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第六十話 『ベルジ地方に戻るって初耳!』

 −ベルジ地方中央砦への道−

 俺が早とちりをし、カコウらに散々笑われ、今日という日をもう一度やり直せるなら、攻めてパンツ一枚じゃなく、ズボンぐらいは履いて外に出よう。

 パンツ一枚に包帯姿というおかしな格好で砦を走り回ったもんだから、俺の笑い話は瞬く間に砦内に広まっていた。

 夜になって砦内を歩いているとジーニアに挨拶をされた時も「今は服をきているのですか、流石に夜は冷えるのです」と弄られる始末。

 こうして歩いていると召喚された当初とは比べ物にならないほど、周囲の奴らの対応が変わってきている。当初は気軽に話せる相手と言えばレイラとアトレシア、エリファやアトラ程度だったのに。

 今はアリシャと顔をあわせれば、何かにつけてアリシャは俺を馬鹿といい、肩や背中を叩いてくる。不思議なことに頭は狙わないのは何故だろうか。ジーニアとはあまり顔を合わせる事は無いのだが、会ったら小言を貰うが、うまくやれている。

「だらしなく歩くんじゃねぇよ、胸張って歩け、サナダ!」

 アリシャの容赦ない平手打ちが俺の背を捕らえる。メッチャ痛い。

「痛ぇッ! だから、そうバシバシ背中や肩を叩くんじゃねぇ、お前阿呆だから忘れてるかも知れないが、俺は怪我人なんだぞ! 叩くなら怪我に響かない場所を狙えっての!」

 アリシャに叩かれた箇所を摩りながら隣を歩くカコウ、ヤタコンビに救いを求める。

「真田殿、大丈夫でござるか? アリシャ殿ももう少し加減した方がいいかと」

 流石カコウ。俺に助け舟を出してくれる。でも『叩くのをやめろ』とは言わないのね。

「今、真田殿の身体状況から申しますと、傷に響かない場所は指の関節か、右腕の関節か頭かと。それがしが思うところ、狙うべきは頭や指先を避け、右腕の間接がよろしいかと」

 ヤタ!? それ俺を助けてるの? なんかアリシャに的確な攻撃指示をしているようにしか思えないんだけど。

「右腕の関節か、それじゃぁあまり芸がねぇな。俺は一本一本指を攻める方がいいと思うんだが」

 軍議の時と同じような表情を浮かべ、アリシャが悩む。俺の身体を痛めつける事にそんなに悩む必要あんの!?

 どうやら俺を助けてくれるのはカコウだけらしい。ため息をつきながらふと、周囲の林を見ると木漏れ日が周囲を照らし、日本じゃ人里離れた山の中でしか見られない光景が広がっていた。

「戦争があってるのが信じられないって程、綺麗な光景だな」

 思わず独り言を漏らすをアリシャとヤタが急いで俺の額に手を当てた。

「真田殿、気を確かに。そんな幻想的な言葉は貴方には似合わないです」

「サナダ、大丈夫か、背中を強く叩いた気は無かったんだけどよ、衝撃が頭までいっちまったか!?」

「気のせいだよね、なんか最近俺は身体より頭の心配をされるのが多い事は」

 そんな調子でレイラ達の居るベルジ地方まで戻っているのだが、怪我をしている上に遠足以上の距離を歩いているにも関わらず、疲労感はない。こうやって誰かと馬鹿騒ぎしてたらあまり苦にもならないもんだな。

 ベルジ地方に戻るのはいいのだが、レイラ達の援軍に向かうにしては兵の数が少ないし、アリシャ達も気を抜いてるようにも見える。

「あのさ、今俺達はベルジ地方の中央砦に向かってるんだよな?」

 俺の質問に三人の表情が固まる。それは俺がしてはいけない質問をしたという事ではなく、今更何をと言われそうな質問をした事によるものだと表情の固まり方で理解できた。

「今更何を言い出すんだよ、出発前にベルジ中央砦に向かうといったじゃねぇか。さてはお前、寝ぼけてて聞いてなかったか?」

「ちゃんと起きてたって。それだけしか聞いてないから、何で中央砦に向かうのかってわかんないって。援軍にしては数が少なくないか? ジーニア、エリファ隊はアリヴェラ平原に残ってるし」

「いや、言ってなかったか、ベルジ地方に向かった敵もディレイラ達が打ち破ったって」

「初耳!?」

 アリシャはバツが悪そうに一度頭をかきむしると、そういう事だと俺の背中を叩く。

「絶対アリシャ、ワザとやってるだろ。俺が怪我人だって事忘れてないか?」

 痛む背中を摩りつつ、恨みのこもった目でアリシャを見つめる。きっと俺は敵よりも味方に殺されそうだわ。

「っと……悪い。まぁ、お前は怪我をしてもすぐに治りそうな感じがするからな、ついつい怪我してるのを忘れちまうんだ」

「俺は自己修復機能なんて備わってねぇよ」

「ですが真田殿は確かに怪我をしているという事を忘れてしまいそうな雰囲気はありますね。や、悪い意味ではなく、良い意味で。そんな泣きそうな目で見ないで頂きたいでござる」

「別に泣きそうになってないやい! ただ目頭が熱く、視界が潤んだ程度だい!」

 アリシャが手を挙げて何かを考えた後、静かに手を降ろす。きっとツッコミを入れようと思ったが、怪我の事を考えたんだろう。その強がり、いつまで続くかな?

「冗談はこれぐらいにしておいて、レイラ達の方の近況はどうなんだ?」

 戦には勝ったと聞いたが、どれぐらいの被害があったのかはわからない。圧勝と辛勝じゃ状況が違いすぎる。

「まず、ベルジ地方中央砦に敵が四百程度向かってきたそうだ。まぁ、此方もそれと同じぐらいの相手をしてたから、当然といえば当然か。その後、ディレイラ達は砦から打って出て、真正面から敵とぶつかり、敵を撃破」

「説明が簡単すぎねぇか? 今のアリシャの説明じゃ被害がどれぐらいかイマイチ把握できねぇぞ?」

「しょうがねぇだろ、俺だってそんな風にしか聞いてねぇんだから。第一、あのディレイラだぞ? アイツがべらべらと物事を説明すると思うか? アイツならもっと簡単に『敵が攻めてきた。倒した』ぐらいしか説明しそうにねぇだろ。それを此処まで調べあげたんだ、逆に褒めてもいいんじゃねぇか?」

「確かにな、すまない。戦のことは直接レイラかレシアに詳しく聞くさ」

「そうしろ」

 アリシャから聞きだせる事を全て聞きだして、のんびりと中央砦へ向かい歩く俺ら。周囲にもアリシャ隊の面々の姿は見えるが、それぞれがある程度距離を開けて歩いている。

 皆で同じ目的地を目指して歩く。だが、綺麗に整列して歩かなければいけないわけじゃない。この状況は学校行事の遠足とか、山登りの時のクラスみたいだな。

「しっかし、だるいなぁ。此処まで長い距離歩くなら最低でも自転車が欲しいなぁ。欲出せば車だな」

「なんだそりゃ?」

 俺の愚痴を聞き取ったアリシャが心底不思議そうに訪ねてくる。

「自転車ってのは、一般的に時速大体十五キロから最高で四十キロぐらい出せる乗り物で、車がそれ以上の速度を出せるっけな」

 俺の答えを聞いて更にアリシャの頭に疑問符が浮かぶ。カコウは理解しただろうと表情を窺ってみると、此方も疑問符を浮かべていた。

「ジソク、ダイタイ、ジュウゴキロって何だよ?」

 其処からですか……。

「まずはキロからだな。一キロが千メートル。そうだな、アリシャの槍を五百本ぐらい縦に並べた時の槍の長さが一キロだな」

「……ではジュウゴキロというのはアリシャ殿の槍を七千五百本並べた長さというわけでござるね」

「全く想像できねぇけど」

 アリシャは自分の槍を眺めて呟く。

「まぁ、気持ちはよく解る。続きを言うが、俺は時速十五キロと言ったな、時速十五キロってのは、一時間に十五キロ進むと言う意味だ。ゼフィールからワフィールになるまでにアリシャの槍七千五百本分進めると言う事だ」

「イマイチそれが速いのか遅いのか解らないな」

 アリシャの言う事はごもっとも。というか俺の説明で解ったということがちょっと感動。

「因みに今普通に歩いている速度は大体、時速四キロって所か。正確な速度じゃねぇけどさ、大体の目安ね」

「ヨンキロと言うと、槍二千本分でござるね」

 カコウは頭いいなぁ、即座に答えられるなんて。俺なんか一瞬計算したぞ。

「しかし、そんなややこしい決まり、皆理解できるのでござるか?」

「あぁ、学校で習うからな、皆」

「ガッコー?」

 カコウは首を傾げる。まぁガッコーなんて言われても誰も解るはず無いよな、この世界じゃ。

「あぁ、六歳から十五歳まで、俺の居た世界の国じゃ必要な知識を教えてくれるんだ。金とか払わなくとも」

「必要な知識というと?」

「読み書き、計算術、国や他の国の歴史、地理、あと動物の生態とか裁縫とかね」

「一寸待てサナダ」

 説明の途中でアリシャが口を挟む。

「さっき十五までと言ったな。じゃぁお前はこっちに来るまで、何をしてたんだ?」

「学校行ってたぞ?」

「だから、それはさっきお前が十五までって……」

「あぁ、それは金を払わないで勉強できる……学校に行けるのが十五までって事だ。それからは金を払って学校に行くんだ」

「ワザワザそんな事に金を使っていいのか?」

 現代日本を知らないアリシャらにすればその疑問は当たり前だよなぁ。なんか解りやすい例えは……。

「んーつまりだ、こっちで例えると、十五まで武器の扱い方を習う。そして十六からは金を払って武器の手入れを習う。さて、此処で問題です。アリシャとカコウなら、部下として自分の隊に入れるなら、武器だけを使える奴か、それとも武器がつかえて、おまけに武器の手入れが出来る奴、どっちが欲しい?」

 悩む事無くアリシャとカコウは答えを出す。

「そりゃぁ、自分の武器の手入れを出来る奴の方が……」

「あ、そういうことでござるか」

 無理矢理話をこっちの世界の事に合わせたが、本質的な事は理解してもらっただろう。

「サナダ、お前の居た世界、なんだか色々あって難しそうだな」

「口で説明するだけだから難しいんだよ。実際に見たらそうでもないぜ?」

「真田殿の居た世界の話を聞くのは面白いでござる。知らない事ばかりで心が躍ります」

 それから砦に着くまで俺は質問攻めを喰らうわけだが、まぁそれはそれでいいか。

 楽しそうな二人の表情が見れたから。

ようやく秋らしくなってきました。

秋といっても何にも変わらないですけどね。

これからしばらくは戦なしでいきますねー。

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