第百十九話 なりたいもの
「凛子、あなたには夢ってあるの? 」
「え、どうしたの、急に」
「いや……人間ってほら、夢見がちでしょ? 」
リサテアの唐突な質問にハッとした。──私には、夢がない。今思いつく夢がない。幼い頃から、変わった夢だね、と笑われる夢しか持っていなかった。リサテアも笑うだろうか。
「そうだな……プリンセス、かな」
「へえ、人間の世界じゃ、プリンスと結婚すればなるんだっけ。頑張ってね」
「わ、笑わないんだ」
「立派な夢だと思うけれど、おかしい? 」
「ううん。私もそう思うのに、皆に笑われるんだよね。変わった夢だね、って」
「悪魔には人間の価値観なんて理解できないよ」
いつもより砕けた口調のリサテア。何を考えているのだろうか。
「口調、いつもと違うね」
「だって、お別れだもの。あいつらを倒したら、平和になる。そうすれば私たちも帰れる。凛子も日常に帰れる」
「リサテアは残りたくないの? 」
「もう充分。元々、リィデの娘を見守りたくって偽りの事を言って入学したんだから」
「え、そうだったんだ」
「でも、すごく楽しかった。いつまでも覚えておきたいぐらい」
「そっか……なら、卒業式までいたらいいじゃん」
「……できたらそうしたいけれどハナの代理をしないといけないし、そんなにずっといたら情が移っちゃうよ」
「……」
リサテアは涙をため、泣きそうになりながら言った。そして、微笑んだ。
「まだ皆には内緒。代理のこともね」
「うん……」
赤穂さんが戻ってきた。深刻そうな顔をしている。
「ナトリまで絡んできたわ……」
「はあ!? 何しに来たの? 」
「外を見たら、ほとんど崩壊していたから爆弾を使いに来たんじゃないの」
「はあ……」
「私は情報を得てくるわ」
うんざりした顔のリサテア。私は一つの質問を投げかける。
「リサテアは、その──何になりたいの? 」
「私は──」
ためらいながらも、リサテアは笑顔で答えた。
「皆から愛され、慕われる立派な悪魔かな」




