第一話 夢見る乙女
「おはよ~、凛」
「おはよう、みっちゃん」
朝起きたらプリンセス──なんてことは今日もない、普通の日常が始まった。正直つまらない。真田凛子を16年間やるのは本当につまらない。
家までやってくるのはおっとりとした親友のみっちゃんこと凌川みちる。幼なじみでもある。テニス部のエースで副部長となんとも羨ましい肩書きをもつ。
「また大会出るんでしょ?羨ましいなあ」
「そんな、きついだけだよ。凛もコンテスト頑張ってね」
「うへえ」
私こと真田凛子は美術部に所属している。まあいくつか賞はとってるけど、そんなに大きくない。
「おっはよ」
「吉田、朝練は? 」
「そう言うお前らはどうなんだよ」
「私もみっちゃんもありませんよーだ」
「ちくしょう」
もう一人の幼なじみ、吉田孝徳。最近はちょっと変態でつっかかってくることが多い。
吉田はやってくるバスに走って追いつき乗る気らしくものすごいスピードで走って行った。私たちはその次でも構わないからのんびり。
「委員長もそろそろ来るかなあ」
「おはよう、二人とも」
「あ、はるちゃん」
私が苦手な委員長こと宮島春香。みっちゃんは仲良しだが、私はこの委員長という雰囲気が苦手。
「鈴ヶ屋のお祭りには参加するの? 」
「その日練習なんだよねー。ごめんねー」
「凛子は? 」
「んー、絵の進み具合による、かな」
「そっか」
バス停までのんびりと歩く。吉田は今頃猛ダッシュかな。
バスがやってきて乗る。高校までは約30分かかる。
「ほのは朝からバレーボール自主練だってよ」
「あー、またか」
「一緒に登校したの中学が最後じゃん」
ほのこと帆乃水はバレーボール命の幼なじみ。みっちゃんもすごいがそれを上回る情熱をバレーボールに注ぎ込んでいる。例え練習がなくても元日本代表の顧問に憧れているため、貸し切って練習をする。
他愛もない会話をしていると、桜高校前に着いた。
「あれ? なんか騒がしいね」
「どうしたのかな」
人混みの隙間から学校を見る。校庭にはピンク色の髪の少女が。え、て、転校生かな。
「予鈴が鳴っちゃうからどいてください! 」
「あ、ごめんね」
さすが委員長。人混みがなくなる。確かに予鈴が鳴る時間だった。
朝のHR。先生は今日、なぜかシャキッとしていた。いつも眠たげなのに。
「今日は転入生がいるわよ」
「初めまして、シルディです」
「可愛い……」
にっこり笑う彼女は人混みを作った原因のピンク色の髪の少女だった。いやそれにしても、外国人でもピンク色はいないよね。
「春香さんの後ろね」
「はぁい」
お人形さんみたいな風貌。体育は苦手そう。彼女が私の横を通ったとき、とてもいい香りがした。
放課後。絵が大好きだというシルディさんと悠花と華で美術部へ。
「先輩、こんにちは」
「華ちゃん! 大変なの! 絵が、絵が……」
「ど、どうしましたか」
「先生の描いた絵が何枚かなくなっているの」
「!? 」
絵を描くのが趣味の顧問はよく絵を描いている。その顧問は今、少し旅行に出かけている。
「どうしよう、展覧会開きたいって言っていたのに」
「ここは解決しないと……」
「任せてください。この中で一番暇なのは? 」
「凛子……かな」
「わ、私? 」
シルディさんと協力して解決しなければならないとは。スゴく疲れる。
「あ、じゃあ、頼むね」
「分かりました」
人に面倒事を押しつけるなんてヒドすぎる。先輩たちめ……。
美術室を出ると、シルディさんがにこりと笑った。八重歯が光る。
「ごめんなさい、面倒事をあなたに協力してもらって。これは私の問題なのに」
「え、シルディさんは……」
「恐らくあなたの顧問は美術の教師ではなく、白い肌の外国人でしょう」
「な、何で? 何で、知ってるの? 」
「……私の知り合い。というか敵、かな」
「……? 」
敵とは物騒な言い方だ。余程仲が悪い親戚や知り合いでもそんなことにはならないのに。
シルディさんは私の手を引っ張った。どこに行くのかと思ったら屋上だった。
「あの、ね。私は悪魔、なの」
「……え」
「その、それで美術部顧問のスフィアとは戦っているの。あの子、パートナー見つけずに一人で次々と敵を殺してるから危険なの、お願い、一緒に止めて」
「よく分からないけれど、スフィア先生に何かあるのね」
「そう。そんな彼女に戦いを挑んだのが絵を泥棒した犯人よ」
悪魔とか憧れる存在がこの世にいるなんて、とても嬉しい。私はシルディさんについていきたくなった。
「シルディさん、私協力するよ! もっと詳しく教えてよ! 」




