9 裁判─長─
今日の裁判は長についてらしい。やはり、ハナの怒りを受けて感じるところがあるのだろう。
当のハナはのほほんとしており、怒ったことさえ忘れているようだった。
「それでは再開しよう」
今回、私はハナの両手を後ろから握っている。またいつ暴れるか分からないからだ。
「長を本格的に決定したい。このまま私が代理から長になるのは気にくわないと長が言っているみたいだからな」
「当たり前よ。長は私。お母さんから引き継いだのだから。一族以外はダメ」
「──ほう」
「私との結婚も長になるためだったのでしょう? 」
「なっ──」
今日は傍聴席に誰も招かない極秘の裁判。ロドノスの周りには金で雇った悪魔たち。このロドノスが有利な法廷でロドノスがとりそうな行動は分かった。
私は左手でハナの両手を、右手でロドノスが振りかざそうとしたナイフを掴む。ナイフを床に落とし、私は拾う。
「ハナを傷つける奴は許さない」
「だが、妄言を吐いたのはあっちだ。怒るのは当然だろう」
「これぐらいで怒るとは貴様、馬鹿なのか」
「……!? 」
「ハナは長になりたいと言っているのだから、貴様は即刻退くべきだ」
私が言うと、ハナは笑顔になった。スゴく嬉しそうだ。
「お、お前ら! 雇っているんだから、味方をしろ! 」
「我々はソフィアさんの意見に納得しました。というか、貴方よりソフィアさんの方が人望ありますからね? 」
「うっ……」
「お金、少ないですよ」
「……」
ロドノスは顔を赤くして逃げ出した。全く、馬鹿なのか?
「ソフィア、て、いたいよ」
「ん、ああ……ごめんな」
「あの、ソフィアさん。長は一体どういうことに」
「私にも分からない。別人格を持っているのかもしれないな」
「ロドノスに言っていたら今頃どうなっていたんでしょうね」
「恐らく、それでは長なんて無理だろう、と言い返してくるのだろう」
法廷から私達は話しやすい会議室に移動した。彼らはハナが長の時からバックサポートをしていた。私も見覚えがある。
一番最初にロドノスに刃向かったのがハムレス。紳士、という雰囲気を醸し出すいい男性だ。
お金が少ない、と言ったのがレミア。私よりも女性らしいが、はっきりとした物言いには誰も適わない。
「とりあえず、ハナをスフィアに預けようと思う。スフィアを呼び出して構わないか? 」
「そうね。新しい世話人を雇うより安上がりだわ」
「それに信用できないからな」
スフィアに手紙を書き、魔術で送る。これで数時間後には来るはずだ。
「そういえば庭園を潰す際に反対しなかったのか? 」
「私達には知らされなかったのよ。夜中に施工して……困ったものよ」
「我々に言えば反対されるとあいつも理解はしているのだろう。説き伏せるより簡単だからな」
「なるほど、それはヒドい」
すると、思ったよりとてつもない速さでスフィアが現れた。ハナのお世話、ということで何かあったのかとやってきたのだろう。
「どうしたの? 何かあったの? 」
「少し、我々で話し合うことがあるから頼んだ」
「え、うん」
スフィアにハナと別館にいてもらうように頼み、いなくなると私達は早速話し合うことにした。
「さて、ハナと真逆の性格を持つ第二の人格のことだが……自己防衛のために生まれたのならわざわざ長になりたいとは言わないはずだ」
「そこが問題点なのよ。まるで独立した人間よ」
「どういうことかね、レミア」
「だって、長は今まで刃物の扱い方なんてろくに知らなかったのよ? ソフィアさんの持っている物のような攻撃に特化した刃物の扱い方はね」
「そうだな。ただ殺すために刃物を振り下ろす──そういう雑な扱い方しかしたことなかったのに、立派な剣さばきだ」
「──私は刃物を扱ったことないが、長はロドノスを殴りはしても、殺しはしないはずだろう」
「ああ。他人格は基本的なところは主人格とほとんど同じだ。それに──あのナイフさばき、どこかで見た気がする」
その言葉に驚く二人。二人は戦後の生まれなので、ナイフさばき自体に馴染みがない。本来のハナのように相手の不意をついて、ナイフを振り下ろすだけの者が多いからだ。
「ソフィアさん、それでは私達は役にたちませんね」
「本当に、そうだ」
「でも、あなた方にはロドノスをおとす役目がある。彼のせいで乱れているようだからな」
私はほほえみ、別館に向かった。




