第百十二話 オルゴールの音色
私は、夢を見ていた。
幼少期にはぐれた、お母様との夢。お母様は短命だから、と儚げに笑っていた。
私達3人がもれなくお母様の能力を分割して受け継いでいると判明すると、お母様はモーキュネストを菫姉さんに渡した。そして──。
もうかなり昔のこと。磨耗してお母様の顔は、思い出せない。
「きっと、変えれるわ、あなた達なら──」
────
とりあえず窓から外を見ると、住人達が慌てて避難していた。子どもたちはさすがに眠いのか、抱えられている。
赤穂が動き始めている。鎖には理解できているのだろうか。
「私も久しぶりに能力使って、疲れたわ……」
「とりあえず、地下の様子見に行こうか」
「そうね」
地下には、誰もいなかった。呆然としていると、懐かしいオルゴールが聞こえてきた。
────
お母様は私達にオルゴールをくれた。悲しそうな顔は今でもなんとなく覚えている。
「──」
「────」
「────? 」
「──────────」
「────」
何も、聞こえない。つらい、つらい。
この夢から、早く、抜け出したい。
────
「これって、蓮華に渡した……お母様のオルゴールの音色……」
「蓮華姉さんに渡したの? てっきり、菫姉さんかと」
「あなたは私がどれぐらいお母さんと似ているのか知らないの? 」
「……あ、ごめん」
ソフィアはオルゴールを見つけ、私達に見せた。そこには──。
『お母さんの敵を早く倒して欲しいの。だからこそ、お母さんはこれを贈ります。 お母さんより』
「敵に心当たり、あるか? 」
「……うーん」
「お父さんなら神の中ではかなりまともな部類で人気だったと聞いているけれど……お母さんは小さいころいなくなったから分からない」
「そうか……オルゴールがヒントなのか」
オルゴールのメロディーはトリカゴのお話──神達の物語のひとつを語っているらしい。私も、菫姉さんもモーキュネスト生まれモーキュネスト育ちだから全然分からない。トリカゴによく行く菫姉さんでも聞き覚えはない。
「──まさかとは思うが」
「え、どうしたの」
「これはあれだと思うのだが」
「ソフィアは神様の住むトリカゴ生まれだから分かるのね」
「……幻想を魅せる能力を持つ古代神の種族がいた。その古代神のリーダーは、自分達がいずれ滅ぼされるのだと悟り、とある詩と共に生まれてまもない女の子を悪魔の世界に送り込んだ。このオルゴールはその詩の音色だ」
「敵なの? 」
「石の女と呼ばれ、嫌われたヒナギクの話は有名だ。特に──彼らとは戦った。彼らに家族を奪われ、独りになり復讐を誓うとその彼らを抹殺し始めた。──だが、彼女は短命だった。だからこそ、家族を作りたくって唯一嫌わなかった自然の神と結婚した。そして、強すぎる自分の能力を3人に分けることにした。それは見事に成功した。──自然の神から聞いた」
「……お母様がいなくて、自然の神、もといお父さんはどうしてるわけ? 」
「『自分は、ヒナギクがただの暗殺者じゃないことを皆に伝えるだけで精一杯。自分には、ヒナギクの種族の敵である古代神を殺せる能力なんてないからね』と昔言っていた。今は知らないが、多分伝え続けている」
そして、ソフィアはオルゴールの音色が止まると、オルゴールを私にくれた。
「鎖は、本気で挑んできたスミレに疑いをもった。恐らく、レンゲとの戦いで確信に変わり、さらったんだろう」
「……まさか、知り合いなの? 古代神の末裔と──」
「だろうな。あの古代神達は裏切らない世界を目指している。鎖も多分、同じ気持ちだ」
「……鎖も変わったのね」
「……とりあえず、赤穂の所に行こう。今なら住人達はほとんどいない」
「そうね」
しかし、外に出るなり、菫姉さんと私は倒れてしまった。赤く染まった空。そして、この空気。
「私もさすがにこれ以上抱えられないぞ……」
「鎖は、末裔と、本当に」
「……ったく」
ソフィアはいつの間にか四奈をお姫様だっこしていた。騎士の鏡だ。
────
足音だけが響いている。私のと、誰かの。
その誰かは、私を追いかけている。どうして、だろう。
「───」
呼びかけられても、分からない。聞こえない。
「────」
振り向くと、歪んだ笑顔を見せる、鎖がいた。
「あなたは邪魔なのよ──」
理解ができない、邪魔? どうして、私が。




