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第五十二話 『右翼砦の中』

 −右翼砦近郊−

「姿を見せろ、さもないとッ!」

 刀の切っ先を音のした方向に向ける。

 姿を見せなければ仲間を殺すと脅しをかけているのだが、出てこなかったらどうしよう。

 こんな理由で人を傷つけたことなど無い。刀を握る右手が震えないようにしっかりと力を込める。

 一向に姿を見せる気配が無い。

 やべぇ、やべぇぞこれは!

「…と、東国の奴らだろ! 姿を見せればこの娘にゃ手は出さないし、すぐにでも開放する。俺たちの目的はあんた等と戦うことじゃないんだ!」

 呼びかけてみるが答えてくれる気配は無い。そりゃぁ仲間を人質に取ってそんな事言っても説得力無いのは解ってるが、それしか手が無いのが現状。

 長い無言の時間が流れ、騒ぎを聞きつけ一人また一人とアリシャ隊のメンバーが傍に集まってくる。

「さなだんッ! 一体何があったんだ!?」

 俺の事を『さなだん』と呼ぶ槍と剣を足して2で割ったような武器を抱えた男、アトラも他の奴と同じように俺のすぐ傍までやってきた。

 それでも東国の奴らと思われる奴は姿を見せない。

「サナダそれまでだ! 長引けばお前が弓で狙われる可能性もある! その小娘を盾にしろ!」

 アリシャが数人の護衛の後ろに立って怒鳴る。盾にしろったって……。

 俺が左手に捕らえている女の子に視線を移すと目を回しているのか、抵抗すらない。

 この女の子、身長はかなり低く百四十ちょっとぐらいか。服装はまっ平らな身体にサラシを巻いてちゃんちゃんこのような羽織を羽織っている。下半身はやはり何処か日本の戦国武将を彷彿させる袴を履いている。少し前に見たカコウらの姿とは違い軽装である。

 ぱっつん前髪と襟足の辺りで一つにまとめられた後ろ髪。これも毛先は何故かぱっつん。流行ってんのか? 人の髪は置いておいて。顔立ちを見てもまだ幼さの残る。ぶっちゃけ若い。まぁ…まだ十七歳の俺が言っちゃ駄目なんだろうが。

 ぱっと見、中学生ぐらいか? ボディのボリュームも含め。いや、ボディはあまり当てにならないな。レイラやアリシャは十七、十六にしてはボリューム無さすぎだし、ジーニア、エリファはありすぎ。いや、ご馳走様だが。

 誰が知り合いのボディ年齢を考え始めたんだよ、責任者出て来いッ!

 じゃなくって、そんな訳わかんないことは置いておいて。

 目を回し抵抗できない状態の子を盾にしたら余計にやばくなること間違いない。

 考えろ、カミソリより鋭い俺の頭!

 駄目だ、有効な呼びかけが思いうかばねぇ。

「馬鹿ッ!」

 アリシャの怒鳴り声がまた背後から聞こえる。そりゃぁそうだよな。

 右手一本で刀を鞘に戻し腰からぶら下げている刀を地面に投げ捨て、そして目を回している女の子を俺の前で開放し俺はホールドアップときたもんだ。

 これが映画ならドキドキのワンシーン。どーかその通りになってくれませんかねぇ?

 まだアリシャの怒鳴り声とか他の奴が俺を非難する声が聞こえるが、完全にシャットアウト! あーあー。何も聞こえませんよー。

 俺たちがすべき事は東国の奴らと協力することで戦う事じゃない。後でアリシャの間に割り込んだ件をプラスされて殴られそうだが、とにかく敵対する意思が無いことを理解させないとな。

 目の前の茂みに一筋の光が走る。

「矢ッ!」

 誰の叫び声か解らないが、その声と風を切る音が耳に届いたのはほぼ同時だった。

 発射から俺に届くまでのコンマ数秒の時間なのにやけにゆっくりと感じ、カッと言う音と矢がしなる音が周囲に響き時間の流れが元に戻る。

「総員、戦闘……」

 身体は正面を向いたまま、アリシャの言葉を遮るように右手の平を見せるように背中側へ三十度ぐらい動かす。

 思ったより後ろに手が向かない。俺って身体硬いの?

「大した度胸ですね」

 聞いたことの無い声がして、目の前から三人の灰色の髪の武者が現れた。

「ようやく姿を現してくれたか……」

 やっと姿を見れたというのにその中には見知った顔など一つも無かった。

「…カコウやえーっと…ローキューだっけ? あともう一人…なんか豪快な人は一緒じゃないのか?」

 俺の問いかけにリーダー格、そして手に弓が握られてることからさっき俺に矢を放ってきたと思われる人物が眉を少し動かす。

「心配するな、ちょっとガリンネイヴ平原で顔見知りになったんだよ」

「ほう、では貴方が件の…話通り堂々としていますね…」

 いや、堂々なんてしていない。さっきの矢でちょっとちびっちまったし。つーか何気に俺有名人?

「数々の無礼許して頂きたい。我らも追い詰められているので気を張っております故」

 口を開けばまぁ、また小難しそうな話方をする奴だなぁ。

「追い詰められているという事は何か、お前ら負けたのか?」

 周囲が安全になったことを確認したのか、アリシャが前に出る。

 って、ちょっと待て。

「…左様」

「待て待て待て! あんなに強かったのにか? じゃぁこの先の砦も落ちまったっていうのか! つーかカコウらは!」

「ちょっと落ち着いてくだされ、そう一度に何度も質問されては…」

 焦って自分のペースで話していたのをぐっと堪える。

「カコウ殿は先に右翼砦へと戻りました。詳しい話は其処でします故、この近郊に居る兵を全て砦の中に誘導していただきたいのですが」

「…全隊でいいのか?」

 アリシャが問いかけると目の前の人物がこくりと頷いた。


 −右翼砦−

 重々しい扉が開くとその中は他の砦とあまり変わらなかった。変わっていると言えばやはり陣幕などの形と東国の兵の姿。

「…前々から思ってたんだけどよ、なんでお前らはあんな妙な鎧を好んで着けるんだよ、あまり意味のあるものには思えないんだけど?」

 アリシャは小手やすね当てをした東国の兵を眺めて呟く。

「元々鎧などは障壁が打ち破られた時の保険だからなぁ。保険とはいえ、あまり丈夫そうにも見えないしさ」

 アトラもそれに便乗して言う。アリシャにしてもアトラにせよ二人とも結構立派な小手と鎧を着けている。

「まぁ鎧があるのと無いのじゃ戦が終わった後の怪我も違ぇしな」

 そう呟くとアリシャは俺をジト目で見つめる。

「いち剣使いとしてはあまり肌は露出するべきではないよな」

 アトラはそう呟くと俺をジト目で見つめる。

「何だよ…俺だって小手と腹当てと脛当てぐらいしてるぜ?」

 そう反論するとアリシャは呆れた表情を浮かべる。

「あのなぁ、いいか胴体のダメージは極力受けるべきではないんだぞ。お前のその格好腹骨の下からは安全そうだが、腹骨の上はノーガードじゃねぇか」

 えっと、腹骨って言うのはあばらで良いんだよな。まぁ確かにそうだが。だが俺以上に防具など一切つけずに大剣振り回してる奴も居るって言うのに。なんで?

「っと、此方にカコウ殿が居られます」

 無駄話をしている間にカコウの居る場所へと着いたようだ。

「じゃぁまた後でな。サナダにアトラ」

 アリシャは去り際に手を振って部屋の中に消えてゆく。

「あーあ、また俺ら待機かよー。こうも待機ばっかりじゃ暇だなぁ」

 アトラがぼやく。どうやらもうコイツの頭には東国の鎧について気にも留めていないようだ。

「つーか此処まで来たんだから中に入れてくれてもいいよなぁ、アリシャの奴」

 俺はアリシャの下に居るのだが、隊長と呼んだことが無い。まぁ隊長と呼ぶ奴こそ少ないが殆どの奴がさんや様をつけて呼んでいる。敬語が使えないってよく学校の先生に怒られたな。使うときには使うが、どうもタメ口で喋ってしまうよな。いや、別に敬語が使えないって訳じゃないぞ? しつこい様だがこれだけは譲れねぇ。

 アトラも俺と似たようなタイプで敬語を使うところをあまり見ない。ってか見た記憶が無いような。

「ぐげっ!」

 急に俺の襟首を引っ張られ身体の中の空気がみっともない声と一緒に外に出る。

「コールヒューマン此処で何をやっているのです? 警備兵の真似事なのですか? そんな所で突っ立たれていても目障りなので早く中に入るのです」

 俺の襟首を引っ張り三途の川まで案内したのは歳に合わないボディを持ったジーニア。

「あのな……あの世とこの世をつなぐ川が見えたぞ? つーか俺がクイックターンして戻ってきたから良いものの……」

「アハハッ面白いこと言うね、そーちゃんは! そーちゃんの中じゃ死ぬのは川を挟んでるんだね! それじゃあ生き返り放題なのさっ」

 テンションの高い俺より年上というアリアも登場。

 やはり三途の川はこの世界には存在してなかったか。いや、元の世界でも実際に行った事は無いけどな。そんなデンジャラスな生活はしちゃいねぇ。

「声掛けるならもう少し大人しく声掛けろよジーニア」

「後がつかえているので早くするのです」

 ジーニアに拉致られるように部屋の中へ。一人置いてけぼりをくらったアトラが雨に打たれている子犬のような表情を浮かべたが、残念ながら未成年の俺は『どうする』と聞こえてきてもキャッシュは借りられない。許せ。

 一番に目に飛び込んできたのが傷だらけのカコウの痛々しい姿だった。

「…カコウ?」

「真田殿でござるか…」

 疲弊しきった表情。昔見た凛々しい表情は何処にも無い。

 何か言葉を掛けようと思ったが、それを遮るようにカコウが口を開く。


「勝手とは承知の上、それでも我らを一団に加えて頂きたい」

 カコウは自らの負け戦の話しをし、残る兵だけでも一団に加えてくれと頭を下げた。

「……」

 周囲の奴らが黙り込む。

 その理由はわかりきっていた。一部隊に相当するだけの東国の兵を仲間に加えるということは、東国の兵を分散し各隊に二、三名ずつ配置するか、それとも東国の兵を一纏めにし部隊を増やすか。どちらにせよ戦いの手順の違う者達を自分達の部隊に入れるという事はそれだけ連携が乱れるという事。

 東国の兵達を仲間に加えれば何の問題も無く砦が一つ手に入る。協力を拒めば最悪戦闘になるかも知れない。

 誰もが損と得を考える。

「…正直戦い方の違うあなた方と肩を並べて戦うのは難しいでしょう。ガリンネイヴの時のように援軍ならばまだしも、共に策を為して行くのにはかなり難しい事だと思います」

 一番に声を上げたのはエリファだった。

「ちょ、エリ…」

 そんな時タイミングを見計らったかのように一人の東国の兵士が部屋の中に飛び込んできた。

「アリヴェラ平原から敵が引き返して来ました! その数おおよそ八百!」 

暑いですね。

夏を目前に控えてます。もう溶け始めてます。

ってか、携帯にしろPCにしろ熱を持つのがだんだんと早くなってきたような……。

灼熱の地獄がまた始まります。

溶けないように次話もがんばっていきますのでどうぞよろしくお願いします。

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