられない。このタイミングでいなくなるなんて」
「ほんまやなあ」
「ん~? 」
何も知らないみっちゃんは首をかしげていた。
夕食時になっても戻らないリィデさん。彼女はもしかしたら敵なのかもしれない。
「お母さんのこと、どれぐらい知ってるの? 」
「あまり昔のことは話してくれない。本を見て学びなさいって」
「教育ほーき? 」
「みっちゃん、それ言うなら育児放棄やで」
「どっちも正解」
唐揚げをほおばりながら、シルディは幼い頃のことを話してくれた。
面倒見のよくない母親、リィデ。あまり記憶にない死んだ父親。母親は自分が小さい頃からあちこち動き回っていた(恐らく人間のことを調査していたんだろう)ため、食事は知り合いの人がいつも用意してくれてた。大きくなってきて、自分で食事がとれるようになる頃に母親は一度戻ってきた。謝った後、ぶ厚い本をくれた。そして、また消えた。
私の母親とよく似ていた。
「本当にイライラするんだよね。全然帰ってこないんだから」
「まるで私じゃん」
「──そうだね。明日連絡してみる」
夜。星空がきれいなので、屋上(帆乃水の家には屋上が存在する! )で眺めることにした。シルディと内緒の話、いわゆる悪魔の話をするのだ。
「橋乃元にいるときにお母さん、薬品会社に勤めていたんだよ」
「サナセイは薬品会社だからね。──黒い噂ばかりだけど」
「どういう、こと? 」
「人殺し薬品の製造とか、一部の社員がしていたらしいの。まあもう40年くらいたつから真実はわからないんだけど」
そこでシルディは顔を青ざめた。どうしたのだろうか。
「もしそれに関与していたのなら、水酸化ナトリウムなんて容易く手に入る──」
「あ……」
かえって気落ちさせてしまった。ああ、どうしよう。
────
宮島家の処分が完了した。手駒としてこっそり動かしていたものの、あいつらに負けた。それにシルディを仲間にとりいれなかった。
──ペンダントをどこかで落としたらしい。早く、探さないとな。




