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第六十九話 『気持ち切り替え、新たなスタート!』

 −領主の館−

「真田槍助、参りました」

「どうぞ、入ってください」

 分厚い扉の向こう側から辛うじてクレアの声が聞こえてきた。ドアノブに手を掛けて部屋の中に入る。

「急に呼び立ててすいませんね」

 クレアは左手で肩を叩きながら右手に持ったペンを机の上に置く。当然だが、ペンと言っても鳥の羽を加工したものでボールペンのようなものではない。

 どうやらここは領主が仕事をする場所のようで、俺が一度逃げ出したときエリファと話していた部屋でもある。

 部屋の位置は解ってはいたが、実際に中に入るのは初めてだ。壁には棚がずらりと並び、古ぼけた本が並んでいる。

 俺の知識では背表紙に書かれた文字が読めず、何の本かは完璧に判断出来ないが、年号と思われる数字がどの本にも書かれてあり年ごとの何かの資料なんだろう。

 部屋の中にはクレアと見知った将達が三人。

「ようやく来たか、遅いぞ馬鹿」

 俺の名前を馬鹿と認識しているとしか思えないアリシャは俺の顔を見るなり、そう言ってきた。

 少し強い口調だが、怒りは感じられない。待ち合わせの場所に遅れてきた友人に文句を言うような感じだ。

「……寝癖」

 俺の頭頂部を見て呟くレイラ。慌てて頭を触ると、小さく「嘘」と付け加えてきた。こんなところでくだらない冗談はやめろよな。

「よく眠れましたか?」

 顔を見て馬鹿や冗談を真っ先に口にしては駄目だ。エリファのようにまずは体調を気にしてくれなくてはな。

「昨日は大変だったようですし」

 文官との騒動はエリファの耳にも入っている。

「昨日とは?」

 不思議そうな表情を浮かべエリファに問いかけるクレア。呼ばれた理由は文官との騒動の事だと思っていたのだが、クレアは知らないらしい。ということは違う用件で呼ばれたのか。

「文官を叩きのめしたんだよな」

 問いかけられたのはエリファなのに、何故かアリシャが答える。

 つうか、馬鹿! 余計なこと言うな。今の言い方では俺が一方的にやったようじゃないか。

「昨日のカルディアさん達の……なるほど。サナダさん、もし街中で「訛りの入った東国出身と思われるの男の人」に会ったら礼と私から一言、あまり無茶はいけませんと伝えておいてくださいね」

「そ、そうだな。会ったら伝えておくよ。しかし、その逃げ出した奴を探して罰を与えたりとかしないのか?」

 不安になってクレアに聞いてみる。

「ガルディアさん達の報告では文官と東国出身と思われる男との口論としか聞いていませんし、文官側からはそのような事があったと言う報告も聞いていませんし」

「たった一人相手に手も足も出なかったとは言えない……」

 どうやら昨日の騒動は有耶無耶のまま消えてゆくんだろう。大きな問題にならずに済んだので俺は胸を撫で下ろす。

「さて、話を戻しますが、今日ここに呼んだ理由はわかりますか?」

「いや、全然」

 見当もつかないっての。

「では、先日言ったとおりサナダさん、あなたに二十人預けます」

「に、二十人もか!?」

 予想外の多さ。最初は二人とか考えていたのだが、いきなり二十人も……。

「はい、しばらくは訓練に専念してください。サナダさんも怪我を完全に治すいい機会ですし。わかりましたか?」

「お、おう……」

 戸惑いながら返事をした俺を見て小さく笑うクレア。

「さて、真田様。これから忙しくなりますよ」

 ガッツポーズをしながらエリファが笑いかけてくる。

 そりゃたしかにそうだな。しかし、俺はどうすればいいんだよ。

「どうすれば良いかわからないって顔してるな。安心しろ。何のために俺達がこの場に居ると思う?」

「昼間は訓練をし、兵を鍛える。夜は真田が自身を訓練をする……」

 アリシャとレイラの顔を交互に見る。二人とも意味深げに笑う。いくら俺が馬鹿でもどうするか理解できた。

 ようは、昼間は部隊の隊長として部下と訓練をし、夜はアリシャら既に部隊を率いている奴らに俺が指導を受けるのだろうな。来たばかりの頃にやった訓練のような感じで。

「そう言う事です、サナダさん。それでこれからの予定なんですが、指示が出るまで訓練と思ってください」

「指示を出すのはどれぐらい先だ?」

 クレアに質問をするが、首を横に振るだけ。

「明確な事は解りませんが、ヘルムランドの情勢次第でしょう。他の領からの援軍がヘルムランドに近日中には出立するそうなので、しばらくは我々に出陣命令が来るのは先ですね。少なくとも一月はないと見ています」

「一月も!?」

 一時期のように砦から砦への移動や戦ばかりに比べれば全然安全なのだが、アリヴェラ平原戦後から慌ただしく動いて来た身としては一月も訓練所に居るという事が信じられない。例えるなら、初めて小学校で夏休みに入った時みたいな感じだ。

「馬鹿。何のための戦力増強だと思っている。訓練が全然できてない兵ばかりでヘルムランドに向かっても意味ねぇだろ。それに、いざ訓練が始まれば一月なんてあっという間だ。それどころか、もっと時間が欲しくなるっての」

「ふふ、一月後のサナダ様の反応が楽しみですね」

「クレア……そろそろ訓練に戻る」

 学校の通信簿に絶対協調性がないと書かれそうなレイラは自分の隊の訓練に戻っていった。

「相変わらずだな、レイラは」

 俺は苦笑いを浮かべる。

「っと、俺もそろそろ戻るか」

 アリシャも槍を片手に部屋を出た。今更だがあいつらが居た意味あんの?

 いや、ワザワザ俺のために時間を作ってくれたと思っておこう。黒い髪の奴は訓練をサボる口実に。青い髪の奴は俺を貶しに来たという理由だったとしてもだ。

 訓練と言えば、他の奴らは殆どが自主訓練や隊の訓練を行っているんだよな。もう二週間近くブラブラしている身としては今日も長い一日になりそうだなぁ。

「じゃ、俺もそろそろ行くわ。とりあえず訓練所のどこかをぶらついてると思うから用があったら声掛けてくれ」

 どうせ訓練禁止期間だから身体を酷使する用は与えられないだろうが。

 個人的な意見としてはもう身体は大丈夫なんだがなぁ。強力な塗り薬のお陰で、全然痛みもないし。

「あ、真田様、待ってください!」

 エリファに呼び止められて俺は足を止める。

「ん、なにかあるのか?」

「はい、これ」

 差し出してきたのはA4サイズぐらいの箱。受け取るとそこまで重量はない。

「まだ本格的な訓練はやってはいけませんが、そうですね部隊の兵と顔を合わせるぐらいはいいですよね、クレア」

「そうですね……部下との交流は大切ですし、いいでしょう」

「いいのか?」

 まだ部下がつくって事に実感はないのだが、どんな奴が居るのかと気にならない訳じゃない。

「とはいっても、傷口が開かない程度にしてくださいね?」

「了解。傷口云々の前に、刀がこの状態じゃ何にも出来ないだろ」

 エリファに刀を見せると、苦笑いを浮かべた。

「じゃぁ、行って来るけど、どこに居るの?」

「召集をかけますので、訓練所入り口付近にいてくれれば……あと、先ほど渡した服に着替えてくださいね?」

 服? そんなもん貰ったっけ? あ、あの箱の中身がそうか。

「このままじゃいけないのか?」

「一応隊長なんですから、今まで以上に身だしなみには気を付けてください……」

 呆れた表情で呟くエリファ。そこまでおかしい恰好ではないと思うんだがなぁ。

 それに、こちらの服は何着か渡されてはいるが、どうも肌にあわん。

 上着は別に問題ないのだが、問題はズボン。ジーンズや学ランのズボンやジャージといった材質とは違う、生地の薄いズボン。生地が薄いくせに水を吸ったらやたら重いし。何よりも股の部分に違和感を覚える。

 なんというか、ボジションが悪くなるというか、生地がすれて気持ち悪いというか……わかる人間はわかるだろう。男としてはとあるボジション一つで動きが全く変わってくる。なぁ、そうだろう?

「と、とりあえずありがたく貰っておくよ。サンキュ」

「いえいえ、では、準備が出来たら訓練所入り口まで」

 エリファに軽く頷くと、一度俺は自分の部屋に戻った。


 手渡された箱を開けてみると中には白い服が数着入っていた。

 白と言っても限りなく灰色に近い色をしている。中身を全部広げてみると、学ランによく似た上着が一枚。そしてズボンが三着。ズボンを手にとって見てみると、その作りに驚いた。

 紐で縛るような服が主流なのだが、この服はかなり学ランに似せて作っているようで、感じ的には少し前に着た礼服の廉価版みたいな感じ。ご丁寧にベルト通しまでついてるぐらい。

「これは大切にしなきゃな……」

 そう呟いて、俺は学ランのズボンを脱いで、新しいズボンに足を通した。

 特に違和感などはない。こんな服があるのなら最初に出して欲しいものだ。

 ついでだから着る必要のない上着も着て準備完了。さて、訓練所の入り口に行くとしますか。羽織を上に着て部屋を飛び出した。

 

なんとか部下がつくまで進みました。

もう少し、もう少しで物語がまた進みます。

終わりが見えないこの不思議。

評価、応援、励みになっています。ありがとうございます。

なんとか必死に書いていきたいですね。

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