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第七十話 『部隊長として必要なこと』

 −訓練所入り口−

 一体、どんな奴が俺の元に来るんだ、二十人って言ったら学校の一クラスの半分の数だ。そもそも名前を覚えられるのだろうか。

 期待に胸を躍らせながら訓練所入り口を目指す。

 入口に近付くにつれ、全校集会のときのように綺麗に整列している集団がいる。あれがそうなのか?

 俺の接近を一人が気が付き、他の奴らも一斉に俺の方を向く。きっと「来た来た」だなんて言っているのだろうな。

「えーっと、さ、真田隊の面々でいいのかな?」

 集まっている奴らの前に立って数を確認する。ひーふーみー……二十人。おそらくそうなんだろう。

「は、サナダ隊二十名集合しています!」

『部隊長、これからご指導……よろしくお願いいたします!』

 訓練をしているんじゃないかって思うほど息がぴったりで、二十人が一斉に頭を下げる。

「お、おいおい、そんなに畏まらないでくれよ。なんかやり辛い……」

「ですが……」

 二十人の中の代表格であろう男が困ったように言葉を詰まらせる。歳はどう見ても俺と同い年ぐらいにしか見えない。いや、こいつだけでなく、他の奴らも若い。

 男女比率は3:7ぐらいで圧倒的に女の数が多いが、これは俺の部隊に限った事じゃないが。

「とりあえず、自己紹介からやろうか。俺は真田槍助。皆知っていると思うがつい最近この身分になったわけで知らない事が山のようにある。頼りないかもしれないが、皆力を貸してくれると嬉しい」

 誰もが俺の一言一言を聞き逃さない様に耳を傾けているためかなり恥ずかしい。

「で、好きな食べ物とかも言った方がいいか?」

 恥ずかしさを誤魔化すために冗談を交えて話してみるが、反応はイマイチ。なんかやり辛いよ。

「あのッ……」

 気まずい沈黙の中、一人が声を出した。

「ど、どうしたんだ?」

 顔合わせ初日から「お前なんかの元で戦えるか」なんて言われるのだろうか。

 あぁ、もう。何をどうすればいいかわかんねぇよ。アリシャ達は部隊の再編成とかで部下が増えても、笑いながら「大変だ」なんて言っていたが、どこか余裕を感じさせていた。

 早速、人を率いる事が出来るのか不安になってきたぞ。

「さなっ……部隊長の活躍は訓練期間中の私達の耳にも入ってきております。初陣から先の戦まで、出陣したほぼ全ての戦で名を挙げております。よ、よければその時のお話をしていただきたいのですが……」

 声を上げたのは女だったが、他の隊員達の目もそいつと同じで、まるでノーベル賞を受賞した学者を見るような目で俺を見つめている。

 あまり自分のしたことがどんなにすごい事なのかいまいち理解していない俺としては、首の後ろが痒くなる思いだが、目の前の二十人はそれが聞きたくてしょうがないのだろう。

 目は口ほどに物を言うってよく聞くが、まさにその通りだ。

「うーん、あまり面白おかしくは話せないが、別に隠す事でもないし……」

 俺の体験談で少しでも隊員達との距離を縮められるなら話してもいいかな。

「じゃぁ、適当にその場に座って話そうか」

 地面に腰を降ろして、俺はここに来た事や、初めて戦場に出たこと、俺が今まで体験してきた事をゆっくりと話し始めた。


「と、言う訳で……今朝クレアに呼ばれこうしてお前達と顔を合わせる事になったんだよ」

 今日までの事を殆ど話し終わると隊員の口から大きな溜息に似た音が聞こえてきた。

 呆れたという溜息ではなく、映画や小説を見終わった時に出るような感動の溜息といった感じだ。

「ま、まるで物語のようにとまではいかないが、なかなか濃い数ケ月間だったろ?」

 話してて俺は記憶中に仕舞い込みそうになっていた小さな出来事を再び思い出すと、心臓を見えない手で握り締められたかのように、胸の真ん中がきゅうっと締め付けられた。

 今までは強く考える事がなかったが、無性に日本に帰りたくなった。クラスメイト達と話したくもなった。

 頭を振って、俺はその考えを吹き飛ばす。

 俺にはまだする事がある。なぁ、ベルちゃん。俺はまだ前に進んでいるよ。

 自分自身が望む、未来のために、全てを犠牲にしてでも……。

 いや、何を考えているんだ、俺は。

 唐突に頭に浮かんだ考えを吹き飛ばすように強く頭を振る。

「そろそろ昼だし、飯食うか」

 何度も頭を振る俺を不思議そうな目で見る隊員達に笑いかけると、一人が『もう少し訓練をしてからお昼にする』というので、一足先にその場を離れた。

 新しい環境に慣れなきゃいけないのは、隊員達だけじゃないな。

 食堂に足を運ぶと、一足先に昼食をとっていたディレイラ隊がいた。

 昼食を貰い、レイラとレシアの正面に座る。

「真田……どう?」

 食事の手を止め、レイラが口を開いた。

 どう? とは、隊員達の事について聞いていているんだろう。

「なんて事ないよ、さっきまで世間話してただけだし。皆、俺の話に目を輝かせながら聞いていたよ」

「それは当然でしょう。まだ半年ともいかずに此処まで出世した例は少ないですからね。そんな人の話を聞いてつまらないと思う事の方が珍しいですよ」

 食事を終えていたレシアが水を飲みながら微笑みかけてくる。

「あ、そう言えば真田の服がいつもと違う……」

「ええ、雰囲気的にはいつもと変わらないんですが、色が違いますね」

 エリファから手渡された服を二人はまじまじと見つめる。

「あぁ、今朝あの後エリファから渡されたんだ。身だしなみに気をつけなさいって」

「なるほど。真田の履いていたあの黒い服、ところどころ破れていた……でも真田は気にしてなかったけどなんで?」

「いや、破れてたのは気になっていたけど、どうも他の奴らが履いている奴は肌に合わなくてな。つーか、ポジション?」

「ぽじしょん?」

「おう、な……んだかなー。肌に合わなくてな」

 あ、あぶねー。ナチュラルに飯時に下ネタ言うとこだった。いかんな、エリファとかなら気をつけるんだが、何故か知らんがレイラの時は注意力が散漫してしまう。彼女も女の子だ。

「さっきもそれ言った……」

 俺の気持ちなど知らないレイラが容赦なく突っ込みを入れてくる。レシアはなんか気まずそうな顔。やっべ、今のレシアは絶対理解した。すっげー気まずい。

「ま、まぁ服の事は置いておいて、隊の事なんだけどさこれから俺どうしたら良いか、全く検討がつかないんだ。まだ、本格的に訓練に参加してはいけないってエリファに言われているし。かといって、眺めているだけじゃ隊員達の指導は出来そうにないし。どうしたら良いと思う?」

 無理矢理な気もするが、話を隊の話に戻す。レシアとの間に広がる、あの気まずい雰囲気をどうにかしたかったんだ。

「それは簡単……気合で怪我を治すこと」

 無茶を言いますね、レイラさん。気合で怪我が治るのなら、今頃完治しているわ。

 半目で睨む俺の視線に気が付いたのか、レイラは慌てて『冗談』と付け加えるが、絶対あれは冗談なんかじゃない。

「ふふ、隊員達の指導はこういってはなんですけれど、いつでも出来ますので、まずは補佐を見つけることから始められてはどうですか? 指導が始まってしまえば、じっくりと隊員一人一人を見ていくなんて無理ですし。怪我をして、訓練に参加出来ない今のうちに、一人一人をじっくりと見て、自分の右腕になるような人物を見つけ出しては?」

 控えめなレシアの提案に俺ははっとした。

 何も一人で二十人を指導する事はない。レシアのようなレイラとは違った見解が出来る奴が俺の傍に居たら、一人よりもずっと効率的に隊員たちを訓練できるんじゃないか?

 俺は周りが言うような万能な人間じゃない。まだまだ解らないことばかりだ。そんな俺を助けてくれるような奴を見つけ出す事が今一番すべき事ではないだろうか?

「そうだよな、その通りだ。レシアありがとう。何も俺一人で全部やらなきゃいけないって事ないもんな」

 レシアにお礼を言うと、照れたようにレシアがはにかむ。良かった。レイラ達に会って話が出来て。午後いや、これから俺のすべきことが見つかった。

 視界の隅でまだ口に何かを入れているレイラと、目の前で微笑むレシアを見てそう思った。

 って、ちょっと待て違和感。

 レイラの皿は話している最中に綺麗になったはずだ。何で今もモグモグト口を動かす必要がある?

 視線を自分の更に落とすと……。

「レイラ、てめぇ、俺のおかず、いつの間に食いやがった!?」

 ミートボールのようなものと焼き魚が置かれていた皿には野菜しか残っておらず、漬物のようなものもいつの間にか食われている。更に残るのはご飯と野菜だけで、どうやって飯を食えと?

「なんの……こと?」

 ごくりとレイラの喉が動き、口の中にあった食べ物を飲み込んだのが解った。

 やられた。最近飯を強奪される事がなかったから油断していた。

「あぁ、もう……全部やるよ。なんだか食欲なくなってきたし」

 半分以上片付いてしまった料理を全てレイラに押し付けてため息一つ。

「……」

 流石にやりすぎたと思ったのか、レイラが申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 くそ、反則。そんな顔されたらこっちが悪い事したような気になってくるじゃないか。

「気にすんな、ほんとに今日は食欲なかったの」

 そんな事を話していると、訓練を終えた隊員たちが次々に机に座って食事をとりだした。

「あ、あれがサナダ隊の面々ですね、私達は気にせず、隊員達のところに行っていいですよ?」

 気を利かせたレシアがそう言うが、俺は首を横に振った。

「……もしかして、あまり上手くいってない?」

「いや、そんな事ないさ。ただ、ちょっと離れた場所からみていた方がどういった性格の奴が居るかってわかりそうな気がしたしな。それに、これから毎日顔合わせるんだ。飯時だけでも、俺を気にせず過ごして欲しいし。それに、レシアに聞きたい事もあるし」

 隊員達が俺を前にしてしなくともいい緊張をしている事は一目瞭然。先ほどの話のときでも、楽にして話を聞いていいぞといったのだが、隊員の大半が話を終えるまでにずっと緊張しっぱなしだった。これで飯時まで俺が一緒となれば、一人ぐらいは過度の緊張で倒れる奴が出そうだ。少しはリフレッシュさせてやらないとな。

「私に聞きたい事ですか?」

 一体何でしょうと首をかしげるレシアに、微妙に膨れっ面のレイラ。どうやらレイラは名前を呼ばれなかった事が不満だったらしい。

「あぁ、それは……」

「……わかった」

 俺に足りないところって何なんだ? そう聞こうと口を開きかけたのだが、レイラがしゅっと手を斜め四十五度にまっすぐ突き出す。ハイールヒットラーだっけ? なんかそんな事を言いながら、手を挙げるドイツの兵隊の姿が脳裏に浮かんだ。

「今日の晩御飯はなんだろう……?」

 いや違う、掠りもしてないよ、ディレイラ。もし晩飯のメニューが気になるなら、調理を担当しているシェフに聞くさ。何でレシアに聞かなきゃならんのだ。

「違う。レシア、俺に足りないものってなんだと思う?」

「惜しい……真田に足りないもの……愛と勇気と友達?」

 喧嘩売ってんのか、レイラさん。お前に聞いたところで為になる意見は出そうにないと思ってレシアに聞いたが、俺の質問全部お前が答えんな。しかも、予想していた答えよりもっと俺の心を抉ってくるような回答しやがって。助けて、パンアンマン!

「はは……えっと、サナダさんの質問に答えるなら、そうですね……今までのサナダさんの話を他の方から聞いた限りでは、サナダさんは熱くなると周囲への注意がおろそかになったり、一つの目標があるとどんな状況でもその目標に向かって走り止まらない事ですね」

 すんなりと俺の欠点が挙げられる。よく考えてみれば今挙げられた事、すべて身に覚えがある。

 カコウらを助ける時に一人だけ先行し過ぎた事とか。ケルヴィンと戦って力を使い過ぎてぶっ倒れた事とか。

「それは俺の注意で変えられるものかな?」

 変えられない。聞いておいて難だが、絶対そういった俺の欠点は治らないと思う。回数は少なくなるかもしれないが、ゼロにはならないと思うし、無理にそれを抑えようとしたらそっちにばかり気が行って逆に駄目になりそうだ。

「恐らく、そんな欠点があってこそ、サナダさんはこれまでの活躍が出来たのだと私は思います。無理に考えて戦うよりかは、いっそ気にしない方が……」

「だな。俺もそう思っていたよ。ありがとうレシア。これでどういった方向で俺の補佐を探せばいいか解ったよ」

 そう答えた俺にレシアは勉強が理解できた子供に微笑みかけるような優しい笑顔を見せてくれた。話の途中からおいてけぼりだったレイラは不思議そうな表情を浮かべている。

「そうと決まればお次は奴に話をつけるかな」

 丁度タイミングよく食堂に入ってきた青い髪に話をつけるため、レイラとレシアにもう一度礼を言うと席を立った。

 去り際、お礼として今日の晩御飯……なーんて戯言が耳に入って来たような気もするが、きっと気のせいだろう。


しばらく更新が滞ってしまい、誠に申し訳ありませんでした。

諸事情により全く執筆時間が取れず、長期更新が停止していました。

なんとか身辺的な問題も解決し、ようやく続きを投稿できました。

停止中何人かの方からメッセージを頂いたのですが、返事を書いていいものか迷い、結局いきなり知らない奴からメールが来ても驚くだけだろうと思い、メールは送れませんでした。

これからしばらくはできる限り早い更新を心がけていきたいです。

更新停止にて続きを楽しみにしていた方々には長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

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