第三話 彼女は何者?
翌日。相変わらず両親はおらず、書き置きだけがあった。早起きしてもいない両親。少し、寂しい。
書き置きによると、次戻ってくるのは8月──それも、お盆にお墓参りが目的で帰ってくる。いつもこうだ。本当に自由気ままだ。
その時、スマホが通知の音をならした。どうせ帆乃水が──。
『みっちゃんぐ☆:ごめんね(>.<)、先輩に言われて朝から練習することになっちゃった。しばらくは登校できないや』
『はるか。:生徒会のお仕事が忙しいので、ごめん』
「一人、か──」
その時、玄関のチャイムが鳴った。淡い期待を胸に、開ける。
「おはよう、凛子」
「シルディ? どうしたの、こんな朝から──」
「……昨日、華から聞いたから。凛子は両親が海外にいるんだって」
「……そうだけど。それは昔からだし、もう慣れっこだよ」
「登校しよう、一緒に。あと朝ご飯……」
「──分かった」
華はなぜそんなプライバシーを。いや、秘密にしたって私の姉も両親も週刊誌とか色んな雑誌に載るからどうせバレてしまう。
私が中学生の時から鍛え上げた料理スキルを駆使し、シルディがおおっ、と思わず声をあげてしまう料理を作った。
「へえ、料理得意なの? 」
「お姉ちゃんが上京してからはずっと一人だから。両親は海外で忙しいし、日本に来てもほとんど会えない」
「そうなんだ。皆から羨ましがられたでしょ」
「まあね。でも苦痛だったかな」
小学校の頃はまだ頻繁に顔を会わせていたが、母親である真田舞菜はフランスの一流モデルとしてどんどん有名になり、とうとう私の前から姿を消した。
ちなみに父親の真田弘幸はハリウッドで俳優として活躍中。こちらも忙しい。家で顔を合わせたことはほとんどない。
皆からはサインだってねだられたが、そういうなが嫌なのか中学生になった途端大金と共に一人暮らしをしなさい、と命じられた。それは本当に苦しかった。嫌だった。
「私の家にテレビがないのも、新聞がないのも両親と姉のせいなの。本当にあの3人のせいでこっちは迷惑なわけ」
「そ、そうなんだ、そろそろ行こうか」
「うん」
教室には人がほとんどいなかった。部活動に力をいれているこの高校では当たり前らしい。
「宮島香奈って子、いないね。部活かな」
「あいつ、教室にいるの嫌ってるからなあ。シルディさんは気にするなよ」
「本当にそうだよ」
教室にいる人たちも異口同音だった。いてほしくないと思っている。
宮島香奈は人が嫌いで、人を避けている。私も彼女のことは嫌い。
みっちゃんたちはギリギリにやってきた。おかげでお昼休みまで話す時間はまともになかった。
「シルディも行く? 」
「ううん、私はいいや」
「そう」
お昼休み。屋上で委員長が泣きながら転校のことを話すとみっちゃんと帆乃水も泣いてしまった。
「そんなのあんまりだよ! どうして、どうしてなの」
「お母さん、私に自由を与えたくないみたい。わざわざ病院近くの進学校に行かせようとするんだから」
「うちは許せんで! 絶対許さんからな! 」
「怖いよ、帆乃水」
この日は大好きなパンを食べても心が晴れなかった。私のことはあとで話してもいいかな。
「そういえば真田弘幸と真田舞菜が帰国したって大騒ぎになってたけど、凛子は聞いた? 」
「あ、うん、東京に来なさいって。お話があるからって。でも、私より委員長の方が」
「ま、まさか真田舞莉についての話? 委員長も大変だけど凛子も凛子だよ! 」
「え」
「せや! 」
テレビがあったら私は間違いなく、カメラに向かって微笑む二人を睨んでいたかもしれない。私は、二人の顔を見るのも嫌なのだ。だから海外の映画ばかりに出てくれて本当に助かっている。
「今度日本で真田弘幸主演の映画が公開されるんでしょ? それのついでだと」
「委員長、娘についでに会う親なんてそうおらんやろ」
「あはは、そうだね」
「うん、私もそう思うよ」
いや、あの二人は私のことなんてどうでもいいのだ。みっちゃんたちはあの二人の本心を知らない。昔から子役のオーディションにも落ち、モデルでさえなれなかった私は見放されているのだ。どちらの遺伝子も受け継がない二世──。私に才能の欠片は、ない。
暗い顔の私を見てみっちゃんは明るい話題を持ち出した。でも、まともに聞けなかった。
放課後。シルディたちとともに私は美術部に行く。絵を描くけれど、何かいつも通りにはいかない。部長の心配から私は帰ることにした。
「またオーディション受けろなんて言われたら困るなあ……」
「やっほ、凛子」
「シルディ! 」
「大変なの、宮島香奈は偽物よ、偽物」
「え? 」




