第百十七話 幸せって、ナニ?
お姉さま、お姉さま、と弾んだ声でアリスが呼びかけてくる。私は起きあがる。
「見てください、お姉さま」
「鎖、凄いじゃないの。こんなに立派に紅い空をつくりだせるなんて」
「ですよね」
私は願いを叶えるために、アリスに結局全てを話した。アリスはにっこり笑って、協力する、と言ってくれた。
「リィデの真なる願い、すごく面白いわねえ」
リィデの願いを聞いて私はひとつの学校を潰した。私は凄く満たされた。ああ、なんて素晴らしいの、と。
リィデは冴えない顔で座っていた。シルディが心配なのかしらね。
「戦の神は不戦の神とも呼ばれているから大丈夫よ」
「……私の祖先の願いは、本当に幸せになれる願いなの? 」
「ええ、そうよ。この間学校を潰した時に分かったでしょ」
「……」
私はその学校で得たしもべを街に放つ。今まで不幸だった私達が幸せになるのよ。必ず……!
「まさかchainが人だったなんてね……呆れたわ」
「鎖は神と悪魔の間に生まれたから半神半悪魔よ。特別な力を持っていて、だからこそ封じた」
「──そう。私も、まだまだね」
「私より知識があったら困るわ」
リィデは知識が乏しい。幸せを求め、何度も、何度も体を変えているのに記憶力は衰えるばかり。何も得られないまま今まで2、3回体を変えたらしい。
私はこれについて、恐らく両親や長が汚れた輩の記憶なんて留めて欲しくない、と願ったからだろうと推測する。
「そういえば鎖はどこにいるの? 」
「ビル街にあるとあるビルの屋上です」
私は確認をする。──いた。すごく、深刻そうな顔をしている。
「今にも死にそう」
「リィデ、あなた何を──」
「長く生きて得られるものは虚無だけなんですよ」
儚げに笑うリィデ。──ふざけないでほしい。私より少し年上だからって……。
アリスはリィデを睨みつけ、怒った。
「あんたねぇ、たかが400年ぐらい生きただけで、何言ってんのよ! 」
「ええ、そうね」
「っ──」
鎖がいつ生まれたのか、誰も知らない。あの浮気性戦の神が妻の憤怒の女神と離婚したのは遥か昔。原因となった立てこもりもかなり昔。
鎖がその頃に生まれていれば、もういくつなのだろうか。私としてはとても気になる。少し、雑談をしようかしら。
鎖はビルの屋上で、柵に腰掛けて紅く染まった空を見ていた。背中を押せば、落ちてしまいそうな場所に何故かいる。
「鎖」
「……イリス」
かなり疲弊しているのが、振り返った顔で分かった。まあ、そうよね。影響受けないのはリィデぐらいでしょ。
「あなたのこと、私聞いていなかったわね」
「私は、……見捨てられた、能力者。生きている価値などない……」
珍しく気弱なことを言い出す。過去については強気になれないようね。
「鎖、気を緩めないで。頑張りなさい」
「……分かってる」
戻ってる途中、哀れな人間の亡骸を見つけた。──ああ、残念、生き残れなかったのね。
その亡骸を踏みつけ、私は帰った。
「アリス。いつでも戦えるように準備を任せたわよ」
「ええ! 」




