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第六十六話 『俺の望みと約束と』

 −領主の館、広間−

 日が落ち始める頃には、広間のほうに外に出ていた人間たちが戻って来ていた。

 収容人数を超えてるんじゃないかと思うほどの人間が広間に集まっている。

「外で衛兵が話しているのを聞いたんじゃが、どうやら、国王と、領守導員が到着したようじゃな」

 目に動物に引っかかれた様な傷のある男、ガルディアが声のトーンを落としつつ、喋り掛けてくる。ようやく始まるのか。こんなにも待つのが辛いとは思わなかったぞ。次から待ち合わせの時は人をあまり待たせないよう心掛けよう。

「ホント、重役出勤憎たらしいぜ……」

 俺がぼやくと、エリファが苦笑を浮かべる。

「お、どうやら始まるようですよ」

 ローチが広間入り口の方を見て呟く。俺も視線を入り口の方に向けると、俺たち以上に高そうな服を身に纏った人間たちが数名、扉を潜り、一堂が見渡せる場所まで進んでゆく。

 最後の一人の入場が終わると、自然と広間は静まり返る。

 俺でも解る。次にこの部屋に入ってくるのは、国王だ。

 国王が一体どんな人物かはまだ俺は知らない。固唾を呑んで、国王の登場を待つ。

 開け放たれた扉を四人の護衛を付け、なんともそれらしい格好をした男が入ってくる。

 外見から見るに、年は五十前ぐらいの男だった。

 日本人でそれだけの年ともなれば、白髪が目立つのだが、国王は食ってるものが良い為か、それとも、常識的に髪の色素が無くなるということが無いのか、他の髪をとなんら代わりの無い、青い髪を高そうな髪留めで纏めていた。

 外見年齢が五十代ぐらいだと想像できたのは、顔などのしわがあったからだ。髪の色素は衰えずとも、やはり肌の細胞などは俺たちの作りとなんら変わりのないようだ。

「此度のアド帝国の侵略戦争もようやく終わりが見えてきている。これも、此処に居る将兵らの活躍があったからこそ。戦で戦功を挙げたのにもかかわらず、声を掛ける機会が今日まで延びてきた事を、心から謝罪しよう」

 存在感のある声。立ち方や歩き方、その他のどれを見ても堂々としたもので、社交辞令的な台詞でも、それを感じさせない喋り方。これが国を治める者に備わる力なのだろうか。

「まず、オルタルネイヴ領主、クレア」

「はい」

 俺たちから離れた場所に控えていたクレアの声が広間に響き渡る。

 静かに、そして堂々と国王の前まで歩いてゆくクレア。

 エリファやアリシャの表情が硬い。まるで授業参観に出席している親のようだ。何か失敗はしないだろうか、上手に返答できるのだろうかと心配しているというのが一発でわかる。

「そなたのような、実力のあるものをもう少し早く取り立てなかったことを後悔するような働き、実に見事」

「いえ、私だけの力ではありません。私を慕ってくれる部下たちの働きあってこそ。その者達の働きが無ければ、私はこのような場に立てる者ではありません」

「良き部下に恵まれたようだな、これからも、この国の為にそなたらの力を貸してもらいたい」

「はっ」

 クレアが頷き、頭を垂れる。

「アド帝国の進行を退けることが出来たならば、安心してこの領を任す事が出来よう。これからも精進せよ」

 クレアと王様の対面が終わった。アリシャもエリファも安心しきった表情を浮かべている。

「サナダソースケ」

「はっ、はい!」

 俺に声が掛かるのは最後の方だろうとタカを括っていたのだが、まさか二番目に呼ばれるとは思っていなかっただけに、返答するときに声が裏返ってしまう。

 アリシャは呆れた表情を浮かべ、エリファやジーニアらは苦笑を浮かべている。一人だけ、必死に噴出しそうになるのを我慢している赤い女もいたが。

 右手と右足が一緒に出ないように気をつけながら、国王の前に立つ。

 遠くからでも威厳のあった国王だが、対面してみるとその威厳は三割り増し。こんな人物に怒られたら、返答すらまともに出来なくなりそうだ。

「そなたの働きは耳に入っておる。不利な状況にもかかわらず、戦を勝利に導き、世に聞こえし敵将とも互角に戦う、まさに文献に登場する英雄そのものである」

「お……私だけの力ではありません。此処に居る将や兵達の手助けがあったからこそ」

 クレアの台詞、まるパクリだが、偽りは無い。

「何か褒美を取らせようと思うのだが、何か欲しい物はあるか?」

 一言、言葉を掛けられて終わりと思っていただけに、その問いかけには正直驚いた。

 俺は別に何か褒美が欲しくてがんばったわけではない。急に欲しいものを聞かれても、これといったものが思い浮かばない。

「どうした? 何も思い浮かばなければ……」

 何も答えない俺を見かねて、国王が口を開く。

 欲しいもの、欲しいもの……。

 あった。だが、これを言って良いのだろうか?

 使いどころに困る金を貰ってもしょうがない。此処は素直に欲しいものを言った方が良いな。

「ひ、一つだけならあります!」

「ほう……そなたは何を欲する?」

「東国の人間達が笑って暮らせるような、髪の色が他の奴らと違うという負い目を持って生活しなくても良いような、小さい子が戦に巻き込まれて死なないような、そんな生活が欲しいです!」

 周囲がざわめく。アリシャやエリファらの前に立っている以上、表情は伺えないが、おそらく苦笑を浮かべたり、呆れた表情を浮かべているだろう。

 でも、俺が今一番欲しいものはそれだけ。欲しくないものを貰うより、子供のような事を言うと笑われた方が数百倍マシだ。もし、その願いが聞き届けられるなら、なおさら。

「そのような国にしていかなければなるまいな」

 国王の表情が和らいだような気がした。

「そのためにも、サナダソースケ、戦での活躍期待しておるぞ」

「はいッ!」


 国王との面会が終わり、皆で楽しく晩餐という流れになった。国王や領守導員がどうしているかわからないが、そんな事気にする必要もなさそうだ。

「ったく、あの場であんな事普通言うか、お前?」

 骨付き肉を齧りながらアリシャが俺の頭を叩く。タレが付いた手で叩いたような気もするが。

「しょうがねぇだろ、いきなり欲しいものを言えって言われて、なんて答えれば良いんだよ。お前だって褒美のとき、宝剣を与えるって言われて、銀貨が欲しいって答えただろ!」

「それは……」

 アリシャがどもる。

 理由はわかってるんだがな。価値のある武器なんか与えられても、それの使い道に困るのだろう。国王から貰ったものを売るなんて出来やしない。それだったらはじめから金を貰って部下に分けるのだろう。

 素直に部下に与える金をくれといえば良いものを。このツンデレめ。

 なんか使い方間違ってるような気もするが、まぁ、この際ツンデレ定義を考えるのはやめておこう。

 っと、そういえば約束があったな。レイラとカコウの。

「エリファー。この皿ちょっと貰ってくぞ」

 手付かずだった大皿を一つ拝借。作りたての料理は湯気を立ち上らせている。

「え、別にいいですけど、そんなに食べれるんですか?」

「ディレイラならまだしも、お前の身体にその量が……」

 言いかけて、アリシャの口元が緩む。

「なるほど、そういう事か。これも持って行ってやれ、あいつが相手だとそれぐらいで足りるとも思えねぇからな」

 状況を理解したアリシャがもう一つ大皿を俺に押し付けてくる。

「おう、サンキュ」

 両手に大皿を二つ抱え、皿を落とさないように広間を出る。

「ったく、いつも人の事ばっかりだな、アイツは」

「ま、それがサナダ様らしいじゃないですか」

 背中越しにそんな会話が聞こえてきたが、気にせずに待ち合わせの場所に向かう。これを見てどんな表情を浮かべるかね。


  −館外れの井戸−

「待ったか?」

 待ち合わせの時間を指定したわけではないが、俺が約束の場所に到着する頃には二人とも井戸の縁に腰掛けていた。

「いいえ、拙者らも今来たところで……それは?」

「良い匂い……」

 カコウの意識は俺に向けられているが、レイラの意識はもう料理に釘付け。予想はしていたけどな。

「皆で食おうぜ? お前らだって手柄が無いわけじゃないんだ。これぐらい胸張って食っても文句は言われないだろ」

 レイラの目の前に料理を差し出すと、迷うことなく口に入れるレイラ。その姿を見ていると不意打ちによる暗殺は心配ないが、毒殺されるんじゃないかと不安になるぞ、おい。

「ですが……本当に?」

 カコウの方はまだ遠慮をしているようで、目の前に皿を突き出してみても、料理を手に取る気配をみせない。

「良いも悪いも、レイラはもう食ってんだ。早くしないとなくなるぞ?」

「それもそうでござるね」

 微笑を浮かべ、カコウも料理を口にする。

 目の前で旨そうに料理を食う二人。もう少しその姿を眺めていたかったが、俺も何も口にしてないので流石に腹は減っているし、のんびりしてたらレイラに全部食われちまいそうなので、俺も食事に参加した。

「ッ!」

 急にレイラが胸の辺りを叩き出す。そんなに急いで食わなくても料理は逃げねぇよ。

「おいおい、そんなに急いで食う必要ねーだろ、ディレイラ」

 俺の背後からコップが差し出される。驚いて振り返るとコップを両手に持ったアリシャと、飲み物を抱えたエリファ。そして空のコップを四つほど抱えたジーニアが立っていた。

「お前ら、何で?」

「何だよ、俺達にはディレイラ達と祝杯をあげる権利すらねーのかよ」

「こういう席は人が多いほど良いのですよ、コールヒューマン」

 アリシャとジーニアが同じタイミングで言葉を発する。何とか聞き取ることが出来たが、エリファまで喋られていたら聞き取れなかっただろう。

「さ、真田様も、カコウ様もどうぞ」

 ジーニアからコップを受け取り、エリファがその容器にグレープジュースのような色をした液体を注ぐ。口をつける前にその匂いを嗅ぐ。

 少し鼻を突き抜けるような匂い。この癖のある匂いは、体調が変化しそうな成分が含まれていることが容易に想像できる。

「俺、未成ね……」

 口を開きかけて、とある飲み物は二十歳を過ぎてからという概念がこの世界には無いということを思い出し、喉元まで出てきていた言葉を飲み込む。

「さ、皆さん、今日は食べましょう、飲みましょう!」

 エリファの号令とともに、少し人数的に量が足りない料理を囲んで、俺達は祝杯をあげたのだった。 

ちょっとばかし間が空いてしまいました。

最近どうも書けなくて困惑中です。

更新が遅くとも、温かい目で見守ってください。

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