〒 サルエマ砂漠王国 前編
アリア達がサルエマ砂漠王国に到着したのは、太陽が沈もうとしている夕方の頃だった。
王国の門は固く閉ざされており、番をしているひげを生やした兵士は、アリア達を見つけると槍を構えた。
兵士「そなたらは何者か。何をしに来た」
アリア「エミリオン王国から来ました。黒い影を追っているんです」
兵士「黒い影…もしや、あの忌々しい人さらいのことか」
アリア「そうです。ここで手がかりを見つけたいんです。入れませんか?」
兵士「…しかし、お前達が黒い影の一味だということも考えられる。証拠はあるのか?」
サクラ「証拠?」
タクユキ「おいおい、どうすんだよこれ」
すると、後ろで様子を見ていたリートが、すっと前に出てきた。
兵士「お前は何者だ?」
リート「…私は、こういう家の者です」
リートは、羽織っているマントの裏側を兵士に見せた。伝説の生き物らしき刺繍が入った紋章が縫い付けられている。
兵士「あ、あなたは…オルガ家の…?いや、ライト様にしては聞いている話と違う…。もう少し大人なはずだが…」
リート「ライトは家の長男であり私の兄上。私は弟のリートです」
兵士「なるほど。これは失礼…さぁどうぞ」
兵士は5つ程ある錠を、それぞれ違う鍵であけていく。門が開いた。
リート「行こう」
アリア「え、ちょ、待ってよ」
サクラ「ありがとうございます」
兵士「いやいや、こちらこそ失礼したね、お嬢さん」
タクユキ「あー、腹減った。宿屋行こうぜ」
アリア「リートって、お兄さんいるんだね」
リート「あ、あぁ…」
タクユキ「いや、こいつ自己紹介した時さ、オルガ家の次男だってちゃんと言ってたぞ」
サクラ「でも、すごいですね。オルガ家の影響力…」
おばさん「あんた達、ヤシジュースのおかわりはいるかい?」
タクユキ「ください」
サクラ「私も」
お兄さん「おばちゃん、こっちカレー2つ!」
おばさん「あいよ!ちょっと待ってな!」
この国の宿屋は活気がいい。レストランとして開放されている食事スペースは、働き盛りの人達もいる。そんな熱気の中で、アリア達は夕食を食べていた。
サクラ「繁盛してますね、ここ」
タクユキ「ま、カレーって初めて食べたけど、うまいしな」モグモグ
アリア「ヤシジュースおいし~♪」
リート「さすがサルエマ砂漠王国。こんなに栄えているとは思わなかったな……ん?」
レストランに誰か入ってきた。若い女性が2人。どちらも際どい衣装を身に付けている。
それを見たお客達が歓声をあげる。台所からさっきのおばさんが出てきた。
おばさん「おやおやよく来たねぇ。今日も頼むよ!」
お姉さん「もちろん!」
おばさん「おーい、姉ちゃん達が来たよー!」 すると、おばさんの息子らしき青年が、小さな太鼓を持って現れた。
レストランの真ん中にあるステージで、青年の太鼓のテンポに合わせ、歓声の中、お姉さん達が踊り出す。ちょうどアリア達の目の前だ。
アリア「すっごーい…」
サクラ「わ、私、あんなの着れません…」
タクユキ「うひょー、派手だなぁ」
リート「確か、サルエマでの伝統だっけか、この踊りは」
お姉さん「あら珍しい!女の子がいるわ!」
お姉さんの1人が、踊りながら話しかけてきた。
おばさん「あぁ、エミリオンから来た旅人らしいよ」
お姉さん「ねぇ、一緒に踊りましょうよ!」
アリア「え…いいんですか?」
「おう、踊れやお嬢ちゃん!」「ヒューヒュー!!」
アリア「それならサクラも!」
サクラ「え、あっ、はい!」
お姉さん達にリードされながら、アリアとサクラも踊る。ステップを踏んでいくうちに、お姉さん達とシンクロする動きも出来るようになってきた。レストランが渦巻く熱気に包まれ、最高潮に達した、その時。
バァンっ!!
勢い良く扉が開いた。見ると若者が、真っ青な顔をして、息を切らせている。
おばさん「なんだ、どうしたんだい!?」
若者「出た……人さらいが出たぁっ!!」
「「「ええぇぇぇぇっ!!!?」」」
レストラン内が一瞬でパニックになった。
4人は誰よりも早く外に飛び出す。 もう暗くなり星が瞬く夜空に、目を凝らす。
タクユキ「…いた!」
アリアも見つけた。黒い影を1つ、月が照らしている。その影が小脇に抱えているのは…。
サクラ「番をしてた兵士さんじゃないですか?さっきの…」
アリア「えぇっ!?…本当だ、ひげ面だ!」
リート「覚え方ひどいな」
青年「キミ達、危ないっ!中に入って!」
さっき太鼓を叩いていた青年が、慌てた顔で手招きする。
アリア「でも兵士さんが…」
リート「駄目だ、あそこまで遠ざかれたら追いつけない」
サクラ「入りましょうか」
タクユキ「あぁ、どうせここに泊まるんだからな。中で作戦会議だ」
アリア「…何か手掛かり無いかなぁ…」
静まり返った宿屋のレストランで、一同はヤシジュースを飲みながら話し合っていた。
サクラ「あの、そういえば黒い影って、一体どこへ行っているんでしょう…?」
するとリートが、鞄から一冊の古い本を取り出した。
リート「俺の家の倉庫にあったんだ。遠い昔に書かれた古文書らしい。…ちょっとここを見てくれ」
本を開いた彼が指差したのは、世界地図らしき絵。
リート「ここがエミリオン王国」
エミリオン王国がある大陸は、地図でいうと北西の方角。同じ大陸に、この間訪れたラフタ村もある。その少し東に、村の人が避難している湖や、城の絵…今はルングの遺跡と呼ばれている、あそこだろうか…がある。
タクユキ「で、ここがサルエマ砂漠か」
その南には、大きな大陸。エミリオン王国を含む大陸からほんの少し離れたところにあるが、そこはただの砂漠としか記されていない。
サクラ「サルエマ砂漠王国が書かれていないってことは、300年は前のものなんですね…この古文書」
リート「そういうことになるな。そして、ここ、エミリオン大陸の東にあるのがジパングっていう国。1つの島になっているんだ」
タクユキ「あと、でかい海洋の向こうにあるのが、アミル大陸。北には極寒のコロオの島、南はダルカノ半島だっけか」
地図とにらめっこをしていたアリアは、あることに気がついた。
アリア「ねぇ…、この、サルエマとダルカノ半島の間にある大きな島は…?」
リート「そこなんだ」
リートはアリアが言うその島を指差す。
リート「俺達3人は学校で、この島は約250年前の地震で海に沈んだって聞いていたけど…、ここ、何かあるような気がするんだ」
サクラ「…この島が本当はあるのだとしたら、一番怪しいですね…」
アリア「この古文書、その島について何か書いてあるみたいだけど…」
アリアは本をパラパラとめくり、そう呟いた。
リート「そう。だから持って来たんだ」
サクラ「もしかして、スムラ博士に?」
リート「そういうこと。……って、アリアとタクユキはきょとんとしてるな。スムラ博士っていうのは、エミリオン•サルエマで唯一の考古学者なんだよ。きっと解読できると思うんだ」
アリア「つまり、明日はその人のところへ行くの?」
サクラ「そうですね、さっそく行きましょう」
タクユキ「……悪いけどオレはパス」
タクユキがテーブルに頬杖をつき、片手をあげた。
リート「なんで?」
タクユキ「ちょっとやりたいことがある」
リート「…わかった。じゃ、今日は解散な」
アリア•サクラ「はーい」
タクユキ「………」