第二十八話 宮島家が堕ちた謎
シルディとは授業中に宮島香奈のことをノート上で話し合った。テレパシーという憧れの能力はまだ持っていないらしい。残念。
『あれはね、宮島家が堕ちた証拠』
『どういうこと? 』
『恐らく、敵対する悪魔たちが宮島家に何らかの危害を──そういえば、皮膚を溶かす薬品ってある? 』
『ん、私は文系だからよく分からないや』
『多分、彼女はその薬品をもろに浴びた。細胞で作られた分身は蒸発し、自身もボロボロになった。死にかけの状態なのに死なないのは悪魔だから。生命力があるから』
『ああ、それで帽子を』
『気にかかるのはカノンの方。私、確認してこようと思う』
『そう。じゃあ、私は生徒会を』
『──了解』
包帯をぐるぐる巻きにし、ジャージの長袖長ズボン。そして血を吐きそうなくらい苦しそうな咳。松葉杖。足はほとんど引きずっていた。
あとで理系の子に聞こう。誰かいたっけな。
放課後。生徒会室に向かうと、先客がいた。華さんだ。生徒会長と話し込んでいる。
「失礼します」
「凛子さん、何の用ですか? 」
「宮島香奈のことで、少し」
「私も今聞いていたところです」
どうやら学校中で噂になっているらしい。理系の彼女は興味があるのかも。
「彼女、帰るときに血を吐きながら歩いていたから噂になります」
「歩いていたとは言い難いですけれどね」
生徒会長は録画していた『廊下B』という映像を私達に見せた。
宮島香奈は這っていた。松葉杖を置いて、ずるずると。包帯は剥がれはじめており、廊下は悲惨なことになっていた。
「これは恐らく強塩基のNaOH──水酸化ナトリウムを使った可能性が高いです」
「事件性がありながら、彼女はなぜ通報しなかったのでしょうか」
「それが出来なかったかもしれませんよ、華さん」
というかゾンビかもしれないと華さんは呟いた。確かに見た目はゾンビだ。
「今、廊下B──1F南棟の職員室前の廊下を清掃しています。もうすぐ終わると思います」
「それでは、彼女はどこに? 」
「きちんと帰りました。学校にお願いしてタクシーを用意してもらったんです。でも、タクシーの運転手は送った後叫びながら学校に帰ってきました」
「宮島さんの家ってまさか」
「──中河原市にぽつんと残った大きな屋敷」
「真田は知っていたの? 」
当たり前だった。私はこの間行ったばかりだ。一体何が、あそこで。
「屋敷の周りはドロドロに溶けた何かがあったそうです。まるで化け物の残骸みたいだと──。恐らく宮島さんは一人で静かに死ぬつもりです」
「この映像からしてもう長くはないでしょうね、生徒会長」
「ええ」
「警察に話した方がいいですかね」
「凛子さん、それはやめた方がいいです」
過ちを繰り返すべきではありません──か細い声で生徒会長は呟いた。意味はよく分からない。
その時、クラシック音楽が鳴った。生徒会長のスマホからだ。
「あ、澤村先生からです。もしもし、あ、はい。──清掃が終わったから私は職員室に行きます」
「あの、生徒会長! 生徒会メンバーは」
「私は生徒を監視る役目。生徒会メンバーも潜まなければならないのです」
それだけ言い残し、職員室の方に行った。




