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第五十七話 『右翼砦戦3』

 −ゼフィロス隊の陣−

 カコウが敵の指揮官と向き合う。

 味方は離れた場所に居る。俺とカコウは二人先行してしまっているようだ。

 だが、カコウが斬り込んで行った為敵の陣形は乱れ、アリシャ隊と東国武士が敵を押している。これならすぐにでも後方の味方が駆けつけてくれるだろう。

「お主、名前は!」

 カコウが一メートルほどある刀の切っ先を敵の指揮官に向ける。

 中世風の鎧と兜を身に纏った男は剣を構えながら言い放つ。

「ゼフィロス。先の戦で東国の大将を討った男だ」

 東国の大将を討った? 先の戦ってことはカコウらの国が滅びる時の話ではないよな。

 アリヴェラ平原での戦の事を言っているのなら、カコウは生きている。じゃぁ誰を倒したんだ、コイツは?

「……友の仇とらせてもらう!」

 そういえばカコウと再開してから二人の姿を見ていない……カコウの言う友ってあの二人の事なのか?

 二人の姿が見えないのは怪我をして治療中だろうって思い、二人の安否を聞いていなかったけ。

 俺の目の前を凄い勢いで駆け出して行くカコウ。俺も何か手伝うべきか?

 カコウとゼフィロスと名乗った男の打ち合いはカコウが優勢のようだ。

 此処で俺が手を貸してしまったらカコウは納得してくれるだろうか。

 仇といえばベルちゃんを殺す原因を作ったキャッチャーメットの男を倒す時に誰かが手を出そうとしたなら俺はどうしていただろうか。

 手を出すのはよそう。本当に危なくなった時にだけ手を貸すとするか……。

 俺ができることはカコウが戦いに集中できるように周りの奴をひきつけておくことだろう。

 カコウ、やられるんじゃねぇぞ。

「お前らの相手は俺だ!」

 数は五人。一斉に俺に向かって来ることは無いだろう。

 目の前の一人を確実に倒していくか。まずはカコウに一番近い奴から倒すべきだな。

 カコウに斬りかかろうとしていた兵士に飛び掛る。

 驚いたように目を見開いて狙いをカコウから俺に狙いを変える。

「四人だろうが五人だろうが纏めて相手してやらぁ。一番最初に血反吐はきてぇ奴はどいつだ?」

 正直五人で来られるのは不味い。一度に俺が相手をできる数は二人が限度。二人でも正直きついが。

 口で強がりを言ってないと心の内を見透かされそうで怖い。

 俺の口車に敵は乗ったようで誰が一番に俺に向かってくるか目で合図を出し合っている。

 髪の色と相手から見れば妙な剣を持つ俺。相手の目にはさぞ強そうに映ってるのだろうか。

「でやぁぁぁッ!」

 カコウに一番近かった奴が俺に斬りかかってくる。

 剣を振り上げての大振り。これは少し後ろに跳ぶだけで避ける事ができる。

 後ろを見ずに数十センチほど後ろに跳ぶ。俺の見立てどおり剣は俺にかすりもしない。

 此方とて散々レイラの大剣を避けてきたんだ。目測で避けることなら任せておけ。

「ッ!」

 左足を前に踏み出しての突き。

 剣を大きく振ればその分だけ隙ができる。

 そしてそれに付け込むときは斬り降ろしなどの線状の攻撃ではなく、一点を狙った突きが好ましい。

 線状の攻撃ならその軌道は読みやすいが、一点を狙う突きは何処に来るか予想し辛い。アリシャに散々やられたいやらしい手だ。

 右手から覇気障壁にぶつかった衝撃が伝わってくる。

「まだまだぁッ!」

 二度三度と繰り返し突きを行い敵の障壁の強度を下げてゆく。

 手応えが弱くなってきた時、両手で柄を握って大振りの攻撃へとスイッチさせる。

 左上からの斬り降ろし。

 振り切った後に柄を握っていた左手を柄の一番端……柄頭に沿え左下から水平に刀を降る。

 確かな手応え。刀は敵の聞き手を傷つけた。まずは一人。

「クソッ!」

 俺と接近戦をするのは分が悪いと判断したのか、槍を手にした兵士が俺に襲い掛かってくる。

 槍の主な攻撃方法は突き。点を狙ってくるこの攻撃を弾くのは難しいな。

 極力大きな回避動作にならないように左右に跳び、身体を捻って槍を避ける。

「ちょこまかと!」

 思うように攻撃が決まらないことに腹を立てた敵の攻撃が荒くなる。

「チャンス到来ッ」

 ずっと左右と後ろに跳んで避けていたのだが、左斜め前へと跳んで避ける。

 敵との距離が詰まる。

 チェックメイトだ。

 槍はその長さを生かして敵の攻撃が届かないところから攻撃できる利点があるが、その距離を失ってしまえば一気に利点は欠点になる。

 接近戦を行う上で槍は動作を鈍くする。槍特有の長さが原因で剣などの攻撃を裁く事ができない。

 加えて槍の殺傷能力が高いのは矛先。接近戦で槍を剣のように持てば言わずとも残りの柄が邪魔になる。というか地面に柄がおもいっきし当たるだろう。そんな状況で戦えるわけが無い。

 アリシャが口癖のように隊員に言っていたな。槍兵は敵との距離を詰められては駄目だって。

 そして、万一距離を詰められたら何としてでも敵との距離を調整しろと。

 じゃぁ逆に槍を持った奴を攻めている俺はどうすればいい?

 そんなの簡単だ。一気に攻めて敵が再び槍の有効距離に持っていかれないように戦うだけだ。

「ぜぁぁっ!」

 碌な防御ができない敵に何度も斬撃を与える。

 敵は必死に槍で俺の一撃を受けようとするが、得物が邪魔になって上手く防御が行えない。

 俺との距離を取ろうとするが、俺も簡単に距離を開けられるわけにはいかねぇ。

「終わりッ!」

「ぐッ……」

 敵の腕に深々と刀が食い込む。これで槍兵も戦う事が出来なくなった。

 人を傷つけることに抵抗が薄くなっている今、簡単に殺す事にも抵抗がなくなりそうで怖い。

 そんな事情もあって戦闘力を奪うだけに留めようと努力している。アリシャに言わせれば『甘すぎる』だそうだ。

 戦闘力を奪うだけではふとした拍子に此方も危険に晒されるのだが、これだけは何を言われようが譲れない。

「チッ……コイツ出来るぞ! ここは皆で当たるぞ!」

 槍と剣の対応を身につけた俺を一対一で倒すのは難しいと理解したのか、残りの三人が俺を囲む。

 ちょっと雲行き怪しくなってきたな。

 チラリと後方を確認するとアリシャ隊の面々が戦線を押して俺達に追いつこうとしていた。

「早く来てくれよ……」

 まだゼフィロスと打ち合うカコウを一人そのままにして後ろに下がれないので俺もその場に留まる。

 囲まれて一分もしないうちにカコウを気にする余裕もなくなって来た。

 槍を避けたと思えば目の前の敵が剣を振り下ろしてくる。それを避ければ、また別方向から攻撃される。

 極力鍔迫り合いに持っていかないように避けていたのだが、攻撃をされる度に刀で受ける確立が増えて来た。

「ッ!」

 槍を避けた時、俺に迫り来る剣。手をかざす様にして意識を集中するとその剣は見えない壁に当たったかのように弾かれる。

 あぶねぇ……不思議パワー使えてよかった。これが無きゃ今頃……。

「隙ありッ!」

 先ほどの剣に意識を向けすぎたようでもう一人の存在を完全に忘れていた。

 急いで障壁を張ろうと意識を集中させる。

「ッ〜〜〜!」

 障壁を張ることには成功したが強度が無かったらしく、障壁をすり抜け左腕を伸びた爪で引っかかれたような感覚の後、鋭い痛みが走った。

 急いで左腕を見ると肘のちょっと下の辺りから血が出ている。

 クソ、まずった……。

 流石に三人を一度に相手するのは無茶があるな。一度立ち直さねぇとペースを全部持っていかれちまう。

 敵との距離を取ろうと後ろへ跳ぶが、俺を槍が逃がしはしない。

 槍を捌くと次は剣が襲い掛かってくる。

 ヤベェ、マジでヤベェ。どんなに距離を取ろうとしても槍が居るせいで途中で動きを遮られちまう。

「しつこいぜ……しつこい奴は嫌われるっつうの」

 槍を刀で弾く。すぐさま左手を掲げ小手で剣を受ける。

 何度か左手の小手で敵の一撃を受けているので小手の下はひどい状況になっていそうだ。

 腕の一部が紫色に変色してしまっていることは覚悟しておかなきゃな。

 余裕も無いのにカコウの姿が目に止まった。

 優勢だったカコウも疲労が溜まっているのか徐々に押されてきているような感じが窺える。

「あッ!」

 カコウがバランスを崩した。

 恐らくカコウはもう疲れ果てているだろう。此処に来るまで何人の相手をした?

 バランスを崩したカコウの隙をゼフィロスは見落とす筈も無く剣を振る。

 カコウは地面を転がるようにして剣を避ける。片膝を付いたまま長い刀を構える。

 誰がどう見てもカコウが不利になって……。

「危ッ!」

 カコウの方に気が行っていた俺の頬スレスレを槍が通り抜ける。

 あぶねぇ、意識を集中させなきゃな。

 刀を握る手に力を込める。

 余裕なんて無いぞ真田槍助。相手を傷つけないで勝つ方法なんてもう残されてねぇ。

 理性を黒く塗りつぶせ。心を殺意で染め上げろ。

 こんな所で足踏みしてちゃ目の前でカコウが死ぬかも知れねぇ。

 もう二度と目の前で親しい奴が死ぬ姿なんて見たくねぇぞ!

「……またかッ!」

 余裕も無い時に頭痛が俺を襲う。

 頭痛の痛みに苦しんでいる時でも容赦なく俺に向け槍が突き出される。

 思考がはっきりしない状態では上手く障壁を張ることが出来ず右腕や左足に真新しい傷が増える。

 今回の頭痛はいつもよりひでぇ。一行に治まる気配が無い。

 治まらない頭痛と、いやらしく攻撃をしてくる敵を相手していると俺の中に苛立ちが立ち込めてくる。

 胸の中心辺りに言葉では言い表せない物が溜まり、左胸から心臓が飛び出しそうなほど激しく動悸する。

「ッ!」

 頬を槍が掠める。

 痛みからか、胸に溜まっていたものが弾け一瞬にして全身を駆け巡る。

 槍を避け、移動の時に足元で弾けさせる障壁を槍に向けて弾けさせる。

 弾けさせる時に左手を槍に添えていたのだが、凄い反動が左腕に掛かる。反発する磁石のように槍と反対方向に暴れる左腕。

 ゴリっと左肩の骨が削れる音がして、肩の内部に鈍い痛みが停滞する。

 肩が外れたかと不安になったが、一応左肩は動くし手も上げられる。滅茶苦茶痛いが。

 手を添えていただけの俺でもこれだけ強い衝撃だったのだから、槍を両手で握っていた敵に行った衝撃は磁石が反発するような次元ではないだろう。

 敵を見ると右肩を押さえて痛みに耐えてるようだ。

 一気に槍兵との距離を詰め刀を振ろうとするが、傍にいた一人が剣を掲げるのが目に入った。

 目の前の槍兵を押しのけるように剣を掲げた敵兵士の間に身体を移動させる。

 敵が振り下ろした剣は槍兵の身体に吸い込まれてゆく。

 状況が理解できず驚いた表情を浮かべる槍兵の脇をすり抜け、呆然と自分の剣が刺さっているのを眺めている敵兵の腹部に刀を突き出す。

 障壁は展開されず、右手に鈍い感触が残る。

 刀を引き抜くために敵兵士を蹴り飛ばしその反動で刀を引き抜く。

 残りは一人。

 瞬く間に仲間を二人も失った目の前の兵士は明らかに動揺しており、俺が一歩前へと足を踏み出すと三歩後ろへと下がる。

 静かに刀を構えるとへっぴり腰ながらも剣を構える。

 勝負はすぐついた。

 腰が引けている敵の障壁を打ち破ることは容易く、三度突きをすれば障壁は砕け、隙だらけの身体に刀を走らせ敵を打ち倒す。

 カコウの方へと視線を走らせるとカコウは刀を弾かれ無刀の状態でゼフィロスと対峙している。

 ゼフィロスが剣を構える。

 二人の間に駆け出そうと足を動かしたが間に合わない。

 目の前の状況がスローモーションのようにゆっくりと動き出す。

 遠くからでも小手などで防いでも防ぎきれない一撃であることは明白だった。

 カコウへと振り下ろされる剣。

 必死に前へと進もうと足を動かそうとするが距離は縮まらない。

 思わず目を瞑りそうになった時、カコウが左側に身体を動かし手のひらの親指の付け根に近い部分を突き出すようにして剣に当てる。

 ショウテイだかなんだ言うんだっけ。

 剣を叩き軌道を逸らすと、カコウは自らの腹部当たりに手を添えるとゼフィロスに身体を押し当てる。

 苦し紛れの抵抗のように見えたが、ゆっくりとカコウがゼフィロスから距離を取ると、カコウの足元に膝から崩れ落ちた。

 急いでカコウの元に駆け寄るとその手には血で赤く染まった三十センチ程度の短刀が握られていた。

「カコウ……」

 全ての力を使い尽くしたのか、カコウは三歩俺に近付いて膝を付いた。

 周囲には逃げ出してしまったのか敵の影は無く、俺達の傍をアリシャ隊の面々が走り抜けてゆく。

「鬨を上げようぜ、敵将を……指揮官を討ったんだから」

 カコウに俺の言葉が届いてないのか、俺を見つめているだけだった。俺すら見ていないのかも知れない。カコウの視線は焦点が俺に合っていない。もしかしたら空を眺めているのだろうか。

 話しかけても返事の返ってこないカコウから視線を外し、周囲を見渡す。

 少し離れた場所に兜の括り付けられた旗が転がっている。旗を捨て一目散に逃げ出したというのが旗の状態を見て解る。

 その旗に近付き、固く結ばれていた兜の顎紐を外し両手に抱えるようにしてカコウの元へと戻る。

「……取り返したかったんだろ、コレ」

 黄金の兜をカコウに差し出すとカコウは無言でそれを受け取った。

 まるで何年も前に失くした思い出の詰まったぬいぐるみを抱きしめるようにカコウは兜を抱きしめる。

 戦の流れを考えれば今すぐにでも声を張り上げ、敵の一角を打ち崩したことを全隊に知らせるべきだろうが、兜を抱きしめるカコウをもう少しそっとしておいてやりたくなり、ただ無言でカコウを見つめていた。

「真田殿……肩を貸してもらえないか?」

 出陣前に肩を組んで大絶叫を起こしたカコウ。今肩を貸していいものか迷ったが、言われたとおりにカコウの前に屈み左手をとって肩に添えさせる。

 背中から右脇に手を添えて立ち上がらせる。

「拙者の刀まで……」

 ふらつき倒れそうになるカコウを支えながら、地面に転がっているカコウの愛刀まで連れて行くと、カコウは愛刀を手に取った。

 一度深呼吸をし、長い刀を天高く掲げ、大きく息を吸い込んだ。

「敵将……カコウが討ち取った! 東国武士の功を見よ!」

あと一話、あと一話ぐらいで戦は終わる予定です。

そんな事言って三話ぐらい話が伸びた前科あるんで説得力ないですけどね。

今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。

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