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第五十四話 『右翼砦戦1』

 −右翼砦、近郊−

 周囲の空気は重い。自分達の倍以上居る敵と戦うわけだから不安がないはずがない。

「どうしたサナダ、顔が暗ぇぞ?」

 アリシャが笑いながら俺の肩を叩く。

 いつもの槍を背中に背負って両手には弓と矢を持っている。それはアリシャだけではなく、長い柄の武器を持つ者達で固められたアリシャ隊全員が弓を持っている。俺を除いて。

 別に槍隊から弓隊に兵種替えをしたわけではない。弓隊じゃないスピリットヒューマンまでもが弓を装備することがこの戦の重要な作戦なのだ。

「そりゃぁそうさ。不安になるのはしょうがないさ。前例の無い作戦なんだろ?」

「自分で言い出しておいて何を。それでも冷静ではいるなサナダ。一回聞こうと思ったんだが、お前の言い出す策ってのは前例が無い事ばかりじゃねぇか。兵を極端に分けたり、数を誤魔化したり。今回もそうだ。だがそれを言い出すお前は自身に満ち溢れているのは何でだよ?」

 いや、前例が無いわけじゃない。兵数を誤魔化すって戦法は古代日本の戦では数多く行われていたことだし、今回の武器だって、足軽は槍だけでなく刀も使っていたし、弓だってそうだ。あ、そうかそれが理由か。

 俺は前例の無いことをやってる訳じゃないんだ。戦の経験の無い俺が川中島の戦いや長篠設楽原の戦いだって知っている。全ては教科書で学んだこと、歴史の話の好きな社会科教師の余談や雑学の本で覚えた事を応用してるんだな。『前にそういうことがあった』から無茶な話ではないと言えるんだ。

「まぁ、コールヒューマンとして当然でしょ」

 理由を詳しく話す必要も無いので俺は質問におどけるようにして答えてみせる。

 アリシャは調子に乗るなとばかりに俺の頭を叩く。そして不安を拭い去れない部下を落ち着かせようとその場を離れる。

「…まぁ、なんだ…信用しているからな」

 背中越しにぼそぼそと早口で何かを言った気がするが、よく聞こえなかった。

「今…なんて?」

 アリシャは聞こえなかったのか、逃げるように俺から離れた。

「あーあ。これもさなだんの実力って訳か…」

 誰も居なくなった時、後ろから声を掛けられ驚いて振り向くと其処にはアリシャと同じように弓を持つアトラが居た。

「何言ってるんだよ、いきなり」

 アトラへと向き直し言葉の意味を探るとアトラは宇宙人を見るような目で俺を見つめる。

「初陣は殆ど変わらないって言うのに、俺や他の奴に比べて上の奴らとの繋がりがって事だよ」

 答えを聞いても訳がわからない。上との繋がり? 俺の知り合いに国王とかいねぇぞ?

 思った事をアトラに伝えてみても、その表情は呆れたようになり、俺の肩を無言で殴る。

「痛ぇ、何すんだよ」

「何でもねぇよ、ただ少し殴りたかっただけさ」

 まったく、戦前に情緒不安定になるのは解るが、人を巻き込むなよな。

「で、今回の戦の策の立案者としてはどうだ? 勝てそうか?」

 アトラは何事も無かったのように話を戻す。情緒不安定じゃなかったのかよ。

 正直勝てるかどうかはやってみないとわからないし、この先何が起こるか解るはずも無い。

「確実に勝てるとは言えねぇが、敵の立場で考えてみるとやはり居るはずの無い数の弓から射られるのは衝撃でかいな。後はそれに便乗できるかどうかだろ?」

 野球で守備の以内場所にバントしてみたら、地中から守備者が出てきたって言う予測も出来ない事態に対面したら、いくらプロ野球の選手でも自分の目を疑うだろ。腕がいきなり二本増えて四本になって襲ってくる相手ボクサーを見て怯まないプロボクサーだって居やしない。

 だが、一度冷静になってしまえば守備の手薄な場所には地中に守備者が居るかも知れないと警戒するし、知恵の全部を使って腕が四本ある相手ボクサーを倒そうとも考える。いくら意表を突いた事をしても動揺を抑えればいくらでも勝機は出てくる。

 この戦では相手を最初に混乱させて、それで勝利を得る。混乱させただけで終わってしまってはいけない。

「まぁ今回も死なないようにがんばろうぜ」

 先ほどのお返しにアトラの肩を殴るが、アトラの鎧の肩防具のせいで俺の拳だけダメージを追う。


 −戦の始まり−

 敵が前方に陣を構え、緊張が両者の間で走る。

「皆わかっているか。始めの合図では我らは矢を放たず、砦からの弓に任せるんだ。掃射を追え、もう一度合図が出たら一斉に弓を放つ。その後に突撃を開始する」

 アリシャが戦前の最終確認を行う。

 砦の中に居るのはジーニア、エリファ、カコウ、他二隊のおおよそ二百人ちょっと。そして砦の外で隠れているのがアリシャ隊とガルディア隊の計百人。

 最初の掃射で放つ弓で敵は砦内の弓隊がおおよそ二百ちょっとだと推測するだろう。そしてアリシャ、ガルディア隊の掃射でプラス百人の弓隊。それから砦からエリファ隊を残した百八十人ぐらいが出て更にプラス百人。弓を打ち終わったアリシャ、ガルディア隊も突撃。プラス百人となると……。

 200+100+180+100=580人。

 三百ちょっとからかなり数を誤魔化す事が出来るはず。後はこれで敵を退かせる事が出来れば俺たちの勝ち。あれ、ちょっと待て。

 退かせる事が出来なかったらどうすんだ?

「あ、アリシャ……」

 他の奴に聞こえないようにアリシャに耳打ちをする。

「どうした? 小用ならそこら辺の茂みでやれ」

 誰が立ションなんかするか。つーか男女比率で男が少ないんだぞ。お前は俺以外の女にもそこら辺の茂みで済ませろって言うのかよ! って、そんなことじゃなくて。

「これでもし敵が退かなかったら……」

「多少の犠牲には目を瞑り中央砦まで退くな。ってかなんで今頃そんな事を? 東国の奴らを仲間に迎えようとした頃からそんな危険性があったじゃねぇか」

 当然のように言うアリシャ。

 そ、それは考えていなかった……。

 ただカコウらを仲間に加えて、アリヴェラ平原にいる敵を追い返そうって考えてただけで……。だから兵数も三百人と半分に分けなかったのか。

 やべぇ…ただの思い付きが相当な事態を招いてないか? これは絶対に負けらんないぞ……。

「敵の陣形を見るに包囲する事に優れた陣形を取っているということは敵は此方が少数だと踏んでいるようだな。しかも全隊じゃなく一部の部隊にて陣形を取っていることから、敵はこの後のベルジ地方の戦いに備えて兵力を温存する気だ。お前の予想通りだな」

 はぁ、そんな深いところまで考えてませんでしたが……。

「悪くない策だ。敵はこの後の戦に備えて兵力を温存する。戦闘は多くて五百人程度が参加するだろう。それを数を誤魔化した弓や突撃で動揺を与え、敵の態勢を整えさせるために故意に退かせる。その隙を持って我らは中央砦へと引き返し、中央砦の兵力を合わせ、敵を討つ此方の撤退が敵の中央砦攻めに遅れてもそう簡単に中央砦は抜けまい。いざとなれば背後からの強襲も出来るな」

 すげぇな。確かに説明を受けてみると行き当たりばったりじゃなく、かなり計算された策だな。一体誰がこんな策を考えたんだ?

 …俺か。なんというかすいません。其処まで深く考えてませんでした。とりあえず敵を退かせる。逃げる。次の戦は何とかなるだろ、ぐらいしか考えてませんでした。僕はこーめー先生じゃありませんよ。

 なんというか…適当に深く考えないで書いた読書感想文が教師達にほめられ、教材としてコピーされ他のクラスに配られるっつうような状況に似ているな。アレは一種の作為を感じるな。

 って、そんな事考えてないで戦に集中しろ…俺。

 刀を強く握る。手触りはバットやテニスラケットのような感触に似ている気がするが、柄が紐で覆われている分起伏の感じが手にリアルに伝わってくる。

「チッ」

 またいつもの頭痛。最近は戦前でも度々起こるようになってきている。これ以上ひどくなるならエリファあたりに相談してみるか。

 相談する相手は他にも数名思い浮かんだのだが、一番親身になって考えてくれそうなのがエリファなので他の候補者には悪いが相談は一言も言わないぜ。

 足音がだんだんと大きく聞こえてきた。畑でも踏み鳴らしているのかと思えるような大きな足音。夏の甲子園で出場高校が一斉に出てきたらこんな足音になるんだろうな。

「皆…そろそろ始まるぞ……」

 アリシャが小声で呟く。その言葉を聞いて誰もが唾を飲み込む。ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。この音を飲料水や食品関係のCM製作所に渡せば泣いて感謝されるような音量だと思う。

 散々集中しろとか考えている俺が一番集中できてないんじゃないだろうか。そんな俺を叱るかの如く砦から音が出る矢…鏑矢が放たれる。すぐ近くからもそれに答えるようにまた同じような甲高い音が鳴り響くと大きな鬨の声と矢が風を切り裂いて飛ぶ音が周囲の音を消す。

 始まった!

 今どのような状態になっているのか気になってこっそりと周囲を見渡してみると、木の葉が風で散るかのように矢が次々と降り注いでいる。こんな殺傷能力のある木の葉はマジで遠慮したいがな。

 遠くからもう一回甲高い音が鳴る。恐らく伏兵部隊の掃射開始の合図だろう。

「よし、皆放てッ!」

 アリシャの号令で身を低く隠していた俺たちは身体を立ち上がらせ、声を上げながら弓を放つ。情けない話俺は何にもしてないが。

 何もすることが無くそこら辺にある木の様に突っ立っている俺にも何本か矢が飛んでくる。

 流石は鍛えられた敵弓部隊。付け焼刃のこっちの掃射とは違い狙いの精度が良すぎる。

 日本では九つのパネルを打ち抜くアトラクションがゲームセンターとかにあるが、こっちの世界には弓で九つのパネルを射抜くアトラクションがあってもなんら不思議ではないだろうよ。

 ただ突っ立っているだけでは的にされてしまう。俺は生憎射抜かれるのを待っているパネルではないんでね、出来る範囲で飛んでくる矢を打ち落とさせてもらうことにしよう。

 刀を抜き放つと周囲に居る奴らの援護に回る。殆どの奴らの意識が矢を放つことに集中しており、視界の隅では数人腕を怪我したりしている奴が目立つ。

 一人で何十、何百と飛んでくる矢を打ち落とすなんて不可能で、それをしようとしたならもれなく全身に矢を受けて立ち往生の真田異世界デビューという非常いらないデビューをしてしまいそうなので怪我をして満足に矢を放てない奴らに声を掛けて回る。

「小さい怪我して奴とか矢が打てなくなった奴らは周りの奴の援護に回るぞ!」

 何にもしてない俺が偉そうに言っていいのか解らない台詞ではあるが、効果はあるようだ。かすり傷といえる怪我をした奴らが弓を捨て、まだ射手としてがんばる槍兵の援護に回り始める。

 時間にしてみれば十数分といったところだろうが、矢を必死に打ち落としていた俺からしてみれば一時間以上やっていた気もしなくはない。

 そろそろ射手としての槍兵の疲労がピークに達したのを感じたのか、アリシャが突撃の合図を出す。まだ砦からの合図は無いが、これ以上射ち合えば確実に此方の被害は増える一方だろう。アリシャの判断は間違ってはいないだろう。

 さぁ、これからが本番だぜ。

お待たせしました。

何と更新できました。やっぱり地理が難しいです。何でこんなに難しいんだろ。

頭の中に知識が無いからでしょうか?

とりあえず気合で何とかしてみます。

では、次回もお楽しみに。

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