第六十二話 『呼び出し喰らってなんとまぁ…』
−ベルジ地方中央砦−
アリシャらに呼ばれ、俺はクレアの元へと連れて行かれた。勿論、レイラの方も付いてきた。
「サナダ様、ご無事で何よりです」
「まぁ、色々と危なかったがな……当初の予定通りカコウらを何とか救い出したぜ」
この部屋の中にはアリシャ、レイラ、カコウ、ヤタなどといった将クラスの人物が揃っている。俺がこの場に居て良いものか、かなり不安になるが俺はクレアに呼ばれたのだ、何か用事があるのだろう。
「で、何か用事か? そうか、次の戦の場所が決まったんだな。了解、一刻も早くこの戦を終わらせてやるさ」
アリシャらとの会話で出てきた地方の名前は確か『ヘルムランド』今エドラやアシュナら率いるルノ帝国の主力部隊がアド帝国の奴らと五分に戦ってる状況だったな。別働隊としてベルジ、アリヴェラ平原を任されていた俺らも加わるんだな。
聞いた話だとその『ヘルムランド』を攻略すればアド帝国の奴らは進行の足掛かりを失い、ルノ帝国侵略を諦めなければいけないんだよな。そう、全部の戦はもうすぐ終わるさ。
戦が終われば俺も役割を負え、元の世界に帰れるさ。まぁ、元の世界に帰る前に少しこっちの世界で戦の無い世の中を作るために手を貸すつもりではいるが。
「いえ、今日此処に来てもらったのはそのような用事ではありません」
微笑を浮かべると、クレアは側近に合図を出す。側近は一度頷くと机の上から紙を持ってきた。
「我ら義勇軍は明日両日にも一度オルタルネイヴへと帰還し、来るアド帝国追撃戦へ向け兵力を温存します」
は? 帰還って戻るのか?
「ちょっと待て、まだ戦はあってるんだろ、こちらの兵力もまだ十分じゃ……」
「ばーか。色々と此方も準備をしなきゃいけねぇんだって。確かにこの一連の戦で其処まで大きな被害こそないが、どの隊も隊員が怪我や戦死で減っている。兵員補充をしなければ援軍に出ても足を引っ張るだけだっつうの」
アリシャが俺の頭を叩く。クソ、コイツ……。
まぁ、アリシャの言も一理あるな。確かに被害は少なかったものの、俺も怪我をしてるし、死んだ奴だって居る。当初の数に比べやはり負傷者らの関係で総兵数も減っていると思う。補給も大事……か。
「了解、で……それで何で俺が呼ばれるんだ? 徴兵とかそんな役割与えられてもこなせないぜ?」
「ほんっとわかってねぇなぁ。サナダ、お前が呼ばれた理由は……」
「アリシャ、続きは私が言います」
クレアがアリシャの言葉を遮り、顔の前に一枚の紙切れを差し出す。
「これは……」
差し出された紙のにはびっしりと難しい字で文字が書かれており、紙の右下には朱印が押されており、何か公式的な文章のようだ。
だが、肝心な事を忘れてないか? 俺がこの世界で読み書きは出来るが、現代で例えると、レベルは中学生レベルの拙いもの。こんな難しい言葉ばかり書かれた書面の内容なんか理解できるか。
俺がジーニアから借りた本がライトノベルと例えるなら、この紙は法令書だ。難しい言葉で書かれた文字なんか理解できるはずが無い。
「どうです? 驚きました?」
クレアが心底嬉しそうに俺に質問してくる。なんかとても良い事みたいだけど……。
「あぁ、全然文字が読めない。何これ?」
「別の意味で驚きました」
予想外の俺の回答に驚くクレア。背後ではアリシャが馬鹿笑い。カコウとレイラの存在感は無い。だが、カコウは笑いを堪えていて、レイラは今日の晩御飯の事でも考えているんだろうって事が容易に想像できた。
「えっと、これは正式な指揮官としての取立ての書面で、ちゃんと帝都の正規軍の管理者にも了承を得ています」
「……俺は今までも僅かながら金はもらってたぞ? まぁ、殆ど使う機会無くてずっと溜め込んではいるが……」
再びアリシャが俺の頭を叩く。痛いっての。
「い、いえ、給金の話ではなくて、サナダ様、貴方はオルタルネイヴへと帰還したら、アリシャやディレイラ達のように、自らの隊を率いるんです」
は? どういうこと、それ。
「では、正式に任命します。サナダソースケ。貴方はこれから、サナダ隊を率いて更なる戦果をあげてください」
一斉に沸き起こる拍手の嵐。その場に居るのはクレアの側近数名とアリシャ、レイラ、カコウらだけだが、その皆全てが鼓膜がおかしくならんばかりに拍手を送ってくれてるというのは解った。だけど、どーゆー事?
「続いてカコウ殿、東国武士団はオルタルネイヴ帰還後、正式に義勇軍へと組み込まれ、その後私の指揮の下働いてもらいますが、よろしいでしょうか?」
「異論はありません。東国武士の力、存分にお使いくださりませ」
カコウはクレアに向け、一度野太刀を鍔を押し上げ、再び鞘に戻す。金属の澄み渡った音が部屋の中に響いた。
「アリシャにディレイラ。オルタルネイヴに帰還後、エリファ、ジーニアらの合流を待って、国王へと謁見する予定になっていますので、粗相のないように」
いかん、展開が早過ぎて状況処理能力が追いついちゃいないぞ。とりあえず理解できた事はカコウらがこっちに正式に部隊として組み込まれる事と、国王とアリシャらが会うことは解った。だが、俺がサナダ隊を率いて……って、ちょっと待て!
「お、俺アリシャらと同じように隊を率いて戦うわけ? 無理、無理! 今、俺は自分の事で手一杯なのに、誰かに指示を与えながら戦うなんて無理、無理!」
「何を今更言ってんだ? それにこれは凄く名誉な事だぞ? 一兵に過ぎないサナダが隊を率いるなんてな、兵の誰もが望んでいる出世なんだぞ?」
アリシャが心底不思議そうな顔で俺の肩を小突く。確かに凄く名誉ある事なのは解るが、何で俺? 他にもすげぇ奴一杯居るだろ。戦場じゃ俺より敵を倒してる奴なんか一杯いるしよ。
「俺じゃ実力不足なんじゃないか? 実質俺手柄っつう手柄なんて立ててないし!」
「それを他の奴の前で言ってみろ、お前すぐに肉塊に変えられちまうぞ?」
アリシャが指の骨を鳴らしながら俺の元へと近付いてくる。これは今すぐにでもひき肉にされちまいそうな雰囲気!
「大丈夫、真田……自信がないのは解るけど、真田は歩将を討ち、金将を策で打ち破り、それに加え力でも金将を討ち取った。結果論としては『青の騎士』ケルヴィンですら真田の策によって捕縛する事に成功した……それだけの実績を持ってる……大丈夫」
レイラが俺に言い聞かせるように、俺の肩に手を乗せその手に力を加え、俺の肩を揉み解す。
「ケルヴィン捕縛?」
聞きなれない単語をレイラに聞き返すと、先の戦で捕縛した。とあっさりと返答される。まて、余計に混乱してきたぞ?
「真田が金将と青の騎士の兵を分け、半分が此方に来るようにしたんじゃないの……? 数で勝る此方が青の騎士を捕縛する事は簡単だった……私の手柄は真田のおかげ」
お礼に晩御飯のおかずをあげようと言わんばかりにレイラは俺の肩を揉む。まぁ、コイツが俺におかずをくれるなんてまずありえないだろうけど。
「まぁ、今日の話はこんなところです。いきなり言われて逃げられてもたまりませんからね」
クレアは微笑みを浮かべると、俺の過去をえぐってきた。アリシャも納得したように頷いている。
俺だけ、話についていけず、取り残されている感じがするが、まだ時間はある。数日もすればきちんと状況を飲み込めるだろう。
本当に理解出来るかは謎だが。
「そういえばサナダ様、古道具はどうですか?」
「どうって?」
「いえ、何でもありません、気にしすぎていたようです」
クレアはもう一度微笑みを浮かべる。そして少し離れていたアリシャと世間話でもしようかという時、側近に時間ですと釘を刺された。恐らく他の仕事が溜まっているんだろう。
俺達はお互いに目配せをしその場を後にした。
だんだん更新ペースが落ちつつある今日この頃。
次回は三日後を目処にがんばってみましょうか!
しばらく書かなかったので気力は十分だと思うのですが……。
温かい目で見守ってください。
お付き合いありがとうございます!