第十六話 作戦
3月の終わり、私は長に突然呼び出された。人間を捨て、悪魔となりもうどれくらいになるのだろうか。人の不幸を食べ続け、長に近い存在となった。
長から話があるとは──私は少し身構えた。彼女が気まぐれで仲間を殺すのはよく知っている。私が人間だった頃、殺していた。
長の部屋を軽くノックし、入る。
「長、失礼します」
「シーナ、こちらの方、ご存じかしら」
「……ああ、はい。一応ですが。なぜここに? 」
「少し思いついたのじゃ」
長い黒髪に紫色の瞳。彼女は間違いなく、私たちの種族など6つの種族をまとめるハイデベル様だった。
彼女は普段は暗い暗い場所から出てこないはずなのに。よほどすごい思いつきなのだろうか。
「お主、また人間界で罪を犯したくないか? 」
「人間の不幸の味は確かに格別です。しかし、私一人だと最悪の場合あの人にバレてしまうのでは……」
「誰も一人でとは言っておらん」
「私も行くわ」
「しかし長、そうなれば確実にあの人が……」
「殺せばいい話じゃない。恐れなくていいわ」
それにね、と言って長は紙を取り出す。私には見覚えのある地図──矢川市の地図。桜高校に赤丸がされている。
「実はね、あなたが人間界にいたことを羨ましがっていた悪魔を桜高校に通わせているわ。今2年生よ」
「リサテア、随分と羨ましがっていましたからね。彼女なら──。ああ、なるほど。あの人の娘なら桜高校に入る可能性がありますからね。あの人は恐らく、直接の関与を大きな騒ぎになるまでしたがらないはずですから」
「撹乱させるチャンスよ。それに、調査したところによるとね宮島家もいるわ。しばらくは無事だから安心して事件を起こせるわ」
ハイデベル様はどうするのだろうか。そんな疑問にはすぐ答えてくれた。
「わらわにそっくりな人を殺して彼女になり桜高校に通う気じゃ」
「はあ」
「まあ、わらわはただの監督役じゃ。あまり関与はせぬからな。緊急事態以外は呼んではならぬぞ」
「分かりました」
しかし、まともに外を歩いたことのないハイデベル様はどう対応するのだろうか。まさか、遠隔で?
「リサテアのパートナーは中々の人格崩壊者だわ」
「……パートナーを、作ったんですか。後々困りますよきっと」
「あなたみたいな間違いはきっと犯さないから大丈夫」
「……」
私は軽く礼をし、部屋を出る。ポケットから古びた写真を取り出し、眺める。
──裏切りたくはなかった。仕方ないのだ。私は、裏切りたくはなかった。
『シーナ、私を信じれないというのか? お前が病弱だというのはこっちが迷惑だったんだからな』
《そうだよ、リーナの言うとおり》
「……分かってるよ、リーナ、ミーナ」
《さあ、どうするの?》
『私に従え。あの女には既に人格が死亡したと思わせるため私があの女と会う』
「そうする」
私は再び、人間界の地を踏むことに少しためらいがあった。しかし、勇気を持って踏み出した。




