第百十五話 赤穂とリサテアの推理話
私は焦った。代償に、時の管理者が好む推理話を要求された。私は頭の中で、当時の人間関係を整理することにした。
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ドルッセオが拾われたのはあの時。日本がまだ江戸時代の前期の頃。当時、悪魔の世界を牛耳っていたカストロリアのお屋敷の前に赤ちゃんはかごに入って置かれていた。
「困ったわねえ、この子の家族が書いた手紙は全く読めないわ」
「そうですね」
こっそり覗いていた私には読めたものの、カストロリアには伝えなかった。ああ、私はこの時から、こんな悪い癖が……。
「私にはもう子供がいるから、誰かに引き取って貰いましょう」
「分かりました」
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「──カストロリアの知り合いの貴族の養子、ディクノアーネかしら」
「へえ、さすが大昔から生きてるだけあるわ」
「彼女は行方不明になってしまうの。だから、そう思ったのだけど」
「面白い推理話のついでに懺悔も聞くわ。私も別にあなたを責めたいつもりじゃないから」
「──カストロリアが読めなかった手紙、私は読めたんです。伝えていれば、あんなことは」
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拾われた女の子はディクノアーネと名づけられ、貴族に可愛がられることとなった。それからしばらくして、カストロリアが子供を置いてどこかに行ってしまった。すぐに帰ってくるだろう、と皆は言ったが、私は手紙のことが気になりカストロリアを捜すことにした。
数時間後、崖の下で見つかったカストロリアは変わり果てた姿をしていた。私のせいだと感じながらも、誰にも手紙のことは言わなかった。──ああ、私は偽善者なんだと今は深く思う。
「カストロリアは本当に事故死? 」
「自殺じゃないのかしら」
その後は最悪だった。貴族たちは幼いカストロリアの息子・ハンペルードに散々カストロリアの悪口を言いまくった。精神的に追いやるつもりだったのだろう。
しかし、彼は耐え抜き、遅い結婚をしてハナの祖父にあたる人を可愛がった。──でも、ハンペルードは限界だった。息子の12歳の誕生日に、母親が落とされた崖で自殺をした。気丈な妻に全てを託して。
私が、あの子供は危険だと知らせていれば。謝りもせずに、ひたすらいい顔をしていた私。ああ、なんとバカなんだろう。
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「カストロリアはつまり、ハナの祖父の祖母ということか。不運だな。ハンペルードの置かれた立場はハナとそっくりだ。誰も守ってあげなかったのか? 」
「私は人間たちの下見していたから。しかも、カストロリアはハンペルードのことについては遺産と土地と建物以外何にも遺していないの。不運な事故故にってところかしら」
「なるほどね」
「しかし、ハナの親族はろくな死に方をしないな。カストロリアは殺害され、ハンペルードは自殺。ハナの祖父ぐらいだろうな。皆から慕われ、最期まで幸せだったのは」
「彼は全く幸せじゃなかったわよ、ソフィア。息子3人から妬まれ、いつ殺されるかも分からなかった。結果的に病死だったけれど、健康的だったら間違いなく殺されていたのよ。孫娘である私が言うのだから正しいわよ」
「──そうか。それでは、次はリサテアの推理話といこうか」
リサテアは一瞬、顔を曇らせたがすぐに元の顔に戻った。
「私と同じ糸使いの人じゃないのかしら……戦争のあと、私は明石と一緒に糸使いとして中心部から離れていたの。あの時、一緒にいた、レミ……かと」
「ああ、そういえば明石兄さんも恋に明け暮れていたわね。本当にバカだったし、しかも殺されるし」
「あの、私については」
「『本当に愛しい。僕だけの天使だ』って帰ってくる度言っていたわね。まあ、今じゃお墓の中だけど」
「誰が、明石を……」
「──イリスかアリスじゃないの? 私がいない間に殺されていたけど」
「……っ」
リサテアは今にも泣き出しそうな顔でレミと明石との話を始めた。
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レミは明石みたいに人間のところにいた悪魔だった。戦って生き延びたわけではなく、運だけで助かった生還者。私は、自分が逃げるために糸使いになろうとしたけれど、レミと明石の境遇からして、私は師匠と弟子仲間ぐらいでおさまろうと考えた。習うだけ習って、さっさと去ればいいんだと。
「明石さんって本当にカッコイいよね」
「糸使いの中の糸使いだよ~! ね、リサテア」
「私ね、糸使いになれたら告白するの」
真っ赤な顔をして話すレミが嫌いでたまらなかった。何もかも失った私の事なんて、ちっとも考えずに。彼女なりの励まし方なんだろうと考えて、私は適当に対応した。
レミが消えることとなったのはルナリの存在だった。嫉妬深く、ストレートにしか言えないルナリ。傷ついたレミはいなくなった。私はいつの間にか、明石が好きになり、レミを親友として認めていた。
「明石は私のものだから」
ルナリのキツい眼差し。明石はいつも困った顔をしていた。明石は君が僕の天使だからね、と私に話してくれた。
三大糸使いとしてルナリ、明石、私は名を馳せた。ルナリは同じ位置にいる私が気にくわなかった。
「あなたを落としてみせるわ」
「出来るのならね」
だけど、明石が沢田家の家に戻ったあと私達の前には二度と現れなかった。ルナリも家族を持ち、私は独りになった。後継者もなしに私は消えることにした。
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「明石は、すっごい幸せだった。なのに、殺されちゃうなんて──」
「……それじゃあ、次は人物関係の整理でもしましょうか」
時の管理者は頭を抱えながら、そう言った。




