第二十九話 宮島家の終わり
宮島家の屋敷の周りはおぞましいものとなっていた。ドロドロに溶けたあの細胞でできたクローンがいた。
──コ ロ ス
心臓を鷲掴みされたかのような感覚になる。吐き気がする。
「シルディ」
「お、お母さん」
「ここは危険よ。まあ、中に入りましょう」
防御をしながなら中に入る。リビングでは、宮島香奈と思わしきものが倒れていた。ほとんど溶けており、原型は留めていない。
「この水酸化ナトリウムの量……」
「カノンはどこに」
「自殺かしら? 」
お母さんは気分が優れない私を追い出した。私はふらつきながらあの部屋で見た物を思い出す。
──かすかにある父の記憶。父の持っていた物。あれが、なんで。
────
近くのカフェが営業しておらず、私はシルディと高校の中のカフェで話すことにした。ここは安くておいしいが、人が多い。しかし今は人がいない。
「生徒会は、どう? 」
「全然ダメ。宮島香奈は這って玄関まで行ったみたいだけど……」
「彼女、もう溶けていた。カノンも」
「……」
重い沈黙の後彼女は消えそうな声で、お父さんのと呟いた。どういうことだろうか。
「はい、ケーキ」
「委員長、どうしたの? こんな時間に」
「ん、少しね。宮島香奈について気になったから」
「彼女はもう溶けたよ」
「と、溶けたぁっ!? 」
「水酸化ナトリウムとかいうの浴びたらしくて」
ふうん、とか言いながら委員長は座る。私にはイチゴのショートケーキ、シルディにはティラミス。しばらくすると委員長にはパフェサンデーがやってきた。
「まあ、その、自殺? 」
「母親も死んでいたって言っていたからきっと自殺──」
「自殺なんかじゃないっ! 」
「シ、シルディ? 」
シルディは立ち上がった。その手は震えていた。
「お母さんは私を騙した……死んだはずのお父さんが、お父さんが……」
「と、とりあえず落ち着いてよ」
「どういうこと? 」
「宮島家の屋敷にお父さんがいつもつけていたペンダントがあったの……あり得ないよ。いくら古いお屋敷でも、宮島家とは仲が悪いんだから。しかも、最近落ちたものっぽくほこりはついてなかった」
「──犯人はあなたの、親? 」
シルディはティラミスを食べ終わり、さっさと立ち上がり出て行った。──すごく寂しそう。
委員長はパフェサンデーを食べ続けている。
「少し、私は調べてみる。佐波条愛莉の死、宮島香奈とその母親の死──何かおかしい気がするから」
「うん、気をつけてね」
「──さて、食べ終わったし、私がおごるからもう帰っていいよ。帆乃水も待ってるだろうし」
「分かった」
その前に美術室に寄ることにした。基本的に学校に残るのは禁止だが、大会があるところは残ってよいとされている。美術部も例外ではない。
「あ、凛子。シルディは? 」
「すみません、今日は体調が悪いようで。私はその、絵を完成させます」
「──美術部はこのコンテストが終わったら休部よ」
「ど、どうしてですか」
「気づかない? 3年生は残ってるけど、2年生はほとんど引っ越してしまったわけよ。残ったのは100人ほど。 生徒会長が勧告しにきたわけ、わざわざ……ね」
恐らく文化祭も味気のないものになる、と部長は紙を渡してくれた。
そこには人数不足故に休部が決まった部活が書かれていた。テニス部は1年生と3年生が多いため休部には至らなかったようだ。
バレー部は──残念ながら休部だった。帆乃水は今頃落ち込んでいるだろう。きっと柚月先生と並んで。
絵を何とか完成させたのは6時30分過ぎだった。体育館に行くと帆乃水は柚月先生とバレーの練習をしていた。現実逃避している。
「帆乃水、柚月先生」
「あ、凛子! お願い、バレーしようよ」
「この際素人でも構わないから! 丁寧に指導するから! 」
……二人は必死すぎる。本当にバレー大好きだなあ。




