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第八話 『旅は情けねぇ世は道知らねぇ』

 日が傾き始めた道を俺は四人の人間と共に歩いている。

 一人は俺を発見したベルという女の子で十二歳らしい。で、その母親のリベールさん。その旦那でベルの父親メルコス。でちょっと酒臭いおじさん、メルコス夫妻の友達らしい。

「成る程、三種類の人が居るんですか、スピリットヒューマン、ヒューマンスピリット、コールヒューマンね」

 スピリットヒューマン、通称スピリットは覇気闘気を使いこなす人間らしく、多分エリファなんかがこの種族だ。日本史の江戸時代で言うと武士だな。

 で、ヒューマンスピリットは数が多い種族みたい通称ヒューマン。ベル達はコレに該当するようだ。コレは農民、商人と言ったところか。

 最後にコールヒューマン。別のところから流れてきた人間。多分ポジションとしては外来人。

 何か、俺はこの世界で新たな文明や宗教を広めなければならないのか。がんばるぜザビエル!

「あの…お名前教えてもらってもいいですか?」

 俺の横をチョコチョコと歩くベル。周囲の人間には年相応の話し方なんだけど、俺に話しかけるときは何故か敬語。メッチャ硬い。

「オーケーベルちゃん。俺の名前はね…」

「お、オーケー?」

 首をかしげ、俺の後に続く。名前を言う前に疑問をもたれてしまった。

「えっと、オーケーってのは良いよとかわかったなんて意味なんだよ」

 多分コレでいいはずだ。今更使い慣れた言葉の意味を改めて考えると結構難しいね!

「お、お名前教えてもらっておおけーですか?」

 ちょっと発音違うけど…可愛いよ!

「うん、俺は真田槍助ね、サナダソウスケ。」

「さ、サナダソースケ?」

 こっちの世界では日本名は難しいのか?

「サナダがベルちゃんで言うとメルコスね。で、ソウスケがベルって感じ」

「サナダソースケさん……」

 少し後ろを歩いていたベルの母親、リベールさんも一緒に並ぶ。

「変わった名前だねェ…アンタのとこって皆そんな名前なの?」

「そうだなぁ…諏訪、仁科、霧堂、斉藤、伊藤、武藤とかだなぁ」

「言いにくい言葉ばっかりだねェ…」

 リベールさんは頭をかくと口を何度か動かした。俺からしてみりゃよっぽどこっちのほうがね。

「ねぇ、おかーさん。ソースケさんって何処に泊まるの?」

「アンタお金は…持ってるわけないか。水すらなかったのに」

 本日何度目かのリベールさんの呆れ顔。心底呆れているのか、はたまた癖なのか。

「ごめん、ホント面目ない」

 そりゃ身体一つで飛び出してきたんだから当然といえば当然だよな。

「じゃぁ、しばらくはうちで面倒見てやるよ」

 うは、滅茶苦茶いい人たちだよ。俺らの世界じゃ考えられねェ、映像スタッフが付いてなきゃできねェよな。

 だが此処は断っておかないとな。

「其処まで迷惑かけられませんよ」

「強がりを言うんじゃないよ、今日は良くても明日、明後日と食べ物無しでどう生きていくんだね?」

 其処を突っ込まれると俺に返せる言葉がない。

「それに、色々と手伝って欲しいこともあるしさ」

 あぁ、働かざるもの食うべからずって言葉こっちでもあるんだなぁ。そもそも俺にできることってあるのか?

「すいません、何から何まで……」

「やったぁッ! おにー……ソースケさん、今日から家に居るんだ!」

 俺のすぐ傍ではしゃぐベル。このはしゃぎ様からして一人っ子で兄さんか姉さんが欲しかったんだろうか?

「うん、よろしくねベルちゃん」

「娘に手を出すんじゃないよ?」

 俺そんな風に見えますか!? ちょっとめがっさショック。ちょっとやないやんけ。

 とまぁ一人突っ込みをするぐらいショックだなぁ。

「ほら、アレがリカーベルの町だよ」

 存在感がめっさ薄かった父メルコスさんが集落を指して言う。

「うっわ、すっげ! 町でも周りに塀とかあるんだ!」

「そりゃぁ色々と物騒だからね。こうして平和に暮らせていけるのは自警団の方たちのお陰だね」

「うん、スピリットの方って凄く強いんだよ!」

 自警団? 何だそりゃ。

 ちょっと解らない言葉に戸惑ってる間にメルコスさんが門番らしき人と話をしている。

 塀の中に入るのってこんなに大変なんだな。コレなら高速道路の料金所のほうが何倍も楽に通れそうだな。お金を払って通過するので楽にできるという理由だろうけど。

「おかーさん、ちょっと時間こんなにかかったっけ?」

「まぁ、こんなもんだよ」

 リベールさんの言い回しで、何となく俺が居るせいで時間が掛かってるんだろう。

「や、でも気にしなくても大丈夫だって!」

 顔に出てしまっていたようだ。迷惑や気を使わせっぱなしだな、俺。

 一行から少し離れたところで門番らしき人物と話していたメルコスさんが手招きをする。思わず指で自分を指すと、一層大きく手を振ってきた。お呼びが掛かったな。

「で、この人が道端で行き倒れていたコールヒューマンで……」

「確かに、暗がりと同化しそうな髪の色ですね」

「そ、そうっすか? 俺からしてみれば……いえ、何でもありません」

 流石に赤や青や緑の髪が変だっていえないよ、こんなに該当する人が居るところで。ひどい、数の圧倒的な暴力だ。 

「しかし、コールヒューマンにしては言葉が上手いですね?」

 門番をしている二十代ぐらいの男の人は手にした槍を低く下げている。

 えっと、コレは警戒というより珍しがられてるんだろうな。

「そうか? 俺がもっとそのこーるなんちゃらたる証拠見せてやろーか?」

 コレ一度やってみたかったんだよね、こう、文明の違いを見せ付けるって言うか、驚かせたいんだよ!

 学ランの内ポケットから携帯を取り出しミュージックスタァットッ!!

 携帯から流れるミュージックに一同静まり返る。

『よ、妖精ッ!?』

 ぶっ!

 なんだよその反応! こんな角ばっていてどぎつい色とかのバリエーションとか一杯ある妖精の集団なんか見たくねぇよ!

「あぁ、コレは携帯って言ってね、正式名称・携帯電話。遠くの人と話せるモノなんだ。最近はアプリやミュージックプレイヤーやインターネットまでできるようになってんだよ」

『けいたいでんわ…あぶり、みゅじっくぷれやー…いんたあねぇっと?』

 そりゃそうだろうなぁー。もう良いや説明しきれねぇ。

「と、とりあえず確かに違う世界の人ですね…今のそのけいたいでんわが喋った言葉…全然わかりませんでしたよ」

 うっそ、マジで? 俺は普通に日本語喋ってるだけなんだけど、他人にはどんな風に聞こえているんだ? 今。

「あれ、俺って日本語喋ってないの?」

 またも浮かぶ疑問符。

「ソースケさん普通に喋っているよ?」

「マジで!?」

 そんなやり取りをしている最中、ドンドンと太鼓の音が鳴り響く。一瞬何が起こったのか解らず戸惑っていたが、町の入り口の門が少し動いたのが見えた。

「門、閉まるんじゃね?」

「あ、皆さん門が閉まりますので早く中に入りましょう」

 門番らしき人物の後に続いて俺は町の中に入る。あれ、俺はオルタルネイヴを出てくるとき、普通に町の外に出れたがこれはどういうことだ。

「さ、とりあえず家に行くかね」

「あの…すいません」

「質問は後にして。疲れて家で休みたいからさ」

 何しに町を出ていたのかは知らないが、リアカー一杯荷物が積んでるところを見ると買いだしか何かに行って来たんだろう。

「ベルちゃん、眠い?」

「は、はい……」

「じゃーおんぶしてやるから背中のりなよ」

 俺はしゃがんでベルが背中に乗るように促すと、おそるおそる背中に乗ってきた。

「乗り心地は悪いかもしれないけど我慢してくれよ」

「えへへ……おにーさんの服なんか不思議なさわり心地……」

 肩の所を撫で回すベル。学ランの素材もそういえばちょっと変わっていたような気もするな。

 気が付けばベルは吐息を立て眠りについている。流石に疲れたんだろうな。

「確かにアンタの服、なんか変だよね。全身黒い色ばっかりで」

「学生なんだからしょうがないんですよ」

「学生?」

 リベールさんはまたも疑問符を浮かべ学生の意味を考える。

「えっと、学生って言うのは学校という場所でお勉強するんですよ」

「へぇ、じゃぁアンタは策士や外交士を目指してるのかい?」

 作詞、外交詩? なんだそりゃ。

「となると、あんた理由があってあんなところに倒れていたのかい?」

「お、俺は……」

「やっぱり訳あり…みたいだね。って、そんな顔しなさんなって。誰もアンタを突き出したりしないよ。あ、其処がウチの家さ。先に入っててよ、ちょっと荷物とかなおしてくるからさ」

 明かりが点いてない家を指差してリベールさんが俺の手にゲームで出てくる魔法の鍵みたいな形をした鍵を渡す。


「って、暗ぇ」

 先に入ってろなんていわれたから少し苦戦しつつも鍵を開け玄関に入ってみたが真っ暗で何がなんだか。

「と、とりあえず広いところに……」

 暗闇に目が慣れてきて、何とか広いところにベルを下ろし、俺も一息つく。

「ふぁ…ねむ」

 俺自身も結構疲れているようで、大きなあくびが出た。自分の感情に全てを任せて静かに目を閉じた……。

 



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