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chain  作者: 神崎美柚
ハジマリ
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第十四話 大切にしたかったモノ

 ボクが覚えているのは血まみれの『お兄ちゃん』と炎に包まれた家。あの日、ボクらは崩壊した。

 でも、まるでそれが夢であったかのようにあたりまえは戻ってきた。ただ──色々と苦しい。


 中河原市、それがボクの生まれ故郷のはずなのに、景色は違う。


 どうしてなんだろう。


────


 リィデさんはそのニュースを見て駆けだした。私も帆乃水もシルディも追いかけてみる。


「探偵だからってあわてなくても! 」

「探偵なん!? 」


 橋乃元までは時間がかかることを伝えたらリィデさんは止まった。そして振り返った。


「それじゃあ明日、ゆっくりと現場を観察するわ。私はリィデ。探偵よ。あと、シルディの母親なの」

「へえ、よろしくな」


 彼女はにこりと微笑んだ。


 夕食後、帆乃水の家で借りた私の部屋のベランダで星を眺めるリィデさんがいた。その横顔はとても悲しげだった。


「何してるんですか? 」

「──昔を思い出していたの。私、人間に裏切られたのよ」

「え……? 」

「学生なら純粋な心を持ってる子がいるかもしれないって思って私はクラス編成をいじくり、特殊な人ばかり集まるクラスにしたの。そしてシルディを編入させたのよ」

「でも、もし私がいなかったら……」

「あなたがいい子だというのは調べがついていたから。シルディがあなたを選ぶ確率が高くなるように仕掛けたのよ」


 リィデさんはあくびをし、さて寝ましょうか、と普通に言った。お、お風呂……。


「私はね、その子が狂ってるなんて知らなかった。だから私は──」

「お風呂、あがったでえ~」

「あ、お風呂。私はお断りするわ。背中の傷は見られたくないし」

「傷!? 」


 さっき小さな声でつぶやいた『狂ってるなんて知らなかった』──まさか、人間に? 悪魔より弱いはずの人間に?


「じゃあ、おやすみなさい。私はお風呂入りますから」

「ええ、おやすみなさい」


 お風呂は気持ちいい。シルディと共にちょっと話し合うことにした。


「ねえ、シルディ。リィデさんのパートナーについて聞いたことある? 」

「話したくなさそうだったから聞いてないよ。背中に深い傷があったし、まあ何となく察したけど」

「……そっか」

「多分、元パートナーが私達一族の羽を奪った本人かと思う」

「傷が羽の根元部分に? 」

「そうだねえ、ちょうどその辺だったかな」


 人間を超越したかのような人だ。元パートナーは一体何をしたのだろうか。

 お風呂から上がり、私達は寝ることにした。リィデさんは既にすやすや寝ている。


「それじゃおやすみ」

「おやすみ」


────


 二人が寝たことを確認し、私は起きあがる。人間ではない人間──まさしくそんな異名が相応しい彼女。なぜ、彼女は狂っていたのか。

 私は調べるため、再びここに来た。本来ならこれぐらいの騒ぎなら、とシルディに任せたかった。だが、思ったより大したことがない。あの時に比べればマシだ。だから少し協力してやることにした。


「まずは私と彼女がパートナーの契りを解いた場所に……」


 悲しいことにパートナーの契りを解けば50年以内に元パートナーの記憶は失われる。パートナーが年であればあるほど記憶、もとい純粋な心は早く消えてしまう。私が彼女と出会ったのはもうかなり前になる。だから私は族の長に無理を言って元パートナーの記憶を頭に植え付けて捜している。

 元パートナーは綺麗な女性だったらしい。名前は長が記録していたところを見る限り杏というらしい。出会った時は21歳。もう生きてはいないとのことで、過去を辿るしかないのかもしれない。


「リィデ様、夜中はあまり動くなと言われたのをお忘れですか? 」

「あら、別に考えていただけよ。そっちは何をしにきたの? 」

「……その、言いにくいのですが、佐波条愛莉が殺されたのを発端に桜高校が再び狙われるかと」

「っ! 」


 私の護衛をするシェクリナは小さく首を横に振った。関わるな、ですって?


「このままではいたちごっこするだけです。私はリィデ様が何を大切にされたいのかよく分からないのです」

「何って……」

「本来ならば人間には関わってはならないのですよ、リィデ様」

「──暖かみ、かしら」

「はい? 」

「気にしないで。興味があるだけだから。もうすぐ終わらせるから」

「──では、私はまた消えるのでご用があればいつでも」


 私は父親とは離れて暮らした。悪魔の世界では当たり前だが、人間の世界ではそれはごく少数だと聞いた。暖かみのある家庭がある──私はそんな幻想が見たくて地上に来た。

 結局、この家こそがその幻想の正体だった。父親というものがあれほど明るいとは私も初めて知った。

 私は、大切にすることなんて──したことなんてあったのかしら。

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