第百六話 偽り
翌朝。結局心配で泊まっていた私はインターホンの音で目覚めた。
紫色の髪の女性がいた。誰だろうか。
『代理で来ました、蓮華です』
「……ああ、はい」
彼女はいつもの人が実家に戻っている間、お世話してくれるとのこと。おとしやかな仕草はうっとりと見惚れるほど完璧。
凛子と会わせ、私は任せて登校しようとした。しかし、引き止められた。
「今日は私のカウンセリングを受けて。休むよう連絡はしたから」
「……はあ」
「それじゃあ、カウンセリングを始めましょう」
バックから彼女が取り出したのは、やけに派手なピンク色の髪の少女の写真。桜高校の制服を着ている。
「あ……」
「見覚えあるかしら」
「……」
凛子は頭を抱えだした。それを見てふむふむと頷き、メモをする。いつもの人とは全く違う。
「この絵、彼女──シルディのこと、描いたのかしら。特徴を捉えていて、すっごく上手だわ」
「っ……シル…ディ……」
「記憶の断片に残っているのでしょう、シルディのことが」
「……」
私はあの気味悪い絵をしげしげと眺める蓮華さんが不思議でならなかった。シルディとは、誰なのだろうか。
「あの、蓮華さん」
「凛子さんは意図的に記憶を奪われているの。元々、妄想世界にいたとは誰も知らずに」
「え? 」
「味覚障害、嗅覚障害。これらは先天的。この部屋だって誰も見たことがないから知らなくて当然よ」
「それじゃあ、その──」
蓮華さんはにっこりと笑った。
「偽りの存在、あなたが悪いの」
「……は? 」
「あら、私のこと忘れたのかしら。瑞穂、いえ──菊」
「誰、それ」
「……フフッ」
この人は何を言っているのだろうか。私にはちっとも分からない。
私は髪ゴムを外された。
────
「……これがスイッチ? 」
「……乱暴はんたーい」
私はやれやれと首を振る。遂にバレるとは。こりゃあ、菫姉さんに怒られる。
「菫姉さんが忙しいから任せるわよと言ってきたけれど、まさかあなたとはね」
「悪い? 私は自縛霊を救ってあげたのよ、蓮華姉さん」
「──あのねえ、そんなんだから姉さんは怒ってあなたを追放したのよ」
「初耳」
「……とにかく、いますぐ彼女を」
「瑞歌を一人にするわけ? 2年前のこと、分かってるでしょ」
「──」
蓮華姉さんははあ、とため息をつく。凛子をつつく。
「あれ、わた、し」
「おっ、戻った? 」
「菊! 」
「──ねえ、シルディは? どうなったの? 」
「すっごーい、蓮華姉さん」
「あなたが悪いのよー、分かっているのかしらねー」
「ハイ」
「凛子さん、初めまして。リサテアは今ね、菫姉さんと共に鎖という危険な奴を追いかけているの」
「……シルディを救うため? 」
「ええ」
どうやら凛子は無事に自縛霊から解放されたらしい。他人を妬み、幸せそうな人を次々と不幸にしていった2年前に亡くなった瑞穂。姉である瑞歌はそれにとり憑かれていたらしい。──まあ、悪魔も神様の娘も気付かなかったけれどね。
「ところで菊、自縛霊って美味しいの? 」
「やだなー、食べてるわけじゃないよ。きちんとお墓に戻しているだけ。毎日お墓に行かせたのも、きちんと戻そうとしていたことによるもの」
「一度に戻せないなんて、そんなにすごいのね」
「自縛霊? 」
「瑞穂という少女のこと。菊は瑞穂を飲み込んで、あえて瑞穂になったの。そしたら、見事に周りが不幸になっちゃったわけよ」
「あ……私もですか」
「そうね。あなたの嗅覚とかを完璧に奪ったわよ」
「ええっ!? 」
「安心して。もう大体治したから」
ううむ、完璧すぎる。本当に凄い。
「私達が守るから、大丈夫」
「私も含むの? 」
「当たり前でしょ。さあ、行きましょう」
ああ、私、巻き込まれた。どうしよう。




