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第六十五話 『時間がつぶせねぇ』

 −訓練所−

「よっ、姿見かけないと思ったが、二人で密会か?」

 開始までかなりの時間があると見て、館を抜け出した。

 とある人物を探していたのだが、探していた奴らが同じ場所に居てくれて探す手間が省けた。

「これは真田殿」

「……真田」

 一人は灰色の髪でいつもと同じ袴姿のカコウ。そしてもう一人は赤い袴にスポーツブラのような上着だけという、見るからに寒そうな格好のレイラ。

 お互いの肌の汚れ具合を見るに、二人で稽古でもしていたんだろう。東国武士がうまく仲間たちとやっていけるか不安だったが、何とかやっていけているようだ。

「いや、開始までまだ時間掛かるらしいから、こうして時間つぶしにやって来たんだが、邪魔だったか?」

 俺の姿を見るなり眉を寄せる二人に説明をする。

「そうでござるか。てっきり、拙者は何か重要な役を聞いて逃げてきたかと……」

「私もそう思った……」

 何ですか、あなた達のその認識は。俺は重要な役を与えられると、すぐさま逃げ出す無責任な男としてみているんですか?

 ……前例があるから強く否定できませんが。

「でも……館を離れて良いの? いつ始まるか解らないじゃない……」

「それもそうだけど、他の奴も結構動いてるしよ。俺も動いて良いじゃないか。それに、開始は多分夕方ぐらいになるって聞いたし。今夜は晩餐だな」

「そう……」

 食事の話となれば目の色が変わるかと思ったレイラだったが、予想に反し、素っ気無い態度。

「そういえばその服は礼服でござるか?」

 いつもと違う服装の俺を見てカコウが聞いてくる。

「あぁ、そうだな。でも俺は学ラン……カコウと初めて会った時に着ていた服で出ようとしたけど止められちまってな……」

 アリアにドレスを着せられそうになった事などを話すと二人は声を上げて笑った。

「アリアらしいずれた考え……」

 お前に言われたくないだろうよ、レイラ。

「そういえば、何で二人は参加しないんだ? 滅多にお目に掛かる事の出来ないもんだと思うぜ? そう何度もあるもんじゃないから参加したほうが良いんじゃないか?」

 二人の表情が曇った。

「傘下に加わり、クレア殿の口添えもあり、拙者らは特に不自由のない生活を送れては居るが、まだすべての将兵が拙者らを快く迎えているという訳ではないでござるからね」

 カコウが参加すれば何かしらイザコザがあるかも知れない、か。

「私も……一応将ではあるけれど、皆とは違うから……」

 レイラは自分の髪を撫でながら悲しげに呟く。

 表情を見ても参加はしたいようには見えるが、生まれの違いや髪の色で参加すれば何かしら問題や人の視線があるから、参加できないのか。

 それを考えないで時間があるからってワザワザその話に触れに来ちまったってのは失敗だな……。

「悪い、俺が考えなしだった」

「いえ、気にしなくて良いでござるよ。拙者らも話していたでござるよ、真田殿の礼服姿とはどのようなものかと」

「うん……微妙に似合ってるし、微妙に似合ってない」

 なんだよ、その微妙な返答は。ま、俺自身この姿が似合ってるとは思ってないからいいけどよ。

「二人はこれからどうするつもりだ?」

「拙者らでござるか? うーん、隊の者達には暇を出しているので、今日はレイラ殿ど二人で過ごすつもりでござるが?」

「特に……何もしない。訓練もこれで終わりにして、後はブラブラ過ごすだけ……」

「そっか、じゃぁ、館が騒がしくなったら、館の外れの所に来てくれないか? 井戸みたいな所ある場所」

 二人が参加できないとしても、雰囲気を味わうだけなら誰も文句は言わないだろ。

「じゃぁ、俺戻るな。約束守ってくれよ。館の外れの井戸みたいなトコだかんな」

 俺が何をするか理解できないカコウとレイラは目を丸くし、一応頷いてくれた。

 もう少し二人と話していたいが、あんまり館から離れすぎて、式に送れちまったらどんな小言を言われるか怖いからな。安全の為に館で待機しておくか。


 −領主の館、広間−

「お、ソーちゃんお帰り」

「まだ他の人は帰ってきてないのですよ?」

 広間の一角には見知った顔が二つ。アリアとジーニアの火将コンビだ。

「俺が遅れたらどっかの赤い髪の人から小言を言われそうだからな」

 ジーニアが納得したように頷く。

「確かに今日はクレアさんは気合が入ってるのです。まぁ、こういう場で配下の者の失敗は自分の指導力不足と捉えられるのですからしょうがないと言えばしょうがないのです」

 笑いを堪えているアリア。こいつは俺の言いたいことが解ってるようだ。

 小言を言う赤い髪ってのはお前の事だよ、ジーニア。

「お前らは何処にも行かないのか? まだ始まるまで時間あるだろ?」

「こういう場所では誰かがその場所に残っておいた方がいいのです。コールヒューマンが戻ってきた時のように、見知った顔が居れば、その場所に必ず来るのですから……」

 目印になって置くという事か。確かにジーニアらがこの場所に居なけりゃ、俺はまた適当に付近をうろついてただろうし。

 俺より年下とはいえ、何処か大人びているジーニア。そういえば、俺こいつの事、ぜんぜん知らないな。

 いい機会だし、いろいろ聞いてみるか。

「なぁ、ジーニア。お前ってさ、一体何なんだ?」

 そうじゃねぇだろ、俺の馬鹿! 直球すぎる質問で、意味が何一つ解らないだろ。

「何なんですか、その言い草は」

 明らかに不機嫌そうな表情を浮かべるジーニア。ごめん、ホント申し訳ない。

「いや、俺何一つお前の事知らないなって思ってさ。悪気は無かったんだ」

 大声を出して笑うアリア。こいつは周囲の視線と言うものは気にならない人種なんだろう。

「っと、そーちゃんジニーちゃんを頼むよっ! おねーさんもちょっと行きたい所、実はあったのさっ!」

 俺の返答も聞かないでアリアは駆け出す。

「ちょ、おまっ……行っちまった」

 脱兎のごとく走り去ったアリア。残された俺はため息を一つ。最悪な状況で逃げ出しやがって。

「きっと、此処に参加できなかった隊員の所に行ったのです」

「じゃ、お前も行ったほうが良くないか? 俺が此処に残ってるから行って来いよ」

 アリシャも参加出来なかった隊員の所に今行っているはずだ。式典に参加出来なかったとはいえ、そうやって気を掛けてくれているという事が解るだけで、隊員たちにとっちゃプラスになるだろう。

「私が行っても意味が無いのです……」

「意味が無いってどういうことだそりゃ?」

「あれだけ同じ戦場に立っていて解らないのですか、コールヒューマン。私には隊員の信用は何一つ無いのです……隊として今機能しているのは、アリアさんが居てくれるからなのです」

 そりゃぁ、理屈の多いジーニアよりも、直感で動いているような感じの強いアリアのほうが、性格からして隊員に慕われるのは考えられない話じゃないが。

「それでもジーニア、お前は将なんだから、全く隊員に慕われてないって事はないだろ。もし、慕われてなかったら、今頃将の座から引き摺り下ろされているぞ?」

 将としての指導力が無ければ、ジーニアは引き摺り下ろされ、火将という座はアリアが座っているに違いない。それが無いと言うことは、やはり、ジーニアは隊員からの信用はあるって事じゃないか。

「そういう話は既に何度も出ていますが、その度にアリアさんが話を納めているのです。ジニーちゃんに足りないのは経験だけで、経験をつめば、おねーさんよりいい将になるって」

 アリアの口調を真似てジーニアが悲しそうに呟く。

「私も解っているのです。私なんかが火将を名乗るよりも、アリアさんが……」

「ジーニア。諦めるのは簡単だけど、もうひと踏ん張りしてみないか? 本当にお前が将としての器が無いなら、アリアがその話に乗っているだろうが、それがないって事は、お前が踏ん張って、将として相応しい信頼を得ることを信じているからじゃないのか?」

 ジーニアを励ましたのは、可哀想だとか、そんな理由じゃなくて、ジーニアの部屋には俺なんかが読んでも全く理解できないような本がずらりと並んで、人の上に立つために努力をしているということを知ってたから。

「お前はちゃんと努力してるよ。後はそいつらがお前を認めるだけのトコまで来てるんじゃねぇか。ゴールは目の前だろ?」

「でも、どうやれば……?」

「それは俺にはわからないよ。こればかりはジーニアが考えなきゃいけない事だし」

 そこまで言っておいて、こんな言い方は酷かも知れないが、ジーニアの置かれた立場や状況なんかは俺がわかるもんじゃない。俺に出来ることといえば、ジーニアの背中を押してやることだけ。

「人にさ、人に動いてほしいなら、まず自分が動かなきゃいけないんじゃないか? 自分より地位が低いから、自分は何もしなくて良いとかじゃなくてさ」

 ジーニアは何かを考える素振りを見せた後、俺から顔を背ける。

「コールヒューマンはいつもそうなのです。全部憶測で話して、なんの根拠も無いのです……でも」

 消え入りそうな声でジーニアは付け加える。

「もう少し、がんばってみるのです」

 周囲の音で聞こえにくかったが、俺の耳には確かにそう聞こえた。

 



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