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第五十一話 『急げ、こんなとこで何やってんだよ!』

 −右翼砦近郊、林道−

 ベルジ地方中央砦からわき道を使いアリヴェラ平原を大きく迂回し、右翼砦を目指す。

 この地方に詳しい奴を先頭に走っているのだが、数分前に走った景色となんら変わりの無い道で本当に前に進んでいるかかなり不安になる。

 周囲の景色は人口数で市に行かない町村の山の中の道のようで道のアップダウンが激しい。流石にアスファルトで舗装されていないが。

 しかし信じられないものである。こんなアップダウンの激しい道から外れ少し歩けば大きな戦が繰り広げられるまっ平らな平原に出るなんて。まぁ、日本でもそうか。車での数分の移動で周囲の景色がガラリと変わったりするのは。

「急ぎ過ぎだサナダッ! 後続のエリファ隊やジーニア隊、ガルディア隊が付いて来れてねーぞ!」

 俺の隣にアリシャが並ぶ。

「っと…悪い。俺がペースメーカーだから気をつけなくちゃな。だけどよ事態は一刻を争うんじゃないか?」

 アリシャは『ペースメーカー』という言葉の意味が解らないようで首を傾げるが、かまわず続ける。

「第一カコウらが落とした砦を調べるのにかなり時間を使っちまった! 敵が俺らの目前から消えてどれだけ時間が経ったと思う!? きっと右翼砦周辺では今もかなりの激戦が行われているはずだ!」

 正確な時間は解らないが、確実に六時間は経っている。それだけの時間があれば移動を含め戦闘を行っている可能性が高い。

 何故それだけの時間、俺達が足止めを食らったかというと、全ては軍議であった。

 敵が突如中央砦を目の前に反転し、アリヴェラ平原の奥へと消えた。それから敵の背後を全兵力で突くか、部隊を半分に分けて前と後ろ両方から挟撃するかという方針を決めるだけにかなりの時間を費やした。

 結果は今にあたる。部隊を半分に分け東国の兵と協力し前方と後方からの挟撃。

 右翼砦から敵の正面からぶつかる部隊をアリシャ隊、ジーニア隊、エリファ隊、ガルディア隊。他二隊の計六隊、三百人程度で行うことになった。

 ベルジ中央砦を守る部隊はディレイラ隊やローチ隊などといった部隊で兵数はおおよそ五百。綺麗に半分に兵数を分けたわけではない。中央砦はアリヴェラ平原の砦へと攻撃を掛ける為の重要拠点であり、其処を失えばどんな犠牲を払ってでも中央砦を取り返さなくてはいけなくなる。

「気持ちはわかるが、戦闘が行われているなら尚更だ! アリシャ隊だけ突出しても意味がねぇ! サナダ他部隊が追い付くのを待て!」

 本当はまだ急ぎたかったが、アリシャに言われ大人しく後続の部隊が追い付くのを待つ。


「此処を抜ければ右翼砦はすぐ目の前です!」

 案内をする兵士の言葉で気持ちは更に逸る。

 大きな木の葉などで周囲が薄暗い林道の先が明るくなっている。その部分から先が開けているということは目に見えて解る。

 林道を抜けると雨上がりの強い日差しが眩しい。今まで薄暗い道を走っていたから尚更。

 冒険アクションものの映画の森を抜ければ遺跡が飛び込んでくるワンシーンのように、林道を抜けると目の前には右翼砦が見えていた。

「此処が右翼砦か……」

 周囲を見渡すが戦が行われた後だとは思えない。砦の周りにはアド帝国兵士が居るものだと思っていた俺は肩透かしを喰らったように脱力する。

「…何にも起こってねぇな……」

 アリシャも周囲を見渡す。目の前には草原と砦があるだけ。

「…周囲の状況を確認しよう。物見を出して、我らは先ほどの林道で待機」

 アリシャはそういうと、十人ほどに声を掛け、林道に戻る。他の隊を見てもアリシャと同じような事をするらしく、次々に林道に入っていく。

「アリシャ…なんでこんなところで待機なんだよ、砦は目の前なんだぞ!」

 こんな所で足止めを喰らってる訳にはいかねぇ。早く東国の奴らと合流しなきゃいけねぇのに何で!

 アリシャはそばにあった石に腰掛ける。

「サナダ…もし右翼砦が敵にすでに落ちていたらどうする? 東国の奴らと話をつけようと思って砦に近付いた途端、矢を射られたなんて話にならないだろ?」

 それはそうだ…俺達は此処の状況がまったく読めていないんだ。六時間もあればそりゃぁ状況が大きく変わってたって不思議は無いな。

 急がば回れって言葉もあるし、落ち着いて待ちますか。

 木に背を預け、目を瞑る。眠いわけではないが、ただボーっと景色を眺めているよりも目を瞑って神経を研ぎ澄ましていたほうがいい。いつ戦闘が起こるか解らない状況でボーっとしてたら咄嗟のときの反応が鈍くなってしまいそうで怖い。

 風が木の葉を揺らす音。周囲の兵士の話し声が耳に入ってくる。なんか俺一人緊張してるんじゃないかって思う。

「ッ!?」

 鋭い耳鳴りと痛みが頭の右側から左側に走りぬける。そんな痛みが断続的に数分間続く。くそ、またいつもの頭痛かよ……ちょっと何かの病気じゃないのか、これ。少し気を張るとこうだ。

「サナダどうした? 表情が暗ぇぞ?」

「いや、なんでもない……」

 アリシャが俺の表情の変化に気が付いたようで声を掛けてくる。ここで頭が痛いと言って後方に回されたりしたら堪らない。いつも数回耐えれば頭痛は終わる。それだけの辛抱だ。

「ふぅ…」

 案の定痛みは嘘のように引いてゆく。一呼吸置いてアリシャに何か話掛けようとしたとき、少し離れた場所が騒がしくなってきた。

「何か騒ぎがあったのか? しょうがない奴らだ」

 アリシャはすぐさま立ち上がるとアリシャ隊後方へと駆けて行く。俺も呼ばれた訳ではないが何が起こっているのか気になりアリシャの後を付いて立ち上がる。

「一体何事だ!」

 アリシャが問題の場所に到着すると数人の兵士が言い争いをしていた。

「ぶ、部隊長……」

 アリシャの顔を見るなり言い争いをしていた兵士の表情が変わる。やはりアリシャという存在はアリシャ隊の隊員からしたら恐ろしい存在なんだろうな。

「いえ、先ほどあのあたりに人影が見えた気がして……」

「それは気のせいだと言っているだろ! 敵の影に怯えているからそのような幻をッ!」

 アリシャがため息を一つ付く。恐らく、そのようなくだらない事で騒いでいたのかと思ったのだろう。アリシャの身体から張り詰めていた力が抜ける。

「なんだ、そんな事か……確認をしに行けば良いだろ……サナダ。付いて来い」

 一人で確認に行くかと思ったのだが、万一の事を考えて俺にお呼びが掛かる。

「了解」

 部隊を纏めるということはどんなに大変な事なんだろうかと思いつつ、槍を構え兵士の指差した方向へと歩いてゆく。

 このような場所に敵が居るならもうとっくに戦闘になっていると思うのだが。まぁ、不安になる気持ちはわからないでもない。今は俺とアリシャのだけ。もし俺一人で行けと言われたら、居もしない敵の影におびえるかもしれない。

「ッ!」

 また頭痛が俺を襲う。痛みに耐えるためその場で足を止める。

 アリシャ達が振り返り、不思議そうに俺を見ている。

「サナダ…どうした?」

「いや、なんでもない…」

「本当に体調が悪いなら悪いと…」

 アリシャは俺の変化に気が付いているようで、それが体調が悪いと思ったらしい。まぁ、実際半分当り、半分はずれといったところか。

 すぐに収まる頭痛だから痛むたびに後ろに下がって、痛みが引けば前に出てくるという事をしていたら忙しなく前と後ろの移動を行わなくてはいけなくなる。

「あぁ、大丈夫だ。こん……」

 視界の上のほうで白っぽい影が動いたような…?

 その直後、俺たちを目掛けて木の棒が振ってくる。

「全員、構えッ!」

 アリシャがすぐさまその木の棒を槍で叩き落す。何本かはアリシャの振った槍に当り地面に真ん中ぐらいで折れて地面に転がる。狙いの外れた木の棒は足元に刺さる。

 俺も刀を抜いて、周囲を気にしていると、アリシャに上から襲い掛かる人影が見えた。

 恐らくアリシャの傍に立っている木に身を潜めていたのだろう。

「クソッ!」

 上空から飛び降りてくる人影の一撃を槍で受けると反撃を行おうと槍を構え直した隙には人影は再び木の上に姿を消した。

「フッ!」

 短い掛け声の後に再び木の棒が上から降ってくる。アリシャはそれを避けると次に気の上から人影が飛び降りて来る事を予測し槍を構える。その姿に余計な力は入っていなく、力を極限まで抜いているように思えた。

「其処ッ!」

 飛び降りてきた人影と槍を合わせると、槍と剣が擦れ火花が散る。飛び降りてきた人影はまた木の上に姿を消す。

「クソ、浅かったか……」

 アリシャはそう吐き捨てると槍を一度振った。

 正直凄いとしか思えない。あんなに早い相手の動きをたった一度攻撃を防いだだけで読むなんて。

「フッ!」

 もう一度木の棒がアリシャを目掛けて飛んでくる。アリシャはそれを難なく避ける。相手は気が付いていないのか? もうアリシャには先ほどと同じような攻撃が効かないということに。そして次の攻撃で勝負が決まるということを。

「ん?」

 頭上の方でチカリと一瞬光が差した。遠く離れた車のサイドミラーに反射した光が歩行車道を歩いている時に偶然目に入るような、一瞬だけの小さな光。

 咄嗟に光のした場所を見ると、灰色の髪をした者がアリシャ目掛け飛び掛ろうとしていた。

 あの髪はッ!

「アリシャ、やめろッ!」

 そう叫ぶと俺は前へと飛び出していた。

 アリシャが俺の言葉に反応したのだが、迎撃動作に入った身体は止まらない。上から飛び降りてくる灰色の髪の者は得物を逆手に持ってアリシャの槍に攻撃を合わせようとしている。

 俺は思いっきりアリシャの目の前目掛けて飛んだ。

「なッ馬鹿ッ!」

 アリシャが焦る声が聞こえる。そして目の前に迫ってきている灰色の髪の者は驚いたような表情を浮かべている。

 槍が俺の頭上すれすれを通り抜けてゆく。俺はそのまま上に手を突き出し、アリシャに襲い掛かる灰色の髪の奴の服を掴んで引き寄せる。爪と指の間が痛むぐらい強くその服を持った俺は受身も取れずに地面を転がる。

「ってぇ……」

 記憶によれば二度転がった。腕と膝を少し擦りむいた。指先にはちゃんと服を掴んでいる感覚がある。

「サナダッ! テメー危ねぇだろうが! 死にたいのか! 焦っちまったじゃねぇか!」

 アリシャが鬼のような形相で俺に近付いてきて、ガクガクと俺の襟を掴んで頭を揺さぶる。

 焦ったということは一応心配してくれているのだろうか? そうだとしても揺さぶるのはやめてほしいぜ…今進行形で頭の血流が悪くなって軽く酸欠状態……。

「にしてもコイツ…東国の者だったか……」

 アリシャは俺を揺さぶる手を止め、俺の横で目を回す少女を見て口を開いた。そして俺の頭にも勢いよく血が流れ、酸欠気味だった状態から開放された。

「どおりでおかしな武器を使うと…」

 足元から木の棒を抜きながらアリシャは呟く。その手に握られている木の棒は先がとがっていて、張る程度使った芯のない丸い鉛筆のようだった。

 アリシャがその棒を地面に投げると地面に刺さらず、二度飛び跳ね、転がる。

「ぷっ…」

 思わず噴出してしまう。かなり自信満々に投げて刺さらないって。携帯とかでカッコつけてポケットから取り出して、片手で折りたたみ携帯を開けようとして失敗したという場面の恥ずかしさに相当する。

「何だよ…文句あんのかよ?」

 噴出したのを気付かれて、アリシャが少し恥ずかしそうに口を尖らせる。

 別に文句は無いが…その言い方はガキ大将みたいだぞ。と言おうと思っても、俺がそう言ったところでアリシャが解るはずも無い。

「と、冗談はさておき…まだこの付近にいるんじゃねぇか? 東国の奴ら」

 アリシャは表情を再び引き締めると周囲を警戒する。

「ったく、洒落になんねーな。協力しようって奴らに襲われるなんざ」

 ぶつくさと文句を口にしながら、アリシャは周囲の木や背の低い植木を注意してみる。

 何とかできないものか?

 俺がそう考えていると少し離れた植木が音を立てた。

ちょっと間が空きましたが更新です。

しばらく戦は書かない! と思ってましたけど、そうは行かないようです……。

あてにならない予想としては五十四話ぐらいからまた戦再開ですー。

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