Prologue_colorless
骨を断ち切り、肉を切り裂く。裂け目から流れ出た温い血が冷ややかな地面に滴る。恐怖に満ちた断末魔は、けたたましく鳴り響く警報に掻き消された。
首をへし折り、動かなくなった屍の腸を何度か貫くと、今度は両手で邪魔な防護服を引き裂く。
開いた腹の穴に腕を突っ込むと、中から適度な大きさの内臓をもぎ取る。赤黒く染まったその手に掴んだ内臓を口元まで運ぶと、大きく開いた口で齧り付く。口一杯に鉄の匂いが広がる。
咀嚼を繰り返し、少し固い肉を細かく分断する。ある程度まで細かくなると、それらを一気に呑み込む。
しかし、何かが足りない。続けて他の内臓にも手を付けるが、
「…違う、これじゃない…」
治まるどころか、逆に強くなる空腹感が心を蝕む。
齧りかけの肉片を床に落とす。
あの血の味と匂いが頭から離れなかった。異常に恋しい。
呼吸が苦しく、息が乱れる。喉が焼かれているかのように痛みを発していた。全身の血が荒れ狂ったように、血管の中を暴れ回っている。
我慢の限界だった。頭を抱え、その場に踞る。
「あの…大丈夫ですか?」
ふと、横合いから掛けられた声に振り向く。そこに立っていたのは十四、五歳程度の少女だった。心配そうな表情をこちらへと向ける。彼女の奥には数名の男女が目に入った。
「こんな所にいたら危ないですから、一緒に外へ…」
少女の言葉は最後まで続かなかった。
驚きに満ちた表情を浮かべ、少女は喉元を手で触れる。その手の隙間から血が伝った。
「えっ…ぁ、」
その喉元からはごっそりと肉が噛み千切られていた。
頭から垂れていた糸が断たれたかのように、その体は床へと崩れ落ちた。
少女を待っていたはずの男女達は、目の前の光景に硬直していた。何が起こっているのか、理解が追い付いていなかった。
「これだ…」
その人物は噛み千切った少女の肉を呑み込むと、小さく呟いた。そして、踊るようにして再びその喉元に齧り付く。周囲には目も向けず、その肉を夢中で貪る。
「ひっ…ひぃぃ!」
悲鳴を上げ、立ち尽くしていた男女達の一人が逃げ出した。それによって我に返った者達が次々に背を向けて走り出す。
しかし、その人物は気にすることなく、血で染まった口元に笑みを浮かべていた。
「おい」
今度は内臓へと手を伸ばしたその人物に声が掛かる。
「お前…何してるんだよ…」
顔を上げた先に立っていたのは見知った男だった。口の中にある肉片を全て呑み込むと、その口を開く。
「何って、そりゃ…」
一瞬の間…その口は止まった。
「…何してたんだ?」