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第五十九話 『嘘だろ、死んだなんて!?』

「此処は何処だ!?」

 跳ね起きると俺の身体から薄い毛布のようなものが落ちた。

 周囲は布張りで、地面には身体に掛けられていた毛布のようなものが敷いてある。上体を起こし地面に手を付けてみると、俺の寝ている場所が妙に固い。板が敷いているようだ。

 両腕や胸には包帯が巻かれている。包帯の無い部分には貼り薬が過剰だと思えるほど張り付いている。

 あまり働かない頭でこんな場所に寝いたか思い出そうとするが、戦の途中から記憶が無い。

 オッサンと殴りあったところまでは覚えているが、それから先の記憶が綺麗さっぱり抜け落ちている。

「気が付いたか、馬鹿」

 目の前の布張りの壁が開いて、鎧を外したアリシャが俺の元に歩いてきた。

 アリシャが居るって事は敵に捕まったわけじゃないんだな。というか目が覚めていきなり馬鹿ですか。

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。馬鹿って言った方が馬鹿なんです」

 働かない頭を動かし、アリシャに罵倒を返す。

「じゃぁ、オマエが馬鹿だな」

 アリシャは短く笑うと俺のでこを叩いた。

「痛ぇ、最初に馬鹿っつったのはアリシャのほうじゃねぇか」

 このまま俺とどちらが馬鹿なのかという議論をするつもりの無いアリシャは咳払いを一つ、テント中の腰掛けれそうな場所に腰掛ける。

「何を言う、一人であのクロスロビンの右腕とも左腕とも言われるマッシュ相手にするなんて馬鹿としか言いようがねぇよ」

 怪我人をいたわるという考えを持ってないアリシャは容赦なく俺の身体を叩く。

「すまない、迷惑を掛けた」

 傷の状況をアリシャにどれだけ訴えてもきっと伝わらないだろう。

 記憶が途中で途切れてるって事は、俺はあのオッサンとの戦いで前にケルヴィンって奴とやりあった時に起こしたスタミナ切れっぽいのをまたやってしまったのだろう。

 そして俺が今生きてると言う事は、アリシャかカコウがあのオッサンを……。

「か、カコウは!?」

 アリシャの姿をあの場所で見てない。あの時俺を助けることが出来たのはカコウだけ。

 頭の中に嫌な想像が広がる。

「いねぇよ」

 何事も無かったかの様に言い捨てるアリシャ。

 一気に寝起きの頭が働き始め一気に体温が上がる。全身から汗が噴出すような感覚の後、胸が強く痛んだ。

 さっきの戦でカコウが死んだ? 俺が意識飛んじまったばかりに?

「サナダ!?」

 軋む身体に鞭を打って外に飛び出す。背後でアリシャの声が聞こえるが、そのままこの目で確かめなきゃいけねぇ。

 俺が寝ていたテントを飛び出すとすぐに自分が何処にいるか理解できた。

 記憶を辿って東国の奴らが集まっていた場所まで走る。

 嘘だろ? 死ぬはずねぇよな。生きてるよな、きっと!

 目の前の現実を信じられるわけがねぇ、走るたびに全身が軋むが今はそれどころじゃねぇ!

 周囲の奴らが包帯だらけの姿を不思議そうな目で見ているが、気にしない。とにかくカコウの安否を……。

 灰色の髪の色をしたスピリットヒューマンらが集まっている場所に顔を出す。

 其処には見知った顔が一つあった。

「ヤタ! カコウは!?」

「真田殿、気が付いたのですか? カコウ殿は砦の外……東側の林のそばに……」

 ヤタの言葉を最後まで聞かず、俺は砦の外の林に向けて走り出す。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ!

 目の前に広がる光景に俺は言葉を失った。

 砦から少し離れた場所に真新しく石を積み上げた墓のようなものが存在していた。

 一目見て、その墓がカコウのものであると理解できた。

 墓のてっぺんにはカコウの黄金の兜が。

「嘘だろ……」

 力なくその墓の前に俺は座り込んだ。

 カコウが死んだ……?

 未だに信じられない。あのカコウが死ぬなんて。

「真田殿?」

 背後から何者かに声を掛けられる。だが、今の俺には振り返ってその人物に顔を向ける気なんて起きない。

「目が覚めたのでござるか? 皆の墓参りに来てくれた事はうれしく思いますが、真田殿の身体はまだ疲労しているからあまり無茶をされても困るでござるよ? それにその姿……」

 背後でカコウの声によく似た声が聞こえる。って、あれ?

 振り返ると花を両手一杯抱えたカコウが其処に立っていた。

 あぁ、そうか。幻覚なんだな。

「っと、真田殿、傷口開いてるでござるよ!」

 慌てて駆け寄るカコウ。

「カコウ?」

「真田殿。あまり無茶して周囲の者に心配をかけては……」

 目の前に居るカコウはまるで本物のようで、聞き分けのないヤンチャ坊主を嗜めるように言葉を続けている。

「生きてる?」

 確かめるようにカコウの肩、頬、そして胸などを触る。勿論俺の手はカコウをすり抜ける事は無く、指先にちゃんと感触がある。

「いっ、いきなり何を!?」

 カコウが急いでその場から二歩ほど下がる。

「な、なんだか知らんがカコウ生き返ったのか!」

 しっかりとカコウを抱きとめる。

「ぎ、ぎょぇぇぇっ!?」

 カコウの絶叫が周囲に響いた。

「敵か!」

 アリシャが槍を構えて走ってきた。俺を見た途端、アリシャは呆れたような表情を浮かべた。

「サナダ……しばらく寝込んでいたと思えばいきなり何してんだ、てめぇは!?」

 容赦なくアリシャが俺を殴る。

「痛い!? いや、だってカコウが生き返ったんだぞ、何だその反応は!」

 涙目になりながらもアリシャに詰め寄る。

「はぁ? 何言ってんだオマエ……はっ、すまん! 俺が強く殴りすぎて更に馬鹿になっちまったのか! アレぐらいなら大丈夫だろうと頭を叩いたが、深刻な影響を与えていたのかよ!」

 アリシャが俺の肩を掴んで強く揺する。

 みるみる俺の全身に巻かれた包帯が赤く染まる。

「痛い、痛いって!? 俺が郵便ポストみたいに赤くなってきてる!? 身体揺すらないでくれ!」


「あっはっはっは……!」

「そ、それは流石に短絡的だと……」

 パンツ一枚に包帯を巻いた姿の俺を囲んでアリシャとカコウが笑う。

「しょうがねぇじゃん! いきなりあんな事言われたら!」

 酸欠で死にそうになっているアリシャと、控えめに笑うカコウに口を尖らせ反論する。

 目の前に居るカコウは生き返ってない。それもそうだ。死んでないから。

 アリシャが口にした『いねぇよ』と言う台詞は砦の中には居ないという意味だったらしい。俺が目を覚ます少し前に墓に供える花を探しに砦から出て行くのをアリシャが目撃したようで、ヤタが『カコウ殿は砦の外……東側の林のそばに……』と俺の質問に答えたのは、恐らく其処に居るのではないかということ。

 ぶっちゃけると、俺の勘違いです。

 今の俺の姿含め、こっちの世界に着てから猛烈に記憶から消し去りたい事件の一つになりました。

「いきなりサナダが突拍子も無い事言い始めるから俺は本気でお前が馬鹿になっちまったのかとおもったじゃねぇか」

「次からはもう少し状況をよく確認してから動くでござるよ」

「面目ない、ホント面目ない」

 二人に頭を下げひたすら謝っていると、カコウが思い出したように口を開いた。

「しかし、本当に大丈夫でござるか?」

「ちょっと激しく動きすぎて傷口開いた程度だから問題ないよ。見た目は大げさだけど痛みもない。でも怪我人を労わらない一名がもう少し力を加減して身体を揺すったなら此処までひどくならなかっただろうな」

「何の事やら」

「遠くを見るような目で明後日の方向見るんじゃあない!」

 我関せずとしらばっくれそうになるアリシャを右肘で小突く。

「悪かったって、反省してる」

 アリシャは俺の肘と手首を掴んで、間接の稼動範囲を無視して手を捻る。

「反省してんの、それで! 痛でででッ! 間接極まってる、間接極まってるって、ギブ、ギブ、ギブアップ!」

 言葉の意味が伝わらなかったのか、ギブと叫んでもおおよそ一分間ほど、間接は本来動かない方向に無理矢理向かせられようとしていた。

 身体が冗談抜きに危ないという警告を出しそうになった時、ようやく俺の腕は介抱された。

「いえ、身体もそうでござるが……敵将を討ってから砦に戻り意識を失うまで何処か上の空だったので」

「上の空だって、俺が?」

 力を入れれば全身の傷以上に鋭い痛みが走る右腕を振りながらカコウを見つめる。

「えぇ、敵将を討ち取ってから拙者が何を言っても上の空で、中央砦の近くまで戻ると糸が切れた人形のようにその場に倒れたのでござるよ?」

「ちょっと待て俺があのマッシュとか言うオッサンをブッ倒したのか?」

 カコウが生きていた事で、俺の変わりに打ち破ったのかと思っていたが、そうじゃないのか。

「俺がオッサンを討ち取ったところから話してくれ、全く覚えてない」

「承知」

 カコウは一瞬目を丸くしたが、すぐさま俺に説明を始めてくれた。

「……なるほど、オッサンに馬乗りになってマウントポジションでオッサンと戦っていたが、腹に数発拳を喰らったんだな。そしてその後カコウに短刀を投げるように言って、オッサンの喉を掻っ切ったと」

 本気で覚えてねぇ。第一人の喉に短刀を突き立てるなんて絶対出来そうにねぇんだが……かなり追い詰められていたんだろうな俺。容赦なくそんな残酷な事出来るなんて。自分でも信じられねぇ。

「はい、その後勝ち鬨を上げ、周辺の部隊の士気を一気に下げたのでござるよ」

「そのおかげで展開していた部隊の統率が乱れ、各個撃破が出来たんだからな、前回に引き続き今回もお前の手柄は大きいぞ」

 アリシャが俺の背を叩く。コイツ、俺が怪我人だって事知っててやってるのか? 今なら俺の前世はサンドバックだったんだなって思えてくるぞ。

 というかアリシャはこんなに酔っ払いのオジサンみたいに人を叩く奴だったっけ?

 そういえばこの地方の戦はとりあえず終了した訳だから戦勝ムードでアルキュールだっけ、こっちの世界の酒をもう飲んでるんじゃねぇか?

 っと、待て待て。こっちの戦は終わったなんてまだわかんねぇぞ。それに後半分敵が確実に居るじゃねぇか。

「アリシャ、こっちの敵は粗方片付いたのか?」

「あぁ、アリヴェラ平原に居た敵は恐らくアリヴェラ山道を通ってヘルムランドに逃げただろうよ。中央砦の方にも今伝令を出している。時間的にもそろそろ戻ってくるんじゃねぇの?」

「じゃぁ次は中央砦を攻めている敵を倒すんだな」

 次の相手はケルヴィンか。

 脳裏に全く俺の力が通用しなかった奴の姿が浮かぶ。拳を強く握り締める。

「まだ戦があっていたとしてもお前は後方待機に決まってるだろ。その傷でまた戦場に出たら死ぬぞ?」

「それは……」

「兵力的にも五分以上。それに相手は野戦じゃなく砦攻め。よっぽどの事がない限り此方が負けることはねぇよ。アリヴェラ平原の敵は事実上全て撃退した。後はアリヴェラ地方とヘルムランド地方を繋ぐ山道を封鎖すればベルジ、アリヴェラ、ガリンネイヴの守備は成る。此処まで押し返したんだ。残るヘルムランドを敵から奪還すれば敵は進行の足掛かりの七割を失う。戦の終わりは近いな」

 一気に説明され思考回路が付いて来れなくなったが、とりあえずアリシャの口ぶりからしてもう少しで戦は終わるんだな。

「さて、そろそろ砦に戻ろうか、そしていい加減サナダ服を着ろ!」

「砦に戻るでござるよ、真田殿」

「あぁ、そうだな。流石にこの格好は……」

 アリシャとカコウの後を追って砦に戻る。

 ほぼ半裸の男が二人の女性の後をつけるという犯罪チックな構図に、何人もの兵士が首を傾げ、此方を見つめていた。

秋は忙しいですね。ホント小説に割く時間が少なくなっております。

もう少し寒くなればきっと小説書く時間も増えるでしょう。

でも、もうこの寒さからしてありえない!?

とりあえずこれからしばらくは影の薄いキャラの救済を。

次話にもこうご期待を!

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