〒 ラフタ村•湖•ルングの遺跡
アリア「…って」
町の外へ踏み出した瞬間に、アリアは絶句した。
赤くてプルプルしたものが、アリア達めがけて突進してきたからだ。
アリア「何これ…」
サクラ「あ、ゼリーベスですね」
タクユキ「…オレにはちょろい」
タクユキが、持っていた鉄の重そうなハンマーを振りかざした。
ゼリーベスは、あっけなくつぶれ、パっと消えていった。
アリア「…それ、何kg?」
タクユキ「100kgって聞いたような気がする」
アリア「えっ…」
自分の体重の2倍近くあるものを、そんなに軽々と振り回すなんて。タクユキは本当に人間なのだろうか…。
リート「えっとな、ここから北西の方向へ行って、ラフタ村に向かうぞ」
サクラ「あれ、サルエマ砂漠王国に行かないんですか?」
リート「…サルエマ砂漠王国が、ここから南のもう1つの大陸にあるだってことは知ってるだろ? こことサルエマとの間の連絡橋に、この間、船が突っ込んだんで、壊れちまったんだよ」
タクユキ「つまり、行かないというより、行けないということだな」
リート「そういうことだ」
アリア「ラフタ村まで、どれくらいかかるの?」
サクラ「歩きだから、5日くらいです」
アリア「5日って…まさか、夜通し歩くの?」
サクラ「もちろん休みますよ」
アリア「よかったぁ」
リート「何か来るぞ!」
リートの声に、さっと身構えた、その時。
ゼリーベスが4匹あらわれた!
リート「ゼリーベスのグループか」
サクラ「ちょうど1人1匹ですね」
リートは細身の剣を鞘から抜くと、ゼリーベスに刃先を向ける。
サクラの方は、先に丸い水晶玉がついた杖を構えた。
サクラ「…メラ!」
すると、魔法陣が発生し、杖から出た小さな火の玉が、ゼリーベスに命中した。
タクユキも、あっさりとゼリーベスをつぶしてしまった。
アリア「…私、何も武器無いような気がするけど……あっ」
アリアは、ベルトポーチからナイフを取り出し、緑色の水晶を握り締めた。すると、光がはじけ、ナイフが巨大化する。
アリア「えいっ!」
ゼリーベスに切りかかると、一発で倒すことが出来た。
リート「お見事だな」
アリア「早く行かないと、寝るところを見つける前に日が暮れちゃうよ」
タクユキ「…今日は誰が見張りをするんだ?」
サクラ「私はイヤです」
リート「俺も、明日に備えて寝たいな」
アリア「タクユキは、イヤ?」
タクユキ「…でも、見張りすると、それなりに経験値に差をつけることができるぜ」
サクラ「じゃあ私やりたいです」
リート「いや俺が」
タクユキ「そこは俺だろ」
アリア「私もやりたい」
サクラ•リート•タクユキ「どーぞどーぞ」
…こういうパターンは、全世界共通なのだろうか…?
とりあえず、戦闘に関してはアリアが一番遅れていそうなので、いい機会だ。
星空が世界を覆う。
3人は山壁に見つけた洞穴で寝ているが、アリアは入り口であくびをしていた。
たまにゼリーベスや、その他の魔物が通っていくけど、襲ってくることは無い。
夜は長い。アリアはうとうとし始めた。
すると。
リート「…起きているか?」
アリア「…リート?」
暗くて顔はわからないけど、リートの声だ。
リート「今日1日ご苦労さん」
アリア「明日もこんな感じかあ、いいね、こういうのも」
リート「…なぁ、お前がいた世界って、どんな生活しているんだ?」
アリアがいた世界。
それは…。
アリア「…便利なものがたくさんあるの。音楽や遊びや仕事が全部できる道具もあれば、ボタンを押すだけで1から10までやってくれるものもあった」
リート「そういうのを使っていたのか?」
アリア「うん。今じゃみんな使ってる。私がいたところは、魔物なんていなかったから、びっくりしちゃった」
リート「人間しかいないのか?」
アリア「動物とか、いっぱいいるよ」
リート「…どんな人達なんだ?そっちは」
アリア「こっちとあんまり変わらないよ。いい人はいっぱいいる」
リート「…そうなのか」リートは星空を見上げた。「…俺らより、便利な生活、か…」
流れ星が、キラっと輝いた。
アリアは呟いた。
アリア「…私、ここに来てよかったって思う」
アリア「みんな優しくて、いい人だよ」
ゼリーベスが、目の前を横切る。
リート「…んじゃ、おやすみ」
アリア「おやすみなさい、リート」
そして、出発から5日目。
アリア「…ここ?」
リート「あぁ。ここに間違いない」
ラフタ村。
そこは、山々や田園が広がる、のどかな村だった。
今が実りの季節なのか、黄金に輝く稲は垂れ下がり、果物の木も実をつけている。
しかし。
タクユキ「…人がいないな」
サクラ「収穫日和なのに、誰も外に出ていませんね…」
静まりかえった村。誰もいない村。
アリア「これも、あの黒い影のせい?」
タクユキ「そうとしか思えないな」
すると。
老女「…客人かの」
振り向くと、白髪を結い、腰を曲げた老女がいた。
サクラ「この村の方ですか?」
老女「あぁ、そうじゃよ。ここの長老じゃ」
老女「ほほぅ、黒い影を追っているとな?」
リート「そうなんです。何か知りませんか?」
老女「…そうじゃのう」
老女は少しして、こんなことを言い始めた。
老女「あれは、影というより、黒い布を被っておるみたいじゃったの」
アリア「…言われてみれば、そうだったかも…」
タクユキ「本当か?」
アリア「うん、そんな感じがしたような」
サクラ「…何か聞こえませんか?」
サクラが見た先から、かすかに音が聞こえる。これは…音楽?
老女「そうなんじゃ、今日はわしの孫の結婚式での。今日だけここに来たんじゃよ」
タクユキ「け、結婚式?」
よく見ると、はるか遠くの方で、一組の男女が踊っている。あの2人が新婚夫婦らしい。
リート「今日だけ?」
老女「そうじゃ。黒布からさらわれないよう、今は村の外にある湖で生活しておるんよ」
サクラ「黒布?」
老女「ここではそう呼んでおる」
しばらくして、踊りが終わったのか、夫婦がこちらに向かって走ってきた。
老女「こっちの兄さんが、私の孫のコタローじゃ」
コタロー「どうも、初めまして」
コタローは民族衣装らしきものを着て、爽やかな笑顔を見せている。
コタロー「僕のハニーのメルだよ」
メル「やだ、ハニーなんて」
照れてはにかんでいるメルという女性は、とても可愛いらしい。
老女「さてと、米が見事に実っておるわい。刈って湖へ帰ろうぞ」
コタロー「うん、わかったよ」
メル「じゃあ、私はぶどうを」
サクラ「手伝います、メルさん」
アリア「私も」
タクユキ「…オレは稲刈りするか」
リート「収穫なんて、初めてやるなぁ…」
老女「ありがとの、お若いの。よければ湖のところまで一緒に来てくれないかい、ごちそうするからの」
そして、日暮れ時。米やぶどうを始め、クルミやりんごやにんじんなどを、どっさり籠に入れ、アリア達は村の東にある湖へと向かった。
とても大きくてキレイで、澄んでいる湖。獣道をかき分けほとりにつくと、いくつかテントが張ってあって、そこから1人の男性が出てきた。
老女「おぉ、ゴンタローよ、手伝っておくれ」
ゴンタロー「はいよ、かあちゃん。…おや、客か?」
コタロー「うん。あの黒布を追っているんだって」
ゴンタロー「ほほぉ、若いことはいいことだ!さぁ、みんな出て来い!」
すると、テントから、子供や大人、老人まで、十数人が出て来た。
ゴンタロー「今日はちょうど、鹿肉が食べられるぜ。運がいいな、お前ら」
アリア「ありがとうございます」
…とは言っても、鹿肉を食べたことがないアリアにとって、未知の味である。
ゴンタローは器用に鹿をさばき、棒に突き刺して火元に刺す。
ゴンタロー「こうして食うのが、一段と美味いんだぞ!」
リート「…なんと野蛮な…」
タクユキ「…お前は貴族だからな。世界は広いんだぞ、リート」
サクラ「美味しそうです~」
ゴンタロー「だろ?」
老女「せっかくじゃ、ぶどう酒も開けるかの」
アリア「私は未成年なので、ジュースください…」
サクラ「4人全員そうですって」
リート「そっちの世界も、やっぱり子供が酒飲んじゃいけないのか」
タクユキ「…全世界共通の法律…」
メル「大丈夫、ぶどうジュースありますよ」
ゴンタロー「おい、コタロー。肉もっと持ってこい!今夜は宴だ!」
月が星空のてっぺんに届いたころ。
ゴンタローを始め、老女などの大人達、新婚夫婦は、ぶどう酒のせいで顔を赤らめたまま眠っている。
ゴンタロー「ガーゴー、ガーゴー」
リート「…いびきすごいな」
タクユキ「…幸せそうだな、みんな」
サクラ「そりゃ、不安だからでしょうよ。…そろそろ黒布が来る時間ですけど…」
アリア「とりあえず、みんなをテントに入れよう。危ないよ」アリア達は、子供達に手伝ってもらい、大人達をテントへ運ぶ。
全員運び終えると、
リート「これで全員だよな?」と、リートが子供達に聞いた。
子供達「全員いるよー」
タクユキ「よかった。さあ、君達も中に入って。黒いヤツにさらわれちまうからな」
子供達はわらわらとテントに入っていく。でも1人だけ、男の子が、何か言いたげに見つめていた。
サクラ「どうしたの?ボク」
男の子「あのね、おねえちゃんがいないの」
アリア「えぇっ」
男の子「探したけど、いないの…」
男の子が泣き出す。なぐさめるサクラ。男の子はしゃくりあげながら続ける。
男の子「あのね、おねえちゃん、ミルっていうんだけどね、…たぶんね、コンタロー兄ちゃんと一緒にね、…いせきってところにいっちゃったんだと思うの…」
アリア「いせき…遺跡?」
メル「どうしたの、マモル」
メルが来た。まだ足元がふらついている。
アリア「この近くに、遺跡ってありますか?」
メル「あぁ、ルングの遺跡のことかしら。ここからさらに東よ」
そこに、子供達がテントに入ったのを確認し終えた男子2人が来た。
リート「…聞いたぞ」
タクユキ「ちょっくら行きますかね、わんぱく坊主らを迎えに」
マモル「きをつけてね、お兄さん、お姉さん」
アリア達は、たいまつを作ると、東へ向かって走り出した。 たいまつと月の明かりを頼りに、遺跡に急ぐ。魔物達は火が怖いのか、あまり近づいてこない。
しばらくして。
リート「ここっぽいな」
アリア達は、古い漆喰の建物を見つけた。
中に入ってみると、漆喰が崩れた粉に、いくつもの小さな足跡が残されている。
サクラ「マモルくん、当たってましたね」
タクユキ「急ごう、ヤツが来る前に」
足跡を辿っていくと、真っ暗な、広いところへ出た。
アリア「ここは…吹き抜けみたいね」
すると。
「誰かいるのか!?」
幼い少年の声。
声がした方に近づくと、10才くらいの少年と少女が、吹き抜けの真ん中にあるステージらしきところに座っていた。
タクユキ「お前ら、いつからそこにいたんだ?」
コンタロー「お前じゃないやい、コンタローだよ」
リート「…ゴンタロー、コタロー、次はコンタローか。紛らわしいな」
アリア「その女の子が、ミルちゃん?」
ミル「……知っているの?あたしのこと…」
アリア「マモルくんがね、ミルちゃん達がいなくなってる。多分ここにいるって教えてくれたの」
コンタロー「マモルめ、あいつ、余計なことを…」
リート「…そもそも、なんでこんなところに来たんだ?」
コンタロー「お前らには関係ねぇよ」
ミル「……コンタローくんの…狩りにつかうこんぼうが…とられちゃったの……」
コンタロー「おい、ミル!」
サクラ「でも、なんでミルちゃんと一緒に?」
コンタロー「女のお前にはわからないやい!」
ミル「……かっこいいとこ、見せたいからって…」
コンタロー「ミルってば!」
リート「…あのさ、なんか音がしているんだが…」
その瞬間。
ドシン、ドシン、ドシン!
ドオオォォオンッ!!
コンタロー「で、でた、ヤツだぁっ!!」
ミル「イヤアアァァァっ!!」
ボストロールが あらわれた!
緑色の体、赤い腰巻き。そして、アリアの10倍はある背丈と横幅。巨大なこんぼうを持っている。
ボストロール「へへへ…子羊が6匹…旨そうだのぉ」
ボストロールは舌なめずりをする。
ボストロール「えぇい、腹がすいてかなわん!一気にいただきまっす!!」
リート「そうはいくか!」
リート「バイキルト!」リートは攻撃力が上がった!
リート「ドラゴン斬りっ!」
ズシャアアァンッ!
しかし、ボストロールには、切り傷程度にしかなっていない。
ボストロール「ふぉっふぉ、このハエを始末するかの」
ボストロールが、こんぼうを振り回して攻撃!
リート「ぐわはぁっ」
リートははじき飛ばされ、ガアアァンッと漆喰の壁に打ち付けられた。
タクユキ「…かなり手ごわそうだな」
コンタロー「ぼくのこんぼうを返せ!」
サクラ「危ないから下がってっ!」
リート「バ…バイキルト…」リートが小声で呪文を唱える。タクユキの攻撃力があがった!
タクユキ「ハートブレイクっ!」
ジャンプして、タクユキの攻撃!
ボストロールの膨れた腹に命中した!
ボストロール「おふっ!?」
タクユキ「へへっ、ちょっとはこたえたか?」ストっと降り立ったタクユキ。
サクラはリートに駆け寄る。
サクラ「ベホイミ」緑色の光が、リートの体力を回復させる。
リート「お、すまねぇな」リートは立ち上がり、剣をかまえ直す。
アリア「そろそろ私も出ようかな…」
アリアは巨大化させたナイフを握り締め、かまえた。
そして、長い攻防戦の末に。
ボストロール「はぁ…はぁ…」
タクユキ「ふぅ…あともう少しか」
サクラ「ベホイミ!」タクユキの体力が回復した!
ボストロール「はぁ…はぁ…」
リート「一斉にいくぞ」
「「「「いっせーのーで!」」」
ズシャアアアァァンンっ!!!
4人が一斉に殴ると、ボストロールは息絶えた。
ボストロール「…お、のれ…いまに、みてろ…あのひとがかならず……むくいを…」
ボストロールは、パァンッとはじけ、消えていった。
消えた跡に、1つのこんぼうが転がっていた。
マモル「おかえり、お兄さん、お姉さん!」
コタロー「まったく、このやろー!」
ポコンっ!
コンタロー「いてっ!なにすんだよー」
コタロー「真夜中にあんなところ行くからだ!しかも、女の子を危険にさらして!」
ミル「ふえぇぇ……こわかったよぉ……」
メル「よしよし、もう大丈夫よ」
リート「…そっか、もう朝なんだな」
いつの間にか朝日が昇り始め、湖が反射して輝いている。
タクユキ「…そういえば、一睡もしてないな」
アリア「そう言われると…眠気が…」
メル「私のところのテントで休んでいってくださいな」
サクラ「ありがとうございます、メルさん」
そして、お昼時。
アリア「ふあぁ…よく寝た」
リート「さて、この後はどうしようか。ここじゃヤツについてこれ以上わからない気がするからな」
サクラ「サルエマ砂漠王国は?」
タクユキ「そこは連絡橋が…」
ゴンタロー「お前達、サルエマに行くのか?」
リート「そうしたいんですけど…」
ゴンタロー「あぁ、橋は直ったって聞いたよ」
「「「「!!!?」」」」
サクラ「本当ですか!」
ゴンタロー「さぁな。行ってみねぇとわかんねえよ」
アリア「行く?」
リート「あぁ、行った方がいいだろう」
タクユキ「…もう行くのか」
ゴンタロー「お、行くか?いいぞいいぞ、食料ならここから持ってけ!」
そういうとゴンタローは、アリア達の前に、籠いっぱいの野菜や果物、干し肉を置いた。
マモル「バイバイ、お兄さん、お姉さん!」
タクユキ「あばよ、マモル!」
アリア「さて、と。食べ物もいっぱいもらったし」
サクラ「行きますか」
リート「サルエマ砂漠王国へ…」