第百十話 モルトレアでの決闘
私達が向かうモルトレアとは、悪魔が儀式や決闘で使う場所。便利な貸し出しホールや体育館がいくつかあり、市民はよく利用する。ちなみに沢田赤穂の収入源のひとつでもある。
鎖により、地下は禍々しいものに変えられていた。鎖の好みだ。気持ち悪い。帰りたい。
「早いな。ここに来たら殺されるのが分からないのか」
「……殺されはしない」
「そうか。ならば」
無言で鎌を投げてくる。避けたものの、その鎌は血まみれで私達は拾う気にはなれない。──誰の血?
「その血はモルトレアの職員のもの。人間はとても美味だが、うるさいものでな」
「──嘘、どうして、」
ソフィアは昔からこうだっけなと首をかしげ、スミレ様は顔面蒼白になり、蓮華姉さんは驚きから座り込んでいる。私は鎖の悪食には何となく、心当たりがあった。
──一度でいいから、自由に食事をしてみたい。それは許されないとしてもな。
まだ鎖があの髪の毛を封じていて、私と仲良しだったころのこと。事故で封印がとれるまで鎖は優しい優しい少女そのものだった。
まさか、封印がとれた時既に悪食に? モーキュネストには対象がいなかったから気付きはしなかった。
「蓮華姉さん、鎖って」
「今はとにかく対策法、考えて」
そう言われて黙り込む。むうっ、対策か。
「正面から突っ込むのが」
「バカ」
「じ、冗談だから」
鎖は鎌を拾うと、蓮華姉さんの胴を斬ろうとした。──しかし、蓮華姉さんは見事に避ける。さすがだ。
「じゃあ、私とやるってことね」
「当たり前だ、レンゲ」
蓮華姉さんは手を刃物にすることが出来る。うっかり触れば、大変なことになる。
私達はモルトレアの2階に行った。そこには、誰かがいた跡だけがあり、深夜だったことから被害は最小限に済んだのだと悟った。
「つまり、ここを警備したり施錠するべく残った職員がやられたわけだな」
「何とかしないと」
とは言え、モルトレア自体が異常な空間になっており、私達の気分も最悪だった。今すぐにも浄化してほしい。
『ここも汚染されてしまったのね』
「……!? 」
振り返ると、黒髪に赤目の──四奈がいた。足はあるが、気配はしない。
『赤穂に頼まれていてね。こういう空間浄化もアタシの役目だから』
「……四奈、いたのね」
『モルトレアで浄化のお仕事をしているの。深夜に汚らわしい人間の気を浄化をしてほしい、と頼まれたからね』
「赤穂らしい考え方だこと。それじゃあ、この空気は」
『──少しだけなら、ね』
四奈は珍しく、薄く笑った。
────
もうどれだけ戦ったのか分からない。どれだけ交えても、鎌は傷つかない。私はもう、大分ボロボロだ。
「随分ともろいことだ。所詮、そんなものということか」
「──あなたの鎌が強すぎるだけじゃないの」
「当たり前だ。戦の神の加護を受けた鎌だからな、傷などつけれるわけがない」
「へえ、そう、だったのね。戦の神ね……」
私は力をこめて、石を投げた。鎖の太ももの肉が少し抉れる。よし。
「……なるほどな。君の母親は」
「分かったのなら、降参しなさい」
「こちとら、鎌があるからな」
私は後ろにジャンプして避ける。母親から受け継いだものは石だけではない。敏捷力だって受け継いでいるのだから。
「お前は幸福になりたくないのだな」
「あなたの言う幸福は私達のと違う」
「……そうか」
すると、目の前が暗くなった。
────
「……四奈、無理しないで」
『大丈夫、だから』
四奈は無理をしながらも浄化を終えつつある。しかし、鎖は力を強めているらしく中々終わらない。
「そういえば、鎖は何の神との混合なの? 」
「さあ、分からない」
「スミレ様は? 」
「聞いていないけど、父親はかなりの浮気性らしいわね。鎖の母親と出会い、正妻を捨てたあとは浮気をしていないとか」
「神様、大抵そうだからな~」
親が分かれば、弱点というのは分かりやすい。たとえば、私達3姉妹の母親は石の女と呼ばれた女神。弱点は胴体への攻撃。──つまり、あの鎌とは相性が悪すぎる。
「そういえばあの鎌。まさかとは思うが、戦の神の物か? 」
「……確かに浮気ばかりする男だわ。正妻に憤怒の女神を美しいからという理由だけで選んだバカでもあるけれど」
『無理ね、きりがない』
四奈は諦め、座り込んだ。鎖の力はどうなっているのだろうか。




