始まりのやまぬ雨
「・・・」
その子は泣かなかった。
「・・・」
その眼は、紅蓮に染まり
「・・・」
髪は美しい黒色になびき
「・・・」
その顔は、白く透き通る肌で覆われていた。
「・・・」
しかしその子は泣かない。
出産時の子供は、その周りの変化に驚いて泣くのだが。
「・・・」
その子は泣かなかった。
透き通るような顔に、燃えるように赤い瞳。
何かに挑もうとしている様な、
そんな目だった。
「キャッ!キャッ!」
初め一声は誕生した事があまりにも嬉しそうな・・・そんな一声だった。
ただ一つの疑念は、男の子のその小さな右腕に書かれた竜の紋章だった。
同時期
「オンギャー」
その子は泣いた
「オンギャー」
その眼は青く静かに染まり
「オンギャー」
髪は、銀色に染まり
「オンギャー」
その顔は、白く透き通る肌で覆われていた
「オンギャー」
その子は泣く
天にもとどきそうな声で鳴く
泣く、泣く、泣く
何かに怯えている様な
そんな声だった。
だが、心身何もなく医者には丈夫な事診断された。
ただ一つの疑念はその女の子の小さな左腕に書かれた竜の紋章だった。
こればかりは、医者にもわからなかった。
月日がたち
彼、彼女は12歳になった。
「はっ、はっ、」
彼、シェイルは剣術に精を出していた。剣を振り、振り、振り抜く。
それがシェイルにはたまらなかった。
「シェイル~、飯だ。」
「わかった、今行く」
そんな気分を抑え剣を鞘に戻し家に入った。
「命の源、清らかなる水よ、我に力を貸し、我に従え『ウォーター』!!」
彼女、イ―ナもまた、呪術に精を出していた。
一日一日成長している事がイ―ナの生きがいであった。
「イ―ナ、御飯にするわよ~」
「はーい」
イ―ナは家に戻った。
「シェイル、お前もうすぐ十三歳か。」
ガスト・リンク唯一無二の家族、シェリルの父親さんだ。
髪は赤褐色、双眸も赤褐色農作業の格好で、それががとても似合うとてもがっしりとした体つきの人だった。
シェイルの母さんは、シェイルを生んだときに亡くなった。
しかしガストは、農夫で一人、シェイルを育ててきた。
剣は疎いが、農作業では随一のすごい腕前、彼の作る野菜や果物は、とてもいい品ばかりだった。
「ああ、そうだね。」
(もうすぐ十三か)
「お前なんかほしいもんあるか?」
「なんでそんな事聞くの?」
「べ、別にいいだろ。」
(父さん…あんた隠すの下手いね!!)
シェイルはそんな事を思いながら。
「そうだな~・・・そうだこのごろ剣がぼろぼろになってるから剣がほしいな。」
「剣か・・・わかった。形はどんなのがいい。」
「そうだねぇ~・・・じゃあ、双剣かな」
「ん?双剣ってなんだ?」
「ああ、そうだね。双剣は二つで一つの剣のこと。」
「二つの剣で一つ?」
ガストが首をかしげた
「そう。僕が今使っている剣の半分くらいの剣で両手にひとつづつ持つ剣の事だよ。」
「あ~、なんか見た事あるぞ。よしわかった。シェイル」
「何?」
「来週、楽しみにしとけよ。」
「うん。」
シェイルは、元気良く返事をした。
~来週~
「今日か」
ガストは、いつものようにシェイルが剣の稽古に行くのを待っていた。
「双剣取りに行かないとな。」
「じゃあ、父さん、行ってきます。」
「おう、行ってこい。」
シェイルが行くのを見計らいガストも出て行った。
「えーと、確かここらへん」
ガストは先週よった店を捜した。
家は朝九時に出たのだが、今は、もう十二時だ。家に着くころは三時だろうか。
「ここだ」
シャランシャラン、ドアに付けられた鈴が客が来た事を知らせる。
「いらっしゃい、ってガストか礼のもんはできてるぞ。」
店員は、大きなカバンを机の上で開き見せた。
「おう、ありがとうダイム」
ガストは、中の物を見てそのかばんを手に持った
「いいってことよ。それよりどうしたんだ急に双剣がほしいって?お前は、農作業馬鹿だったような気がしたが?」
「ああ、息子が双剣がほしいて言ってたから十三歳の誕生日に双剣をやろうかと思ってな。その前に農作業馬鹿って言うな。」
「へぇー、おめぇも父親になってたか。」
「全く失礼だな。お前のそんな所も変わってねえな。」
「うっせぇ。」
「じゃまた今度。」
「おう。」
シャランシャランという音とともにガストは去って行った。
ガストは家に帰った。
「はふう、やっと家に付いたぜ。」
その時はもう三時を回っていた。
「もう少し練習してんのかな?」
普通は三時を位に帰ってくるんだがな?
まあいいか
ガストは、持っていた荷物を下ろし料理にかかろうとした。
だが、
「え?」
窓の外には雨と走ってくる大きなクマ
ガストには心当たりがあった。
”ビグベアー”
その体は二メートルをゆうに超え突進速度は簡単に百キロは出る。
ガストはきずくのが遅かった。
ガストが気付いたのは、窓が割れた音が聞こえたから気付いたのである。
その巨体の体は木製の家を壊しながら進んでくる。
「っぐはぁっ!!」
ガストは、いくら強い体をしているからと言って二メートル越えのクマに踏まれればどうなるかは一目瞭然だった。
骨は砕かれ、血は吹きだし、筋肉が離れていく。
それでも、ビグベアーは止まらない。そのまま、家を崩壊させながら家のど真ん中を突進していった。
ガストは、気付いていた。
もうすぐ、シェイルの母”アスティー”のもとへ行くと。
シェイルは森でいつものように剣を振り、振り、振り続けていた。
「よし、これで終了。」
シェイルはいつもこのくらいに帰り始めているのだが。
「腕試ししてみようか。」
シェイルは、樹齢五百年くらいある大木に剣を当てた。
「ハッ!!」
剣を高く振り上げ一気に横振りをした、
「スパン!!」
綺麗に割れ大木はずるずると滑って行き最後には「ドーン」と音を立てて落ちて行った。
「うん、いい感じ。」
シェイルは、剣よ鞘に戻し大木に背を向けて帰って行った。
「雨かな?」
ソラを見ると暗い雲が出来ていた。
「この林を抜けたら家だ。」
大きな大木を切った事をどう自慢しようかとシェイルは考えていた。
シェイルの家は森の開けた所にあり人との関係はほぼなかった。
シェイルが知っているのは父のガストと本に出てくる登場人物ぐらいだ。
林を歩いているとぽつぽつと雨が降り始め本降りとなった。
「やべ、急ごう。」
林を出て目にしたのは。
家から離れていくビグベアーと崩壊した自分の家だった。
「父さん!!」
シェイルはまだ残っている玄関のドアを開け土足で侵入した。
廊下を抜けるとリビングがあるはずが。
「ッ!!」
青い空にさらけ出されたリビングその中央に無残に倒れている父、ガストがいた。
「父さん」
急いでシェイルは近寄った。
腹から下がすべてが踏みつぶされている。もう助かる余地はなかった。
「父さん!!」
「ああ、わかってるよ。」
「父さん、何で!!何で!!」
シェイルは、何の回答を求めているかもわからず父を抱き寄せた。
「シェイル!!」
ガストは自分の手をシェイルの胸に当て
「俺らは、双剣だ。」
弱々しく、しかしはっきりとガストは言った。
”双剣は二つの剣で一つってこと”
「え?」
シェイルは意味がわからなかった
「俺とおまえは双剣、二人で一つ」
「でも父さんは…死んじゃうじゃん!!」
シェイルは受け止めたくない事を自ら言った。
「ああ、だから・・・」
「探せ」
「え?」
「俺はもうすぐ死ぬだから二人で一つと言える人を捜せ・・・それが、善人でも、悪人でも、変人でも、誰でもいいお前と二人で一つと言える人を捜せ。」
ガストはとっておきの優しい笑顔で、笑って見せた。
「おっと、迎えが来たみたいだ。」
ガストは、瞼を閉じていく。
「い…や……だ、行かないでよ父さん。」
「シェイル、お前は母さんに良くにてる。」
「そんなこと前から言ってたじゃん知ってるよ!!」
シェイルは、怒鳴るように言った。
「シェイル、生きろ生きていればいい事はある。だがこれからお前は何度でも泣くだろう…でもな」
ガストは、最後の力をこめて言った
「でも泣く事より笑った方が多かったと俺に伝えれるようになれ、わかったか!!」
「う…うん」
「よし、それでいい。」
ガストは、ゆっくりと目をつむると何も言わなくなった。
「とう・・・さん」
声をかけても何もしゃべらない
体は雨によってどんどん冷えていく
死んだ。
「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこで、シェイル絶叫した!!
降りしきる雨の中その声は大地をも震わせた。
その雨は夜も降り・・・
晴れたのは朝だった。