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第六十一話 『レイラと戦う理由』

 −ベルジ地方中央砦−

 アリシャ、カコウ、ヤタらと一緒に中央砦まで戻ってきた。途中からは俺の世界の事を話していたが、途中でヤタがその場を離れていた事を俺は到着ギリギリまでわからなかった。恐らく、引率の役割を受けていたなら大目玉物だろう。

 砦に到着すると三人は報告があると、仮領主、クレアの元に行った。俺は砦に付いた時点で自由行動。此処まで来たならいっそクレアの居る場所まで一緒に行きたかったのだが、どうも重要な話があるようで、俺はやんわりと追い返された。

「此処もつい先日まで戦闘が行われていたとは思えないな」

 負傷者等の収容や戦死者達の埋葬も終わり、戦など最初から無かったと思えるほど、中央砦付近は戦のあった面影はない。

 砦に駐留している部隊の兵たちも全身に包帯を巻いたミイラ男は存在しない。

「この分なら皆無事みたいだな、良かった良かった」

「真田が一番傷ついてる……心配した」

「あぁ、そうだな。この通り俺は毎度怪我だらけさ」

「次から……もう少し訓練をきつくする……」

「それだけは勘弁。今以上に怪我増えちまうよ」

 っと待て待て。俺は独り言を呟いていた筈だが、それに答える人間が居る?

 隣に佇む人物を眺める。黒い髪、神社の巫女さんが履いてる様な赤い袴。そして白い上着。ディレイラだ。

「おう、レイラ。怪我は無いか?」

「全然。真田のほうは?」

「俺も全然」

 レイラは少しだけ表情を緩めると俺の傷口を突いてくる。全然、なんとも無いね。

「あだだっ、痛い、やめて、まだ其処傷口塞がってない!」

 ごめん、嘘。全然痛い。そもそも俺は怪我人です。

「そうだ、レイラ。こっちの戦はどうだった、楽勝?」

「ん……そう」

 レイラの返答はどっちに捉えて良いものか判断に困る。それだけを答えると、レイラはその場から静かに立ち去ろうとする。

「……」

 俺から四歩半分離れて静止。俺の方をじっと見つめている。

「……」

 動く気配が見られません。寝てるのか?

 しばらく俺がレイラを見つめていると、レイラはもう一歩進んで俺に視線を向ける。

「……付いて来いって事?」

 僅かにレイラは頷くと、そのまま進み始める。最初から付いて来いって言えよな。無言で見つめられても解るわけ無い。俺はテレパシストじゃねーんだから。

 レイラの後に続いて歩く事数分、砦の外に出た。レイラの歩みが止まったのは中央砦から少し距離のある林の中。

 手ごろな石の上に腰を下ろすレイラ。俺もそれに習い、向かい合う形で腰を下ろす。

 高く伸びた木と空を覆いつくす葉。たったそれだけなのだが、砦の中のようにレイラに話しかけて良いものか迷う。林の中の静寂に見事にマッチしているレイラの姿を見るだけで、喋らなくてもレイラの気持ちがわかるような……はい、無理です。

「なぁ、レイラ……なんでわざわざこんな場所に?」

「……が入るから……」

 レイラは呟くように口を開く。最初の言葉が風の音で聞き取れなかった。

「今なんて?」

「知らない……」

 何この流れ? なんかこれではレイラがとんでもない発言をしたようじゃないか。

 レイラはそれっきり黙り、俺をじっと見つめている。

「何かあるのか?」

 無言で見つめられると言うのは非常に身体に悪い。元々口数が少なく、感情も表に出さないレイラなら尚更。何か悪い事したっけ、などと自問を繰り返すが、答えが出てこない。

「……心配した」

「心配?」

 再びレイラは口を開くが、何を心配したかなんてわからない。

「今まではアリシャやエリファ達が遠い場所で戦っていてもそう気にはならなかった……けど、真田が離れた場所で戦ってる時、凄く不安だった……」

「あぁ、そういう事か。俺も心配してたぞ、レイラ達は無事かって。それに悪いもん食べてないかってな」

「悪いものは食べてない……」

 少しむくれるレイラ。出会ってからはそう時間は経ってないが、こうやってむくれたりして感情を出してくれるようにはなった。それに俺を心配をしてくれるほど、距離も縮まった。最初の頃と比べて、随分と皆変わったもんだな。

「ふふ……」

「何か……おかしい?」

 思わず含み笑いをしてしまい、俺を不思議そうな目でレイラが見つめる。

「そういえば、レイラは本当に怪我して無いだろうな?」

「うん、してない……」

 レイラの身体を上から見ても、確かに包帯一つしてないし、擦り傷すらなさそうだった。

「真田は傷だらけ」

「そうだな、ホントレイラとか無傷だと自分の力のなさを痛感させられるよ」

「……真田が弱いのは当たり前」

「そうですか」

 面と向かってそんな事いわれると流石にへこむ。少しは俺も力付いてきたかなって思っていただけ余計に。

「だから、私が守る……真田は私の背中を守る……完璧」

「いや今、俺はアリシャ隊だから。まぁ、そういうのも悪くないかもな」

 口数こそ少ないものの、レイラは俺を心配してくれていたらしい。

 誰かに守ってもらって、誰かを守るか……。

 今の俺には難しいことかも知れない。マッシュという敵将と戦った時も手一杯で最後の方は記憶飛んじまったし。もっと、もっと強くならなければいけない。

「ッ!」

 また、あの頭痛だ。戦でも何でもないのに、なんで今頃!?

「真田……傷が痛む?」

 レイラが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「あぁ、大丈夫だ。きっと疲れが溜まってたんだろうな」

「無茶は身体を壊す……」

「そうだな、今日ぐらいはゆっくり休むよ」

 レイラは一度空を見上げる。俺もつられて、空に視線を移す。

 空は青く、燦々と太陽が大地を照らしているが、少し離れた場所から雲が風と共に此方に向かってきている。もう少しすれば一時的ではあるが、雲が太陽を隠すだろう。

 レイラは何を思って、曇ったり晴れたりと忙しない天気の空を見上げたんだ?

「この時間からは寝れない……それでも寝るの、真田」

「いや、いくらなんでも明日の夜明けまでまだかなり時間がある俺でもそんなに長く寝られないよ、夜中起きちまう」

 こっちの世界に来てからというもの、俺は規則正しい生活を心がけている。いや、心がけねばならないんだ。

 日本に居た頃は早く寝すぎて夜中目が覚めちまっても、朝まで時間を潰そうと思えば、漫画読んだり、ゲームしたりと、簡単に時間を潰せる。だが、身近な娯楽のようなものが本だけという此方の世界でそれをするのは辛い。

 本があるならまだマシだと思うかもしれないが、重要な事を忘れてもらっちゃ困る。俺は其処まで此方の文字の読み書きができる方じゃない。いくら簡単な本でもやはり時々詰まっちまう時もある。そうだな、例えるなら全部英語で書かれた本を読めって言われるようなもんだな。それが中学校で習う程度の簡単な文字だったとしても、英語が得意じゃない奴は進んで読もうとは思わないだろ。

「さっき真田、ゆっくり休むって……」

 レイラは眉間にしわを寄せ、俺の言った言葉の真意が理解できないという表情。まさかとは思うけど、勘違いしているんじゃないんでしょうか、このお方。

「俺がゆっくり休むって言ったのはだな……夜は早めに寝るっていう意味だ」

「……てっきり今から寝るのだと思った。ゆっくり休むって言ったから」

 今は大体昼過ぎ。こっちに来てから時間は相当アバウトにか捉えてないので、正確な時間は解らないが、昼飯を採った時間を正午とすると、今はおおよそ十四時半ぐらいか。流石に二十時間近く寝れません。

「だから、レイラが暇だったらもう少し俺に付き合ってもらうぜ?」

「それは構わない……」

 

「真田……」

 会話の途中でレイラが思い出したように口を開く。

「ん、どうした?」

「真田は前に簡単に命を捨てるな、大切な人間を一人も不幸にしたくないと真田は言った。私もその力になると誓った……それは今でも変わらない。でも、今自分が解らなくなってきている……」

「どういうことだ?」

 レイラの表情はいつもと変わらないように見えるが、心なしか、不安が入り混じった表情をしているように見えた。

「さっきのは真田の戦う理由……じゃぁ、私は何のために戦っているんだろうって思った……考えても考えても答えは出てこない。真田みたいに、誰もが納得するような目標、出てこない……」

 育てていた植物が枯れてしまった時のような寂しげな表情を見せ、悔しそうにレイラは大剣の柄を握り締める。

 そんなレイラの姿を見ているのがいたたまれなくなり、口を開く。

「誰もが納得する目標なんて持たなくて良いんじゃね? 例えば、戦が終わった後の飯を食いたいから戦うとか、そんなもんでも良いと俺は思うけどな。何のために戦っているか、それは百人に聞けば百人の答えがある。自分で一番これだって思えればいいと思う」

「……何のために戦っているか、それを探すために戦っている。それでもいいの?」

 戦う理由を探すために戦っている。支離滅裂な手段だが、レイラらしい純粋な戦いにおける目標みたいに思えた。

「あぁ、そういうのもアリだと思うぜ。寧ろ、かっこいいんじゃね? シンプルで。」

「しんぷる?」

「単純って意味かな?」 

 レイラは少し頬を膨らます。

「いや、悪いと言っているわけではないぞ? シンプルイズベストって言葉もあるぐらいだから、複雑よりも、単純な方が良いって言う時もあるんだ。あと、シンプルイズベストってのは、単純が一番って事だ」

 確か単純が一番であってるよな、まぁ良いか。どうせ英語わかる奴なんてこっちの世界には居ないんだし。

「戦う理由を探すために戦っている……」

 レイラは何度か呟くと、満足したように大きく頷く。

「うん……これが一番私にあっているような感じがする……」

「そうか、それは良かった」

 まぁ、目標や理由なんてものは自分を納得させるために考えるものだからな。

「私は物心付いた頃から、父の教えの元、剣を振る訓練をしてきた……父はいろんな事を教えてくれた……でも、その全てが私の心を揺さぶるようなものじゃなく、面白くなかった……真田も私の知らない事を沢山教えてくれる……真田の話すこと、全部が私にとっては新鮮で面白い」

「そりゃぁ、知らない文化の事だから、全部が全部目新しく感じるのは当たり前だよ。レイラの父さんは、生きるために必要な事を教えてくれたんだろうから、やっぱ面白いって言うより、難しくなるのは当たり前じゃないのか?」

「そういうものなの……?」

 心底、不思議そうな顔。レイラの表情の中でも、普段の表情の次に、俺が目にしてきた顔だ。レイラと気軽に話せる一番の理由はこれじゃないだろうか、わからない事が相手にもすぐに解るような表情になるということ。

 レイラの長い髪が風に吹かれ、風と遊ぶ。思わず、その光景に目を奪われる。

「真田……そんなに私の髪、珍しい?」

「いんにゃ、結構目にしてきた色だから不思議と驚きはしない。が、やっぱりこっちの世界じゃ目立つよな、今のところ俺とレイラしか見た事がない」

「うん……私の髪の色は異色といって、時々髪の色が三色に含まれない色をもって生まれる事があるらしい……」

「へぇ、じゃぁ、両親の髪の色は何色だったんだ?」

「私は小さい頃の記憶がない……」

 おぼろげにしか覚えてない。とかじゃなく、本当に記憶がないって事か?

「フィンレルム家の父が私を拾って娘として育ててくれた頃からの記憶しかない……」

 それは初耳なんですけど。やっぱ、みんないろんなもん抱えて生きているんだな。

「まぁ、過去がどうであれ、今のレイラは変わりないんだから、俺は別に気にしないけどな」

 レイラの表情が少し緩んだように見えた、気がした。

「この戦が終わったらさ、ここだけじゃなく、いろんな土地を回るのも良いかもな」

「……なんで?」

「カコウとかの髪の色だって三色にとらわれてないだろ、それだったら、この広い世界の中にまだまだ黒髪は居ると思うぜ? 二人で一緒に探すか?」

 冗談交じりにレイラに言うと、レイラは俺にでこピンをくれた。

「二人…じゃない。アトレシアも。うん、どうせだったらカコウたちも誘って、皆で探そう」

「はは、良い案だ」

「真田は次の戦闘、気をつけること……」

「なんでよ?」

「旗が立った」

 せっかく良い話で纏まっていたのに、最後に死亡フラグと捉えますか、ディレイラさん……。

 なぁ、聞いてくれよ、俺、この戦が終わったら、アイツに求婚されるつもりなんだ。よし、これで俺は求婚を待つ側となった。これでフラグは回避しただろ。大抵求婚する側が死ぬからな。

 それからしばらくレイラとたわいもない話をし、アリシャ達が俺達を呼びに来るまで二人で話していた。

最近冷え込みはげしいっす。

寒がりの私としては辛すぎるwww

最近どうしたんだろう、なかなか筆が進まない……おかしいなぁ。

とりあえず次もがんばりまっす!

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