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第四十九話 『アリヴェラ平原戦5』

 −アリヴェラ平原−

 カコウはチュウショウ、ロウキュウと会う前の出来事を思い出していた。

 他人の命を犠牲にし生きてゆく意味はあるのか。自分は何の為に戦っているのか。

 迷いを晴せそうに無い。

「カコウ殿、元は私らはあの場所で死ぬべき者達でした。それが今まで生きてこれたのはあなたが居たからこそ。カコウ殿の為に…それが私とチュウショウの生きる意味です」

 ロウキュウはそれだけを伝えるとカコウに背を向ける。

「アタシはロウキュウと違ってストレートしか言えないけど…これから先はアタシらの戦い。カコウ殿…貴方は貴方の戦を」

「チュウショウ…」

 苦楽を共にしてきた二人にはカコウが真に戦う理由を探している事を悟られ『東国の為に』という上辺だけの理由を掲げていた事を気付かされたカコウはそれ以上言葉を続けられなかった。

 チュウショウもロウキュウと同じようにカコウに背を向ける。

 それを合図と受け取ったリィシエと腕を掴んでいたロウキュウ配下九名がカコウを戦場から離脱させる為に無理矢理腕を引いてその場を離れようとする。

 カコウは尚も抵抗を見せるが、数人掛で抱えられるようにして一歩、また一歩とロウキュウ、チュウショウらの距離が開いていく。

「戻せッ、離せッ!」

 泣き叫びながらカコウは身体に力を入れるが、それも無駄な抵抗に終わる。

 暴れ疲れ身体に力が入らなくなる頃には二人との距離が大きく開いてカコウもこれ以上何をやっても戻れない事を理解し、大人しくなった。

 今生の別れとなる二人の後姿を目蓋に焼き付けようとカコウが背後を振り返るとロウキュウとチュウショウも同じようにカコウを見つめていた。

『カコウ殿…御武運を』

 周囲の喧騒、距離からも二人の声が聞こえるはずが無いのだがカコウにはしっかりと二人の声が届いた。


 −ロウキュウ、チュウショウ−

「行った…ね」

 カコウとの距離が離れるとチュウショウはロウキュウに呟いた。

「そうだな…さてこれからが東国武士としての最後の戦になる。気合を入れる…チュウショウ」

 ロウキュウはもう一度強く顎紐を結びチュウショウに声を掛けるが、チュウショウは不服そうな表情を浮かべる。

「…いけないねぇ『カコウ殿』もう少し大将らしく振舞わなきゃね」

 ロウキュウはチュウショウの言う意味を理解し微笑を浮かべる。

「了解でござる、ショウ」

 チュウショウは満足そうな笑みを浮かべ一歩前へと進む。

 ロウキュウとチュウショウは急ぎ陣の先頭まで移動した。

「皆、覚悟を決めるでござる! 玉砕覚悟で突撃を行う! アド帝国の奴らに東国武士の底意地を見せるでござるよ!」

 周囲に居た東国のスピリットヒューマンらは指揮を執る黄金具足の人物がカコウでない事を気が付いたが、その裏の意図まで理解した。

「隊もへったくれも無いよ! 動ける者は皆アタシに続きなッ!」

 チュウショウが槍を掲げ前に飛び出す。それを追い東国武士団が再び怒涛の突撃を行う。

「カコウ、カコウは此処ぞッ!」

「カコウ殿は此処じゃッ!」

 敵とぶつかり散開した東国武士団の至る所からカコウは此処に居るという声が上がる。

 東国大将たるカコウを討ち取ることがアド帝国の最大の目的で、散開した東国武士団から次々に発せられる言葉にアド帝国兵は戸惑いを覚える。

「我等が主、カコウは此処さねッ!」

 チュウショウも他の者と同じように声を張り上げアド帝国兵を威嚇する。

 死を覚悟した者達の突撃は一歩、また一歩とアド帝国兵を下がらせ、その心に恐怖をしかと植えつける。


 −アド帝国本陣−

「マッシュ様、ケルヴィン様ッ! 東国武士団の各隊でカコウこれにありと…」

 報告を受け、マッシュは唇をかみ締める。

「敵の口車に乗るでない! 東国大将カコウの居場所が解らないのなら全てを殲滅しろ!」

 今までマッシュの思い描いてきたように戦は進んだが、あともう一手というところで思わぬ誤算が生じた。

「いいか各隊に伝えよ。手柄に焦り敵一小隊を狙うのは禁ずる。一小隊だけを狙えばその分他の隊への攻めが手薄になり、其処から逃げられる可能性もある」

 ケルヴィンもマッシュの意見に賛同しあくまでもじっくりと敵を包囲殲滅することが当面の作戦だと伝令念を押し伝えに走らせる。

「ケルヴィン…これは不味いことになったな…」

 マッシュは苦い木の実を噛み潰したような表情を浮かべる。

 ケルヴィンもマッシュがそのような表情を浮かべる理由は予想がついていた。

 一番初めに目撃された東国武士団はおおよそ二十人にも満たない数だったが、ルノ帝国領でのゲリラ戦による活躍は兵士の中で広がり、それが戦とは関係の無い生活を送っているヒューマンスピリットらの商人の耳に入り、ルノ帝国を越え東国までその話が広がっている。それによって隠れ暮らしていた東国のスピリットヒューマンらが一人、また一人とカコウの元に集まり、二百という数にまで膨れ上がった。

 元々この戦はルノ帝国領に存在する東国兵を打ち倒すというのが目的だったのだが、その元凶を討ち取らなければ戦の意味が無くなり、東国武士団との戦闘で死んだ兵達の死が無駄になってしまう。

「必ず、必ずカコウを討ち取らなければ意味が無い」

 焦る気持ちを抑えマッシュは東国武士団が一斉に退却を始めた場合の追撃を掛けるための道を地図を眺めながら考え始めた。

「マッシュ殿…わざわざ兵を無駄に減らすような事を行うのでしょうか? このまま一気に敵大将が居る小隊を殲滅したほうが此方の被害も抑えられますが…」

 本陣に居た一人が不思議そうにマッシュに問いかけるとケルヴィンが代わりに答える。

「いいか、東国武士団を掃討せねばならぬほどになったのは何が原因だ?」

 質問を投げかけた騎士は黙り考えを巡らせる。そして恐る恐る口を開く。

「やはり国境の監視が甘かったせいでしょうか?」

 騎士の答えにケルヴィンは苦笑を浮かべる。

「確かに国境を監視していれば他の地区から此方に流れてくる東国兵を抑えられるが、その方法では人が足りん」

 隣の国へと入ろうと思えば山を越え川を渡る事でも入れる。つまりは無茶をすればいろんな場所から国に入れることになり、それを監視することは不可能である。

「では一体……?」

「もう少し着目点を戻してみると、その外部から東国兵が入ってくるようになったのは何故だ?」

 騎士はもう一度考え口を開く。

「カコウの話が…あっ!」

 口にしてその事に気が付いた。

 カコウの話を聞いて東国兵達はルノ帝国領に集まってきた。

 そしてこの戦でもしカコウを討ち取れなければ、またカコウが何かアド帝国に対して何かをすればその元にまた東国の兵が集まる。その繰り返しで、事実上アド帝国兵はルノ帝国兵と東国武士団を相手にしなければいけなくなり、当然被害も大きくなる。いずれは八方塞がりとなる状況を打破するためにもアド帝国側としては、この戦でなんとしてもカコウを討ち取らなければならなかった。

「…頼むぞ」

 マッシュはそう呟くと戦闘が行われている方向を祈るような気持ちで眺めた。


 −ルノ帝国一部隊−

「て、敵の攻撃が激しく被害は増える一方です!」

 報告を聞き部隊を指揮するゼフィラルは拳を強く握った。

 とがった西洋風の鎧と兜が更に彼が怒り狂っているように思わせる。

「クソッ! 本陣からの通達はまだか! 各個判断による撃破の指示は!」

「いえ、現状どおり時間を掛け包囲殲滅。一部隊を狙ってはならぬとの事」

 ゼフィラルはその場で地団駄を踏むように強く右足で地面を蹴る。

「勝利を目前にして何をッ!」

 目の前には抵抗激しく必死に足掻いている部隊が居る。その部隊の指揮官は兜に実用性があるのか解らない巨大な角を左右に付けた奇妙な兜を被って、巨大な槍を振り回している。

 ゼフィラルの記憶では東国の大将の側近の一人チュウショウ。カコウら率いるルノ帝国領に存在する東国武士団の中では一番の実力者と言われている者である。

 チュウショウの部隊の後ろにもう一部隊存在している。チュウショウの奮戦、そして守られるように位置する部隊。誰が見てもカコウは其処に居るといっているようなもの。

 目の前に大将が居ると解りながらも手が出せない。もどかしさだけがゼフィラルの身体を駆け抜ける。

「ゼフィラル様ッ! 目前の敵後方の部隊が不穏な動きを!」

 報告を受けゼフィラルがチュウショウ隊の後ろの部隊の動きに注意を払って見ると、その部隊は少しずつ後ろに退いていた。

「敵が逃げるッ!」

 その動きで確信が取れた。

「チュウショウ隊の後ろに居る部隊がカコウ隊だッ!」

「それでは命令が……」

「命令を守り敵大将を逃がす訳にはいかない! ゼフィラル隊、チュウショウ隊を打ち破り後方の敵本陣を打ち崩すッ!」


 −チュウショウ隊−

「敵が次から次にッ!」

 ゼフィラル隊が動いたことにより、チュウショウ隊後方の部隊が本陣だと目星を付けていた部隊が我先にとチュウショウ隊に向かってくる。

 チュウショウの身体はとっくに限界を超え立っているのも精一杯という状態の筈なのだが、身体は浮いているように軽い。

「地獄までこの名前を持っていきな! アタシはチュウショウ! カコウ率いる東国武士団一と謳われた者さね!」

 チュウショウはそう叫ぶと槍を突き出す。

 大きな矛先がアド帝国兵をなぎ払う。そのまま横に大きく腕を振りさらに周囲のアド帝国兵を後退させる。

「ッ!」

 隙の出来た左腕をアド帝国兵の剣が掠める。すぐさまその一人を突き倒し次の目標へと槍を出そうとすると次は右足を槍が掠める。

「一斉に掛かれ! 相手は立っているのもやっとの状況だぞ!」

 チュウショウはすぐさま指揮を執るとがった兜と鎧の男を見据えその人物へと駆けるが、進路を妨げるように三人の騎士が飛び出してくる。

「邪魔ッ」

 力を込めて槍を突き出す。槍先は目の前に居た兵士の腹部を貫いた。

 チュウショウが残る二人に視線を配らせて居るとき、腹部を刺された騎士が最後の力を振り絞ってチュウショウの槍を両手で握る。

 疲労により注意力が散漫していたチュウショウの反応が一瞬遅れた。

 その一瞬が命取りだった。

 チュウショウが槍を引き抜こうと手を引いても槍が動かない。何事かと槍先を見ると突き刺し倒したはずのアド帝国兵が両手でしっかりと赤く染まった槍を掴んでいた。

 槍を捨てなければとチュウショウが手を離し後ろに飛ぶコンマ数秒早く二本の線がチュウショウに走る。

「つあッ」

 右手と左胸あたりに激痛が走る。

 咄嗟に右手で左胸を押さえようとするが肘から下の感覚が無い。

 右手に視線を走らせると、右手からはまだこんなにも血が残っていたのかと思えるほど血が滴り落ち、深く神経まで切られたのか右手はだらりと垂れ下がっている。

 右手は使い物にならないと即座に判断し左手一本で戦おうと思った矢先、腹部に線が一つ突き抜ける。

「やったぞッ!」

 それが槍と解り、その槍の持ち手が片手を上げるのをチュウショウが確認したとき、右左、斜め上からと一斉に線が振り注いでくる。

「アタシが…真っ先に逝く…事になっちまうとはね……」

 チュウショウは何本もの槍に身体を貫かれながら空を見上げる。

 先ほどの雨が嘘のように空は晴れ渡っている。

 空の青と雲の白が回り始め視界の上側から真っ暗な闇が降りてくる。

 チュウショウの視界から景色が消え、聴覚はぷつりと途絶え、弱くなっていく心臓の音だけが聞こえる。

「最…後まで…大暴れ…でき……たんだ…悔い……は無い…さ」 


もうじきこの戦も終わります。

やはり地形描写が苦手なようで…次回戦では地形描写をがんばってみたいと思います。

地理とか苦手な私としては地形って難しいんですよね。言葉が出てこない。

というか苦手なものおおいからがんばるしかないんですけどね。

次回もご期待を!


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