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第七十一話 『アリシャ隊と模擬合戦』

 −訓練所近郊の野原−

 俺の提案を聞いた奴は二言返事で了承した。

 元々新兵の育成が好きなようで、思い返してみれば俺も奴の隊に居る頃、結構しごかれたっけ。槍兵との戦い方を。

「悪いな、アリシャ。お前だって兵員増えて大変なのにこんな事押しつけちまってよ」

「気にすんな、俺がやりたいって思ったからやっただけだ。というか、俺としては何でお前が俺にそれを言ってきたか疑問なんだけどな。俺のとこに来る前に手前ェの部下そっちのけでディレイラ隊と飯食ってたろ。その流れで考えればディレイラに頼むんじゃねーのか?」

 食堂でアリシャを発見してすぐさま駆け寄ったんだが、アリシャはとうに俺の存在を知っていたらしい。

「レイラに頼んでも良かったんだけどよ、やっぱ此処は一番の実力のある隊であるアリシャ隊とやるべきかなって思ったんだよ」

「なっ、ばっ……」

 急に顔を赤くしてどもり始めるアリシャ。これは予想外の反応だ。先日の王の謁見でも大々的にクレア所属の隊の中では一番の実力者と謳われていた時は平然としてたのにな。

「ま、まぁ……それは置いておいて、だ。だが本当に俺らの隊相手で良いのか? 新兵同士の模擬合戦ならお前の隊の連中も経験はあるだろうが、つい先日まで前線で戦っていた奴と戦うにはまだ早いんじゃねぇか?」

「今は訓練期間中だけど、奴らもいつかは前線に出なきゃならねぇ。俺だって自分の身を守るのに精いっぱいで混戦ともなれば、一人一人を守ってる余裕はない。生き残るにはやっぱ自分の経験をたくさん積んでおかないとだめだろ?」

「確かにそうだけどな……でも、どっかの誰かさんみたいにいきなりこんな事やらせれば、逃げだす奴もいるんじゃねぇか?」

「耳が痛いお言葉で」

 俺がそう言うとアリシャは豪快に笑うと冗談だ。と俺の肩を叩いた。だから、俺は怪我が完治してないんだっつーの。もう少しやらしく……じゃなかった。優しくしてくれよ。

「さてと。冗談はここまでにして、サナダ、模擬戦ってどうやるか? 無難にここは大将旗か?」

「いや、悪いが殲滅の方向で頼む」

「また随分と隊員を虐める気だな、おい。サナダ隊の隊員は大変だな」

 アリシャと話しているのは模擬戦のタイプの話で、大将旗というのはその名の通り、大将の旗を倒せば終わり。殲滅はどちらかの隊が全員死んだら終わり。死んだと言っても実際には命はとらない。頭に鉢巻を巻いて、それを取られれば戦死扱い。訓練で殺し合いなんて出来るはずがない。

 要は騎馬戦みたいなもんだ。最初は総当たりで鉢巻を取られた数の少ない方が勝ちって奴と、大将が落馬した方が負けっていうのと同じだ。

「更に条件を出すが、アリシャ。お前は俺と一緒に待機だ。本格的訓練開始初日からお前にボッコボコにされる隊員が不憫だ」

「解ってるよ」

 そうは言うものの、アリシャの表情は残念そうだ。俺が言わなければ絶対アリシャは何食わぬ顔で殲滅戦に参加していただろう。

「お、そろそろ時間か。ふーむ、あれがサナダ隊か。どんな奴がいるか楽しみだな」

 隊員達には午後の訓練は町の外の原っぱでやると伝えているだけなので、隊員達の表情はこれから何をするんだろうかという疑問に満ちた顔をしている。

「さーて、みんな揃ったな」

 二十人が集まった事を確認して、俺は隊員達の前に立つ。隊員達の視線は俺よりも横に立つアリシャの方に釘付け。所々からあれってもしかして風将じゃないのかといった声も聞こえる。

「皆、自分らの実力がどんなもんか知りたくはないか?」

 俺の問い掛けに隊員達がざわめく。

「仲間同士でも訓練も大事だが、やっぱり自分の力がどんなもんか知っておく必要があると俺は思う。だから、これから真田隊とアリシャ隊合同の模擬合戦をやることにした。模擬戦の内容は殲滅だ。解っているとは思うが、各自頭に鉢巻を巻いて、どちらかの隊すべての隊員の頭から鉢巻が消えた時点で終了とする」

 アリシャ隊との模擬合戦と聞いて余計にざわめきが強くなる。だが、そのざわめきは『無理だ』なんて言う否定の声ではなく、どちらかと言えば期待に満ちた声の方が多い。

「もうしばらくしたらアリシャ隊も来るから、それまで各自身体を温めておいてくれ」

 そう言い残すと俺はアリシャ連れて、原っぱを見下ろせる高台まで歩いた。

「流石だな」

 歩いているとアリシャが急にそんな事を言い出した。

「へ? 何が?」

「さっきの隊員達への話し方だよ。今日から部隊の隊長になった奴とは思えないな。軍議の時でもそうだ。なんつーか、経験のなさを全く感じられない自身のこもった話し方だから正直、感心した……って、なんでこんな事言わなきゃなんねーんだよ!」

 そう言ってアリシャは俺の後頭部を叩くと早足で俺を追い抜いて行った。

 ……自分でもなんであんな言葉がスラスラ出てきたか解んねーや。

「そう言えばこの事隊員達に伝えてるのか、アリシャは?」

「その点は大丈夫だ。アトラッシュの方に言っておいたから、あいつ含め二十人こちらに来ることになっている。残りは訓練所で訓練だ」

「アトラで大丈夫なのかよ……?」

「あいつもサナダと同じで最近の成長ぶりは目を見張るもんがある。うかうかしているとサナダもあっという間にあいつに追い抜かれるぞ?」

 アトラも頑張ってんだなぁ。そんな話聞くと俺も頑張らなきゃって気になってくるな。

 原っぱを一望できる丘に辿り着くと丁度良い位置に大きな岩が二つ転がっていた。俺はそれに腰かけ、目下に広がる原っぱで準備運動に勤しむ隊員達一人一人を注意しながら見た。

 十人十色とはよく言ったもので、隊員達一人一人の様子が僅かに違う事に気が付いた。

 かなり意気込んで、準備運動の動きがぎこちない奴とか、傍から見てもやる気が感じられない奴とか、その場に佇んだまま動かず精神集中をしている奴とか。体育教師もこんな感じで俺たちを見ていたんだろうか。

「隊長、アリシャ隊二十名集まりました」

 隊員達の様子を観察していた俺の耳に聞き慣れた男の声が聞こえてきた。

「お、アトラか、ごくろーさん」

「いやいや、何のこれしき」

「待て、アトラッシュ。てめぇは俺の隊員だろうが。今の会話、まるでサナダ隊の人間みたいだったぞ」

『もーし訳ありません、隊長殿!』

 アトラと並んでアリシャに向けて敬礼をする。そんな俺達の様子を見てアリシャは溜息をついた。

「ほんっとーにてめぇら息があってんな。夜密かに二人で練習してたりすんのか?」

 そんなわけない。俺はただ思った事を思ったとおりにやっているだけだ。

 前々から思っていたが、アトラと俺はどこか似ていると思う。ノリやテンションとか色んなところが。

 元の世界でも男友達は居たのだがアトラのように、ここまで息の合う奴は居なかった。これこそ親友と言ってもいいレベルじゃないだろうか。

「さて、冗談はここまでにして、合同の模擬合戦どのように行います?」

「内容は殲滅。手加減は……」

 アリシャがちらりとこちらを窺う。

「……全くしなくていい」

「だそうだ。全力で新兵達にあたれ」

「本当にいいのかよ、それで……」

 アトラも全力で新兵とやり合ったところで結果は目に見えているようで、困惑した表情を浮かべながら俺に問い返してくる。

「あぁ、あいつらが持ってる力や判断力を全部出し切って貰わねぇと俺が困る」

「……?」

 理解が出来ないという表情でこちらを見つめるアトラ。

「実は今回の模擬戦で俺の補佐を任せられる奴を探そうと思っている。そのためには……な」

「ほう……だからディレイラじゃなく、俺に頼んできたのか。成程な」

 アリシャはこの模擬合戦をアリシャ隊と行う事についての理由が理解出来たらしく、口元を緩める。

「開始の合図はこちらから出す。アトラッシュ、頼んだぞ」

「……了解」

 まだイマイチ事情が呑み込めてないらしく、腑に落ちないといった様子のアトラだったが、模擬合戦の内容をアリシャ隊の面々に伝えるべくその場を離れて行った。

「今回の模擬戦の結果で補佐を決めるつもりか」

「あぁ、でも今回だけじゃ決められないかもしれない。また頼む事になってもいいか?」

「断る理由もないな。だが、俺から一つ言わせてもらうと、全部の模擬戦を俺達の隊とやるんじゃいけねぇ。ディレイラ達にもやってもらった方がいい。俺達の隊との模擬戦で活躍した奴が居たとしても、弓隊と剣隊との戦闘で同じように動けるかは別問題だ。相性の問題もある」

 言われてみればその通りだな。全部アリシャ隊との模擬合戦をやっても意味ないか。実際の戦場では状況によっていろんな敵の隊と当たる可能性がある。総合的に見ないといけないよな。

 しかし、こう考えてみると補佐を探すのだけでも大変だな。想像ではもっと楽に探せるもんだと思っていたが。

「さて、そろそろ合図を出すか、サナダ?」

 原っぱを見ると距離を開けてお互いに戦う陣形を取っているアリシャ隊、真田隊が居た。

 俺から見て右側が真田隊。左側がアリシャ隊。

 真田隊にはまだ指揮官は居ないのだが、隊の誰かが皆をまとめたのだろう、五人一組の四部隊という構成になっている。そして各部隊の隊列は前に三人、後ろに二人オリンピックの五輪の形で陣形を組んでいる。

 横一列に並んだ陣形でアリシャ隊を迎え撃つ手はずのようだ。

 対するアリシャ隊は四人一組の五部隊。部隊の四人は一列に並んでいる。

 全体的な陣形としては五つある部隊を横一列に並べ、上側から二部隊目と四部隊目を後ろに下げたWを横にしたような形の陣形を組んでいる。

「あーあ、やっぱサナダ隊はクソ真面目に横陣を組みやがったな」

 準備のできたアリシャ隊とサナダ隊を見てアリシャがつぶやいた。

「そうだ、サナダ。お前もよく見ておけ。槍隊の部隊の動き方を」

「俺の隊だけを見ていちゃダメか?」

「部隊を率いる身になったんだ、様々な模擬合戦での相手歌いの動きを見て、実戦で敵がどのように動くか予想できなければ、お前の部下達は全滅する可能性もある。そういった事態を避けるため、アリシャ隊がどのように動くか予測し、俺に伝えながらこの模擬合戦を見届けろ」

「……解った」

 頭の隅にまだ自分の身だけを守れればいいといういち兵士としての甘えが残っていたようで、それをアリシャに見透かされ、釘を刺されたような気分になった。

 確かに。俺の指示一つ間違えれば部下が全員戦死にもなるかもしれない。まだ手探り状態だが、今後の俺に求められる事は敵と戦いつつ、頭を使い様々な状況に適した指示を出せる奴になる事だ。

「よし、アリシャ。合図を出そう」

 自分の頬を二度叩いて、気合いを入れる。

 俺も、戦を始めますか。頭脳戦という疲れそうな戦を。

なんとか更新できました。

次もできるだけ早くアップしたいと思います。

そしてリニューアル。なんかいろいろ機能付きましたね。

なんか目新しいです。

お気に入りに登録してくださっている方々、誠に有難う御座います。

もっと、登録数が増えるようこれからもがんばっていきます。

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